インフィニット・ア・ライブ/ステイナイト   作:ぬっく~

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第三十一章 天央祭最終日

「ここは……」

 

最初に映ったのは白い天井だった。部屋の中は、広い空間になっていた。白い床の上に様々な機械が並び、壁際に幾本ものコードがたくっている。

一夏がいたのは、部屋の最奥に設置された大きな治療ポットの中であった。

 

「ん? どうやら、目を覚ましたようだね」

 

「あなたは?」

 

一夏は付けられていた酸素マスクを外し、身を起こす。

 

「あまり無理をしないほうがいい。霊力を全て使い切る程の戦闘を行なった後だ、さほど力が入らないだろう」

 

一夏は指をグー、パーと何度かやって、力の具合を確かめる。

確かに、この女性の言った通り、だいぶ低下していた。

 

「自己紹介がまだだったね。……私はここで解析官をやっている、村雨令音だ」

 

軍服らしき服を纏った、20歳くらいの女性である。無造作に纏められた髪に、分厚い隈に飾られた目、あとは何故か軍服のポケットから顔を覗かせている傷だらけのクマのぬいぐるみがいた。

 

「……………」

 

上体を起こした一夏は、今の令音の言葉に引っかかりを覚えた。

 

「―――ここ?」

 

「……ああ、〈フラクシナス〉の医療室だ。傷も残っていないから安心していい」

 

「〈フラクシナス〉……? ていうか傷って……、あ―――」

 

そうだ、一夏は十香に斬られて、気を失ったのだ。

 

「あら、目覚めたのね」

 

一夏が思い出した頃と同時に、医療室に真紅の軍服を肩掛けにした少女が部屋の中に入ってきた。

大きな黒いリボンで二つに括られた髪。小柄な体躯。どんぐりみたいな丸っこい目。そして口にくわえたチュッパチャップス。

一夏は眉をひそめた。

 

「こうして、顔を合わせるのは初めてね。織斑一夏」

 

「そうね……五河琴里」

 

一夏はこの少女が誰なのかは分かっていた。天央祭前に士道と通信していた少女だということはいうまでもなかった。

 

「質問をいいかしら?」

 

「なに?」

 

「あの後、どうなったの?」

 

一夏は気絶していて、あの後の事を知らない。

 

「無事に終わったわ」

 

琴里はさらっと答える。

 

「そう。なら、いいんだけど……」

 

「一つ言わせてもらうけど、あなたをここから帰すつもりはないわよ」

 

琴里は目つきを変え、そう言った。

一夏もおおかた予想出来ていた答えだった。自身は精霊。相手は精霊を保護する組織。弱っている今、チャンスでしかない。

 

「そうだろうと思ったわ……」

 

一夏は肩をすくめる。

 

「じゃあ、忠告。背後を注意すべし」

 

「はぁ? 何を……ッ!?」

 

琴里は一瞬、何のことなのか分からなかった……しかし、あることで気付いたようだった。

 

「これは……随時領域!?」

 

琴里と令音は見えない何かに掴まれ、その場から動けなかった。

 

「クロエちゃん。お迎えありがとうね」

 

「いいえ」

 

琴里の背後がぼやけ、そこから一人の少女が姿を現す。

両目を閉じた銀髪の少女、クロエだった。

 

「光学迷彩……」

 

令音は身体は動かせなくとも、目だけは動かすことができ、そのおかげでクロエの姿をはっきりと捉えることができた。

 

「それの解析は終わったんだ」

 

「はい……量産には、まだ時間がかかりますが……」

 

 

クロエはCR‐ユニットを装着していた。

一夏はそれを聞いて満足する。

 

「迎えが来てしまったようだし、ここで失礼するわ。そうそう、士道くんには、よろしくと伝えと言ってね」

 

「ッ!」

 

言って、一夏はクロエの肩に手を乗せる。

 

「お二方には、夢を見てもらいましょう」

 

クロエは杖を取り出し、打ち付ける。

その瞬間、琴里と令音は上下左右、真っ白な世界に閉じ込められた。

 

「なによ……これ」

 

「ふむ。完全にやられたな」

 

白い空間にいたのは、数分の出来事だった。

元の世界に戻ってきた頃には、一夏とクロエの姿はなく、完全に逃げられたのだ。

 

 

    ◇

 

 

「……………」

 

9月25日、月曜日。DEMインダストリー日本支社での攻防戦から一日が経った日のことだった。

〈フラクシナス〉から脱出した一夏は束のラボで念入な調査を受ける。特に問題もなかったので、その日はラボに寝泊まりする。

三日目の今日。一夏は天宮スクエアにやってきていた。

 

「……まだ、気にしてしるのですか? 楯無さん」

 

「そうよ!! なんで、あんだけのことがあったのに、こうなるのよ!!」

 

そう。結局、天宮市で巻き起こった謎の大暴動は、特殊な幻覚剤が散布されたテロとして決着が着けられた。

流石に無理があるのではと思った一夏だったが、昨日の朝方に急に我に返った美九の信者たちが、操られていた時のことを全く覚えていなかったのだから真相など追いようがない。合理的でないにしろ辻褄を合わせなければならなかったのだろう。あの騒動で死者が出なかったのが不幸中の幸いである。

DEMインダストリー日本支社の惨状も、特殊な空間震の被害と言うことで始末が着いた。監視カメラの映像くらいは残っていただろうが、わざわざ精霊と魔術師たちとの戦闘を晒すようなことはしんかったようである。

それより、楯無が一番に気に食わないのはホールでの出来事だった。

 

「『この件には一切関わるな』ですって!? 逝かれた爺共め!!」

 

一日目の時にエレンが襲撃してきた件は政府の方で手を出すなと更識家に釘を刺されたのだ。

調べることも出来ず、この件に関しては闇に葬られた。

 

「まあ……後で、可能な限り話してあげますから」

 

「む~」

 

楯無は政府の判断に納得がいかず、頬を膨らませた。

そして、最終日の天央祭を一夏たちは楽しんだ。

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