インフィニット・ア・ライブ/ステイナイト   作:ぬっく~

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第二十三章 破軍歌姫

千冬が〈天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)〉を放ち、魔術師(ウィザード)を撃退に成功するが、千冬が持っていた〈乖離剣(かいりけん)エア〉に罅が入るとあっという間に砕け散ってしまった。

それと同時に纏っていた黄金色のISも消滅する。

 

「試作段階とは言え、ここまで脆いとは……」

 

千冬の手には一夏から渡された待機状態のISがあるが、それすらも砕け散っており、ISとしての機能を完全に失っていた。

 

「まあいい」

 

そう言い残して、千冬は立ち去っろうとした瞬間だった。

 

ヴォオオオオオオ―――ッ!!

 

凄まじい音が天宮スクエアに響き渡ったのだ。

 

 

    ◇

 

 

一夏はその光景に驚いていた。

ステージ部門を見に来ていた一夏は誘宵美九のパフォーマンスに僅かながら疑問を持っていたが表彰式の時にそれが確信に変わった瞬間だった。

 

「詠え、謳え―――〈破軍歌姫(ガブリエエエエル)〉ッ!!」

 

美九は自分の周囲に広がった光の鍵盤に両手の指を叩きつけた。

 

ヴォオオオオオオ―――ッ!!

 

瞬間、美九の後方に聳え立っていた巨大なパイプオルガンから、凄まじい音を発し始めた。

 

「う……っ、が……っ!?」

 

思わず、耳を押さえる。

だがそれは、その凄まじい音量に耐えかねての行動ではなかった。

空気を通って一夏の鼓膜を揺らした音が、そのまま一夏の頭の芯を浸食するかのように染み込んできたのである。

数十秒後。嵐のように会場を駆け巡った〈破軍歌姫(ガブリエル)〉の音は徐々に小さくなっていき、やがて、完全に消え去った。

 

「……っ、……っ」

 

恐る恐る、耳を覆っていた手を退ける。まだ軽く耳がきぃんと鳴っていたが、その他には身体に変化は見られないようだった。

だが、すぐに異常に気付く。

耳鳴りが消えても、周りから音が聞こえなかったのである。

 

「洗脳……!?」

 

一夏は隣にいた客の目を見てすぐにそれだと気付いたのである。

先程の音が洗脳効果を持っているとなると、この場にいた観客……いや、その音を聞いた全員が洗脳されているということに一夏は額に汗を掻く。

 

「不味い!」

 

一夏はすぐさま、士道のいるステージに駆け寄る。

しかし、美九の洗脳を受けた生徒の方が早く、着いたときには既に遅かった。

 

「うッぎゃああああああ―――ッ!!」

 

会場に悲鳴が響き渡る。

しかし、その声の主は美九だった。

士道が精霊保護団体に介入していることからおお予想、美九が精霊ではないのかと思っていたが、それは先程わかったが、それ以前に美九が大の男性嫌いだったことを後で知ったのだ。

そして、美九の今のお気に入りはそこにいる女装メイドの士道だった。

勝負に負けて強制的に自分の物にしようとしたのだろうが、美九が士道の正体を知ってしまったのだ。

 

「士道! こっちに来なさい!」

 

「一夏!?」

 

士道が一夏の存在に気付くとそのまま、そっちに走った。

その後ろを出演者や司会者、会場にいた観客などが一斉に、士道に向かって走り出して来る。

 

「来なさい! 『白式』!!」

 

一夏は右腕を掲げ、ISを呼ぶ。

白い光に包まれ、全身に白のISを纏い、そのまま、一夏はお姫様だっこの形ですくい上げる。

 

「すまない……」

 

「お礼は後でいい。今はここから逃げることが先……」

 

一夏が言いかけた瞬間、一夏は高度を下げる。

先程までいた所にペンデュラムのような武器と巨大な槍を持った少女たちがいた。

 

「耶俱矢、夕弦!? まさか、おまえたちも!?」

 

美九の天使が放った『音』に、封印された精霊たちも支配下に置かれていたのである。

 

「精霊が五人となると、厳しいな……」

 

士道がいる現状では一夏はまともに戦えなかった。

精々、『雪羅』を撃つのが限界であるが、洗脳されているとは言え、無防備な人間には撃つことが出来ない。

 

「ふ……ふふ、あははは……っ! なぁに、これ」

 

と、美九の笑い声が聞こえてくる。

 

「人が悪いじゃないですかぁ、士織さん。会場にこんなにいるなんて!」

 

言って、可笑しくて仕方ないといった様子で身を捩る。

 

「さぁ……さっさと始末しちゃいなさい!」

 

美九が光の鍵盤を一層強く叩く。すると四糸乃と八舞姉妹が、士道に敵意に満ちた眼差しを向けてきた。

 

「しっかり捕まってなさい!」

 

そう言って、一夏は八舞姉妹の風を避けながら、()()を救い上げた。

 

「―――え?」

 

間の抜けた声を発したときには、士道の視界はステージが見渡せる観客席の入り口に移っていた。

 

「なんで、十香を……」

 

「あら、気付いていなかったの? 彼女、洗脳を受けていないよ?」

 

言って、一夏は十香の耳からある物を取った。

 

「イヤーモニター……」

 

「うむ、どうも片方だけではバランスが悪く、リズムが取りきれない気がしてな」

 

両方の耳に入っていたお蔭で、美九の洗脳を受けなかったのだ。

 

「士道はこのまま、行きなさい」

 

「な!? そんなこと……」

 

「できない? 今の貴方にできることはある?」

 

そう。今の士道ではこの軍勢を相手することは出来ない。

美九を止めようにも精霊が三人いる。

圧倒的に不利だったのだ。

 

「……ッ」

 

士道は一夏の正論を返す事は出来なかった。

 

「琴里か……? 不味い状況になった。外に出るから、〈フラクシナス〉で回収してくれ!」

 

『ハァ?』

 

最後の手段であった希望が打ち砕かれた瞬間だった。

 

『―――何言ってるの? ()()()に逆らったお馬鹿は、そこでミンチにされてさないよ』

 

「こ、とり……?」

 

士道は、呆然と妹の名を呼ぶしかなかった。

 

「……十香ちゃん。士道を連れて逃げなさい」

 

「う、うむ。健闘を祈る」

 

そう言って、十香は士道の手を掴んで外に出た。

 

「あらあら……逃がすとでも思っているのですかぁ?」

 

美九は士道を逃がした一夏を一段と敵意を上げる。

 

「なに、逃げる時間を稼げればいいのでな」

 

しかし、一夏はISを解除し、コンバット・マグナムを取り出す。

 

「いくぞ誘宵美九―――軍勢の貯蔵は充分か?」

 

美九の洗脳を受けたゾンビ兵に一夏は引き金を引いた。

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