◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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今日も更新します!


試合が始まる

 それから一週間はすぐに過ぎ去った。

 試合当日、ヴィヴィオたちはすぐにスーパーノービスの試合を終え、全員がエリートクラスへと進出することができた。まぁ、ルーテシアやミウラは違うものの、ヴィヴィオやリオ、コロナ、アインハルトに関しては珱嗄が指導したのだ、当然といえば当然の結果にも思えた。

 そしてエリートクラスの試合も各々が順調に勝ち抜き、第二試合まで全員が突破することができた。

 

 今はその試合を終えた翌日の昼だ。

 

 だが、順調に進んでいる反面、問題もあった。

 予選の組み分けでアインハルトとコロナが予選一組になり、初戦でぶつかることが決まってしまったのだ。

 これでどちらが勝ってもチーム珱嗄のメンバーは一人脱落してしまう。

 選考を勝ち抜き、いよいよ地区予選へと進出することができたヴィヴィオたちであるが、ここまで共に特訓に励んできた仲間がここで一変、ライバルとなってしまう。

 勿論、それは全員分かっていた事だ。

 それでも仲間として、友として、また同じ競技者として、絆が揺らぐことはないと確信しているから、なんの遠慮もなく戦うことができる。

 問題は、勝者はやはり一人しかいないという現実だ。

 

 ヴィヴィオ、リオ、コロナ、アインハルト、ミウラ、ルーテシア、例えこの中の誰かが優勝したとしても、優勝者はたった一人であり、それ以外は単なる敗北者だ。

 

 それが事実で現実。

 試合が終わった翌日に、珱嗄がくつろいでいた部屋に姿を現したヴィヴィオはこう切り出した。

 

「私が優勝する、他の皆を蹴落としてでも」

「あ? うん、それでいいんじゃん?」

「パパ? 娘が一晩考えて出した決意をサラッと流さないで」

「だって結局それしかないだろ。競うってことはそういうことなんだ」

 

 ヴィヴィオは優しい少女だ。

 いつだって友達思いで、いつだってまっすぐで、いつだって真剣にやってきたからこそ、友達と戦うのは心苦しいし、まして勝ったなら心配にもなるし、その後仲良く出来るのか不安にもなる。

 

 勝負とは結局、負けた方ばかり苦しいし、つらいのだ。

 

 だが珱嗄はそんな苦悩に一晩掛けて結論を出した娘の言葉を、サラッと流した。何を当たり前のことを、と正論を述べる。

 そういうことじゃない、とヴィヴィオは頬を膨らませるが、珱嗄はおかしそうに笑ってその頬を突いた。ぷひゅーっと空気が間抜けな音を立てて出てくる。

 

「いいかヴィヴィオ、今回お前は初参加なわけだから大会経験は全くない。だからこういう感覚はあまり慣れないかもしれないけどな……負けた相手への心配とか、勝負のあとの不安とかは、お前が考えることじゃない」

「え?」

「だってそうだろ? 負けた、負かした相手への心配なんて、随分上から目線で考えてるな、お前」

「!」

 

 無自覚だったことを言い当てられた様な感覚に、ヴィヴィオは言葉に詰まった。

 珱嗄は強い、最強だ。そう確信しているヴィヴィオは、その珱嗄から幼少期よりずっと鍛えられてきた自分が、今更同年代に負ける筈がないと、何処かで思っていたのだろう。そうでなければ、自分が負けることなんて欠片も考えず、負けた相手のことばかり考えるなんてしない。

 勝負に絶対はない。絶対勝てる勝負もないし、絶対負ける勝負もない。

 

 珱嗄が最強だからといって、ヴィヴィオは最強ではない。

 

 そう、競技者であるのなら―――自惚れていけないのだ。

 

「いいかヴィヴィオ……お前は優しい子だから、力の使い方を間違えたことはない。それは俺としても誇らしく思うし、そのままのお前で成長してほしいと思う……でも、自惚れるなよ」

「っ……」

「お前の持っている力は、お前の努力が半分、もう半分は俺が与えた力で身についたものだって自覚しろ。そのデバイスも、『不知火』も、十代女子が使うような代物じゃなく、そもそも反則的な力なんだってことを、ちゃんと頭と心で理解するんだ」

 

 珱嗄は淡々とヴィヴィオの認識を正していく。

 ヴィヴィオは将来的に、『聖王のゆりかご』を改造したロストロギア級のデバイスや珱嗄の必殺技である『不知火』を十全に使いこなすことができれば、戦力的にはSSランクの空戦魔導士にも匹敵する可能性が十分にある。

 だが今のヴィヴィオはあくまで小学四年生であり、力のほとんどを持て余した未熟者だ。

 

「自分は環境に恵まれていて、親に恵まれていて、その恩恵だけで並の競技者なら打倒できる反則的なまでの幸せ者だとちゃんと理解しろ」

「……うん」

「それを理解した上で、正しく力を使いなさい。それが大きな力を使う者の責任だ」

 

 ヴィヴィオは珱嗄の言葉にしゅんとしたが、珱嗄は項垂れたヴィヴィオの頭をポンと撫でながらそう締めた。

 大きな力を持つ以上、それをきちんと使いこなす責任が発生する。ヴィヴィオのように大きな力を手に入れることで、無意識に他者を見下してはいけない。

 そんな、自分が反則的な存在であることを理解している珱嗄の言葉は、ヴィヴィオの心にズンと響いた。

 

