やはり俺のハンター生活は間違っている   作:眠魚

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第3話 雪

「ウーン…悩みがそれだけなのはハンターとしては良いことだと思うんだけどなー」

 

 

シモフリトマトとプリンセスポークを惜しみなく使ったミートソーススパゲッティを口に運びながら妹のユキはそう言った。

 

ハンターという職業は高いリスクはあるものの、働きによっては英雄と称えられるほどの名誉と莫大な報酬金を得ることができるため、憧れの職業ランキングで不動の一位を獲得している。

 

しかし、そんなに良い面ばかりがある訳でもないのが実情で、今でこそギルドのサポートにより減りつつはあるが、毎年の死傷者は後を絶たない。

 

身の丈に合わないクエストをギルドの制止も聞かずに受け五体不満足で帰還したもの。突然、手に負えないモンスターの乱入に会い、全滅するパーティ。大型モンスターに気を取られて小型モンスターの麻痺毒で動きを止められた後、とどめを刺されるハンター。果ては、凍土で泳いでみたいと酔狂なことを言い出しそのまま帰ってこないものまでいた。

 

最後は擁護のしようがないが…。

 

そもそも、英雄級の活躍をするのはほんの一握りの存在でしかなく、普通のハンターが安全をとって一人でやることと言えば運搬クエストや採取クエスト、または小型モンスターの駆除レベルなものなのである。大型モンスターの討伐となるとどんなベテランハンターにも常に死の可能性が潜んでいる。

 

…そういう面でいえば、クレイはもはや英雄の段階へ片足どころか全身を突っ込んでおりそういう悩みが無いだけで幸せな部類といえるだろう。ユキはそこに言及しているのだった。

 

今回の依頼の調子はどうだったの?と聞いてみれば、やはり砂漠は暑かっただの、モンスターが強かっただの、不思議なことが起こっただの、そういうことを言うのかと思いきや今回もまたパーティが組めなかったよ、とだけのたまう残念な兄。

 

ここまでくると、ハンターになった理由は友達を作るためだけなのでは?と邪推するまであるユキであった。

 

「何がいけないんだろう…。実力をつければ勝手にできるもんだと思っていたんだが…。ん…、この料理旨いな」

 

大きな身体のくせにサラダをちびちびと女々しく口に運ぶクレイ。ちなみにこの料理は季節の野菜と新鮮なスネークサーモンをふんだんに使ったカルパッチョ風サラダでユキの自信作である。兄の高評価に自然と顔が綻ぶ。

 

「私が思うに、お兄ちゃんがすぐ人見知りするのがいけないと思うよ。というかそうに決まってるよ」

 

しかも、がたいが良くて威圧感を感じるしね、と付け加えながらはっきりと言い切る。

 

「というか、そこまでパーティが組みたいなら自分から声をかけに行けばいいんじゃん?」

 

「…それができたら苦労はしてない」

 

軽くため息を吐きながら予想通りのことをいう兄に、少々悪いと思いながらも肯定した。

 

「だよね☆」

 

この一言で暗い雰囲気を醸し出していたクレイはさらに落ち込んだように見えた。

 

この兄クレイが女性はおろか男性とすら満足に話せなくて無口になってしまう性格だということは、長年連れ添ってきた仲としては重々承知である。

 

だというのにわざわざ分かり切ったことを聞くのは何故なのか。

 

簡単な話だ。ユキは浮き沈みの激しく思ったことが(家の中限定で)すぐ顔に出るこの兄をからかうのが好きなだけなのだ。

 

「なかなか今のは心を抉ったぞユキ…。…まあ良い。こっちのことは良いとしてお前、勉強の方はどうなんだ?確かあと少しで試験だろう?」

 

そんな友人関係のことは置いといてと自分から振った話をどこかに放り投げ、妹へ別の話を振る。

 

何の勉強かといえば、ハンターズギルドの受付嬢、通称ギルドガールズになるための試験に合格するための勉強である。ユキはこの受付嬢になるための試験勉強を絶賛実行中らしい。

 

ギルドガールズ。それはハンターと並んで人気の職業であり、全女子の憧れでありながら、博物学、地理学、モンスターの生態などの幅広い知識が求められる超がつくほどの難関職となっている。

 

何故そんな職業をユキが目指したのか過去に聞いてみたことがあったのだが、お兄ちゃんがハンターなら私が受付嬢で丁度つり合いが取れる、とのことらしい。…いや、その理屈はおかしい。

 

「順調も順調!この私にかかればこの程度お茶の子さいさい!まっ、お兄ちゃんの妹なのだから当たり前ね」

 

なぜそこに自分が引き合いに出されるのかは謎であるが、最難関職をこの程度と言い切るあたりどうやら心配することはなさそうだ。

 

これまた謎なのだが、わが妹は頭の出来は昔からすごく良いのだ。口喧嘩となれば十中八九ユキに丸め込まれついぞ一度も勝つことはなかった。…今考えるとすごく情けないような気がしてきた。

 

そんなことを考えているとこの妹にしては珍しく、こちらの目を覗き込みながら、頼みごとをしてきた。

 

「ところでものは相談だけどお兄ちゃん。合格したらある場所に旅行したいんだけど、ついてきてくれるかな?多分これから私も忙しくなるだろうし…」

 

我儘といえるレベルではないが久々の妹からの頼みごとに兄として少し嬉しかったのと、5年間ぶっ続けで狩猟狩猟アンド狩猟とあまり兄弟の時間を取れていないかもしれないということもあったのでここらで休暇を取るのもいいだろうと妹の頼みに直ぐ了承の意を述べた。

