森丘、入口付近―――
見渡す限り陽光と緑が広がる草原を所々にいる草を食む比較的穏やかなモンスター、アプノトスに紛れて一組の身長差のある凸凹コンビが横切る。
他でもないクレイと問題児王女その人である。
結局流石にまずいと思ったクレイは使用人を召還したり、いかに狩場が危険かレクチャーしたがお姫さんには全く持って効果が見込めなかった。
前者二人は当たり前のように姫さんに丸め込まれ、レクチャーの方は家の兵士長に剣の扱いは学んだから大丈夫だと自信満々に豪語するので何も言えなくなり、結果として現在の状況になったという訳である。
意外にもフルアーマーだというのに軽い足取りで若干小さめのレイピアを振り上げながら意気揚々と前を歩くお姫様。少し下がってどうしたもんかと悩みの種の張本人を眺めながらため息をはくクレイ。
(不幸中の幸いというか森丘ならよっぽどのことが無い限り大した危険はないはずだから大丈夫なはずだ。……たぶん)
もし、怪我でもされたら最悪首が飛ぶな…。などと自然と暗い思考になり掛けているといつの間にお姫さんがこちらを向いていた。
「むむむ…わらわの武器に劣るとはいえ、そなたの剣もなかなか良いデザインじゃのう。いったいどこでその武器を作れるのじゃ?」
そういって自分の持っている武器、刀身に太陽のマークがあしらわれた片手剣を小型レイピアで指し示すお姫さん。意外にもこのお姫さんの興味は武具の類にも向かうらしい。
武具の類に関してはある程度の自信があるため、今までの重い口が嘘のようにべらべらと説明を始めるクレイ。
「…これは非売品の装備なんです。クロオビブレードというのですが―――
そして一応ではあるが相手は王族なので遜った態度でつらつらと以下のことを述べていった。
「クロオビブレード」
過去、訓練所を制覇した時に教官が涙ながらに手渡してくれた一品。
分類は機動力と扱いやすさに定評のある片手剣である。
実用的なデザインの黒塗り装備ではあるもののあのがさつな教官のどこにセンスがあったのかファッション性にも優れているということで有名な装備でもある。
密かな女性ハンターの人気も獲得しているようだ。
そんな訳で人気のある装備ではあるが、取得には時に教官の悪意が見え隠れする訓練をクリアしなくてはならず、人気のわりには装備者が少ないと言った面もある。
何はともあれ全体的に纏まった性能を持つこの片手剣はこのような状況のはっきりしない依頼にはぴったりという訳なのだ。
…教官は元気でやっているだろうか?
最後は関係ないが一通りの説明を終え、満足気な顔をしながらクレイはお姫さんの顔を伺う。
「ふむ…訓練所か……思いつかなかったがそれも
どうやらお姫さんの感心はすでに武器から訓練所へと移っていったらしい。もし本当に訓練所に行ったとしたら教官の胃に穴が開きそうである。がんばれ教官!
というかこれ以上姫さんが進化したらもう誰にも手が付けられなくなりそうだ。一応あの流されやすい付き人の平穏を祈っておく。
そんなことを考えながら再び歩き出したお姫さんについていくクレイ。王女一行は例のチビクックの探索を開始した。
◆◆◆
探索開始から一時間後、そこには早速暗雲が立ち込めていた。
「…えーい、いつまで歩くのじゃ!わらわはハイキングしに来たのではないのだぞ!早うクックを出せ!」
延々と歩き続けることに嫌気がさしたのか、早くも癇癪を起こすお姫さん。始めた当初は初めて見るものの連続に興奮冷め止まぬ様子だったが今はこの状態だ。
そんなことを言われても元々噂をもとにした探索なのだから時間がかかるのは当然なためぷんすか怒るお姫さんの対応にあたふたしてしまう苦労性の男。
どうにかして宥めようといろいろ試そうとするが怒った人を鎮めるにはいかんせん経験が足りずついぞ実行には移さなかった。
「だいたいお主もお主じゃ!さっきからどうしてわらわが話掛けてやっているというのに毎回ああ…とか、はい…だとかしか言わないのじゃ!さっきの剣についての御高説はどうしたのじゃ!」
依然お姫さんの文句は止まらない。今度はクレイの素っ気ない反応についての言及のようだ。
ちなみにここまでのクレイとお姫さんの会話の様子、一部抜粋
「おお、すごく光る虫がおるぞ!すごいもんじゃのう」「…そうですね」
