おいでませドーソン箒専門店!-ホグワーツ魔法学校出張所- 作:Out Lazy
「いーやーだーっ! 僕はホグワーツなんぞに行かん!!」
シールズさん家にて、アンリ、叫ぶ。
アンリくん、両親がいなくなってから彼のお祖父さんとお祖母さんとシールズ御夫婦に面倒を見てもらいながら生活していました。そして、監視の目がなければ食事すら取らない彼に呆れて、シールズ御夫婦は夕食時には強制的にアンリを招くことにしています。
そして、食事中のアンリの絶叫。
もちろんここで、
「食事中、うるさい」
バチコン! と東洋に伝わるツッコミ兵装【HARISEN】が唸りながら、彼の頭上に落ちます。勿論コレは、アンリがジャパンから取り寄せたジョークグッズであり、それを貰ったメアリがおふざけ半分で細工をして、痛覚にのみ甚大なダメージを与えるという、生半可な拷問器具も真っ青なブツとなっておりますが…………今はどうでもいいですね。
「痛いじゃないか」
「喧しい。というか、あのホグワーツよ? 光栄なことじゃない」
ちなみに、食卓に付いてるのは何も2人だけではありません。ただ、この2人のやり取りを見ながらニヨニヨしているだけなのです。将来も安泰だ、などと思っているのでしょう。
「普通ならそうなんだろうけど、なぁ」
パンを口に頬張りながら、アンリは渋い顔をしつつ唸ります。
別に、アンリだって全く行きたくないわけじゃないのです。魔法使い志望の憧れでもありますし、知識を得ることは、箒作りに活かせることもあるでしょう。何より、隣の少女と同じ学校に入るというのは…………本人は否定しそうですが、嬉しいことでしょう。
「…………やっぱり、店を放っていくのが嫌なの?」
ムスッとした顔が一転。心配気な表情を浮かべたメアリが、彼の顔を覗き込みます。
「まあ、ね。だって、幾らお客さん来なくても、店をほっぽり出すの如何なものかと」
「ふむ…………君のお父さんも、お母さんも、君が店に縛られることはあまり望んでいないと思うのだがね」
流石にニヨニヨしている場合でないと判断したシールズパパ。落ち着いてアンリを説得しにかかります。
「ですがシールズさん…………ほら、信用問題的にアウトじゃないですか。じゃあ誰に任せるかって言っても、僕のスタンス上箒の作り置きは死んでもごめんですし、そもそも誰かを雇うお金がありません。じいちゃんばあちゃんも、もう歳ですからキツイこともさせたくないんすよ…………」
おっとアンリさん、結構色々と考えていたようです。シールズパパ以外は説得するのは難しそうだと、顔を歪めています。
「成る程、確かに君の言う通りだアンリ」
しかし、シールズパパ。何故か余裕そうな表情を浮かべたままアンリに笑顔を向けます。
「…………」
アンリはこの顔が、メアリが振り下ろすハリセンの次に苦手です。曰く、見透かされた気分になるそうです。
「これは、メアリにやらせようかと思っていたことだから、話半分で聞いてもらいたいのだが」
「…………?」
「なに、変なことではないよ。単に、ホグワーツで『シールズ小物店』の宣伝をしてもらおうかと、ね」
「…………ッッッ!!!!」
「ちょ、パパ!? 聞いてないわよ!?」
アンリ、目から鱗。メアリ、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔。
それぞれが面白い様に反応してくれたことに気を良くしたシールズパパ、さらに言葉を続けます。
「なにも大っぴらにしろと言うつもりは無いから安心してくれメアリ。なにも、看板持って馳け廻るだけが宣伝じゃ無いだろう?」
「…………そうか、実際に使ってッ!!」
アンリの食いつき様がぱねぇです。それはもう砂漠でオアシスを見つけた旅人の如く、です。
しかし、一周回って冷静になったアンリ、その案について考え直します。
「…………確かに、効果はありそうです。が、箒の持ち込みが許可されるのは2年生からだったはず。1年も待つ位なら、その間に箒業界に革命を起こすために研究を重ねた方が有意義です」
「ん? アンリ、君は手紙の封は開けていないのかな?」
「と、いいますと?」
シールズパパの言わんとしていることが分からないアンリ。ただ開けた方がいいのかと思い、通うつもりがなく読む必要なしと未開封だった封筒を開けます。
中には、入学許可証が入ってました。ですが、それだけではありませんでした。
─────────────────
アンリ・ドーソン
上記の者の箒の持ち込みを許可する。
アルバス・ダンブルドア 印
─────────────────
「………………ッ」
「あのお方は、君の事情も知っていらっしゃるのだろうね。何も言わないと開けないだろうから誘導してくれと僕に頼んでくる辺り、性格についても、ね」
いやいや、というかアルバス・ダンブルドアとのコネがある貴方の方が謎ですよシールズパパ!!?