 

ちなみにユキは旅行好きでよくドンドルマの友人と出かけることがあるらしい。…妹は友人がいていいな、と嫉妬したことがあるのはここだけの話。

 

「やった!頷いたのなら約束は守ってよね!場所はついてからのお楽しみということで!…ニシシ♪」

 

よっぽど嬉しかったのか満面の笑みを浮かべるユキ。ここまで喜ばれると悪い気はしない。暗かった気持ちも何処へやら、まず確実に行われるであろう旅行まで、一回ぐらい依頼も頑張ろうと気合を入れるクレイであった。

 

 

◆◆◆

 

 

 

まだ、月明かりを雪が反射して薄ら明るい夜の道を私は兄に腕を引かれながら逃げていた。

 

暫くするとあの恐ろしい怪物の足音が聞こえてきて途中まで一緒についてきていた兄と同じ髪色を持つ女性——私のお母さんが突然足を止めこちらに言い放った。

 

「クレイ!ユキを連れて早く逃げなさい!」

 

「…でも、それじゃあお母さんがッ!」

 

「私はあんたたちより身体が丈夫だから平気よ!早く行きなさいっ!」

 

最後は怒鳴るようにもう顔も思い出せない私の母親がそう言った。兄は何かを悟ったのか私の手を泣きながら引いて走り始めた。

 

 

場面が変わって、突然目の前にあの化け物が現れた。その時私は突然母親がいなくなった恐怖とずっと走ってきた疲労とでずっと泣いていたのを憶えている。

 

場面は急に動き出し兄が私をしっかりと抱き庇うようにゆっくりと近づいてくる怪物に背を向け、その後遂に怪物が爪を振りかぶり私たちを―――

 

 

 

「………っ!…はぁ……はぁ……。またか…」

 

 

食事の片づけをし、いくらかの会話をした後すぐに眠りについたユキをはもう何度見たのか分からないほど夢見る悪夢によって目を覚ます。

 

クレイはユキが悪夢に悩まされていることを知らない。

 

クレイはユキのことを底抜けに明るい性格だと思いこんでいる。というよりも思いこまされている。

 

実際ユキは明るい性格なのは間違いではないが、何も悩みが無いという訳ではなく彼女の心には過去の出来事によるトラウマが大きく覆いかぶさっていた。

 

普段兄やそれ以外の人にも明るく振る舞って、もうあの事件のことは振り切ったように装ってはいるが、まだ4歳だった頃の出来事を兄のように振り切れるほどユキは強くなれなかった。

 

(今日の感じから結構平気になったと思っていたんだけどなぁ…。まだ駄目か…)

 

ユキはベットから這い出ながら、心の中で思った。試験勉強も順調。さらに一週間ぶりに帰ってきた兄と一緒に旅行に出かける約束も取り付けた。そんな多幸感に包まれながら眠りに入ったのだが、結果はこの通りいつもとあまり変わらなかった。

 

(いつかは独り立ちしなくちゃいけない…。それは分かっているけど、せめて今日ぐらいは…)

 

明日にはまた家を空けるであろう唯一の肉親を思い浮かべながら、部屋のドアを開け、すぐ隣に位置している部屋へと足を急ぐユキ。…少しその道が長く感じもした。

 

最後は飛び込むように部屋に入ると、気配に気づいたのかクレイは今まで寝ていたのだろうが身体を起こしこちらに声を掛ける。

 

「…ユキか、どうした?…眠れなかったのか?」

 

突然の来訪にも関わらず優しくかけられた声につい本当のことを吐き出したくなってしまう。がその気持ちを抑え込み、努めて明るく振る舞った。

 

「…いや~、せっかく我が兄も家にいることだし、久々に一緒に寝ようかなって思って」

 

余計な心配はかける必要はない。私は兄にとって少々おちゃらけた妹という立ち位置でいいのだと自分に言い聞かせながら発言する。

 

恐らく、ここで心配をかけたのならうぬぼれかもしれないが必ず兄は実現させた夢であるハンター稼業に支障をきたす。なら、自分にウソをついてでも道化を演じる価値はあるだろうとの判断だ。

 

だが、兄の反応はユキが想定していたものとは大分違った。

 

「…そうか。…無理はするなよ」

 

横になりながらそう言ったらしくない兄の言葉に内心ユキの心情は穏やかではなかった。

 

…気づかれた⁉あの私の中で鈍い男ランキング第一位のお兄ちゃんに⁉

 

大変失礼なことを思いながらもまた夢の世界へと旅立とうとしている自分の兄を見つめる。

 

なんか不服に思いつつもいそいそと一緒の布団の中に潜り込んでいくユキ。

 

動揺させといてすぐに寝に入る兄に対する腹いせに明らかに必要以上に苛め抜かれた腕を枕にして、ユキも横になる。

 

「…ねぇ、起きてる?」

 

「…ん?」

 

「あの……いや、おやすみなさい」

 

「…ああ、おやすみ」

 

気づいているのか?と聞こうとしたがやっぱり止めておくことにした。

 

ここでまた話をぶり返すのも無粋というものだろう。不思議とさっきまでのトラウマによる恐怖や不安も兄の顔を見た時から霧散しているし…。

 

(流石お兄ちゃんだよ…)

 

規則正しい呼吸音を子守歌にユキは久々となる深い眠りへと落ちていった。

 

 

 




もうシスコンでいいや(諦め)

それはそうと語彙力の無さが致命的になってきました。助けて下さい!なんでもしまs(略
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