◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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お久しぶりです!
禁書目録の方が完結いたしましたので、リリカルなのはも完結まで一気に更新していきたいと思います! その後は珱嗄シリーズ最終作を開始いたしますので、どうか最後までお付き合いいただけたら嬉しいです!
ではどうぞ!


選考会終了

 今日はこの大会における序章、選考会の日だ。

 ヴィヴィオたちがやるべきことは、此処で勝ってより高い位置から地区予選を始められるようにすること。常連かつ過去の上位入賞者はエリートクラスのシードとして参加しているため、この選考会にはいないが、初参加のヴィヴィオたちはエリートにはいけずともスーパーノービスクラスから始めたいところ。

 

 とはいえ、珱嗄はこの選考会でヴィヴィオたちが負けるとは欠片も思っていないので、見る必要もないとばかりにフラフラと会場内を散策していた。人が多く、選考会といえどまだ見ぬ新しい風の参加に心躍らせる人は多いらしい。

 ざわざわと賑やかな空気の中で、珱嗄は何か面白いことでもないかと視線を彷徨わせた。

 

「あだっ」

「ん?」

 

 すると、不意に自分の胸に何かがぶつかった。

 変な声と共に目の前で尻餅をつく人影。どうやらこの人込みで誰かとぶつかったらしい。珱嗄の筋力は人類の域を超えているので欠片も動じなかったが、その分ぶつかった人物は耐えられずに尻餅をついたのだろう。

 見れば赤い長髪をポニーテールに括った少女だった。よく見れば周りに友達なのか数人同年代の少女たちもいる。

 

「リーダー! 大丈夫っすか!?」

「てて、ああ平気だよ……悪いな、アンタ」

「いや、俺はなんともないから大丈夫だよ。怪我はないか?」

「ああ……アンタ、名前は? オレはハリー・トライベッカだ」

「そう、俺は泉ヶ仙珱嗄だよ……インターミドルの参加者か?」

 

 ぶつかってきたのは去年のインターミドル都市本戦五位入賞の強者、ハリー・トライベッカだった。珱嗄は知る由もないが、この会場においてはかなりの有名人だ。

 だが、彼女はどうやらぶつかったことよりも珱嗄に興味を抱いているようだった。ぶつかった際に一方的に尻餅をつかされたことに驚いたのだ。

 彼女も15歳とはいえ結果に見合うだけの研鑽を積んできているし、その戦闘スタイルからしても、身体能力は一般成人男性とぶつかったからといって動じる程ヤワではない。

 

 にも拘らず、珱嗄とぶつかって一方的に自分だけが倒れたことが驚きだった。まるで巨大な壁にぶつかったような感覚すらあったのだ。

 

「ああ、アンタもそうか?」

「いや、俺は保護者。娘とその友達が参加してるんだよ」

「娘? 初参加か?」

「そうだよ」

「アンタがコーチしたのか?」

「まぁ友達の方はここ二ヶ月くらいだけど、娘はずっと教えてたかな」

 

 そうか、と呟いて彼女は何かを考え込むように黙ると、途端に好戦的な輝きを瞳に宿らせ、いきなり全力の拳を珱嗄に放った。

 周囲にいた彼女の仲間が驚きで声をあげるより前に、その拳は珱嗄の顔を捉える。その拳を珱嗄は見えていたし、なんなら躱すことも防ぐこともカウンターを決めることも簡単だったが、面倒なので避けなかった。

 ゴッ、という鈍い音を立てて拳が珱嗄の頬を抉る。

 

 会場外で魔法を使っての暴力行為は正直選手としてはマナー違反なので、ばれない範囲で身体強化魔法を使っただけの拳だったが、彼女が放てばその威力は十分すぎるほど高い。一般男性なら吹っ飛んだうえで気絶したことだろう。

 

 だが、

 

「急に殴るとは、最近の若い子って情緒不安定なのか?」

「っ……痛……!」

 

 ダメージを負ったのはハリーの方だった。珱嗄は無傷とばかりに平気そうな顔をしており、欠片ほどの痛みすら感じていない。なのに対してハリーの拳は強烈な痺れと反動の痛みを感じていた。

 その理由は、身体強化の魔法で強化され魔力を纏った拳ではあったが、珱嗄が素で垂れ流れている魔力に拳に纏っていた魔力は簡単に圧し負け、彼女の拳が15歳相応の拳の威力にしかならなかったからだ。

 

 ようは子供のパンチに痛がる大人はいない。そういうことだ。

 逆に珱嗄の素の防御力と魔力に押し負けた拳はダメージを負ってしまったのだ。

 

「リーダー! なにしてるんすか!?」

「いきなり大人の男の人を殴るなんて!」

「でも……リーダーの拳が負けるなんて……」

 

 ようやく状況を察したように取り巻きの少女たちがハリーを咎めたが、たった今起こったハリーの敗北に驚きを隠せない様子だった。

 ハリーたちの視線が珱嗄に向けられる。得体のしれない男を前に、勝手に戦慄し始めた。

 

 そう、勝手に戦慄し始めた少女たちを前に、珱嗄は何これと思っていた。

 