「うん……負けた人のことを心配するのは、傲慢だよね」

「ま、その辺の精神的な未熟さは俺の教育のせいだな……なのはちゃんたちが親だったら、きっとその辺はしっかり教えただろうし」

 

 珱嗄は同じ転生者である神崎零から、原作のSts編でヴィヴィオの親になったのは高町なのはとフェイト・T・ハラオウンだったと聞いている。

 もしも自分ではなく原作通りの二人が親であったのなら、ヴィヴィオは競技者としてきちんとその辺も教え込まれていたことだろう――そう思えてしまう。

 

「そうだったかもしれないけど、私の親はパパだけだよ……パパが、私を育ててくれたんだから、そんなこと言わないで」

「……ああ、わかってるよ、っと」

 

 部屋でくつろぎスタイルだった珱嗄は、ヴィヴィオの言葉に笑みを浮かべながら立ち上がる。

 すると珱嗄の厳しい言葉に落ち込んでいたヴィヴィオの脇に手を差し込んで持ち上げた。そのまま器用に肩車へ移行する。

 

「わっ、きゃっ!?」

「わはは、俺がシリアスな空気は面倒くさく思ってることは知ってるだろ? ほら、次の試合日まで残り一週間しかないんだろ? どうせならとことん特訓しないとな」

「……もう、パパのくせに」

「良い天気だからな」

 

 珱嗄が空気を変えるように、自分が落ち込まないように振る舞ってくれているのだと気付くと、ヴィヴィオは嬉しい様な恥ずかしい様な、そんなもどかしい気持ちを隠すように、でも珱嗄の頭を抱き締めながら小さく呟く。

 

 素直な気持ちが行動に出てしまうヴィヴィオに、珱嗄は楽しげに笑った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 更に一週間が過ぎ、次なる試合日がやってきた。

 先週の試合日では、大した試合はなく、ミウラが昨年都市本戦三位入賞者であるミカヤ・シェベルを破るという大金星こそあれど、やはり始まったばかりということもあり、順当な結果が並んだ形だった。

 そして今日は、その序章戦を勝ち抜いてきた強者がぶつかる。

 

 中でも、ヴィヴィオは先週大金星を挙げたミウラとのマッチング。

 更にアインハルトとコロナのマッチングもある。

 リオに関しては、シード選抜のプライムマッチで勝ち上がってきた方と戦うことになる。対戦内容は、ハリー・トライベッカVSエルス・タスミン……どちらも昨年の都市本戦入賞者だ。どちらが上がってきても、リオにとっては強敵となるだろう。

 

 見逃せない試合は多い。

 だが、珱嗄は結果に興味はないので、ヴィヴィオの試合を見られればいいかなと考えていた。

 

「さて、今日は先週よりもしんどい試合になるかもだけど……まぁ頑張ればそれでいいよ」

 

 そんな緊張感の包み込む空気の中、珱嗄はヴィヴィオたちに声を掛けていた。というより、珱嗄の前に集まったヴィヴィオたちに試合前の一言を求められたというのが正しいが。

 

「ヴィヴィオの相手は話によるとヴィヴィオと同じ純格闘家で、強襲型の強打者(ハードヒッター)らしいから、まぁ真っ向勝負しかないかな。今のヴィヴィオなら対応できるだろうし、大丈夫だろ」

「はい!」

「コロナちゃんとアインハルトちゃんは、まぁお互い遠慮なく出し切ればいい。互いのことをある程度知っていて、対戦することも先週の時点で分かっていたわけだし、互いの対策もちゃんとしてきただろうから、あとはやるだけだよ」

「はい! 頑張ります!」

「負けません」

「リオちゃんは相手次第かな、順当にいけば多分ハリーちゃんが上がってくるだろうけど……決まり次第またアドバイスするよ」

「お願いします!」

 

 いつにもまして真面目なことを言う珱嗄に、ヴィヴィオたちは元気よく返事を返していく。ノーヴェたちが驚いたような目で珱嗄を見ているが、今回珱嗄は自分がふざけなくても面白いことになりそうだと思っていた。

 何故なら自分が鍛えたヴィヴィオたちが、初出場で大暴れする様子を見るだけでも面白そうだからだ。

 

 また、選考会の帰りに聞いたヴィヴィオたちの様子を考えても、確実に面白いことになる筈だと期待が高まる。

 

「じゃ、全員それぞれの待機室へ行くこと……俺は観戦席で見てるから、面白い試合を期待しているよ」

 

 珱嗄の言葉に、四人のやる気がぐぐっと上昇した。

 

「よーし! 皆、頑張って勝ち上がりましょう!!」

 

 するとヴィヴィオたちは円陣を組むように丸くなり、ヴィヴィオの元気な声で四人の息がぴたりと合う。

 

『おおーー!!』

 

 気合い十分、コンディションも最高、四人のテンションは試合開始の時を今か今かと待ち望んでいる。

 そんなヴィヴィオたちの姿を見て、珱嗄は楽しげに笑みを浮かべ、ふと時計を見た。

 

「さて……」

 

 

 ―――いよいよ、試合が始まる。

 

 




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 皆様の応援もあってのことだと思います!本当にありがとうございます。

 今後の書籍情報やキャラデザイラストなど、Twitterの方で随時伝達させていただいていますので、よろしければ是非フォローお願いいたします!

 こいし@きつね君書籍化:@koishi016_kata
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