全く依頼もなく金が底をつき始めた万事屋。
「おい神楽、これはなんだ?」
今日の食事当番は神楽。毎回のごとくたまごかけごはんを出してくるのでそれには慣れてはいたのだが…この日出てきたのは生卵だけだった。
「何ってたまごアル」
「そんなこと分かってんのよ、何でたまごオンリーなんだっつー話なんだが」
「だって米もう無かったし、ガスも止められてるからたまご焼きを作れないアルよ」
「ガスも止まってんのか……だからって食えるかァァ!俺は無人島生活の濱口優じゃねェんだよ!」
銀子はキレて立ち上がったが、それを見る神楽の目が冷たかった。
「な、何だよ…何か言いたそうだなお前」
「金がないならお前が稼いでこいよ」
訛り無しの標準語で神楽はそう言った。
「キャラ忘れてんぞ!アルつけろアルを!」
「おはようございまーす」
そこへ新八がやって来た。
「何ですか?朝ごはんたまごだけなんですか?」
「お前は良いよな新八、姉がキャバクラで稼いだ金で飯が食えてよォ。ヒモじゃねェかアレキサンダーだな」
「ヒモって僕ら姉弟なんですから良いでしょうがァァ!」
「新八、それよりあの件はどうなったアルか?」
「あ、あの件?」
銀子は何も知らされていないだけにそこが引っかかった。
「あぁアレなら姉上に聞いて上手くいったよ」
「ちょっと待てお前ら、俺に内緒で何の話だ?」
「銀ちゃんに身体で稼いでもらう計画アル」
「なるほど俺が身体でね…ってえっ⁉︎」
絵に描いたようなノリツッコミの銀子。
「神楽ちゃんが先週銀子さんをキャバクラで働かせて万事屋を潤わせようって言って、姉上に相談したんですよ。そしたら何とかなりましたよ!」
「何とかなりましたよじゃなくて、何で勝手に何とかしてんの?俺にキャバ嬢やれってのか⁉︎」
「そうアルよ」
生卵を丸呑みしながら神楽は言った。
「後すまいるだと知り合いばかりで銀子さんが恥ずかしがって出来ないんじゃないかってことで全く知らない店をすまいるの常連さんに聞いてみてくれていたみたいですよ」
「むしろ逆だよねェ!小遣い稼ぎに数日働くぐらいなんだから知り合いがいる方が良いだろ!いきなり知らねェキャバ嬢と一緒に働けとか言われても困るわ!……つーか俺働くことになってる⁉︎」
銀子は必死にツッコむがその声は新八や神楽には届かない。
「銀子さんの心配も分かりますよ?でも安心してください」
「「オープニングスタッフですよ」」
ユニゾンしてドヤ顔で言った新八と神楽。打ち合わせしていたかのようにぴったりだった。
「そういう問題じゃねェだろォ!」
「面接は今日の夕方からですよ」
「早っ!いきなりだなオイ!」
やはり銀子のツッコミは新八と神楽に届かず、促されるままキャバクラの面接にまでやって来てしまった。
オープニングスタッフだけあって集団面接で20人ほどのキャバ嬢になりたい女や元キャバ嬢が集まった。
「そうだこんなに頭数がいりゃ落ちるだろう。キャバ嬢になりたい女を答え方なんて全く分かんねェしな」
元々行きたくないのもあり諦めムードの銀子である。
「まずこの店を選んだ理由は」
面接で有りがちなこの質問。だが銀子は無理矢理来させられた為、そんな理由がある筈もない。適当に答えようと決めた。
「そうですねェ…自分の可愛さに気付いたからかな?」
戸松遥全開とはいえあまりにもイタいセリフは確実に落選をしたと思ったら、
「続いてあなたの特技は」
一般企業みたいな質問を繰り返す面接官。
「特技ですかァ?ジャンプ漫画のセリフなら1000ラリーはこなせることかなァ?」
またもバカ丸出しの回答をした銀子。全て落ちる為である。
「続いては男を落とすテクニックを教えてもらおう」
それを面接で知る意味が分からないと銀子は心の中でツッコミながら自分の番が回ってきて答えた。
「あたしの顔とスタイルと声?その三拍子あればテクニックなんか無くても余裕って感じ?」
イタさとバカさを兼ね備えながらも10代後半のギャルをイメージした銀子。
「おぅやっとるみたいじゃのう。良え子…すなわち金のたまごはおったんか?」
面接会場に髪の毛を七三分けにして枝を咥えた男が現れた。
「オ、オーナー!いらっしゃっていたのですか⁉︎」
数人の面接官が急いで立ち上がって頭を下げる。それに釣られてキャバ嬢候補たちも頭を下げる。
「あれ?この男……」
銀子はそのオーナーに見覚えがあった。
「当然や、やっとわしがオープンさせたキャバクラやで?そのオープニングスタッフ選考にオーナーがでぇーへん訳あらへんやろ?」
「コイツ…溝鼠組の黒駒勝男じゃねェかっ!次郎長いなくなって組任されるようになったからって何のビジネスに手出してんだコイツ!」
「お前らの中で何人かもう絞り上げてんのか?」
当然黒駒勝男の方は銀時は知っていても銀子は知らないのでノーリアクションである。
「完全にここのキャバクラブラックじゃねェかよ、だってオーナーが現組長だもの!」
銀子はさらにここへやって来たことを後悔していた。
第十訓完。
またお会いしましょう