第一章 終わりと始まり
水の音が僅かに聞こえる。
だけど、手足が動かない。否……正確にいうなら、背で右手首と左手首を繋がれているかのように、腕が身体の前に回ってくれなかった。
視界は真っ暗で、どうやら目隠しをされているようだ。
水の音とは別に人の声が複数聞こえる。
「……選手………」
「ど……いや……!!」
途切れ途切れだが声の主は怒っていた。
怒りがピークに達したのか周りにあった物を蹴っ飛ばした後、一夏の方に歩いてくる。
「お前の姉ーちゃんは、お前を見捨てたようだ」
その言葉で全てを思い出した。
織斑一夏は誘拐させたことを。
「お前さんは用済みということで……」
男はガチャリと何か嫌な物を一夏に向けた。
「あばよ」
男は全弾打ち込んだ。
弾は一夏の身体に全て打ち込まれた。
(千冬姉……)
落ちかける視界の中、一夏は唯一の姉の名前を言う。
そのときだった。
【―――君はここで終わるの?】
そんな一夏の耳に、男のものとも女のものともつかぬ声が、聞こえてきた。
「おま……え……は……だれ……だ?」
一夏は残り少ない気力でその者に問う。その者にも伝わったのだろうか、何やら可笑しそうにくつくつと笑い声を響かせる。
【私が何者なんてことは、今はどうでもいいよ。それよりも、答えて? 君は生きたいの?】
「……………」
一夏は薄れていく意識の中、答えた。
「おれは……いきたい」
【そう……なら、君にこれをあげぇる】
そう言って、『何か』は一夏に向かって何かを投げた。
蒼白い輝きを放つ、宝石のような物体である。
宝石は凄まじい輝きを放つと、そのまま―――一夏の胸に吸い込まれていった。
「なんだ? 今の輝きは?」
男はその場を立ち去ろうとした時、後ろで何かが輝きを放ったのを感じ、振り向くが何も変化したところは無かった。
しかし、そのとき。
「ぁ……?」
一夏はいきなり、大量の血を吐いた。
「あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あ、あ―――」
一夏は今までに感じたことのない異常な感触に、叫び上げる。
朦朧とする意識の中で。
一夏は自分が別の存在に生まれ変わるかのような感覚を覚えた。
◇
「一夏、待っていろ!!」
千冬は暮桜の出せる最大速度でとある場所に向かっていた。
決勝戦が終わり表彰式が始まろうとした瞬間、日本政府のお偉いさんがうかりとあることを漏らしてしまったのだ。
千冬の前方に倉庫が見え、一夏が生きていることを祈っていた。
その瞬間、倉庫が吹き飛んだ。
「い、一夏ぁ!!」
千冬は吹き飛んだ倉庫に近寄ろうとするが、倉庫を中心に暴風が発生していて近寄れなかった。
その中心に誰かがいるのを千冬は確認する。
甲冑姿の子供がその場で泣きながらうずくまっていた。
「ちふゆ……ねえ……」
「いち……かぁ!!」
千冬は暴風の中を一歩ずつ進み、一夏の元に近寄る。
だが、中心に近づくにつれ、風は強くなっていく。
「まっていろ……今、助けてやるからな」
暮桜のシールドエネルギーが徐々に削られながらも、千冬は進む。
そのときだった。
「っ!!」
一本の風が千冬の左目を切り裂いた。
「ちふゆねえ!! きちゃだめ!!」
だが、千冬は歩くのを止めなかった。
「もう、大丈夫だ……一夏……」
千冬は一夏の元にたどり着くと強く、一夏を抱きしめた。
「もう心配することはない……私がお前のそばにずっといてやる。だから、安心しろ」
その言葉を聞いた一夏は安心したのか、その場で気を失った。