どれぐらい走っただろうか。
「……! あれは」
併走していた一夏は足を止め、喉を震わせた。
木々が放射状に薙ぎ倒された森の上空に、激突を繰り返す二人の少女を見つけたのである。
「耶俱矢―――夕弦!」
士道は二人の名前を叫ぶ。
「この暴風の原因はあの子たちだったの……」
一夏はこの島に来てから起こった奇妙な事件の正体に気付く。
それを知ると同時にプライベート・チャンネルから通信が入る。
『一夏様。聞こえますか?』
「クロエ? 通信が回復したのね」
『はい。先程、この島に貼られていた通信妨害が解除されました』
どうやら、先程の少女からの通信が関与していたようだ。
だが、これは好都合だった。
「今すぐ、この島から出ているエネルギーを計測して」
『はい? ですが……』
「面白い結果が出るわよ……」
『……わかりました。すぐさま、取りかかります』
通信が切れた頃に、士道達の方にも動きがあった。
「おおおおおおぉぉぉ―――ッ!」
裂帛の気合とともに、士道は空目がけて剣を振り下ろした。
瞬間、剣から光が溢れ―――その刀身を描いた斬撃を延長するように、空に向かって伸びていった。
そして、光は上空に吹き荒れていた風の城をいとも容易く切り裂き、耶俱矢と夕弦の間を通るようにして空へと抜けていった。
『……一夏様。計測しましたが、これは一体……』
「精霊……」
『精霊ですか?』
「ええ。この現象を起こしているのは二人の精霊だったわ」
『しかし、それでは……一夏様も』
「そうね。私と……同類……になるね」
クロエがこの島から出ているエネルギーを計測した結果。一夏から溢れ出すエネルギーとほぼ一致した。
そして、一夏の目の前には、馬鹿騒ぎを繰り返していた二人の少女がいる。
「詳細は帰ってからするわ」
『わかりました』
クロエとの通信が切れ、一夏は士道たちの方を見つめる。
どうやら、士道たちの方も一件落着したようだ。
しかし、そこに思わぬ来客がやって来る。
「何よ……あれ……」
そこには、後部から煙を噴いた、巨大な黒い戦艦が浮遊していた。
◇
一夏は黒い戦艦を目にした時から身体の中で何かが暴れ出した。一夏がもっとも嫌う“死”を目の前にしたからである。
「……〈
一夏の右手に黄金の剣が出現し、士道たちの間を割って入った。
「お、おい」
士道が一夏を止めようとした瞬間、士道は周りの異変に気付き、手を止めてしまった。
「なんだこれは……」
「なにごとだ?」
「困惑。一体これは……」
十香も耶俱矢、夕弦もその異変に目を疑った。
地面から光の粒子が空へと飛び立つ。
それと同時に一夏は〈
「束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流。受けるが良い!」
〈
「
瞬間、今までは比べものにもならない程の風圧が、辺りを襲う。
危険を感じ取った耶俱矢と夕弦はすぐさま、士道の所まで降りたおかげで被害はなかったが、巨大な戦艦は爆発音を立てる事無く光の斬撃に呑まれていった。
◇
「―――〈アルバテル〉。こちらアデプタス1。応答してください、〈アルバテル〉」
光の柱を目にしたエレンは、その方向に〈アルバテル〉があることを知っており、呼びかけるも、インカムの向こうからはノイズしか聞こえなかった。
「……………」
エレンは口の中で小さく舌打ちし、眉を歪めた。
と、そのとき、インカムから、何やら音が聞こえてきた。
「〈アルバテル〉ですか? 状況を―――」
しかし、通信の相手は予想とは違っていた。聞き覚えのある笑い声が、エレンの鼓膜を震わせる。
『ふふ……その様子だと、作戦は失敗してしまったようだな。君にしては珍しいじゃないか、エレン?』
「―――アイク」
そう。その声は、間違いなくアイザック・ウェストコット本人だった。
「申し訳ありません。全て私の責任です」
無論、腹ではそうは思っていない。ただ一つ、部外者だと思っていたあの少女に隙を見せてしまったことだけだった。
ウェストコットは、そんなエレンの思考すら見通しているかのようにもう一度笑った。
『それで、〈プリンセス〉は?』
「……申し訳ありません。捕獲に失敗しました」
『精霊だったのかね?』
「え? は、はい。それは確認できました。間違いありません。夜刀神十香は精霊〈プリンセス〉です」
エレンが言うと、ウェストコットは満足そうに喉を鳴らした。
『ふふ、何だ、ちゃんと判明したんじゃないか。それがわかっただけでも今回の作戦には非常に大きな意義があった。―――ご苦労だったね。帰投してくれ』
「……………」
『不服かい?』
「そのようなことは。もう一つ、報告があります」
『ほう、何だい?』
エレンは、静かに唇を開いた。
「―――IS学園で観測されました霊力が、誰なのかが分かりました」
◇
「え~。いっちーは先に帰っちゃったの?」
ぶかぶかの制服を着たのほほんとした雰囲気を出している通称のほほんさんがISの資材チェックをしながら一夏のことを話していた。ちなみに、いっちーとは一夏のことである。
「そうそう。なんでも急用が出来たらしく、一足早く戻ったらしいよ」
同じく資材チェックをしていたのほほんさんとよく一緒にいる相川清香が返す。
「……そうなんだ~。でも……」
「そうね。言いたくはないけどね」
のほほんさんと相川の目の前……というより、生徒全員が涙目になる理由がそこにあった。
IS関連の資材と昨日執り行うはずだった装備が山のように積みあがっていたのだ。
「戻って来てよ~~。一夏えもん―――!!」
生徒の悲願は或美島の空港にいる生徒の耳にまで届くのであった。
その頃、一夏は束のラボに来ていた。
空中投影ディスプレイにはあの日の或美島が移されている。そして、北部のところだけ真っ赤に染まっていた。
「北部で強力なエネルギーを計測しました。照合の結果、一夏様と同様のエネルギーでした」
「いっちゃん以外にもいるってこと?」
「そうよ。あれは人間ではなかったわ」
ディスプレイの前に並ぶ三人。クロエ、束、一夏。
「その後、このエネルギーは計測されませんでした。一人を除いて」
「一人?」
「はい。一夏様です」
束は一夏の方に振り向くが、一夏は否定はしなかった。
「私にもよく分からないけど、封印が解けてしまったわ」
「う~ん。いっちゃんの中から出ているエネルギーの正体も分かっていないのに……」
「それに関してなんだが……」
一夏はあの日の出来事を束に報告した。
「じゃあ、いっちゃんは“精霊”と呼ばれるものになったわけ?」
「そうみたいだ。あの人が言うことが本当なら」
言って、再びディスプレイに目を向けると三人の男女の写真が写し出されていた。
エレンとアイザックの写真だった。
そして……
「五河士道」
一夏はあの日に出会った少年の名前を口にした。
「この世には偶然はない。あるのは必然だけ」
昔、ある人が口にした言葉を一夏は言う。
精霊と無限が交わった瞬間だった。