「ちょっと、そこの貴方」

 

 すると、更に面倒な声が聞こえてきた。

 

「ソコのポンコツ不良娘は私の知り合いです、妙な真似はしないでいただけますこと?」

「……」

 

 そこにいたのは、金髪のお嬢様っぽい少女だった。

 だがこの少女もハリーと同じく、去年の都市本戦準決勝進出三位入賞者の有名人である。『雷帝』の二つ名を冠するこれまた強者だ。名前はヴィクトーリア・ダールグリュン。

 ハリーが珱嗄に絡まれているように見えたのか、拳を抑えて痛みを堪えているハリーを庇う様に割り込んできたらしい。かなり妙なタイミングから見ていたようだ。

 

 だが、珱嗄はえー、と思いながらも内心面白そうなので見守ることにした。

 

「お、おいお嬢様、ちげぇよそっちの人は悪くないって」

「は? だって貴女、絡まれていたんじゃないんですの?」

「違う違う、オレが興味本位で殴り掛かって返り討ちにあっただけだ」

「はぁ? なにしてるんですの! 一般の方に殴り掛かるなんて……返り討ちにあった? 貴女が?」

 

 ハリーが誤解を解くべくヴィクトーリアに説明するが、その内容にヴィクトーリアも珱嗄を信じられないものを見るような目で見た。状況が変わらないことを悟った珱嗄はあーあ、と明後日の方向を見た。

 まぁそれもそうだろう、珱嗄は年齢こそ千を超えるが、見た目でいえばヴィクトーリアと殆ど変わらない若々しい姿をしているのだ。またゴリゴリのマッチョマンでもないので、ハリーの拳で無傷を晒しているというのは信じられないのだろう。

 ヴィクトーリアも仲が良いとは思っていないが、ハリーの実力とインファイトの強さは認めているのだから。

 

「失礼ですが……年齢を伺っても?」

「戸籍上は19歳だね」

「ということは……インターミドルに出場されるので?」

「いや、俺が入ったら優勝しちゃうから出ないよ」

「「!!」」

 

 珱嗄が確信しているようにフと笑いながら言い放つと、二人の都市本戦上位者がそのプライドを刺激されたようにスイッチが入ったらしい。メラメラと燃え上がる闘志に任せて、珱嗄に食ってかかった。

 

「大した自信ですのね、簡単に優勝するなどと」

「そう言われちゃあ我慢ならねーな」

「はは、沸点低いな君ら」

「今日は別の目的もありましたけど……気が変わりました、会場裏にトレーニング広場があります……そこで一本いかが?」

「ああ、オレも頼むぜ……その鼻っ面圧し折ってやるよ」

 

 ――ぶつかられた相手に急に殴られた上いきなりバトル始まった、ポケモンかよ。

 なんて思っている珱嗄だが、面白そうなのでバトル自体は受けることにした。こういう大会に来ているのに身体を動かさないのも少々損だと判断したのだろう。

 

 ただその前に、

 

「殴ったことと絡んできたことは謝れよ」

「「ごめんなさい……」」

 

 駄目なものは駄目だと教えるのは、大人の役目である。一児の父なら尚更だ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ――さて、珱嗄とやんちゃ娘二人が会場裏にあるトレーニング広場にやってきて、対峙すると、周囲にいた人々が只ならぬ空気に空間を空ける。

 トップファイターである二人の選手と、ソレに対峙する一人の見知らぬ青年。明らかに一本試合が始まるであろう緊張感に、ギャラリーも多かった。

 

 まさか選考会にきて、トップファイターの模擬戦が見られるとは思わないだろう。

 話を聞きつけてか続々とギャラリーが増えていく中で、対峙する三人は口を開いた。

 

「それで、どうする? 俺は二人同時に相手してもいいけど」

 

 両手をぷらぷらと振って軽く首を回しながら、珱嗄が言う。

 

「ほんっとにムカつくくらい自信満々だなぁオイ」

「ですが最低限の実力はあるようですわね……無防備に見えて隙がない」

「で、どうする?」

「無論、一対一ですわ……先鋒は私でよろしくて?」

「ああ、いいぜ」

 

 ハリーが下がり、ギャラリーの中に混ざる。

 残ったのは珱嗄とヴィクトーリア。

 ヴィクトーリアがセットアップすると、雷帝に相応しいダールグリュンの鎧を纏う。手には柄の長い戦斧。莫大な魔力と防御力を武器に、雷の破壊力で相手を圧倒する彼女の戦闘スタイルは、まさしく『雷帝』。

 

 だが、相手は人類の域を脱出した最強の男。

 

「ダラダラやっても仕方ないですし、5分間1本勝負、魔法射撃やバインドなしの肉弾戦のみで如何?」

「武器はありなのか?」

「武器相手では負ける、というのなら使わないで差し上げますが?」

「いや、別に武器があろうがなかろうが関係ないからいいよ」

 

 珱嗄の言葉に、またカチンとくるヴィクトーリアだが、対戦形式に文句はないと判断し、ハリーの方へと視線を送る。

 ハリーはそれに頷き、片手を上げて宣言した。

 

