空が白み始め、小鳥のさえずりが聞こえ始める頃。
昔からの癖でいつもの時間にクレイは目を覚ました。家の天井が見える、そんな当たり前のことを思い浮かべ、そういえば家に帰ってきたのだ思い出す。
そんなどうでもいいことを考えながらさあ起きようと身体を起こそうとしたところ腰回りに何かがくっついているのに気づいた。なんてことはない。白色をしているのをみるにわが妹であろう。
昨晩、かなり熟睡していたのだが何かが部屋に入ってくる気配がしたのでぼんやりしながら目を覚まし、ユキが入ってきたのだということに気づいた。
何かあったらすぐに起きるのはソロ狩りの最中には必須の技能とはいえ不便な体になったものだと何となしに思ったのを覚えている。
そのときに何かユキが言っていたような気がするが、まだ半覚醒状態の自分では何を言っていたのかはよく覚えていない。
…ただ、なんというか部屋に入ってきたときの顔が過去に塞ぎ込んで部屋にこもっていた頃の顔に重なってみえ、心配になってなにか声をかけたような気がする。
あれは夢だったのやらどうなのやらと結論のつかない思考を頭の中でループさせるクレイ。
しかしずっと考えていても仕方ないと起きたばかりでまとまらない思考をどっかに押しのけとりあえずベットから出るか、と腰をがっちりとホールドしている腕を外そうとする。
フンッ………。割と強めの力で試みる。
グイッ、ガシィ。外れないな……。
思いのほかしっかりとつかまれている腕に四苦八苦していると白い頭から声がもれてきた。
「……それはやばいって………お兄ちゃん…」
何か悩まし気な声が聞こえてきたのでかるくデコをつく。
「うーん、もう食べられないよぉ…」
少しイラッとしながら、ユキが寝言のテンプレのようなものを言い出したのでいい加減に起こそうと行動を起こした。
「おい……お前起きてるだろ?」
「あ、ばれちゃった?」
さっきまで、眠っていた様子を見せていたのがウソのようにスッとベットから降り、特に悪びれた様子を見せずに朝の挨拶をしてくるユキ。…おはようございます。
さっきの件もそうだがどこで教育を間違えたのか、気づいたらこちらをおちょくるような発言を多くするようになっていたユキにクレイはこれ見よがしに大きなため息を吐く。
「あー、朝っぱらからため息とは意識低いよ!友達作るならまずそこから変えないと」
しかも何故か朝からハイテンションな妹に痛いところを突かれる始末。…いや、細かく言うと欲しいのは友達じゃなくて仲間だから関係ないけどね。…言ってて何か悲しくなってきた。
そんな自己完結の思考で少し沈んでいるとユキが珍しく神妙な表情で聞いてきた。
「…ところで…その、昨日のはどういう意味だったのかな?」
?何を言っているのか聞くとどうやら昨晩、ユキに発した言葉のことを聞いているらしい。が、そんなものこっちが聞きたいともう忘れてしまった自分の発言を逆にユキに問いただす。
「あー…、覚えてないんならいいんだよ、うん」
しかし、なんとも要領を得ない歯切れの悪い回答しか返ってこなかった。何かもやもやしたものを感じたが、家にいる時の日課を果たすために身体を起こす。
「んじゃあ気分を切り替えて、早速朝御飯の準備でもしようかな!お兄ちゃんはできあがるまでいつものとこでまっててね」
「言われなくてもそうするさ」
我が家の家事担当である妹に朝食の準備を任せクレイはいつものところに向かう。
いつものところ。それはクレイのもう一つの地下にある私室。いままで、集めてきた武器を保管する場所。いわゆる武器庫である。
クレイの家は地下付きの二階建てで、二階には二人の寝室と物置。一階にはリビングと客室。そしてもともと特に何もない空間だった地下にクレイが改修工事を行い、今まで集めた武器を保管する倉庫が存在する。
昨晩も食事を摂った後、ダイミョウザザミの狩猟で使った武器を置きに一度寄っていた。今日は朝のうちにその武器の手入れをしようということである。
割と高価なものを多く置いてあるということで取り付けた重厚な鍵付きの扉をいつも持ち歩いてる鍵で開け、中に入る。
当たり前だが、地下に位置しているため、光が全くと言っていいほど入っておらず、少し先も見えないほどの暗闇が武器庫には広がっていた。
慣れた手つきであらかじめ備えつけられた灯りをつけるクレイ。ぼんやりとした赤橙色の灯りが広がるとそこには、倉庫というよりも初心者ハンター用の資料室といった様相のいくつかの武器が鎮座していた。
普通、ハンターというものは器用貧乏に陥らないためと懐に優しいという理由で1つの武器に一意専心して極めていくというスタイルを取る。
しかし、クレイは生い立ちからして、普通のハンターとは少々違うため、ほとんどすべての武器を扱えるように訓練していた。
