◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、アレから1ヵ月。ヴィヴィオ達は会場に来ていた。
これまで、最早時間は一切無駄にしないといわんばかりのトレーニングがヴィヴィオ達になされた。そこには友情があり、愛があり、そして熱いドラマがあった。
殴られたら殴りかえすような喧嘩もあった。
涙を流す友に、敢えて鞭を打ったこともあった。
無理をする仲間を、動けなる位叩きのめして目を覚まさせたこともあった。
お互いに成長したことを、喜んだ笑顔があった。
夕日に向かって走り出したり、海に向かって吠えたり、何もないのに笑い合ったり、喜びにハイタッチを交わしたり、この1ヵ月に最早人生の青春全てが詰まっているといっても過言ではない程、充実した時間を過ごした。
小学4年生なのに、人生でこれ以上ない青春を過ごすというのもどうなのだろうと思ったりもしたが、早めに挫折したり成長したりするのも良いかなと珱嗄は見逃した。
とはいえ、その結果ヴィヴィオ達は―――
「……ふぅ、なんだか遠い場所に来たね」
「そうだね……なんか、あっという間だった気がするよ」
「うん、でも……全部今日の為にやってきたんだ。まだ、気を抜いてはいられないよ?」
「ええ、分かっています……全ては今日この時の為に……!」
――何故だか纏う空気が小学生ではなくなっていた。いやまぁ小学生が達観した眼をしているからだが、一体何があればそんなやり切ったような眼が出来るのだと思ってしまう程に、彼女達の纏う空気は長年夢を追い続けて来たスポーツマンの様な輝きがあった。
周囲の人々が、そんな彼女たちの背景に綺麗な夕日を幻視する。自然と、彼女達の周囲にはある程度の空間が生まれる。近寄りがたい何かがあったのだ。
「な、なんなんだあの集団……」
「あれ、おかしいな……私の知ってる小学生と違う」
「えーっと……あれ? 小学生ってあんな達観した眼するっけ? もっと純粋だった気がするんだけど……」
周囲の人々が口々にヴィヴィオ達の空気に当てられて漏らす言葉は、そんなヴィヴィオ達を形容したものだった。彼女達の後ろに立っている珱嗄など、最早彼女達を飾り付ける木のようなものだ。汗と涙と青春の香り漂う、ヴィヴィオ達のお披露目の日は――こうして始まった。
◇ ◇ ◇
珱嗄が教えた2ヵ月間の最後の1週間、珱嗄がヴィヴィオ達に教えたのは、会場で出会う選手たちへの牽制と威圧方法だった。最初に舐められたら終わりだという珱嗄の教えは、無条件で正々堂々戦えると思っていたヴィヴィオ達を震撼させる。
出会った選手達に対して、自分の考えている第一印象を与えることから、戦いは始まっているのだと珱嗄は教えた。無論、公式大会でそんな教えは全く通用しない。ただの嘘である。
だが、ヴィヴィオ達はそもそも教えられれば信じてしまう、未だ社会に出ていない少女達だ。珱嗄のそんな嘘っぱちを信じてしまう位には、まだまだ純粋の青い果実である。
そして珱嗄はヴィヴィオ達に最後の1週間で相手選手への牽制方法を教えた。最初はその教えに首を傾げていたヴィヴィオ達だったが、ソレが必要なことなのかもしれないと考えてそれを受け入れた。
それは今日、この時生かされる―――
「ザフィーラ!」
「ん、ああ……ヴィヴィオ達――……なんか雰囲気違うな」
「気にしないで下さい。色々あったんですよ」
「……そうか……そうだ、そういえばミウラを紹介していなかったな……ミウラ!」
ヴィヴィオ達が会場に入ってから最初に出会ったのは、八神はやての騎士の1人、ザフィーラだった。彼はどうやら八神はやてファミリーが教え子にしているミウラという少女の付き添いらしく、ヴィヴィオ達にその教え子を紹介しようと、彼女の名前を呼んだ。
すると、名前を呼ばれた少女がヴィヴィオの姿を見つけて、嬉しそうに駆け寄ってくる。どこか少年ぽい容姿の少女で、しかしその笑顔はとても可愛らしい子供っぽいあどけなさがある。
そして、彼女はヴィヴィオに挨拶しようと笑顔で駆けよって――そしてヴィヴィオがすっと出した手によって制止する。
「??」
首を傾げ、どうしたのだろうといった表情を浮かべるミウラ。だが、ヴィヴィオは眼を細めて鋭い眼光を放つ。そして、ただ落ちついた声音で――珱嗄の教えを実行した。
「はしゃぐな小娘……此処は既に戦場、そんな調子ではこの先……生き残れんぞ!!!!」
「ひぅ!?」
「おい珱嗄、お前ヴィヴィオに何を教えたんだ言ってみろ。懲らしめてやる」
「え、もう俺のせいなの?」
ヴィヴィオが自身の顔に集中線が引かれる勢いで吠えると、すぐにザフィーラが珱嗄に突っ込みを入れて来た。既にこれが珱嗄のせいであると確信しているらしい。まぁ実際その通りなのだが、珱嗄も流石にこんなに早く悟られるとは思わなかった様だ。
とはいえ、ヴィヴィオに吠えられたミウラは涙目だ。ザフィーラの言葉で自分の行動が間違っていると分かったヴィヴィオは、慌ててミウラに近寄り誤解を解く。
「あ、あわわ……ご、ごめんなさいミウラさん! 今のはそのなんていうか……パパのせいです!」
「おいコラヴィヴィオ、人のせいにするな」
「いやお前のせいだろ珱嗄」
「冗談キツイぜザッフィー」
「ザフィーラだ」
「ロリータは元気?」
「ヴィータだ」
「ロリータで通じたな。今度ヴィータにチクろう」
「幾ら欲しいんだ?」
「真っ先に財布を出したお前を俺は心の底から尊敬するよ」
結局、ミウラの誤解は解けたものの、後々鉄槌のロリにぶん殴られる白髪褐色の犬耳男が居たという話である。