やはり俺のハンター生活は間違っている   作:眠魚

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普通のモンハンの話(大嘘)


第1話 プロローグ

ある特殊な世界があった。

 

人の手が入っていない土地があるほど、広大な面積を誇る大自然をもつその地には森の広がる丘、海に面した密林、昼夜で環境が激変する砂漠、生物が住みつけないような凍土や火山などもあり、そのような地を跋扈する多種多様の生物たちがそれぞれの生体系をそこで確立していった。

 

…そしてこの世界にはさらに特殊な生態や特徴を持つモンスターが存在する。

 

一般的なものとはくらべものにならない屈強な体躯をもつ獣。電気を纏う牙竜。巨大な口から火球を繰り出す飛竜。その竜の亡骸を住みかとする蟹。人語を理解する猫。

 

果ては天候をも支配する存在がこの世界では当たり前のように生息していた。

 

そんな過酷な環境にも人間は存在していた。身体的に弱い存在だった人間は出せる知恵を互いに出し合い協力して生き延び続けた。

 

その過程で人類の中でもとりわけ優秀な部類の人物から対モンスターのエキスパートでありながら、生態系のバランスを保つ役割を持つ職業、通称「モンスターハンター」が生まれることになったのである。

 

ハンターによって自然とともに人類が繁栄していった時代。

 

後世において「荒々しくも眩しかった数世紀」と語られることになる時代。

 

 

そんな時代にある一人の男が生まれた。人一倍ハンターの職業にあこがれたため、幼少期から()()()()()()()()()()()()血反吐を吐くような鍛錬を繰り返し、ハンターになるために必要な知識をただひたすらに脳に叩きこんだ男。

 

これはそんな男の話である。

 

 

 

 

 

人並みの生活をしていたと思う。朝起きてごはんを食べて、顔を洗って、服を着替えて、父さんと一緒に畑に出る。日が暮れたら家に戻って、用意されていた母さんの暖かいごはんを家族四人で囲って食べる。

 

今までもそうだったし、これからもきっとこの生活が続くのだろうと漠然と思っていた。優しい母に厳格ながらも尊敬できる父、まだ幼いながらもこんな平凡な自分を慕ってくれる妹。

 

小さいながらもその当たり前の幸せがいつまでも続いてくれると思いこんでいた。

 

村の近くにある飛龍が住み着くまでは…。

 

父さんは、すぐにこの村を襲うであろう飛龍を追い払うための男手として村に召集され他の男の人達と一緒に出発した後、帰ってくることはなかった。

 

母さんは、ついに村を襲ってきた飛龍から自分たちを守るために囮となって注意を引いてくれた。逃げるとき背後から聞こえた咀嚼音が妙に耳に残った。

 

母さんの犠牲も虚しく小さな手足ではそう遠くには逃げられず、すぐに追いつかれてしまった。その飛龍はとても大きく、自分の貧弱な腕では傷もつけられそうにない。

 

腕の中で泣きじゃくっている妹をしっかりと抱きながら、せめて妹だけは、と守るように怪物から背を向ける。

 

人並みの生活をしていただけなのに、どうしてこんなことに…。

 

自分も泣きたいのも我慢しながら妹のために精一杯の我慢をする。

 

ああ、あの化け物が近づく音がする。

 

背中を見せて諦めたと思ったのか、その飛龍はゆっくりと恐怖心を増長させるかのように歩いてきた。

 

誰でもいいから、僕たちを助けて下さい!

 

何度そう心の中で繰り返したことだろうか、しかしそう思うのとは逆に来るはずがないとも思っていた。

 

村の男は病気のものを除いて皆行方不明ということになっている。村の外からの救援もこんな雪山に囲まれた村では一般人は近寄ろうとはしないだろう。

 

そうこうしているとついには鼻息が感じられるほどにまで近寄られたらしい。濃い死の気配に怯えながらギュッと目をつぶる。何かの風切音がした。

 

ドスッ!

 

 

最初は牙か爪が自分の肉を抉った音だと思った。だが、おかしなことに一向に痛みがやってこない。

 

あまりの恐怖に痛覚がどうにかしてしまったのかと思ったが、その後響き渡った飛龍の苦悶の声からどうやら飛龍にとっても想定外のことが起こったらしい。

 

「…あぶねぇ。どうやら間に合ったようだな」

 

「おい!いきなり武器を投げる奴がいるか!子供にあたったらどうするんだ!」

 

「そいつの行動にいつも目くじら立ててたらこの後苦労するわよ!今はこの子たちの保護が先!」

 

 

目を疑った。あの恐怖の塊のような飛龍の頭に人の身の丈ほどはある骨を削ったかのような剣が突き刺さっていたのだ。

 

