やはり俺のハンター生活は間違っている   作:眠魚

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第2話 ドンドルマ

ドンドルマ。

 

先住民の手によって山間部に切り開かれた絶えることのない風が吹く街であり、豊富な水源と、ある竜人族の指導により今はこの大陸を代表する大都市となっている。

 

この街には風を動力とした風車の力によって他の街では見ない施設が多く存在し、工房や鍛冶技術も大きな発展を遂げていた。そのためか、この街に存在するハンターズギルドも自然と大きくなり、街はハンターによって活気づいていた。

 

時刻は夕方に差し掛かり、このギルドの酒場もいつもの賑わいを見せ始めてきた。仕事終わりのハンターたちが酒を片手に今日あったことなどを話しているために大変騒がしい。

 

 

「おい、知ってるか?またあいつが一人で大型モンスターをのしちまったみたいだぜ」

 

「ああ、しかもその場にいたアイルーの話だとまた一撃で倒しちまったみたいだな」

 

「俺は過去にあいつが狩猟しているのを見たことがあるが、ありゃ、人間業じゃねえな。心底自分がモンスターじゃなくて良かったと思ったもんだ」

 

 

流石ハンターだというべき体躯を持つ3人の男性の話題はどうやら一人の人物のことについてのことらしい。

 

また他方ではこれまた真逆のお姉さん3人組が同じく食事をしながら話していた。

 

 

「あの若さであの実力、しかも独身!こんな優良物件なかなかないわよねぇ」

 

「…まーた、あんたはそういう話題ばっかり。少しは男以外のことでも話したら?」

 

「マリーの男好きはアイデンティティだからどうしようもないと思うな」

 

 

こちらもたまたま同一人物の話をしているようだ。ピンキリとはいえ、身体能力の面でエリートと言えるハンターたちの間で話題になっているのだから、きっとどのパーティにも引っ張りダコの人気ハンターに違いない。

 

…きっと、おそらく、メイビー。

 

滔々と同じような内容の会話を続ける二つのグループ。やれ、ここらのモンスターは大体狩っただの、やれ、ガッツポーズをしただけでランポスが気絶しただの。

 

およそ人とは思えない所業をあらかた話し終えた後、ほぼ同時に示し合わせたでもなく二人のハンターはある結論を導く。

 

「「…でもなぁ(ねぇ)」」

 

「きっと、一緒に組んでも足手まといだとか言われるに決まってるんだろう」

「組むとなると気後れしちゃいそうだから、私はパスね」

 

 

そしてたまたま、…いや必然的に同じ結論に至った。

 

 

 

 

(…なんでそうなるんだよ!)

 

そこには顔つきにはまだ幼さが残るものの、その全身に何らかのモンスターの素材で造られたであろう軽鎧を装備しテーブルに頭をちょっと手加減しながら叩きつけている筋肉質の男がいた。

 

話題の男、クレイ、過去にモンスターに両親を殺められた経緯があるが、ハンターという狭き門を類を見ない努力をもって最年少で登った男であり、独り身である。

 

そんなクレイは今日の依頼の報酬金を受け取るため待機していているところ偶然聞こえてきた噂話に途中までなかなかの高評価だったので顔が赤くなるのを感じながらもにやついていた。(飲み物を持ってきた、ウェイターの女の子に変な目で見られた)

 

もしかしたらそろそろ自分にもパーティのお誘いがあるかもしれない、と浮かれていたが最終的にはこのざまである。

 

 

 

…クレイは人と組んで狩猟に出かけたことは一度もない。

 

当初こそ誘ってくれる人はいたが自分の実力を把握しきれず人に迷惑をかけるくらいならば、と進んでソロで狩猟に出かけていた。

 

それが不幸して、周りのハンターが自分はソロ専門だと勘違いされることになって以来、人に誘われすらしなくなってしまった。

 

クレイには叶えたい夢があり、その一つ、ハンターになることは叶ったも同然であるが、もう一つは叶いそうもなかった。

 

ささやかながらも大きなその夢は、かつて自分たちを助けてくれた3人組のハンターのような仲間を自分も作りたいということであった。

 

そのハンターたちを見たのは少しのことだったが、あの数瞬のやり取りの中に、長年組んできた信頼関係のようなものをクレイは確かに感じ取っていた。

 

あんな信頼関係を持てたなら、と幼いながらもそう思いそれ以来厳しい鍛錬も続けて来たのを今も憶えている。

 

 

しかし、この現状はなんだ。クレイは落ち込みながらもそう思った。ハンターになった15歳から5年。村での成人の年も迎えたというのにいまだに友達はおろか、一緒に狩りに出かけた人すらいない。

