インフィニット・ア・ライブ/ステイナイト   作:ぬっく~

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第三十三章 模擬試合

唇を舐めると、汗の味がした。

 

「……………」

 

篠ノ之箒は呼吸を整えるように唾液を飲み込むと、手にした〈雨月(あまづき)〉の柄をぐっと握り直した。

今箒の華奢な肢体を包むのは、着慣れたIS学園の制服ではなく、ISスーツと紅椿だった。

一対五の模擬試合を行っている。

だが―――今。有利であるはずの箒は、完全に追い詰められていた。

 

『―――うわぁぁぁぁぁぁッ!?』

 

「……っ」

 

プライベート・チャンネルから聞こえてくる悲鳴に、微かに息を漏らす。

聞き覚えのある声。同じくして挑んだラウラのものだった。

これで―――四人目。箒以外の味方が全て倒されてしまったことになる。

 

「……く」

 

IS学園の一角にある第三アリーナ。

箒たち生徒が、よく使うIS専用のグランドである。

そんな、アリーナの中心に、髪を一つに結った少女が悠然と佇んでいた。

―――崇宮真那。

箒は少女の名前を心中で反芻しながら、その姿を改めて見直した。

年の頃は十四、五といったぐらいで、左目下の泣き黒子に飾れた利発そうな貌には、まだどこかあどけなさが見て取れる。

だがその小さな体躯を包むのは、少女にはまるで似つかわしくない機械の鎧―――ISだったった。

箒たちのそれとは少し型の異なったISスーツに、日本の量産機『打鉄』。鈴たちとは別の第三世代型の試作幾という話である。

 

「―――さ、あと一人です。どこからでもかかって来やがってください」

 

真那は、足元に倒れたラウラを一瞥もせず、そう言ってきた。

アリーナのいたるところに、無力化された三人の専用機持ちが倒れていた。

あまりに、圧倒的。まるで一夏を相手取って戦っているかのですらあった。

 

 

    ◇

 

 

「随分と面白い機体を使っているのね。彼女」

 

専用機持ちの模擬試合があると言うことで駆けつけて来た楯無は真那のISを見て、興味を持ち始めた。

 

「ええ。面白いことにアレ……ISとCR-ユニットの混合幾体のようです」

 

真耶の使っているISは、見た目は日本の量産幾である『打鉄』であるが、中身が全くと言って別物だった。

打鉄の標準装備であるブレードを使わず、別の物を使っていたのだ。

刀身の表面に生成魔力で作った細かなレイザーエッジを蠢動させているようだ。見てくれは剣のそれに近いものの、構造はチェーンソウのようなものらしかった。

現に鈴や箒の武器はバターのように斬り裂かれており、この試合の行方も目に見えていた。

 

「へぇ~」

 

「装備、能力はCR‐ユニットを使っていますが、あくまでISに加えた程度の試作幾のようですね。まだ、所々ムラが見えます」

 

だてにISの整備から開発を行なっている一夏は真那のISを一目見て気づいた。

 

「しかし、ここまで完成させているとなると、相当の腕前です」

 

一夏も真那のISには称賛を称える。

CR‐ユニットはISとは違い公表されていない技術なので、一夏を除くこのIS学園では千冬と楯無しか知らない。

一夏もこれ以上の戦闘は無意味だと判断し、試合終了のブザーを鳴らす。

 

 

    ◇

 

 

結果は、見ての通りである。

四名が既に無力化され、箒もまた、空裂(からわれ)を失っていた。

反して真那は、未だに傷の一つも負っていない。

 

「……さあ、このままでは時間切れになってしまいやがりますよ?」

 

真那がふうと息を吐きながら、敬語になりきっていない敬語で言ってくる。

このまま時間切れを待っても、箒の敗北は確定だった。箒は残った雨月(あまづき)を構える。

 

「―――お。ようやく腹がきまりやがりましたか?」

 

「……………」

 

箒はスラスターを駆動させた。

もとより箒の手に残った武器は〈雨月(あまづき)〉一つのみである。接近戦を仕掛ける以外に道は残されていない。身体を前傾させ、凄まじいスピードで空を駆ける。

 

「潔し。嫌いじゃねーです、そういうの」

 

真那は唇の端を上げると、レイザーエッジを構える。

 

「〈ヴォルフテイル〉」

 

すると次の瞬間、レイザーエッジの刃が輝きを増す。

しかし、箒は止まらなかった。

雨月(あまづき)〉を振りかぶり、さらにスピードを上げる。

だが、このまま吶喊しても返り討ちに遭うことはわかりきっていた。

 

「―――今」

 

ゆえに、自分と真那が触れる瞬間、箒は一歩下がった。

 

「なっ……?」

 

さすがにこの行動は予想外だったのだろう、真那が目を丸くする。

そんな真那目がけ、箒は再び突っ込む。

 

「っ! あめーです……っ!」

 

しかし真那はすぐに落ち着きを取り戻すと、光の刃を縦に振り下ろす。

―――それが箒の狙いだった。

 

「―――っ!」

 

箒は再び、一歩下がる。

真那の刃は完全に振り下ろされ、箒の一撃を受けてしまった。

箒の狙い通り、〈雨月(あまづき)〉の刃が、真那のISに浅い傷を付ける。

―――しかし。

 

「な……っ」

 

箒は思わず声を上げていた。

雨月(あまづき)の切っ先が真那に装備に届いた瞬間、全身の体表を手の平でくまなく撫で回されているかのような感覚が生まれ―――箒の動きが止められたのである。

 

「―――ふぅ、危ねーです」

 

真那が首を回し、箒に視線を送ってくる。

箒は息を詰まらせた。間違いない。真那がラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界に似た何かで、箒の動きを止めたのだ。

 

「残念、詰み(チェック)です」

 

真那が身体をゆっくりと回転させ、箒の肩口に光の刃を触れさせる。

その瞬間、頭上からブザーが鳴り響き、次いで、アリーナから音声が聞こえてきた。

 

『試合終了。崇宮真那の勝利です』

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