インフィニット・ア・ライブ/ステイナイト   作:ぬっく~

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第十七章 無限と精霊が交わる

福音を撃退し、操縦者を真耶に引き渡した一夏はすぐさま、仮眠室で寝てしまった。

目が覚めた頃には日は沈んでおり、時間も9時を過ぎていた。

 

「外でも歩くか……」

 

言って一夏は海のある方向に歩き出す。

 

 

 

夜の浜辺にまるで人影がなく、日中の戦いが嘘のように静まり返っていた。

一夏は、ゆっくりとした歩調で海岸沿いの防波堤付近を歩きながら、空を眺めていた。

 

「あ、こんにちは」

 

ふと、声を掛けられ一夏は振り向く。

そこにたのは浴衣姿の男女だった。

 

「こんにちは。今日はいい月が出ているわね」

 

「ええ。そうですね」

 

「なあ、シドー」

 

シドーと呼ばれる少年は隣の箒に似た少女と何か話していた。

 

「他の旅館客だよ。十香」

 

少女の名前はどうやら、十香と言うらしい。

ここまで来て名乗らないのは良くないと思い、一夏は二人に名乗る。

 

「まあ、そうだね。IS学園一年の織斑一夏よ」

 

「IS学園?」

 

「ISって確か……」

 

「インフィニット・ストラトス。宇宙開発を目的に開発されたマルチフォームスーツと装備を扱う学園よ」

 

ISは一般常識になる程の情報が提示されている。しかし、実物を目にすることができるのは一部の者しかいなかった。IS学園の生徒も例外ではない。そう考えれば、この2人は運がいい。

 

「あ、来禅高校二年の五河士道です」

 

「うむ。同じで夜刀神十香だ」

 

そう、二人は名乗った。

 

「来禅……空間震後に出来た所だね」

 

「ええ……」

 

知っているんだ。と言った顔をする士道に一夏はくすと笑う。

 

「お話の邪魔をしちゃったようね。また、何処かでお会いしましょ。士道くん。十香ちゃん」

 

言って、一夏は士道の元から立ち去ってしまった。

 

 

    ◇

 

 

一夏は海岸から旅館に戻り、入ろうとした時だった。

突如、ゴゴゴ―――と、暴風が発生したのだ。

 

「なに……」

 

一夏はすぐにこれは異常だと分かった。先程まで風もなく雲もない空が一瞬にして嵐へと変わったのだ。

 

(あの子たちがいるのは海!?)

 

この嵐の中で海は非常に危険だと一夏はすぐさま、先程いた海岸まで走る。

風は強いが、歩けない程ではなかった。

 

「……ッ!?」

 

背後に気配を感じ、咄嗟にその場から飛び退いた。

瞬間、一夏の今までいた場所から、ガシャン、という金属音が響いてくる。

 

「……………」

 

一夏はその場に現れたモノを見て、微かに眉をひそめた。

人の形をしたモノが、地面に拳を突き立てるような格好で立っている。

一瞬、一夏はそれを束がつくった無人機だと思った。実際それは違い、全く別のものだった。

 

「……ッ!?」

 

一夏は微かに頭痛を感じる。

束が作った無人機とは違い一般的にロボットとか人形とかと形容される。人の形をした機械だった。

 

「く……」

 

そんな思考は途中で中断された。機械の人形が一夏に向かって跳躍してきたからだ。

すんでのところでそれを避け、できるだけ距離を取る。

 

「あなたは、何者」

 

僅かな希望にかけて声を掛けてみるも、やはり人形は答えなかった。何も反応を示さぬまま、連続して攻撃を仕掛けてくる。

 

「……!」

 

一夏は紙一重でそれをかわしながら、奇妙な感覚を覚えた。

見る限り、人形はレイザーブレイドや銃などの基本装備を備えている。だがなぜか一夏に対してそれを使用しようとはせず、素手で殴りかかってきているのだ。

まるで、無傷で一夏を捕らえようとしているか―――これより先に一夏を進ませぬよう足止めでもするかのように。

と―――そのとき。

 

