後悔はしていない。
10月29日、日曜日。
五河家の中は今、騒然としていた。
七罪の力によって、十香以下7名の女性が子供にされてしまったのだ。
「……………」
無言で頬に汗を垂らしながら、五河士道は頭を抱えた。
ただでさえ寝不足で痛む頭を、ひっきりなしに響く甲高い声と、バタバタという足音が容赦なく叩いていく。
「これは……」
「うん。大変なことになったね……」
一夏と楯無もその光景に頭を抱えていた。
今、五河家のリビングには、10歳にもなるまい小さな女の子たちが暴れまわっている。
数日前に起こってしまった件から士道と一夏は世話に追われていた。
「……お邪魔するよ」
士道たちが学級崩壊したクラスの担任のような調子で困り果てていると、不意にリビングの扉が開き、一人の女性が入って来た。
「令音さん!」
「……大変そうだね、シン」
令音はそう言うと、状況を把握するようにリビングを見回したのち、子供たちを対処する。
鮮やかな手管にあっという間に収まった。
「すみません……助かりました。私たちではどうも」
「いや、皆の世話をまかせてしまってすまなく思っているよ」
一夏はすっかり大人しくなった皆を眺めながら苦笑した。
◇
「おはよう」
翌日。大きなあくびをしながら、士道は五河家のリビングへと入って来た。
そのリビングに一番乗りしていた一夏はキッチンで朝食を作り、楯無は自身より大きい新聞を畳んで読んでいたのだ。
結局、昨日は子供化してしまった楯無がいるため、戻ることが出来ず、一夏の寝室で寝ることになった。
「おはよう、しどう」
「おはよーございまーす、たーりーん」
「お、おはよう……ございます……」
『うーん、いい朝だねー』
と、一夏と楯無とは別に、既にリビングには琴里、美九、四糸乃、そして『よしのん』がいた。
「おう、みんな早起きだな」
士道が言うと、三人と一匹は思い思いの表情を浮かべる。
「朝飯が出来たから、テーブルを開けてちょうだい」
『はーい』
一夏が声をかけると、リビングにいた三人が行動を開始した。
「ごめんね。勝手にキッチンを使ちゃって」
「いえいえ。大丈夫ですから」
一夏はキッチンを勝手に使ってしまったことを士道に謝り終えた頃にはリビングは準備完了していた。
『いただきまーす』
五人が一夏に倣うように手を合わせ、ぺこりと頭を下げる。
「! おいしいわね」
フレンチトーストを口に運んだ楯無が目を開く。
「ねぇねぇ、だーりん、だーりん」
と、士道がトーストを食べようとしていると、隣に座った美九が袖を引っ張ってくる。
「ん、どうしたんだ、美九」
士道が言うと、美九は両手を胸元で組み合わせながら目を伏せ、「あーん」と口を開けてきた。
「え?」
「んもうっ、あーんですよ、あーん」
美九はぷりぷりと怒るような仕草をしたのち、再び口を広げる。
「あ、ああ……」
トーストを一口サイズに切ってから、美九の口に運んでやる。すると、美九は両手でほっぺを押さえながら嬉しそうに声を弾ませた。
「うぅーん! おいしいですぅ」
士道が苦笑いしながら自分の皿に向き直ると、正面の琴里と、はす向かいの四糸乃、その隣にいた一夏と楯無が、愕然とした表情を作っているのがわかった。
「ねぇ……一夏」
楯無が袖を引っ張ってきた。
「ん? 何?」
一夏が言うと、楯無も美九と同じように、「あーん」と口を開けてきた。
「え?」
「あーんよ、あーん」
楯無はぷんぷんと怒る仕草をしたのち、再び口を開ける。
「あ、ああ……」
トーストを一口大に切ってから、楯無の口に運んでやる。すると、楯無は両手でほっぺを押さえながら嬉しそうに声を弾ませた。
「一度やってみたかったんだよね~♪」
「ああ……そう言うことね」
一夏が苦笑いする。と、その瞬間、不意にリビングの扉がガチャリと開き―――もの凄く眠そうな顔をした十香が部屋に入ってきた。
「……むう、なにやら、いいにおいが……」
言って、ふぁぁぁ……と大きなあくびをする。
あまりにも十香らしい目覚め方である。士道たちは目を見合わせると、誰かともなく笑っていた。
その光景がいつもの五河家なのね、と一夏と楯無は思い……笑う。