「おい、なんだこの魚は!ゴージャスな色をしておるぞ」「…黄金魚ですね」
「おい、何か地面から生えておるぞ!これは食えるのか?」「はい」
終始この様子だったらしい。これでは姫様じゃなくても退屈になるのは仕方ないかもしれない。クレイは自分の好きな事以外ではあまり相手に積極的に話すことなど到底無理な部類の人間であったのだ。
もう無理だと言わんばかりに歩みを止め、その場に座り込んでしまうお姫さん。梃でも動かんぞと息巻いてすらいる。
そんな様子にクレイはどうしたものかと困った表情を浮かべていた。
数分後、いまだに座り込んでいるお姫さんとあたふたしている青年。
このまま膠着状態へと陥るのではと思われた中、事態はある乱入者によりやっと動き出した。
突然、辟易した様子を覗かせていたクレイが表情を引き締め無言でお姫さんを後ろに引っ張って追いやる。
いきなり後ろに押しやるとはどういうことじゃ!などと聞こえてきた気がするがクレイは聞こえなかったふりをする。
どうやら、襲撃者の気配を感じ取ったようだ。流石にお姫さんも様子に気づいたのかクレイの見ている方向を見やる。
そして暫しの間をおき両者の視線が交わる茂みの中から飛び出したのは青い鱗を持つトカゲのようなモンスターだった。
それは密林やここ森丘などに幅広く生息する鳥竜種、青い体表に赤いトサカが特徴のモンスター、ランポスである。
ランポス。初心者ハンターが最初にぶつかるであろう肉食のモンスターでありリーダーを中心に群れを成す習性をもつモンスターである。一匹一匹は大したことはないがその習性のためか油断したハンターが犠牲になることも多い。
今回も2人に対して5匹の群れでの襲撃であり下手を打つと死の危険性まで出てくるだろう。
…まあ、それは少し力をつけて調子に乗ってしまった者の話ではあるが。
5年間クレイは一人で多くのモンスターを屠ってきた。その中で大型モンスターの同時狩猟などもあったのだ。いまさらランポスなど恐れることも無いだろう。
下手に長引かせてお姫さんに被害があっても困るので即座にけりをつけようと動き出す。
とりあえず、群れの様子を見る。
どうやら、ランポス達は獲物を前にして皮算用でもしているのかこちらをじっと見ているだけで動こうとはしていないらしい。
…敵は5体。動く気配はない。ならば…。
さっきまでの慌てぐわいが嘘のように状況を素早く飲み込んだクレイはその場を強く蹴り勢いよく飛び出し彼我の距離をたった一歩で詰めていった。…踏み込んだ場所にははっきりとした靴の後が残っている。
突然人らしからぬ速度で飛び出してきた者に全く反応が追いついていないランポス。それを尻目にクレイは身体を軸に回転しながら勢いをつけた剣で一番近くにいたランポスの喉笛を掻っ切り絶命させた。
…まずは一匹。
そんな中他のランポスは盛大に血飛沫をあげながら倒れる同胞を何が起きたのか把握できないのか呆然としている。
が、無慈悲にもすでに身体を反転させていたクレイがこれに袈裟斬りを放つ。そしてそれだけではもちろん終わらずついでとばかりにそのまま舞の要領で横にいたランポスを蹴り殺す。前者は真っ二つに、後者は首の骨が折れた。
…そして三匹。
数瞬で味方を半数失ったランポス。ようやく状況を把握したのかギャアギャアと鳴き始める。
…そこで逃げ出せばまだ生存の目が在ったかもしれないものを、無謀にも怒りで我を忘れたのか生き残りはクレイに対し必死の形相で飛びかかってくる。
…しかし死を前にしたモンスターの攻撃に慣れているクレイは慌てることも無くことさら剣を握る腕に力を籠める。あと少しでランポスの爪が届くというところでクレイは自身の持てる膂力を十全に発揮して剣を一閃。
一瞬の煌めきがあったかと思うと最後のランポス達は気づくと身体を両断され即死してしまった。
…これでおしまい。
それは刹那の出来事だった。が、その刹那に5体のランポスはもの言わぬ亡骸と化した。一方、それを成したクレイは汗もかいていない。
…平時はパーティが組めなくて黄昏る有様ではあるが、やるときはやるのである。
「……おお、…おおぉ!ハンターというものはこんなにも勇ましいものなのか!わらわは感動したぞ!」
