素直に考えればいとも簡単な話だったのです。
この事件に共犯などいなかった。ましてや怪奇だの心霊だのはもっての外です。
起こるべくして起こった現象の数々は歯車のように噛み合わさり、たった一つの大きな軸を覆い隠してしまった。私たちはその歯車を1枚1枚外していかねばならんのです。
私は彼が次に何と言おうとせんかを知っていた。というより分かっていた。
--私たち探偵はその軸を見るべき仕事なのです。これからの話に口を出さないでいただきたい。--
『私たち探偵はその軸を見るべき仕事なのです。これからの話に口を出さないでいただきたい。』
今から数か月前、木枯らしの吹く大手中道沿いに佇む古びた探偵事務所に、1人の女性が滑り込んできた。
彼女の名前は”相沢 夏芽”、相沢財閥3代目の娘だと新聞や雑誌で見た覚えがある。彼女は青空の中、ずぶ濡れで事務所の玄関を押し開けてきた。
「申し訳ございません、こちらに探偵さんがいると聞きまして伺いました。」
少なくとも私は探偵という風貌はしていなかったのだろう。彼女は私を目前にして、目を泳がせながら間近にいる探偵を探している。えぇこちらで間違いないですよと答えると、彼女は目前の探偵を探すことを止めた。
「あ、あぁ、そちらにいらしたのですね申し訳ございません、私、目が見えにくいものでして。」
なるほどそれなら納得がいく、と、そうは問屋が卸さない。新聞で見る限り彼女は山のような書類を目に通し、数十枚に一度眼鏡をクイと上げる癖が…ああそういえば今日の彼女は眼鏡を掛けていなかった。
「そうなんです、こちらへ来る途中、1台の車に轢かれそうになり、必死の思いでよけた後、こけた反動で眼鏡を落としてしまい、ふらふらと歩いている途中で小石に躓いてしまって側の川へと…」
この付近にある川といえば大手川だ。底が浅くて幸いでしたと屈託のない笑顔を見せてくれるが、あと数秒もすれば凍え死ぬのではないかと言わんばかりに肩が震えている。タオルとお風呂を用意します、依頼のお話はそれからですねと、私が浴室へバスタオルを取りに向かおうとしたその刹那、
--タァァン…ッッ--
と、1発の銃声が聞こえた。突然の音に吃驚してしまい、状況が全く掴めない。
犯人は誰だ、私は撃たれたのだろうか、この35年の人生はかくも儚く散る運命であったか。あぁせめて妻を娶りたかった。ほら空言を呟く間にも私の体には大きな穴が…と身体の至る所を擦ってみるが、これといって外傷はない。生きていることへの喜びも束の間、
--ドサッ—
と、背後から何か重いものが倒れるような音がした。
--振り返れば相沢が床に伏していた。彼女の右蟀谷には大きな穴が開いており、中から多量の血液があふれ出ていた。あまりにも予想外だった。まさか依頼人が事務所を訪れた途端、何処からともなく放たれた1発の弾丸で射貫かれるなど、誰が予想できただろうか。まずは冷静になれ、ここは警察に連絡をし—
--ガチャ—
「すいませぇん…ここが探偵事務所だって聞いてき…キャアアアアアアアア!!」
…なんとも面倒な事に巻き込まれたものだ。私は溜息をついた。
~続