 

訓練所の教官ですら、貴様は一人で大丈夫だ!とついてこない始末。

 

少年期に遊びに行こうぜ、とこの地ドンドルマで出会ったA君(名前を思い出せない)に誘われた時や妹の連れてきた友達に一緒にご飯どうですか?と言われた時も一貫して修業があるんで、と返していた自分を殴ってやりたい。

 

修業自体が悪いとは思いたくないが、気づいた時にはもう遅く周囲に友人らしい友人はいなく、残ったのはコミュニティ能力に欠けた筋肉モリモリマッチョマンの変態だけであった。

 

流石にこれは拙いと思い何とかパーティだけは組もうと行動に移そうとしたが対人限定で蚤の心臓を持つ自分にはやはり無理なことだった。

 

そんな状況で今日のあのグループらの会話は久々の希望の星であったというのに、その星もさっき爆発四散した。

 

…クレイは大きなため息を吐き脱力し、なんか気まずいので、報酬金を受け取るとこっそりと酒場から抜け出すことにした。

 

 

「…はぁ。…帰ろう」

 

 

この年齢にしては異常なほどの多くの鍛錬や経験が刻まれたその背中はどこか哀愁が漂っていた。

 

 

 

 

ところ変わってある街外れ。

 

そこには小さいながらもそこそこの外観をもつある一軒家があった。隠すまでもなくクレイの家である。暫くすると酒も入っていないというのにふらついた足取りで家主が帰ってきた。

 

どんなに苦行を重ねても、まだこういう精神的なショックには慣れていないようだ。

 

のそのそと気怠そうな動きで鍵を取り出し、扉を開ける。そして家で待っているであろう唯一の肉親に向かって声をかける。

 

「…ただいま~。今帰ったぞ」

 

ほどなくして奥の方からどたどたと音がする。その音を聞いてクレイも、また家に何事もなく帰ってこれたのだと感じるのだった。

 

 

こちらに駆けてくる足音が一瞬止み、突如として暗がりから物凄い勢いをつけて何かが飛び出してきた。

 

 

「おっかえりーーー!待ちくたびれたyグェぁ!」

 

 

ガィィン!

 

 

人と人とがぶつかったとは思えない音が先に響き、花も恥じらう乙女とは思えない声が少女の口からもれた。何度も繰り返されたというのに学習しないこの少女。

 

クレイの4つ下で、外見はもう寝る準備を始めていたのか、薄い青色のパジャマを着ておりクレイと比べれば小さいが平均より少し上程度のスタイルをしている。

 

クレイ曰く俺の妹にしてはもったいないレベルで顔は良い、とのことで美人というよりも可愛いといった感じのルックスをしている。これには直接は言及しないものの内心鼻が高くなっているクレイである。

 

そして何より目を引くのは肩のあたりで切り揃えられた白銀の髪であろう。クレイが前住んでいた村でも隔世遺伝なのかどうかは分からないがたまに彼女のような髪色を持つ子どもが生まれるのだ。

 

だからといって何か特別な能力を持っているというこてはないのだが、彼女の名前はその髪色にちなんでつけられた。

 

名前はユキ。齢16。クレイの数少ない、というか、プライベートでは唯一まともに会話できる人物。この世で唯一血のつながった家族。ハンターズギルド受付嬢希望。クレイの妹である。

 

 

「相変わらず…良い腹筋…だ…ね…」

 

 

サムズアップをし、いい笑顔をしながらガクッとうなだれるユキ。

 

 

……あの事件から10年以上経ったとはいえよくここまで持ち直してくれたものだ。こんなアホらしいことで感慨にふけるのは変だと感じながらもクレイは思う。

 

当時4歳だったユキは死という概念を理解出来なかったのか突然いなくなった両親を探すようなそぶりをしていて見ていられないこともあった。それから少しすると塞ぎ込んだように部屋にこもることもあった。

 

幼くして両親を喪ったのだ。この反応が普通なのだろう。

 

それがこのざまといっては聴こえが悪いが…まぁ良い方向へと向かってくれたのは確かだろう。いまでは悲しみの感情は鳴りを潜め、笑顔を見ることの方が多くなった。

 

クレイは外では見せないであろう微笑みを顔に浮かべながら、もはや恒例行事となりつつある気絶したユキの運搬を慣れた手つきで始めた。

 

台所から今日帰ってくる自分のために作ってくれたであろう、食事のにおいが鼻孔をくすぐる。…今日も友達はできなかったが…これも一つの幸せの形だろう。

 

食卓につき、ユキの目を覚ましながらそう思った。

 

 

 




ところどころモブの名前を書いていますが、特に登場させる予定はないです。
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