少し間をおいてハンターの狩りの様子を初めて見たらしいお姫さんが先ほどの不機嫌さも忘れただただ歓喜の声を上げる。まばたきしている内に終わってしまっていたぞと先ほどの出来事を褒め称えるお姫さん。
「敵は小型モンスターとはいえ、ここまで鮮やかに仕留める者はなかなかおるまい。わらわが直々に褒めて遣わすぞ!」
「…ありがとうございます」
態度を180度変えて尊大ではあるものの素直な賞賛の声に少し照れてしまうクレイ。
いろいろあったがすっかり上機嫌になったお姫さんは完全に気力を取り戻し絶対クックを見つけてやるぞといきこむのだった。
現金なものである。
―――
時はランポスを処理した数分後。姫様一行は丘陵地帯をぬけイャンクックが生息しているであろう森の中へと入っていった。
うっそうと茂る木々や森に生息する猪型のモンスターの邪魔を受けはしたものの、クレイはそれを的確に対処しながら、ずんずん先に進んでいく。
この小型モンスターの処理をこなしていて気づいたのだが、意外とこのお姫さんはハンターへの適正が高いということが分かった。
今もほとんどはクレイが討伐しているが、お姫さんは近くに現れたモンスターをあんなフルアーマーをつけていながら比較的厚い毛皮をレイピアで一突きにし倒すことまであった。
兵士長とやらはモンスターの狩り方まで教えるのかと思うと独学で出来るようになったというのだから驚きである。どうやらただの好奇心旺盛なおてんば娘ではなかったらしい。
そんなこんなで敵をバッタバッタとなぎ倒し(主にクレイ)前進していたら気づくと地図上でいうエリア9。小さい水場があるため様々なクックを含めた動物の休憩所となっている場所へと辿り着いていた。
「ふむ、……なにもおらぬな」
何もいる様子のない水場をみて落胆の表情を見せるお姫さん。今回もどうやら外れのようだ。何かいたような形跡はあるが、今はもぬけの殻となっている。
「なかなか見つからないものじゃのう…。もしや、呼びかけてないのがいけないのか?」
何を思ったかお姫さんが言葉の通じないモンスターに対して呼びかけ始める始末。それで出てきたら苦労はしないんだがなあ…。
いまだに呼びかけ続けるお姫さんがそろそろ可哀想な子に見えてきたので少し止めようと声を掛けようとしたその時。
パキっ。パキっ。
…どうやら本当に何かがこちらに呼び寄せられたようだ。生き物の気配に同時にそちらの方をみる。クレイは警戒しながら、お姫さんは期待のまなざしをむけながら。
そして、姫様の想いが通じたのか襟巻状の耳をした鳥っぽいモンスター、件のイャンクック——サイズが人よりも小さい——がクァァと鳴きながら飛び出してきた。本当に小さい。
「おおー!これが噂の!想像以上に愛いやつよ!」
やっと目的のものを見つけたからか、お姫さんは人より、下手するとアイルーより小さい突然変異ともいえるイャンクックに一目散に近づいていく。このまま抱き着いてもおかしくないテンションである。
…ドシンっ
…が、残念ながらさらに聞こえてきた足音にその歩みを止める。
どうも、そのイャンクックはまた厄介な別の生き物を引き連れてきてしまったらしい。そのイャンクックが出てきた奥のあたりからかなり重量感のある足音が響いてくる。
ドシンっ、ドシンっ
明らかに大型モンスター並みの地響きを起こすそれは悠然と姿を現した。
「これは…少し拙いな…」
一応森丘は
それはその攻撃性と機動力のために下位で力をつけたハンターにのみ狩猟許可が降りる上位モンスター。
飛龍種を象徴する雄々しい翼に全身を覆う赤々とした甲殻を発達した尻尾と毒を含む爪を持つ火竜。別名空の王者と言われる飛龍リオスの雄、リオレウスである。
流石のクレイといえども、ある程度心得がある人とはいえ人を庇っての狩りは骨の折れるものがあり、どうしたものかと悩んでしまう。
一方クレイの悩みなど露知らず、お姫さんはというと―――
「おい、なんじゃこやつは!せっかく見つけたクックが逃げてしまったではないか!」
…どうやらいつの間にか逃げ出したクックの方が重要なようだった。
チビクック
mh4ワンピースコラボのイャンクックを思い浮かべるといいかもしれない
リオレウス
昔は一度空に飛び立つとバグで降りてこないこともあり時間切れを味方につけることもあるある意味最強の敵。
この作品での扱いは…