やはり俺のハンター生活は間違っている   作:眠魚

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注意 クロスを知らないやつが狩技を勘違いしています。




第7話 人と竜

危機感を感じないお姫さんの発言に危うく気を抜けかけたが相手は一瞬の油断が命取りになるレベルの飛龍種。

 

クレイは武器を持ち直ししっかり盾を構え相手の出方を伺う。

 

(ベストはこのまま何もせずに帰ってくれることなのだが…)

 

そう思いはするものの、こちらをじっと見つめて威嚇を繰り返していたリオレウスが口のあたりに紅焔を覗かせているのをみて直ぐに考えを改める。

 

どうやらクレイの望みとは裏腹に火竜リオレウスは目の前の人間を外敵と見なしたようだ。あと少しもしたら敵を排除するために動き出す様子が見て取れた。

 

クレイは急いで未だにイャンクックを逃したことを悔やんでいる少女を無理やり引っ張る。

 

「っ…お姫さん!こっちへ!」

 

「ん?なんじゃ?…ってグエェ!」

 

まったく予想していなかった引力に若干首がしまって情けない声を上げてしまうお姫さん。

 

いきなりの対応に対し引っ張った本人に向かって文句を言おうとするお姫さんだったがさっきまで自分がいたところから聞こえてくる爆音にそちらの方をふと見てその考えを引っ込めた。

 

消し飛んでいた(・・・・・・・)。何の比喩でもなく文字通り自分のいた地面が火竜から発せられた攻撃で抉られ消し飛んでいたのだ。

 

 

もし、あやつが助けてくれなかったら…既に大分着弾地点から離れているというのに感じる熱さにお姫さんはそんなゾッとする考えが体中を巡りいつもの傍若無人な態度も鳴りを潜めてしまった。

ついには遅れてやってきた恐怖からか震えが止まらなくなりもした。

 

「なんなのじゃ…いったい奴は何をしたのじゃ…」

 

初めて見る大型モンスターの攻撃をみてそうこぼす。

 

先ほど地面を焼き尽くしお姫さんを茫然自失とさせたブレス攻撃。火竜はその名の通り攻撃手段の一つとして体内に存在する火炎袋と呼ばれる器官を使って作られた火球を吐き出すというものがある。

 

その威力たるや凄まじく、さっきのように着弾と同時に爆発し、その爆風と炎熱をもってあらゆるものを破壊し、もし人間にあたりでもすれば防具など意味はなく問答無用で焼け焦げてしまうだろう。

 

「ハンターというのは、こんなにも恐ろしいモンスターとも戦わなくてはならないのか…」

 

先ほどまでの態度が急に恥ずかしくなってきたのかそう言って俯くお姫さん。先ほどまではクレイの手厚いサポートもあってモンスターというものはそんなに怖いものでないと思ってしまっていたのだ。

そう思っていた分、強大な敵と遭遇した時の恐怖はかえって増す結果となってしまったわけである。

 

死のイメージを明確に意識したからか逃げなくてはいけないと思うが思ったように身体が動かない。

 

そんな中、当然とばかりに目の前に彼女の命の恩人となった男がまたもや守るようにお姫さんと飛龍との間に無言で入ってきた。その様子にたまらずお姫さんは声を上げる。

 

「何をやっておる!…いくらお主と言えどこやつの相手はむりじゃ!早う逃げ出すのじゃ!」

 

わらわは恐怖で立つことすらできぬ…。そんなお姫さんの心情の吐露に何を思ったのかクレイは振り向きこそしないが、小さいながらしっかりとした声音でこう答えた。

 

「…護衛の依頼は必ず務めあげてご覧になりましょう。だから…どうかご安心ください」

 

そう言い残すと再び行動を起こした火竜へと単身挑んでいくクレイ。竜と人との本格的な闘いがここに始まった。

 

 

―――

 

火竜は今日とてつもなく不機嫌だった。最初は縄張りに侵入してきた雑魚をただ追い払おうとしただけだった。しかし、現状はそうもいかなくなっていた。巨大な竜は目の前の二人組の武装したニンゲンを見てひと際大きなうなり声を出す。

 

普通のニンゲンは自分の歯牙にもかけない弱さだとその火竜は知っていた。しかし、一部のニンゲンはそうでないこともまたよく知っていた。

 

過去、下手にニンゲンの領域に入ったときこの二人と同じような武装をした者たちに手痛い反撃を食らったことがあるのである。

 

