◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄が出場を辞退し、その報酬金として莫大なお金を手に入れた後の話だ。
ヴィヴィオ達は大会に出場するにあたって、まず自分達がどの程度まで通用するのかを見定めていた。実績も無い初参加の子も含んだノービスクラスと実績あり、精鋭が多いエリートクラスの二つのクラスがある中で、ヴィヴィオ達はノービスクラスでやっていく事になる。
ノーヴェ曰く、全員トーナメント中盤辺りで落ちるとのこと。まぁエリートクラスの精鋭達は、年を若くして格闘技という枠組みの中では高い実力を持った者達ばかりだ。その中でヴィヴィオ達が勝ち抜いて行くのは、中々に難しい。
ソレは珱嗄の指導があったとしても同じことだ。精々中盤辺りで落ちるのが、優勝する程度にあがるだけだ。
「って優勝しちゃうのかよ!!」
「当然だ、狙うは優勝。前年度優勝者なんてカスだ、ぶっ飛ばして賞金ゲットだ」
「え、えー……」
珱嗄はそう言って、目の前にいるヴィヴィオ達に視線を移す。ヴィヴィオ達は動きやすいジャージを着ており、既にアップが済んでいるのか少し頬を紅潮させ、軽く息も上がっていた。中々良い調子らしい。
とは言ったものの、珱嗄はヴィヴィオ達を無理にでも優勝させてやりたいわけではない。自分のコーチでそんなことになったら、正直ヴィヴィオ達に加えて自分にも目が向きそうだからだ。この大会はミッドでも有名な大きい大会だ。つまり、将来有望な人材を確保したいと思ってやって来るどこぞの人員達もやはり見に来る。
そうなると、ヴィヴィオ達の様な、大会でも最年少の面々が優勝なんてことを成し遂げてしまった場合、その実力と才能もそうだろうが、ソレをそこまで伸ばしたコーチにも目が行くのは当然だろう。
珱嗄の場合、ソレが面倒臭い。
「ヴィヴィオ、手を抜いて程々にコーチしてもいい?」
「ダメだよ、全力でコーチでしてよパパ」
「やだよ、面倒臭い。たかが大会じゃないか」
「私達にとっては貴重な大会なんだよ! 出来るなら優勝とは行かないけど、それに近づけるよう出来る限り頑張りたい!」
「……つってもなぁ、俺がなんかやったらホラ、不公平っぽくならない? ある意味チートツールだぜ? 俺」
「うんまぁソレは否定しないけど」
否定しないのかよ、と珱嗄は内心で突っ込んだ。流石は珱嗄の娘というべきか、ヴィヴィオは中々強かだ。使える物は何でも使う精神は、どことなく珱嗄にも似た空気がある。
「それでも俺に全力のコーチをしろと?」
「最大限に努力しないで対戦して、結果勝っちゃった場合……それは対戦相手に失礼だと思うんだ。だからパパがいるというこの環境をしっかり使って、最大限の努力、最大限強くなって戦うことが、私は相手に対する礼儀だと思う!」
「最大限強くなって相手を圧倒的にボコボコにする、と……まぁその気概は認めるけど、お前いつからそんなドSになったんだ……お父さん悲しい」
「違うよ! パパ基準で考えないで!!」
ヴィヴィオが珱嗄を見上げる様にして両手を振り回す。ムキー、と癇癪を起こす様は、見ていてなんとなく微笑ましい。
だが、ハハハと笑う珱嗄にイラついたのか、ヴィヴィオはいきなり大人モードになり、珱嗄の顔面を殴った。
「ごふぁ……」
「もう! 真剣に考えてよパパ!」
「おいおい俺が避けないからって酷くね? 俺お父さんだよ?」
「パパだからこそでしょ!」
「アインハルトちゃん、ヴィヴィオが反抗期だ」
「師匠が悪いと思います」
「超冷たいな」
苦笑しているリオとコロナが、唯一の救いだった。
珱嗄はわざと避けず、ヴィヴィオに殴られた頬をさすりつつ、むぅ、と考える。コーチとして目を付けられるのが嫌となると、それほど自分が関わらないコーチングをすればいい。例えば、ちょっとした課題を与えて、ヴィヴィオ達がソレをこなす為に各々努力をする、と言ったことが一番良い。
すると、珱嗄はそう決めたが否やすぐに口に出した。
「じゃあ、とりあえずゲーム方式で行こう。俺が各々に課題を与えるから、ヴィヴィオ達はそれを自分達の力でこなしてくれ。大会まであと2ヵ月だし、期間はその半分……1ヵ月だ。どうやればいいのか、何をすればいいのか、ソレのヒントは周囲の人達から聞くこと……ノーヴェとかな。で、その際聞く相手は最低でも5人以上の人に聞いてくれ。2、3人だけはダメ、その時点でゲームオーバーだ。課題を達成出来た子には、御褒美をあげよう……出来なかった人は罰ゲームで」
「ば、罰ゲーム……パパ何をさせるつもり?」
「うーん……3時間くすぐりの刑とか……ミミズ風呂とか……? 幻覚でゴキブリいっぱい召喚しても良いね」
「絶対クリアするぞーーー!!」
「「「おおおおおおおお!!!!」」」
珱嗄の言葉に、ヴィヴィオ達が途端にやる気になる。全力でコーチをしてくれと言ったのは自分達、故にソレを拒否する事は出来ない。そして珱嗄の言う罰ゲームは、素晴らしく生理的嫌悪感が湧き立つ物ばかりだ。くすぐりが一番マシな所が嫌らしい。
どうしても、ミミズ風呂と幻覚ゴキブリの刑は拒否したい所だ。あのウゾウゾとカサカサ、黒光りとテラテラの身体、そんなモノに触れたいと思う程、ヴィヴィオ達は女の子を止めていはいないのだ。
「じゃ、頑張って」
「行くぞーーー!!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」
珱嗄はこの調子なら自分が関わらなくても良さそうだと思いつつ、凄まじい気迫で雄叫びをあげるヴィヴィオ達を眺めていた。