「だから、あとは君の気持ち次第といったところかな?」
「……………………」
言い知れない敗北感に、顔を歪めまくるアンリは、これ以上無いほど苦い声で。
「…………釈然としませんが。まあ、そこまでお膳立てしてもらってるのなら、吝かじゃありませんよ」
実質的なホグワーツに通う宣言に喜んで抱きつくメアリに慌てふためくまで、5秒前…………。
≡≡≡≡≡☆
ホグワーツに通うとなれば、そこから先はドタバタと準備と金策をしなければならない…………と思っていたアンリ。
ですが、
「じ、じーちゃん達も一枚噛んでやがった…………!!」
ドーソン祖父母の家から手紙。その内容は。
【ホグワーツ通うと思ったから教育資金はグリンゴッツに貯めてあるよ(意訳)】
多少の借金を覚悟して、決死の覚悟で宣伝活動に励もうとしていた矢先にこれであります。
これではまるで、箒のことなんか忘れて学業に励めと言わんばかりでは───────
「…………いや、それは無いか」
仮にそうだったら、箒の持ち込み許可なんて出しませんしね。
ともかく教材、制服代が問題なく出せるのはありがたいですね。杖に関しては、彼は元々持っていますし。ペットに関しては、要らないと突っぱねるでしょう。
ならば、彼がこれから力を入れなければならないのは。
「…………持っていく分の仕事道具、シールズさんに頼んでそれを詰める空間弄った箱、それと」
工房の棚に掛かっている箒で、一際異彩を放つソレ。
イチョウの柄、ユーカリの枝を使った、材料だけは違和感の無い箒。
しかし、柄に交差する様に付けられた、ハンドルの様な物。そして、尖る筈の尾はなく、枝は螺旋しつつも円筒型に固められています。
他にも色々ありますが、何よりも目を引くのはこの二点でしょうか。
作品名[JET]
彼がジェット機から構想を得、試行錯誤して作り出した、彼の作った箒の中でもトップレベルの性能と奇抜さを誇る傑作です。
「こいつの、整備だな」
宣伝活動として、これ程うってつけのものはありません。奇抜過ぎて嘲笑を受けることになろうとも、注目してくれなければお話にならないのですから。
作業台にJETを置いたアンリは、点検作業を始めます。
「…………術式確認。姿勢制御術式と腰部固定術式に若干の綻び。修正。再確認、完了」
柄の確認が終わったあと、ワックスがけを施し、次に尾の確認へ。
「…………尾部確認。ほつれた枝7本」
螺旋からはみ出した枝を、添うように整えながら固めます。
「…………最終確認。見たところは問題無いか。あとは試運転」
そしてそのまま箒を握ったまま店を飛び出し、店に鍵をした後そのまま空を飛び立ちます。
上空で幾つかの基本的な飛行法を試し、頭の中で微調整が必要な項目をその都度整理しながら一気に加速させます。
「…………トップスピードまで15秒、最高速度約210㎞/h。まあ限界突破しなけりゃこんなもんか」
こんなもんか、と呟いてますが、現在販売されてるどの箒よりもスペック上は高性能だということを、彼は気が付いているのでしょうか…………恐ろしい。しかも口振りから察するに、これ以上の速度が出ると言ってるのですから笑えません。
ですがこの箒、かなりの速度が出る代わりに両手でハンドルに捕まって無いと操縦が難しい様です。片手なら、ギリギリなんとかなりそうですが、間違って箒の上に立とうものなら一瞬で落とされるでしょう。クディッチ向きとは、言い難いですね。
「うん、OKOK。微調整して終わりだな」
これで顧客をゲットだぜ!! と夕日に向かって吼える図は、なんというか、締まりのないものでありました。
ともかく、コレでアンリくんも学校通えますよ。
良かったですね、メアリさん!
「ふぇ!? べ、別にそんなんじゃないからね!? ひ、1人にしたらアンリが心配だとか、そんなんじゃないんだからね!?」
…………両者ツンデレとは、なんという悲劇。
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