が、クレイもハンターになったばかりの頃はお金が足りなくなるだろうという理由で仕方なしに一番手になじむ大剣を使って依頼をこなすことにしていた。けれども、すぐにその心配は杞憂と終わることとなる。
ほどなくして実績を積み上げたクレイの下に大量のゼニ―(この世界の通貨)が集まることとなったからだ。
そもそもハンターの給料というのは歩合制であり、下位では町民や商人からの依頼で少しの報酬金しか得られないが、上位ともなると貴族、王族からの依頼も増え場合によっては、一回の依頼で一生遊べるだけの報酬金を得られることもあるのだ。
無論、クレイは5年の歳月を経て、上位の中でも指折りの実力者として数えられている。まあ、コミュ力が災いし、機会を得れず伝説級のモンスターを狩る許可は得られていない状態ではあるのだが…。
兎に角、若くして莫大な資金を得たクレイは、金が無くて断念した大剣以外の武器種も集めることにしたのである。
そんな経緯を経てクレイが現在所持している武器は、大剣三本。太刀、片手剣、槌、が二本。双剣が一組、槍が一本。と言った感じになっている。
もし、そのすべてを売り払えば、きっと一生遊んで暮らせるであろうレベルのものがそこには並んでいた。
————ちなみにといってはなんだが一部を除いた剣士装備しかないのには理由がある。
過去にある特徴的な教官の下でガンナー系統の装備を試した時に気づいたのだが、相手がランポスとはいえ技術より力が勝っていたクレイにとってボウガンや弓で弾や矢を放つより直接近づいて拳で殴った方が圧倒的に速かったのだ。
銃槍がないのも同じ理由。狩猟笛?………クレイには壊滅的に音楽センスがない。…あとは分かるね?――――
そんな訳で、一通りおいてある武器を見まわしたあと、作業台に置いといた特にお気に入りの一本を手に取る。
「リュウノアギト」
竜の顎を刀身とし、峰に魚竜の牙を差し込んだ無骨な造りをした大剣。クレイの製作可能な大剣の中で最も優れている訳では無いが、愛用している一振り。
この武器は特に切れ味も特殊な効果もあるという訳でもないが、渋い雰囲気を醸し出しているため古参ハンターのなかでも愛用者は少なくない。
その中でもクレイはおぼろげな記憶の中にある隻眼の大剣使いが使用していた武器ということもあって、その思いも一層引き立てられることとなった。
「…結構思いっきり叩き切ったと思ったが…丈夫さだけなら一級品だな」
固いと有名なダイミョウザザミを弱点を狙ったとはいえ力任せに斬りつけたのだが、目立った損傷が無かったので満足気に頷き、おもむろに道具一式を取り出し作業を始める。
(損傷も無いようだし、
そう考えると何度も繰り返しただろう手際の良さで道具を用意して、早速刀身を専用の紙で一通り埃を拭い去った後、砥石の微細固をまとめたものをポンポンと全体的に軽く当てていく。
(しかし…ハンターになって5年。夢を叶えて今まで浮かれていたような気がするけど、これでいいのだろうか)
慣れた作業によって自然とできた思考の隙間でクレイは現在の状況を振り返る。
(彼らのようなハンターになるって考えたのは良いけれど、よくよく思うとその先は考えていなかった…)
もう一度紙で刀身を拭い去り、今度は油を染み込ませた紙で拭いていく。
(とりあえず理想のハンターらしくあろうと思っても、今回の依頼も全くそれっぽくないしな)
よしっ終わり、と手入れの終わった大剣を見ながら、今回の依頼内容を思い出す。
「わたくし、蟹料理に凝ってるざます。砂漠に住むという巨大な蟹ならきっと味も最高に美味ざます!すぐにとってくるでざます!」
…と自称食道楽を極めた貴婦人はおっしゃっていた。
ある出来事のせいでさっさと出かけたかったクレイは討伐対象がダイミョウザザミなのと報酬金がよいのもあって特に詳しく見ないで出発した。内容を暇な道中で見たとき、なんか呆れてしまったのを覚えている。
よくこんな内容でギルドの審査を潜り抜けたものだと逆に感心するまであった。
だからといって流石に依頼を放り投げることは一応のプロとしてできないので、達成はしたのだが、不満は依然くすぶることとなる。
(今日はちゃんと依頼内容見て決めることにしよう)
ちょうど手入れが終わったあたりで、上から声が掛かる。朝食が完成したようだ。片付けをささっと終えて、手入れが終わったばかりの武器を持ち階段を上がっていく。
◆◆◆
トーストとベーコンエッグという簡単な朝食を終え、試験のための現役ハンターによる講義のようなものを少しユキに対して行ったのち、日がすっかり昇ったあたりで約束のことに関してユキに釘を刺されながらクレイは家を出た。
少々足が進まない理由があるのかそこから二十分ほどちんたら歩くとハンターズギルドをはじめとしてアリーナやドンドルマのギルドマスターが居を構える大老殿のある大通りへと出る。