 

「――始め!!」

 

 

 その宣言が響いた瞬間、ヴィクトーリアは戦斧を回転させ、珱嗄の目の前まで接近する。

 

「お?」

「ハッ!!」

 

 そして勢いそのままに、下から切り上げるように戦斧を叩きつけた。

 

 ――だが、その刃は珱嗄の指先で摘まむようにして止められる。

 

「なっ……!?」

 

 完全に不意を突いた全力の一撃だった筈なのに、それが指三本で止められるなど信じられなかった。あまりの出来事に思考が停止し、ヴィクトーリアに一瞬の隙が生まれる。

 そしてその隙を逃さず珱嗄は拳を振りかぶり、ヴィクトーリアの腹へと放つ。

 避けられない、と悟った時にヴィクトーリアは受けることを決めた。

 自身の防御力を考えれば拳一発でどうにか出来るわけがないと確信していたからだ。故に、この一撃を受けてから、次にどうするかを瞬時に組み立てていた。

 

 しかし、その想定は大きく外れる。

 

 

 ―――ドゴンッッ!!

 

 

「かっ……ふ……は………!?!?」

 

 珱嗄の拳はヴィクトーリアの鎧を容易く砕き、生身の鳩尾に正確にめり込んだのだ。ヴィクトーリアの身体は吹き飛ぶことなく珱嗄の拳に持ち上げられ、その両足が地面から離れていた。ビクビクと痙攣するように彼女の身体が跳ね、口からは空気と唾液がぼたぼたと落ちた。

 ガラン、と手から戦斧も地面へと落ちていき、ガクンとヴィクトーリアの身体から力が抜ける。ギャラリーから見ても、気絶したことが明らかだった。

 

「な、ぁ、ッ!!」

 

 今度はハリーが信じられないような表情で飛び出し、珱嗄が地面に寝かせたヴィクトーリアの傍に駆け寄る。

 

「おい! お嬢様大丈夫か!?」

「気絶しただけだよ。派手な音がなったけど鎧を砕いた音だし、ちゃんと手加減したからダメージも見た目ほど酷くないから大丈夫」

「は、そ、そうか……」

 

 珱嗄の言葉に、ハリーはほっと息を吐く。

 気絶したことで鎧が解除され、先程までの私服に戻るヴィクトーリアを見て、珱嗄はハリーに視線を移す。

 

「で、どうする? 君もやるか?」

「……いや、アンタの言葉が嘘じゃないってのは十分わかった。コイツの実力はオレが良く知ってる。都市本戦や世界戦でも一撃でコイツの鎧を抜ける奴はいねぇ、ましてコイツの一撃を指で止めることなんて出来っこない」

「そっか」

 

 ハリーはヴィクトーリアをお姫様抱っこで抱え上げると、珱嗄に一つ頭を下げてその場を去ろうとする。だが、途中で思い出したように声をあげた。

 

「―――アンタの娘、大会に出てくんだよな?」

「ああ、出てるよ」

 

 珱嗄は大会には出ない、けれどその教え子が出てくる。初参加ということは年下だろうが、この男が教えているのだから弱い筈がない。才能があろうがなかろうが、確実に勝ち上がってくる実力に育て上げられている筈だ。

 ハリーはそう確信し、ヴィクトーリアの敗北に消えかけた闘志が煌々と燃え上がるのを感じた。

 

「この借りは、アンタの娘に必ず返してやる……覚えておけよ!」

「その前にトーナメントで当たると良いな」

「……覚えておけよー!!」

 

 格好良く捨て台詞を吐こうとしたのかは分からないが、珱嗄の尤もな言葉に気まずくなったのか、同じように捨て台詞を吐いて彼女は走り去っていった。

 取り巻きの少女たちがそれを慌てて追いかけていくのを見ながら、珱嗄は溜め息をつく。

 

 するとそこへ、

 

「あー! ここにいたのパパ!!」

「おぉ、ヴィヴィオ」

 

 選考会を終えたヴィヴィオたちが駆け寄ってきた。

 表情からして、珱嗄の予想通り全員勝ち抜いて来たらしい。後ろにいたノーヴェもグッと親指を立てて勝利を告げてくる。

 

「勝ったみたいだな」

「ああ、正直圧勝だったよ……」

 

 だが近くまできたノーヴェは少し疲れた様な表情を浮かべていた。

 どうやらヴィヴィオたちが珱嗄の教えでまたデタラメなことをしでかしたらしい。

 

 

 ――まぁ、それはゆっくり帰り道で聞くとしよう。

 

 




 小説家になろう様で連載しているオリジナル小説、『異世界来ちゃったけど帰り道何処?』が、とても喜ばしいことにマッグガーデン様より書籍化決定いたしました!
 皆様の応援もあってのことだと思います!本当にありがとうございます。

 今後の書籍情報やキャラデザイラストなど、Twitterの方で随時伝達させていただいていますので、よろしければ是非フォローお願いいたします!

 こいし@きつね君書籍化:@koishi016_kata
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