ここら一帯の支配者であるという自覚からかその屈辱的な光景を思い出してしまったリオレウスは先ほどまで追いかけていた鳥のような生き物のことなど忘れ炎ブレスの先制打を放つ。

多少呆けていた小さい方のニンゲンに放ったそれはしかしもう一人の並々ならぬ雰囲気を持つニンゲンによって命中しなかった。

 

この瞬間リオレウスは標的を火球を見ただけで動かなくなったニンゲンに見向きもせず、目下最大の脅威を排除すべく動き出した。

 

―――

 

とりあえず、動けなくなっているお姫さんから火竜を離すべくクレイは挑発するようにすぐそばを駆け抜ける。リオレウスもその挑発に乗ったのか空に舞い上がりつつ直ぐに追いかけてくる。…どうもこういうところはついているみたいだとひとりごちながら走る。

そんな中火竜は追いかけてくるだけでなくまた火球を放ってきた。

 

(比べるのも烏滸がましいが…やはり蟹と比べると流石にやりにくいものがあるな)

 

出来るだけ護衛対象に被害が及ばないように離れた場所に誘導しながら迫りくる炎弾を避けつつクレイは考える。

 

リオレウスの特徴はその剛翼を生かした機動力にあり、一度空に飛び立たれるとこちらからは警戒するぐらいしかできることがなくなってしまう。

そのまま飛び立ってどっかに行ってくれれば万々歳なのだが、遠慮なく火球を放っている様子をみるに今はそうもいかないだろう。

 

どうやらどうあってもある程度痛めつけるしか解決策は見つからないようだ。クレイは改めてこのリオレウスを討伐対象として見なすことにした。

 

未だに滞空状態のリオレウスにクレイはただ真っ直ぐに突っ込んでいく。

 

基本、大型モンスターとの狩りというものはターン制になることが多い。リオレウスを例に上げると滞空状態や突進などの攻撃が激しい間は防御や回避に徹し、疲労時や攻撃と攻撃の間の硬直時間に攻撃を叩きこむようなものが挙げられる。

 

優秀なハンターほどその攻守の切り替えが上手いのだが、その狩りの仕方を学ぶ前に自分のスタイルを確立してしまったクレイは全く別の方法を採った。

 

それすなわち隙あらば攻撃して隙が無くともその強大な膂力と研ぎ澄まされた技術で無理やり隙を作り出し攻撃するという前代未聞の超攻撃的スタイルである。ちなみに何故そのスタイルを採ったかは謎である。

 

なにはともあれ最初は小型モンスターにしか通用しないそのスタイルではあったがある出来事を越え研鑽を続けた結果いつしか飛龍種にも届き得る武器となっていた。

 

…大質量の巨体で滑空を繰り出すリオレウスに真正面から突っ込んだにも関わらず無傷でカウンターのように攻撃できる程度には。

 

リオレウスの体重に滑空のスピードが乗った攻撃に人間が普通に衝突したのでは内蔵は破裂し無残な死を迎えるだけだろう。…だからクレイはその攻撃を確かな技術をもってただ受け流した(・・・・・)

 

ガッ…ザシュゥッ…

 

常人はやろうとすら思わないその行為をクレイは躊躇いもなく実行しそして成功させた。

衝突後打ち上げられたクレイはその勢いを殺さずに無防備なリオレウスの背中を斬りつける。

 

「ヴァオォォォォォォーーッ!」

 

リオレウスにとってもその攻撃はまったく予想していなかったのであろう。突然背中に走る鋭い痛みに身体の制御を忘れ墜落してしまうリオレウス。

自然、態勢が崩れた状態で地面に激突しクレイに間断なく追撃され弱点である頭を切り付けられていく。

 

もちろんリオレウスも一つの生物であるからその状態を良しとしない。

 

じりじりと命を削られていく感覚を得たリオレウスは底知れない怒りを感じすぐに起き上がったかと思うと全身を180度近く回転させ後方にいるであろう敵に対して発達した尻尾を叩きつけようとする。

 

が、その攻撃も予想していたのだろうか?

 

凄まじい速度で振り回されるそれをクレイは左手にある盾を正確に叩き込むだけで逸らし、そして丁度こちらに向けられた顔に対して唐竹割りを叩き込む。少なくない鮮血がクレイに跳ねた。

 

いかに飛龍種に属するモンスターといえども同じ動物である。固い甲殻に守られているとはいえ渾身の力で幾度も叩き込まれた頭部への攻撃は確実に効いているようでリオレウスの足も少しふらつく。

 

今が好機とばかりに攻撃を畳掛けるクレイ。これにはさしものリオレウスも本能的な危機感を覚えたのか相手の動きを止めるために大きく息を吸い込んだ。

 

ッまずい!