あたりには、ギルドに向かうハンターやそれをターゲットとした露店が多く立ち並んでおり大変活気に溢れている。
そんな中活気のある人々とは真逆にクレイは出来るだけ目立たないようにこっそり移動していた。
もちろん、これには理由がある。何を隠そう実は蟹の依頼の前にクレイは少々やらかしていることがあるのだ。
それはいつものようにギルドへ向かう道の途中のことだった。
なんとなしに見た少し外れの道で何か声を張り上げている一人の少女が数人の男に囲まれてたのを見つけたクレイ。
それを見てハンターとしての正義感と対人限定でなけなしの勇気を珍しく発揮して少女を助け出し、慌てて追ってきた男たちを素手で返り打ちにしたのだった。
そこまでならまるで小説の主人公のような活躍ぶりであるが、生まれた星の下が悪かったのか、そうはいかないのがこの男である。
実際は暴漢に襲われていた少女などは存在せず、本当のところ、少女は家出した、いいとこのお嬢さんで数人の男は単にその女性を連れ戻しに来た護衛だったそうだ。
それを聞いた一見お嬢さんを誘拐しようとし助けに入った護衛をぼこぼこにしたマッチョな不審者は盛大な
友人もいなければ間も悪い残念な男がそこにはいた。
「そういえば先週あたりあの男、今度は地面に頭を叩きつけた振動で屈強な男十数人を倒しちまったみたいだぜ」
なんとか、ギルド内の受付所兼酒場についたクレイの耳にまず飛び込んだのは、もはや原型を留めていない噂話だった。…へ―ソンナスゴイヒトイルンデスネー。
聞かなかったことにしてそそくさとカウンターまで、歩を進める。こんな肩身の狭い気持ちは依頼を受けることで忘れることにしよう。
自分にそう言い聞かせていまだ苦手意識の残る自称敏腕受付嬢にクエストを見せてくれるように頼む。
「あっ、クレイさんですね。お待ちしておりました!」
相も変わらず元気良さそうにドンドルマのギルドガール、ドミノさんは声を上げる。
しかし何故だろう。いつもならすぐにクエストボードを見せてくるギルドガールの言葉に凄い違和感とともに嫌な予感を感じた。
そして、少しの間の後、彼女の口が開かれた。
「実は今ちょうどクレイさん宛に護衛の依頼が入ってましてねぇー。いやぁー、クレイさんの実力ならすぐ指名で呼ばれるだろうと思っていましたが、まさか初めての指名が王族相手とは…まあ私はこうなると最初から予想してましたけどね。あっ、そういえば私たちを顔を合わせたらあなたはこの依頼を必ず受けるはずだ、とその遣いの人はおっしゃっていたのですがどういう意味なんですかね。クゥゥーなんかインボーのにおいをプンプン感じますよ!付け加えておきますけど、報酬金の方は期待しても良いとのことです。しかし、どこでそんなつながりを作っていたのやら。…はっ!実はその無口な姿は仮の姿本当の正体は―――
実際有能な人なのだろう。…相手がしゃべらないのをいいことにマシンガントークを繰り出さなければの話だが。
彼女曰く勤務中はずっとカウンターで座っていなくてはならず、暇つぶしの会話相手に飢えているようだ。
…働いているのだから暇つぶしも何もない気がするとは言ってはいけないのであろうが。
しかし、王族か…直接のつながりが無いように思えるがつい最近のことで心当たりがあるような気がする。
…いや、確証はないけどな。…だってもし、もし仮にそうだとしたら自分は不敬罪ということに…いや…でも確かによくよく思い出してみると結構高級そうな服着てたし…。
一抹の不安を抱きながらもどうやら自分が来るまで待機しているらしい使者のところまで案内してもらった。
…………数分後。
案内された部屋で大勢の黒服や使用人に囲まれてクレイは大量の冷や汗をかいていた。その中央に位置している人物からまだ若さの残る声が響く。
「やっときたか…じい、こやつがあの時の護衛を悉く叩きのめしたハンターじゃな?」
…そこには尊大そうな態度で真紅のドレスを身に纏った金髪の少女がいらっしゃった。
悪い予感が当たり家を出る前に決意したこともできなさそうだと感じながらもクレイはこう思った。
俺、護衛ぼこぼこ、彼女、恐らく王族、現在、ここに呼び出し。
それが導く答えは……もしかしなくても、ハンター生命の危機?
ここでの下位上位G級の扱いはゲームと違う感じになっています。
下位 ドス系クック~レイアなど 上位 歴代看板モンスより上 G級 古龍 古龍級生物
下位から上位は昇格試験がありますが、G級クエストは上位のハンターのうちからその都度その都度に適したハンターをギルドマスターが選出すると言った感じ。
他、通貨の扱いも20000zで一生遊べると書いてあるのに、少ないながらと1500zを渡してくる村長もいるので(円にして普通のサラリーマンの生涯収入2億に対し1500万円近く)そこらへんは大雑把です。
今更ですが評価ありがてぇありがてぇ