道の奥にある『傭兵協会』貧民街支部
傭兵になるものか傭兵以外は入れないといった場所で、傭兵に支給される以上の兵器で武装されているスラムでも最も安全な場所だ
私はそこで管理人であるロボゾに事情聴取を受けている
「はぁ~呆れたもんだ…まさかあの峠の向こう側から来るなんてな」
「確かに危険な場所だったが…そんなに危険だったのか?」
「あぁ、人食い大狼(マンイーターウルフ)の巣だし、何より希少種のポイズングレーターがいるからな」
「希少種?」
「ああ、突然変異と考えてくれればいい、滅多に見ることができない変異体(デミューズ)さ」
「そうか」
変異体、狼やスライムたちはそう言った存在なのだろう
「で、お前さんは腰のそいつでそれも倒したんだろ?だったら心配はないな」
「…その通りだが、どういう意味だ?」
「簡単な話だ、変異体が人間を襲うならそれらを狩る人間もいる」
狩る存在、と、なると
「…ハンターか?」
「ははっ、やることは変わらんがここでは『傭兵』って言うんだ」
「『傭兵』?雇われるのか?誰に?」
「『中央都市』さ、大昔からあるみんなが幸せになれるシステムだ」
「ふむ、説明してもらっても?」
「あぁ、もちろんだ」
ロボゾが言うには、元々は『中央都市』にいる軍部だけでは防衛が追い付かない時に考案されたシステムで、大破壊…つまりこんな世界になって間もなく作られたらしい
それぞれが遺伝子登録が可能なカード型の端末を持ち、変異体を殺しそれらの遺伝子を登録する、それらを協会へ持っていき『中央都市』が造幣している通貨『バレル』を支給してもらう
それを使い、新しい兵器を揃えたり、娯楽や生活などに役立てる、傭兵でないものもそれらの通貨で暮らしている、需要と供給が成立しているため、そういった意味での『みんな幸せになれるシステム』らしい
ハンターになるには遺伝子情報を登録できるカードに自身の遺伝子をユーザー登録として組み込む、それがハンターの証になり、それがなければいくら変異体を倒してもタダ働きになるのだという
そして、傭兵にはランクがあり、このスラムでは最低ランクのFから始まっていくらしい、まぁほとんどがFランクのようだが
傭兵登録をしたものは、生きている限り格の違う生活を約束される…とロボゾは言うが…どうなのだろうか?
「まぁ、こんなもんだな…で、どうするよ?」
「あぁ、登録には何が必要なんだ?」
「話が早くて助かるぜ、ここは頭が足りねぇ奴が多いからなぁ…」
疲れ顔で言うロボゾ、管理人というだけあってそれなりの苦労はしているようだ
「とりあえず、必要なのは腕っぷしだけだ、まぁあんたなら問題はないだろうが…だが、それでも協会が定めた試験を受けてもらわなきゃならねぇ」
「試験?」
「ああ、まぁ捕らえて少し弱体化させた変異体を倒せばいいだけだ」
「了解だ、何処でやるんだ?」
「ここでやるんだが…明日まで待ってくれないか?まだ、準備ができていない」
「準備?」
「弱体化がな…規定に届いてない、まぁ、明日ぐらいには丁度よくなっているはずだ」
「そうか、わかった」
「ああ、すまんな…それと、寝るのなら西の酒場の横の廃材置き場の奥なら屋根があるし周りの廃材で風は防げるぞ」
「?なんでそんなことを?」
「なんでってお前・・・ここに来たばかりで1バレルも持っていないだろ?金を貸してもいいんだが…俺は一応管理人だからな、特定の人間に肩入れはできねぇんだ、悪いな」
「いや、そういうことなら構わん、情報感謝する」
「ああ、明日を楽しみにしてるぜ」
話を終え協会を出る、向かうのはわずかな喧噪の聞こえる西の酒場、浮浪者のようにふらふらと足を向ける
酒場の前には娼婦が壁に沿うように一定間隔で並んでいた
こちらに顔を向けても、格好を見てはすぐに視線をそらす、まぁ、戦闘や荒野の移動などでぼろぼろになっているのだ、当たり前だろう
ふと、酒場の右側に人影を見る…あそこが廃材置き場だろうか?
「ん…?なんだずいぶんとみすぼらしい格好しておるな、おぬしは」
そこにいたのは焚き火をしている顔の皺の濃い老人だった
「どこから来たかは知らんがこれから寒くなる、温まっていきなされ」
「…では、失礼する」
多少の遠慮はあったが、寒くなるというのは知っている、今は少しでも温まったほうがいい
「ほ…失礼する、か、最近の若者にしちゃずいぶんと礼儀正しいの、ここの生まれじゃなかろう?」
「ああ、その通りだ、峠の向こう側から来た」
「峠と言うと大狼(だいろう)の住処のか?」
「ああ…信じれないか?」
「ふむ、腰につけとる変わった銃とあちこちにある狼の爪や牙のかすり傷の後、それが無ければ信じなかったのぅ」
「…かすり傷の跡なんかわかるものなのか?」
にわかには信じがたい話だ、薄暗い中細かい傷などで判断できるなど
「狼の爪や牙は特殊での、自身の内側に向かってギザギザした細かい突起があるんじゃ、それで引掻かれると、進行方向に向かって傷が大きくなる…ま、経験じゃな、ぱっと見じゃわかりゃせんよ」
「そうなのか…それはそうと聞きたいことがあるのだが」
「廃材置き場なら逆方向じゃよ」
…なに?
「なぜ聞きたいことが?」
「お主のようなものがここに来てまずやることは三つ、火にあたるか、酒場の中に入り、無一文ということに気が付き出直すか、店の横で寝床を探すかじゃ」
なるほど、確かにその通りだ
現状で私のような者がやれることは限られている
「お主はもう寝ておけ、疲れが顔に出ておるよ」
「そうか?すまない…ああ、そうだ、私の名前はジンと言う、あなたの名前を聞かせてもらってもいいだろうか?」
「ふむ…皆、儂のことを『おやっさん』と呼ぶが…そうじゃの、『シルバ』とでも呼んでくれ」
「ふむ、了解した、では、シルバ殿、暇ができたらまた来させて頂く」
「ほほっ!せめて土産を持って来てくれよ、その分昔話を聞かせてやるからの」
私はその言葉を背に酒場の左側へと向かう
シルバ、あの老人は少なくともこの辺りではかなりの実力者なのだろう、老人で生きながらえるのは要領のいいものか、もしくは相当な腕を持っているか、だ
多少の媚を売っても良いだろう、有益な情報が聞けるに違いない、それに
「純粋に尊敬もできる」
群れにて孤独、されど一人に非ず、それこそが孤高
あんな風に老いることができれば、それこそが私の理想だ
「ふむ…
中央から来た青二才共が好んで使っておったな、今は士官になったと聞くが…
老兵は死なずただ去るのみ、そう思い戦いから引いた身だが
(あの者にならば…あるいは)
傭兵ではなく『剣士』として培ったものを受け継げるのではないか?
(『剣士』足る資格は持っておる、だが、アレを手放すかはあやつ次第、だの)
じっと火を見ながら、老人は考え込む、その火の中にかつて荒野で剣を振るった自分を映しながら…