「そこのあなた。外は危ない、早く旅館に戻るべき」

 

誰かが一夏に伝えてくる。一夏が来た道の方から、銀髪の少女の声が響いてきた。

 

「―――っ、放れな―――」

 

が、一夏が言い終えるより早く、一夏と対峙していた人形が、ぐるりと首を回して少女の方を向いた。

 

「……あなたは、何……」

 

と、人形に向かって言いかけ、少女は言葉を止めた。もしかしたらそこでようやく、自分が声を掛けていたモノが人間でないことに気付いたのかもしれない。

だが、もう遅い。人形は狙いを一夏から少女に変えると、凄まじい勢いでもって丸太のような右腕を振りかぶり、少女に突進していった。

 

「か―――は……っ」

 

腹部に人形の重い一撃を受け、少女は軽々と後方へと吹き飛ばされた。

脇腹が酷く痛み、呼吸が困難になる。意識が朦朧とし、目が霞む。

 

「……早く。逃げ……」

 

視界に映る白い鎧を纏った一夏に人形の影迫ると同時に、少女の意識は闇に落ちていった。

 

 

    ◇

 

 

「―――っ! 織斑先生、或美島北部の海岸付近で凄まじい暴風が発生しています!」

 

旅館の奥の部屋からアラームが鳴ると同時に、副担任の真耶が叫び上げた。

 

「暴風が……発生?」

 

隣に立っていた千冬は訝しげにあごを撫でた。風というのは空気の流れ。普通、どこか始点としていきなり発生するようなものではない。

 

「何か一夏から連絡は?」

 

「ありません」

 

千冬はふむとなった。問題が発生した場合はあちらから連絡を入れるはずなのだが。

 

「一度こちらから回線を開いてみてくれ。何もなければそれで構わない」

 

「了解!」

 

だが、コンソールを操作し始めた真耶が、すぐに訝しげな声を発してくる。

 

「通信……繋がりません。何者かに通信妨害をされている恐れがあります!」

 

「……………」

 

千冬はぴくりと眉を動かした。島全体だけでなく、その中でも通信妨害が発生したことに。

 

「一体……この島で何が起こっているのだ」

 

千冬は、はっきりとした声でそう呟いた。

 

 

    ◇

 

 

「おかしい……」

 

福音の戦闘以降、一夏の白式のシールドエネルギーは300を切っていた。

いつもなら9999から一向に減らないシールドエネルギーは徐々に減っている。

そんな中で、一夏は人形に対して白式の零落白夜で蹴散らした。

 

「?」

 

一夏は足を止め、海岸ではなく林の方に視線を向ける。

普通なら聞こえない音に一夏は足を止めたのだ。

 

(金属音? それも、剣の類……)

 

一夏はそのまま、林の中を駆ける。

そして、そこに目的の人物と先程の人形が複数、そして……。

異常な程までの殺気を持った白金の鎧を纏った少女がいた。

 

「興覚めです、早く昏倒させて〈アルバテル〉に運び込んでしまってください……と、どうやら部外者まで来てしまったようですね」

 

言って少女は一夏の方に振り向く。

 

「あなたたち、十香をどうするつもり……」

 

「それをあなたが知る権利はありません」

 

倒れ伏せたまま動かない十香の両腕を、左右から二機の人形が掴み、その身体を持ち上げる。そしてぐったりとした十香の前方にもう一体の人形が歩み出したかと思うと、その額に爪の生えた手を近づけていった。

 

「ぐ―――ぁ……ッ―――」

 

十香が、苦しそうな声で声を発して身を捩る。

 

「十香! 何してやがるてめえらッ! くそッ、退け!」

 

士道は叫ぶも、士道の前に立ち塞がった人形は動こうとはしなかった。そうこうしている間にも、十香ののどからは悲鳴と苦悶が混じり合ったような、痛々しい声が響いてくる。

 

「十香―――!」

 