 

そう思いとっさに耳を塞いだクレイの下に強烈な音波攻撃ともいえる鳴き声(・・・)が聞こえてきた。

 

バインドボイス。大型以上のモンスターが備えている言ってしまえば殊更大きいだけのただの鳴き声である。

 

しかし、飛龍種程の図体の生き物が本気で声を出すとなるとその肺活量も相まって屈強なハンターでさえ数瞬自由を奪われるほどの強大なものとなってしまう。

 

クレイもその例に漏れず、耳を塞ぐのに使われ両手が塞がれている状況が作られてしまっていた。無論これを逃すほどリオレウスは馬鹿ではない。

 

口内に炎をちらつかせながら翼を開き空に飛びあがる準備をする。

 

…バインドボイスからのバックジャンプブレス。この一連の攻撃はあまりにも被害者が多いためハンター間で有名になった行動である。相手の動きを止めそれから必殺の火炎ブレスを叩き込む。単純な攻撃だがそれゆえに効果は絶大である。

 

いまだに耳を塞ぎ回避が困難な態勢をとるクレイに対してリオレウスは完全に攻撃態勢に入ってしまっていた。満を持して火球が放たれる。

 

ようやく拘束が解けたクレイはとっさに緊急回避をとるが、行動が少し遅かったのか直撃こそしなかったものの爆風で吹き飛んでしまう。

 

(くそったれ…少し油断したか…)

 

クレイは吹き飛びながらもしっかりと受け身を取りやけど以外の怪我は何とか抑え、再びリオレウスと対峙する。その相貌にはモンスターながら油断など全く見られない。

 

(早期決着が望ましいみたいだな…)

 

さっきのコンボを何度もやられたら流石にじり貧にならざるを得ないと考えたクレイは左手の盾を外し右手に持ち替える。それと同時に火竜はまたしても紅焔をほとばしらせる。

 

(少々もったいないが…まあ、仕方ない)

 

バシュゥゥ―――!

 

火竜が炎ブレスを放つ予備動作を見受けたクレイは強烈な風切り音とともにその右手の盾をリオレウスめがけて投げ飛ばした。

 

どう見ても殺傷力のないものを投げるという突拍子のない行動に何をしているのか測りかねたレウスはそのままブレスを吐き出そうとする。…がしかし、驚異的なコントロールで投げられたそれが喉奥にぶち当たったときに自身の行動を後悔した。

 

放とうとした火球が不発に終わったのだ。いや正確には不発ではない、ただ爆発した場所がいけなかったのである。

 

体内の臓器で臨界状態に達していたエネルギーに強力な衝撃を加えられ、最悪なことに口内で爆発を起こしてしまったのだ。

またしても予想だにしていない攻撃にリオレウスの頭部の甲殻はほとんど剥がれ落ちこれが決定的となったのかもう虫の息となった。

 

「グオォォ…」

 

暫くの間無音の状態が続き、リオレウスの口からくぐもった声がこぼれる。意識がもうろうとしているのか足元もぐらついている。もう長くはないだろう。

 

破天荒な攻撃ではあるが十分な効果を上げたクレイは狩りの終わりを感じ取っていた。が、手負いの生き物ほど怖いものはないと経験で知っているクレイは警戒を緩めないでいる。

 

そんな緊迫した状況の中、リオレウスは最後になるであろう力を絞り出しひりつく喉の痛みを無視して火球を吐き出そうとする。

 

…リオレウスはこれも目の前のニンゲンには悔しいが当たらないだろうともう深く考えることのできない頭で思っていた。

万全な状態や拘束した状態でも完全には直撃しなかったのだ。いわんやこの状態をやである。

それでも攻撃を止めなかったのは一種のプライドとでもいえるべきものだろうか。

せめて相手に痛手を与えてないとおちおち死んでも死にきれないと考えたのであろう。

そうしてリオレウスは狙いを定める。……クレイではなくまた別の外敵の方へ。

 

…茂みからガサゴソと音がした。

 

「おい、物音がしなくなったが大丈夫かの?…ヒェ!まだ生きておるではないか!」

 

