◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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ハリー・トライベッカ

 そして訪れた次なる試合当日。

 ヴィヴィオ対ミウラ、アインハルト対コロナという同門、友人対決もそうだが、ここからは少なくとも強敵相手に二度勝利を収めた、正真正銘強敵の中の強敵が相手になる。

 油断は出来ないし、もっと言えば昨年の都市本戦上位選手も相手に加わってくるのだ。そう簡単に勝利を収めることはできない。

 

 そしてそれは、今から始まる試合が物語っている。

 

 ハリー・トライベッカ対エルス・タスミン

 昨年の都市本戦五位と八位の戦い。お互い顔も知っており、手の内もある程度知っている仲――その上で一年間という時間を鍛錬に費やしてきた二人がぶつかる。

 闘技場の上で、両者の登場が観客席を大いに沸かせた。

 

「……よう」

「先日ぶりですね、今年は不良生徒である貴女を成敗させていただきますよ」

「そうか、まぁ負ける気はねーけどな」

「……?」

 

 ハリーに因縁を感じているエルスは、毎度の如く挑発的な啖呵を切ったが、いつもと違ってハリーがそれに乗ってこないことに違和感を覚えた。

 よく見れば表情も佇まいも何処か物静かで、いつもの番長然とした熱がすっかり消えてしまっている。エルスはそんなハリーに対し、どこかうすら寒いものを感じた。

 

 いつもの烈火のような勢いと熱量が感じられない、にも拘らず普段以上のプレッシャーが恐ろしいほどに重い。

 

「けど最初に言っておくぞデコメガネ……今年のオレに油断はねぇ」

「……そうですか、けれど私も負ける気はさらさらありません! どんな心境の変化があったのかは知りませんが、今回は勝たせてもらいます」

「最初から全力だ、気ィ引き締めろよ」

 

 試合前の前口上は終わり、試合のゴングが鳴った。

 

『試合、開始!!』

 

 試合が始まり、二人のセットアップが完了する。

 それと同時にハリーが駆け出し、エルスに接近する。急激な突進にエルスは意表を衝かれたが、対応するために結界魔導士としての拘束魔法を展開―――だが、ハリーは更にその上を行く。

 

「らっぁあああ!! 『ガンフレイム』!!!」

 

 砲撃番長の名に相応しい高火力の魔力砲撃、おそらくは試合開始と同時にチャージを開始していたのだろう。それを突進すると同時に後方へと発射、その勢いに乗って突進の速度が急加速――ハリーはエルスの拘束魔法が展開し切る前に懐へと踏み込んだ。

 今までのハリーの戦い方は、単純に近づいて殴るという至極ストレートなものだった。それがどうだ、自身の砲撃を突撃の速度に変えるという使い方をしてくるなど、エルスにとっては予想外。

 

「そんな……!?」

「オラ、行くぞぉぉぉ! 4連!! 『バーストバレット』!!」

 

 ハリーの気合いに呼応するように、振りかぶられた拳に魔力の炎が四つ添えられ、完全に意表を衝かれてがら空きになったエルスのボディに、その拳が振り抜かれた。

 直撃――そして下から抉るような一撃にエルスの身体が宙に浮く。

 

「かはっ……!?」

「まだ終わんねぇぞ……!!」

「なっ……!」

 

 完全なクリーンヒット。

 今までのハリーならこの一撃で決まったと僅かにも気持ちが緩んでいたかもしれないが、珱嗄という強者に出会ってしまった以上、彼女には欠片ほどの油断もない。

 

 過剰攻撃と思われようが、確実に相手の息の根を止める。

 

 視界がチカチカと点滅する中でエルスは見た。ハリーは振り抜いた拳とは逆の拳を既に振りかぶっており、そこには今の一撃以上の魔力がチャージされている。

 恐るべき連撃にエルスは無意識下で防御体勢を取るが、宙に浮いた状態から地面に足が着く前に、ハリーの拳が全力で振り抜かれた。

 

