3/26 午前6時
冬もようやく終わりを見せ始め、太陽の日差しが差し始める時間。
水平線を臨めば、淡い青色が茜色に混じるようなこの空模様が俺は特に好きだ。
彼は誰時とも言うらしい。
彼は誰、時は元々。
ふむ、なるほど。
と、ところで早起きは三文の得ということわざがあるが、三文なんて円換算してもMAXコーヒー1本分にすらならないがこのことわざはそういう損得勘定ではなく早く起きれば良いことがありますよ、という一種の願掛けのようなものなのだろうと解釈している。
しかしである、高校入学の際柄にもなく気が昂ぶって早起きすれば交通事故に巻き込まれたり、普段でも早く起きたところで小町の良い足代わりにされるだけなのである。
よって、早起きしたところで得はなにもないし俺は二度寝を決める。決めるのだ。
と一人で意気込んだは良いものの。
「……て、提督ぅ……皆さん見てますってぇ…///」
良い歳して際どい巫女服なんぞ着ているお前がそれを言うのか、いや似合ってるけど!似合いすぎてるけど!!
目が覚めて左を向けばだらしない顔をした彼女が、恐らく本来は俺を起こしに来たのであろう。ベッドに乗りかかるようにして寝言を宣っている。
健全な男子高校生としては朝から別の八幡が目覚めそうになるので早急に起きていただきたい。
「おい」
柔らかそうな頬をつつきたい衝動にかられるがそんなことをした瞬間独房行きだ。
なるべく肌に触れないよう軽く肩を揺らし、ようやく彼女は目が覚めたらしい。
「ふぇ…?あ、提督、おはようございます……」
「起きたか、それなら早くどいてくれ。こんなところ他の娘たちに見られでもしたら死ぬ。俺が。物理的に。」
そう、なぜかは知らないが少しでも俺が他の艦娘と物理的に近づこうものなら、他の彼女たちはみな荒れる。
普段は見せない、深海棲艦を駆逐したその力の鱗片をなぜだか俺に向けるのだ。
当然そんなのは出来うる限り避けたいので早めの対処を取らねばならない。
そんな俺の焦る気持ちを知らないであろう彼女は
「……ふぁい、はるなは、はるなはだいじょうです!……zzZ」
ついに俺の布団に侵略しようとしてきたのだった。
「先ほどはとんだ失礼をしてしまい申し訳ございません、提督」
「いや、まぁ以後気をつけて頂ければ大丈夫ですよ、榛名さん」
金剛型戦艦3番艦、榛名。
戦艦でありながらその速力をもって先の深海棲艦討伐作戦では中心として活躍したらしい彼女は現在一応ここ、九十九里泊地の秘書艦として籍を置いている。
まぁその司令がこんな高校も卒業していないひよっこなのだから、世もどうなのかと思ってしまうがなってしまったものは仕方がない。
ところで、この榛名さん。どうにも由比ヶ浜と被るのはなぜだろう、性格はこんなに違うのに。
「それで、今日の予定は?」
「は、はい!」
余計な気落ちをさせないようさっさと仕事をさせた方が良いと思ったが間違えてなかったようだ。
「本日の予定ですが……ありません!!」
「そ、そうですか…てことはつまり…」
「はい!今日もおでかけしましょう!」
またか。またなのか。
確かに俺は仕事をしたくないがそれはあくまで自分だけの話であって、他の人間にはすこぶる働いて欲しいというのに。
ここでは艦娘に付き合って行動することが俺の仕事となってしまうため、当然のように拒否権がない。
榛名さんが右を向けと言えば右を向くし、他の艦娘が左を向けと言えば左を向くしかないのだ。
艦娘のところを上司と置き換えれば立派な社畜の完成である。俺一応ここの司令官なのに。
とは言え、実はそれは俺に限ったことではなく、他のどの泊地でも司令官の役割は艦娘の監督及び指導という名の接待に近いのだが。
「はぁ、わかりました……。ですが、資源の補給と本日分の演習を済ませて、午後からということでよろしくお願いします。」
「はい!」
なぜだか榛名さんは今日一番の笑顔でうなずいたのだった。