第一回・比企谷八幡唇争奪   作:T・A・P

3 / 3
第一回・唇争奪大鬼ごっこ大会 Ⅲ

 17:18 比企谷八幡:逃走中

 

 参加者:九名

 

 判明参加者

 城廻めぐり

 川崎沙希

 

 予想参加者

 平塚静

 雪ノ下陽乃

 由比ヶ浜結衣

 一色いろは

 

 次点予想参加者

 雪ノ下雪乃

 ????

 ????

 

 

 川崎と別れてから、俺はふと思いついた逃走経路にたどり着いた。

 

 さて、学校校舎内で有効的な逃走経路とは何か。

例えば、長い廊下の真ん中で待ち構えていたとする。一見距離があり逃走の確率が高いと思われるが、これは追跡者が一人の場合でかつ足の速さに自信がある場合に限るだろう。

しかし、今回は複数の追跡者から逃れられなければならない。運悪く挟み撃ちにされた場合、限りなく成功率が落ちる。0と言ってもいいだろう。

その際に教室に逃げ込む、と言う手が無いわけではないが、これはわざわざ自分から袋小路に逃げ込むようなものだ。

追跡者が多いのならば、逃走経路の選択肢も多い方が逃げ切りやすい。校舎内でそんな場所があるとすれば、

 

 と、俺は考えた結果、階段付近で待機している。

 廊下の先が見え、階段からの足音が聞こえるような位置取りをすることにより、四方向からの接近を感知することができる。俺にしてはなかなかいい場所を思いついたと、自分で自分をほめてやりたいぜ。

 それに、逃走経路に関しても三方向も選択肢が存在するのはでかい。選択肢が増えるという事は思考する時間が発生してしまうデメリットが存在するが、それ以上に追手次第で逃げ方のバリエーションをつけることができるのは大きい。

 例えるなら、足が速い奴に追われれば階段を使った上下運動で翻弄し、足が遅ければ普通に廊下を走れば逃げ切ることができるという訳だ。

 さて、ここでどれだけ時間を稼ぐ事ができるのかが鍵になるだろう。

「――――――が――――――――――――」

 しっかし、小町の奴も困ったことをしてくれる。これは久しぶりに怒ってやらなければいけないな。まぁ、最終的に甘やかす結果になりそうだが。

 まぁ、いつものことか。

「―ひ――――が――――――――」

 ん? 誰か俺の名前を呼んだか? 

「―ひ――――がや―――――」

 ……やばい、なぜか背筋に氷を一キロほどぶっこまれたような寒気が。

「比企谷ぁぁぁぁぁぁ! 見つけたぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 廊下の向こう側から、廊下なのに土ぼこりを巻きあげ大声と共に平塚先生が走ってくるのが見えた。その姿を例えるなら、一人でヌーの大移動を再現しているような迫力を感じさせる。

 しまった、一番見つかりたくない婚活怪人アラサー静に見つかった。

 一瞬固まってしまったが俺は一目散に飛び降りるよう階段をおり、下の階につくと次の階段に向かって全速力で足を動かす。トップギアでだ。

「比企谷! 一発殴らせろ!」

 やっべ、考えてることがバレた。てか、なんで俺の周りの奴はこうも俺の考えていることが分かるんだよ。みんなエスパーかよ。え、それともまさかのサトラレ?

 直線廊下で徐々に詰まってくる間合いに恐怖を覚えながらも、ようやく次の階段が見え階段を二~三段飛ばしで上の階に上がると、

「あ、比企谷君みっけ」

 アウトーーー! スリーアウトーーー!

 ちょうど上の階から降りてくる途中だったのか、踊り場に立っていた陽乃さんに見つかってしまった。

階段を上りきった俺は唐突に名前を呼ばれ反射的に振り向くと、こちらを見下ろしている陽乃さんと目が合う。

陽乃さんは俺と目が合った瞬間に獲物を見つけた肉食獣のような満面の笑顔を浮かべ、残りの階段を、飛び降りた。

 唐突の陽乃さん登場で動きが止まってしまったが、どうにか飛び降りてくる前に足を動かすことに成功し走りだした。

「比企谷ぁぁ! 廊下は走るなぁぁぁぁ! 今すぐ止まれ!」

「はぁ、静ちゃん必死過ぎ」

 後ろから聞こえてくる平塚先生の必死過ぎる言葉と、そんな必死な平塚先生にあきれた陽乃さんの声が聞こえてくる。

 ほんと、早く誰か貰ってあげて。あ、正直俺はごめんです。

 背後からのプレッシャーが二つに増え、ますます心が折れそうだ。つか、一人で十人分の威圧感があるんじゃね?