驚きが先に来たが、やっと自分は理解した。…来るはずがないと思っていた助けが来たのだと。

 

「よく頑張ったな坊主。後は俺たちに任せろ」

 

重厚な装備に身を包み、巨大な槍を軽々と持ち上げる男が自分を抱きかかえる。

 

度重なるショックによりとっくに限界を迎えていた自分は、その言葉に安心して意識が薄れていった。

 

 

「…ジャック!悪いが一人でそいつの相手を頼む!」

 

「…早く来ねぇと一人で倒しちまうぜ」

 

 

いつの間にか飛龍から剣を抜き去って対峙している赤い装備の眼帯男。声をかけてきた大柄な男性。妹を抱えている弓を背負った女性。

 

薄れゆく意識の中で、短い期間で両親を亡くした悲しみと妹は無事だったとの安心感が溢れてきたが、それ以上に自分たちを助けてくれた三人組の人物に対する憧れが生まれてくるのを感じた。

 

(…ありがとう…ございます)

 

 

 

 

 

「……だ………」

 

「……だん………さん」

 

 

「旦那さん!起きてくださいにゃ!まもなく目的地ですにゃ!」

 

 

ふと、人語を話すほどの知能を持つ猫、アイルーの声で目を覚まし、モンスターを狩猟しに行く荷車の中にいるということを思い出した。

 

…懐かしい夢を見ていたものだ。

 

あの後、無事飛龍はその三人組によって討伐され、大きな爪痕を残したものの一応の平和が訪れた。

 

そして、幼くして両親を喪った悲しみはまだあったものの当時8歳であった自分は、ただ憧れるままにどうすれば彼らのようになれるのか、ただひたすらに調べ始めた。

 

彼らの職業は「ハンター」であるとすぐにわかった。少ししてどうすればハンターになれるのかもわかった。

 

この世界にはハンターズギルドという大規模な組織があり、一定の能力を認められ、そこに所属してはじめてハンターになれるようだ。

 

それを知った自分の行動は決まっていた。妹が止めるのも聞かずにハンターになるための修業を始め、寝食や人との交流を惜しんで勉強も始めた。

 

今思えば、妹にも悪いことをしたと思う。両親の死に加えあの事件の後に兄が狂ったように肉体を鍛え始めたのだ。あまりのオーバーワークに全身がボロボロになっても腕立てを続ける様はまさしく変態だろう。

 

事件のせいで気が狂ったと思われても仕方ないような気がしてきた。いままで支えてきてくれたわが妹に感謝である。

 

何はともあれその甲斐あって最小年齢でハンターになるための試験を突破しそれからもそこそこの実績を重ねていった。

 

自分の憧れを体現したといってもいいだろう。…ただ一つのことを除いて。

 

 

「着きましたぜ、旦那!」

 

 

目的地に着いた自分は荷台から降り準備を始める。即席のテントをたて今日使う道具の点検を終えた後、目的のモンスターを見つけるためキャンプから出た。

 

本来三人ほどで周囲を警戒するところを、自分は一人で行える。今日も安全にこの砂漠を渡っていく。

 

暑さ軽減のため用意しておいた鉱石と虫でなぜか作れるドリンクを飲む。

 

本来三人ほどで取り掛かる雑魚の処理を、自分は一人で行う。分類では大剣に入るそれを片手剣のように振り回す。

 

目的のモンスターを発見。巨大な飛龍の亡骸を背負った蟹「ダイミョウザザミ」を視野に入れる。

 

本来は4人ほどのパーティを組んで取り掛かるそれを、…一人でやるしかない。近づいて攻撃準備を始める。

 

突然現れた生き物が自分にとっての脅威と判断したのであろうか、ダイミョウザザミは甲殻類とは思えない俊敏な動きで目の前の生き物を排除しようと鋭利な爪をもって飛びかかった。

 

確かに素早いが、やはり技術と力が足りないな…。襲い掛かる爪を空いている()()()()()()隙だらけなところを右手に持つ大剣を振り下ろした。

 

ありあまる膂力により大質量の大剣が振り降ろされたため、盾蟹という別名も虚しく、ダイミョウザザミは青い体液をまき散らしながらこと切れていく。

 

この瞬間なぜか頭の中にクエスト終了のファンファーレが鳴り響いた気がした。

 

 

自分はハンターとしての力はなんでも手に入れてきた。どんな武器でも使えるようにしてきた。どんなモンスターと遭遇しても策を練れる知識を得た。そしてそれらを操る屈強な身体を造り上げた。

 

そう、ただ一つの問題点はその力にこそあった。

 

 

 

 

自分は強くなり過ぎた。そして、ぼっちになっていた。

 

 

 

 




不定期更新になります。

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