そこに何故か先ほどまで動けなくなっていたはずの赤を主体としたフルアーマーに緑色の細剣を装備した人物が現れた。…他ならないクレイの護衛対象のお姫様である。不安そうな顔で出てきたと思ったら目の前に現れた火竜を見て固まっている。

 

「ッ姫さん!どうしてここに⁉」

 

これまで盾は失ったものの比較的順調に進行していたため冷静さを保っていたクレイはここに来て激しく動揺する。

どうしてここに来たのかは分からないが大型モンスターとの対峙に心得がない者がこの手負いの火竜を前に不用意に立てば最悪の事態になり得ることは容易に想像できる。

 

すぐさまお姫さんの方へ駆け出し必死に思考を巡らすクレイ。火球の威力は人一人が庇って防ぎきれるものではないので単に割って入るだけでは無駄に終わるだろう。それならば…

 

(太刀でしかやったことはないが……やらなきゃ後悔するのは確実…)

 

考えをまとめると同時に無慈悲にも火竜はブレスを放つ。なんとかクレイはお姫さんの前に入り迫りくる火球をじっと見つめる。かなりの速度で迫ってきているそれはしかし今のクレイにはスローモーションに映った。

 

ここに来て走馬燈のように過去化け物に襲われそうになった出来事を幻視する。そこには目を瞑ってただ死を待つクレイがいた。そして今も目を瞑って頭を抱える少女がいる。

 

……奇しくもあの時の状況と同じということを悟り意を決し目を見開く。

 

(…ハンターが人を守れないなんてことは……あってはならない、あってはいけないんだ!)

 

 

―――今からクレイがやろうとしていることは、まだ小さい頃に若気の至りで作り出した技を現実に出来るようにしてしまった技である。

その中には原理がクレイさえも理解できない、もはや人ではない域に達してしまったものもある。これはその内の一つ―――

 

火竜から放たれた火球が今まさに着弾しようとした時クレイは限界まで絞った身体から神速の一閃を煌めかせる。

 

…その剣閃は炎を穿つ。

 

クレイはただ持てる力全てを総動員して剣を下から上へ斬り上げる。ただ単純にそれだけを行った。

しかし、どんな物理法則が働いているのか真っ二つに斬られた火球はクレイ達を避けるかのように後方に着弾し爆発する。

 

そんな理解不能な現象を目の当たりにした火竜はついに力尽きたのか地に伏し、それをもってようやくクレイとリオレウスの戦闘も終わりを告げた。

 

―――

 

 

リオレウスが動かなくなったのを見届け、やっと緊張が解けたのか久しぶりに身体的疲労を感じたクレイは地にどかっと座り込む。

 

(剣はイカれたが……なんとかなったみたいだ……)

 

熱のせいか、技のせいか、はたまた両方の理由で刃先が完全に潰れ使い物にならなくなった教官からの贈り物を持った腕をだらりと下げる。

 

完全に技が成功したわけじゃなかったのかクロオビソードの柄ががたつき太陽のシンボルも溶けて潰れてしまっている。

 

……教官にばれたら泣いて怒られそうだな。

 

修理に出すとしても完全に直るのに相当時間がかかりそうな刀剣を眺めクレイはため息を吐く。もっと上手くやっていればこんなことにもならなかっただろうにととりあえず今回の狩猟についてクレイは考え始めた。

 

火竜対策で耳栓を持ってくるだとか、そもそもお姫さんが来ないように言付けておくだとか色々と反省点を見つけ出してその度に面倒にも落ち込むクレイ。

 

そんなクレイの目にふと未だに危機が去ったことが分かっていないのかギュッと目を瞑って蹲っている少女が一人。

 

「もうぶつかったのかのう…思ったより痛くないのう…」とつぶやく様子を見てクレイは目を細め微笑を浮かべる。

 

……まあ、今回の狩りは装備を一個丸々失い、怪我もしているため百点とはいかないだろうが———護衛対象だけは何とか自分は守り切れたのだから良しとしよう。

 

今はそれが分かっただけでいいとクレイは王女の肩を軽く叩きながらそう思った。

 




モンスターの攻撃がゲームの威力と結構違う所がありますが仕様ということでご容赦ください。

狩技 なんか炎ブレスを無効化する斬撃
設定で骨をも溶かすと言われている炎ブレスを在ってないような盾で防ぐのに違和感を感じてしまったため登場。名前は決めていない(無計画)
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