 校舎内を余すところなく上下左右に東奔西走、息も切れ切れ必死で走っていると徐々に後ろからの声が遠くなっていくのに気がついた。少々そのことが気になったが、ここで後ろを振り向くことで致命的なロスが発生しないとも限らない。逃げる時には全力で逃げる、それが鉄則だろう。

 ちょうど曲がり角を曲がる際にチラッと後ろの様子を覗くと、どうやら陽乃さんが全力で平塚先生を妨害しているように見えた。おそらくこの鬼ごっこの参加者で一番厄介だと考えたのだろうが、あの陽乃さんが全力を出しても止められない平塚先生の執念はなんなんだろうな。

 ほんと、怖ぇよ。

「こっちこっち」

 曲がり角のすぐ先にある教室から、手招きする一本の手が見えた。これが夜の校舎なら完全なホラーだろう。

ここでこの手招きに乗るかどうかだが、正直聞き覚えのある声だから正体は見当がついている。しかし、なぜあの人がこんな事をしているのかが、分からない。

どうするか、遠いと言っても陽乃さんと平塚先生はすぐに追いつくだろう。ここまま走って逃げ続けるのも限界が近い。ならば、虎穴に入らずんば虎子を得ず、か。

俺は、手招きしている方に足を向けた。

 

 

 

その教室に入ると俺の思った通り、海老名さんの姿があった。

「はろはろ~」

 海老名さんは、いつもの調子でいつものようにいつもの笑顔で手を振ってくる。

「あ、早くドアを閉めないと面倒なことになると思うけど」

 ああ、それもそうだな。

 俺はあの二人が来る前に教室のドアを閉めた。閉めるのと同時に、もの凄い勢いで走っていく足音が聞こえたが、考えないことにした。本当に、考えてくねぇよ。

「それで、なんの用だ?」

 と言ってはみたが、十中八九鬼ごっこの事だろう。

「ん~サキサキと同じかな。ヒキタニ君を……ううん、比企谷君の助けになればなってね」

 さっきまでの表情を一変させ、いつか見たような真面目な表情を向けてくる。

「はぁ、俺は別に助けた覚えも貸しを作った覚えもねぇんだがな」

「ははは、そんな事は分かってるから。でも、時には許しじゃなくて罰を欲しがる人もいるんだよ」

「……なるほどな。

まぁいい。聞きたいんだが、俺が教室に入ってくるのと同時に反対から出ていった戸部は何なんだ?」

俺がこの教室に入るのと同時に、反対側のドアから一人の男子生徒が俺と入れ代るように走って出ていった。アホ毛が生えた黒髪で、きっちりと言わないまでもそこそこ身だしなみを整えていたが、チラッ見えた横顔を見る限りその生徒は戸部だった。

「とべっちには囮になってもらったかな。ほら、こんな状況になるのは最初から分かってたからね」

 まぁ、そうだろう。鬼ごっこってやつは、かくれんぼじゃない。逃げることが大前提の遊びだ。なら、姿が見えなくなったところで囮と交代して隠れれば、囮が追いかけられるのは自明の理だ。

逃げるから追いかけるのか、追いかけられるから逃げるのか。

いや、追いかけられているから逃げるに決まってんだろ。

「ま、とべっちも関係者だから気にしなくていいよ」

 いや、戸部に割く思考はもともと存在してねぇんだが。

 さて、話しているうちに息が整ってきた。この場にいつまでもいると見つかった場合に不利になる。そろそろ、逃げ始めないといけねぇな。

「んじゃ、悪かったな。こんな事に時間を取らせて」

 そう言って俺はこの教室から出ようとしたが、いつの間にか取り出した携帯を見ながら海老名さんは俺の腕を取って引きとめてきた。

「今はまだ出ない方が良いかも。近くにまだ数人いるらしいから」

「え、なんでわかんの?」

「ほら、女の子には秘密のつながりがあるんだよ、愚腐腐腐腐」

 あ、はい、納得しました。

 なら、もう少し休んでからうごくとするか。

「そういや、なんで川崎が俺を助けようとした事を知ってたんだ?」

「ん~私が持ちかけからね。あの参加者の中じゃ、サキサキぐらいしか声をかけられなかったってのもあるかな」

 海老名さんは苦笑しつつ、おそらく逐一送られてくる情報に目を通している。

「あ、そろそろ良さそうだよ」

「ああ、助かった」

「んじゃ、頑張って逃げ切ってね~」

 いつもの様な、いつもの笑みを浮かべ手を振ってくる。ったく、相変わらず、読めない人だな。

 俺は教室から出ようとドアに手をかけて、ふと、手を止める。

「ああ、そうだ。川崎に余計な事を吹き込んだのは、海老名さんっすよね」

 そう、不思議だった。どうにもあんな行動を起こすのは川崎らしくなかった。らしくない、と言うほど川崎の事を知っているわけじゃないが、それでも俺が見て知っている川崎がする行動ではなかった。

「うん、そうだね。結衣も友達だけど、サキサキも友達だから」

 いや、友達だったら吹き込むんじゃねぇよ。

「意味が分からないって顔だね。うん、まぁ、私が言える事じゃないからこれ以上は言わないでおこうかな」

 それに、と少し間を置いて海老名さんは口にする。

「私には資格がないからね」

 そう、少し悲しそうないつもの覆面の様な笑顔を向ける。

 そんな海老名さんにかける声を、俺は持ち合わせていなかった。いや、もうすでに捨てさせられた、使いきらされた、金庫にしまわれたんだろう。

「んじゃ、ありがとうな」

 そう、言い残して教室をあとにした。

 

 

 

 17:31 比企谷八幡:逃走中

 

 参加者:九名

 城廻めぐり:現在不明

 川崎沙希:陥落

 平塚静:戸部追跡中

 雪ノ下陽乃:戸部追跡中&平塚静妨害中

 海老名姫菜:離脱

 

 残り、29分

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。