第二章 新たな人生
千冬は病院の近くにあるベンチで誰かと連絡を取っていた。
「例のやつの解析は終わったのか?」
『束さんもびっくりだったよ。いくら検証してもこれはあり得ないね』
千冬の話し相手はISの開発者の篠ノ之束だった。
一夏の誘拐事件の後、一夏が持っていた剣を秘密裏に束に渡し、解析を頼んでおいたのだ。
しかし、返って来た答えは。
『この剣は色々とおかしいんだよ~。この世界にある金属全てと照合したけど、どれにもヒットしなかった』
「……………」
千冬は何も言えなかった。
大方予想通りの答えだったのもあるが、一夏の身体に起きた異変と関係している線が強くなってしまったのが。
「何かわかったらまた連絡をくれ」
『ほ~い』
千冬は通話を切り、病院の方に振り向く。
「一体あそこで何が起こっていたのだ……」
深まる謎の答えは一夏が持っていると千冬は考え、再び病院に向かった。
◇
病院に運び込まれてから数時間が経った頃だった。
千冬の左目は完全に失明してしまい、今は包帯が巻かれている。
担当医の医師か一夏の様態を聞くが、思いのほか目立った外傷はなく数日には退院ができると言っていた。
しかし、そこでおかしな単語がでてきたのだ。
「時期に
「え?」
医師は一夏のことを妹と言ったのだ。
「一夏は弟ですが……?」
「え? いや、あれはどう見ても妹さんでは?」
話がかみ合わない。
千冬は慌てて一夏の眠る病室に入る。
そして、眠る一夏のある部分を触った。
「うそだろ……」
そのとき、千冬は一夏に起こった奇怪現象を知ってしまった。
無かったのだあれが。
一夏は男ではなく女へと変わってしまったことを。
◇
千冬は病院に設置されている自販機の横にある長椅子に座り、情報をまとめていた。
(主犯は一切不明、実行犯は全員致命傷で死亡、あの束ですら解析出来なかった剣、突如の身体変化……まだ、ピースが足りない)
倉庫の残骸から複数の男の死体が発見されたことは、ドイツ政府からの情報だった。
一夏の監禁場所の情報も同じくドイツからであるが、男を女に変える薬の開発は成功していないことは、束からの情報で聞かされていた。しかし、性転換したとしても時間が足りない。
(あの場に
それしか考えられなかったが、足取りがつかめない以上、千冬は諦める。
それより、問題なのは一夏のことだった。
一夏は中学に入ったばかりだ。いきなり女に変わってしまったと学校に報告すればいいのか凄く迷っている。
(このまま、女であることを隠すべきか)
だけど、リスクが大きい。
それを材料に日本政府が脅しをかけてくるだろうと、千冬は分かりきった答えを出していた。
「束に預ける……いや、だめだ」
束に預ければ、多少は大丈夫だろう。しかし、あの兎のことだから、色々と危ないと千冬はまたもこの案を没にする。
「……………」
千冬は立ち上がり、一夏のいる病室に向かった。
病室にはいると未だに目を覚まさない眠り姫がいる。
◇
ざぁん……
風の音が聞こえる。
一夏はその音で目が覚める。
そこに広がっていたのは何処かの森だった。
「ここは……」
立ち上がろうとするが、うまく立ち上がれなかった。
力が入らない。
「……………」
一夏は動く首だけで周りを確認する。
大きな木の下で寝ていた自分を除き、目立ったものはなかった。
隙間から漏れてくる光と優しく流れる風に一夏は再び眠りにつく。