一夏と士道は絶叫を上げた。

白式のシールドエネルギーは既にそこを付きかけている。今ここで戦ったとしても千冬姉と同等の力を持つ少女を前に足元にも及ばないだろう。

途方もない無力感と絶望感が、頭の中で蹂躙する。

結局、一夏は何も出来なかった。

会って僅かな少女を守ることすら。

最強と呼ばれるISも、今この状況では用を成さない。

―――せめて、もう一つ。この人形を切り裂いて進める力があれば。

なぜだろうか、丘の上で―――無数の死体の山の上で悲しむ少女の顔が頭を過る。

知らない記憶なのに何故か、懐かしさを感じる。その時に感じる絶望感が、脳内を駆け回る。

 

―――もう、二度と、あんな思いはしたくない。

 

一夏の身体の中で魂と何かが混ざった。

生涯一度で構わない。今一度きりで構わない。

今この手に、十香を救う力があれば―――!

 

「十香ぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!」

 

瞬間―――一夏と士道は自然と、右手を振り上げていた。

そして。

 

「え……?」

 

士道は呆然と、声を発した。

振り上げていた右手を前に振り下ろした瞬間、目の前に立ち塞がっていた人形の上半身が、綺麗に消え去っていたのである。

そしてその延長線上に位置するもう一機の人形―――十香の手を抑えていた機体の頭部が、斜めにするりとこぼれ落ちる。

士道の右手には―――()()()()()()()()()()()()

 

「あなたが……そうでしたのですね」

 

士道は先程まで十香が戦っていたエレンの方に目を向け、その光景に目を疑う。

エレンはCR‐ユニット〈ペンドラゴン〉を纏っていたが―――左腕が無くなっていた。

そして、その視線の先に……一夏はいた。

 

「……………」

 

天から降る月光に照らされたその姿は、士道にも鮮明に写った。

腰まで伸びた黒い髪。透き通るような白い肌。軽く簡素な鎧の上に青色の外套。

そして何より、その右手に握られた黄金の剣に、視線が吸い寄せられた。

あれは、剣だ。最上級の剣。最高の剣。誇り高い剣。

そこに在るだけで、燦然と希望の光を煌めかせ、心を震わせる剣。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「油断していたとは言え、私の身体に傷を付けた()()は、あなたが初めてです」

 

エレンは随意領域で左腕の止血は済ませていた。

 

「一夏……君は()()だったのか……」

 

士道も一夏の姿に動揺していた。

一夏が纏っているのは間違いなく()()()()()()()()()だったのだ。

 

「……精霊? なんのことだ?」

 

一夏は士道たちが言っている意味が分からなかった。

 

「自身が精霊だったことに気付いていなかったのですね。通りで見つからないはずです。〈バンダ―スナッチ〉隊。彼女らを捕らえなさい」

 

言って、エレンが掲げた手を振り下ろす。

 

「士道! 頭を下げなさい!!」

 

士道は一夏に言われるまま、地面に伏せる。

瞬間。

光の斬撃が全ての〈バンダ―スナッチ〉を襲う。

 

「ッ! そこらの精霊とはランクが違いますか……」

 

エレンはその場から飛ぶことで斬撃を避けていた。

だが、エレンはぴくりと眉を動かすと、耳に手を当てて唇を動かした。

 

「―――遠隔制御室(コントロール・ルーム)に被弾? どうう言うことですか。……ッ、空中艦と戦闘? そんな指示を出した覚えは―――」

 

「……!」

 

この機を逃すわけにはいかない。一夏は即座に地面を蹴り、バッと士道と十香の浴衣の襟を掴むと、一目散にその場から逃げ出した。

 

「! 逃がしはしません」

 

後方からエレンの声が発すると同時に一夏は右手に持っていた黄金の剣を思いっきり投げた。

 

「うぐっ!?」

 

片手で握った剣で受け止めようとするが、予想以上に重く、そのまま後方へと飛ばされて行った。

剣を弾き飛ばした頃には島の反対側まで来ており、追いかけることは不可能になる。

 

「最強の魔術師(ウィザード)である私が……」

 

エレンを唇から血が垂れるほど噛み締めた。

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