「もう一発だ!! 『ガンフレイム』!!」

 

 全力の砲撃がエルスの顔面を撃ち抜く。

 同時に闘技場を抉るような破壊音が響き、エルスの身体が砲撃魔法の威力に吹き飛ばされていった。

 地面を跳ねるように転がっていき、場外の壁に衝突して止まる。

 

『く、クリーンヒットォォォ!! ハリー選手の必殺コンボが開始早々エルス選手を襲ったぁぁ!! エルス選手、場外ダウン!! これは、決まってしまったか!?』

 

 そこまでいって、観客と実況がようやく状況に追いついた。

 実況の言葉に観客が沸き、ハリーへの歓声とエルスへの心配が会場を包み込んでいく。

 

「っぷはぁ……! どうだデコメガネ」

 

 ハリーが無呼吸状態から解放されたように大きく息を吐き、その分大きく息を吸い込んで、吹き飛ばされたエルスに声を掛けた。

 すると、ガラガラと瓦礫が転がる音と共に、フラフラとエルスが立ち上がるのが見えた。ガクガクと足が揺れ、身体もフラフラと定まらない。視界も揺れているのか視線が曖昧な場所を見ている。

 

『エルス・タスミン LIFE:15000→1540 DAMAGE:13460』

 

 超高火力による大ダメージ、エルスのライフは一撃でも喰らえば終わる程に削られていた。しかも魔力攻撃による負傷の擬似再現であるクラッシュシミュレーターにより、脳震盪と肋骨骨折、顔面打撲、左半身熱傷、ボディダメージ蓄積72%というほぼ戦闘続行不可能な状況に陥っている。

 立っているのは彼女の意地か、はたまた根性か。

 

『エルス選手、開幕大ダメージ!! クラッシュ箇所も多く、立ってはいますが戦闘続行出来るのか!?』

 

 実況の言葉に、ハリーはジッとエルスを見つめる。

 油断はしないが、今の攻撃は完全に直撃であり、ライフを全て削り取るつもりの奇襲でもあった。エルスのライフが残ったのは、彼女が脊髄反射レベルで咄嗟の防御姿勢を取ったからだ。その防御が辛うじて彼女のライフを残した。

 だが意識は混濁しており、エルスの表情は苦しそうに歪んでいる。

 

「わ、た……しは……!」

「何も出来ずに負けること、競技者としてこれ以上に悔しいことはねぇ……コレは奇襲が成功したからこその結果だから、本来ならオレが負けることだってあり得るくらいお前は強い」

 

 なんとか闘技場へと戻ってきたエルスに、ハリーは静かにそう語る。

 意識はまだ揺れているが、ファイトポーズを取ることでエルスの戦闘続行が会場に伝えられた。この状況下で心が折れないエルスのメンタルは、競技者として一級品。

 

 最後まで諦めない心、それを持っていることが、強者である証。

 

「けど、オレは容赦しねぇぞ……最後の最後まで全力でいく!」

「負け、ません……!!」

 

 ハリーが駆け出し、エルスが拘束魔法を展開する。

 今度はエルスの魔法展開の方が早く、ジャラジャラと鎖がハリーの身体に巻き付いていく。しかし、ハリーは巻き付いてくる鎖を気にすることなく足を進めた。

 

 強引に、力技で、拘束力が最大になる前にエルスに一撃を加えるために。

 

「くっ……これ、で……!?」

 

 ガクン、とエルスの足が崩れ、膝を着いた。

 瞬間エルスの意識が一瞬緩み、ハリーの身体に巻き付いていた鎖もまた緩んでしまう。

 

「これで―――」

「しまっ……」

「終わりだ! 『オレ式一撃必倒パンチ』!!」

 

 バキバキと鎖を引き千切りながら放たれたハリーの拳が、エルスのボディを抉った。

 当然エルスのライフはゼロになり、気を失ったエルスの身体をハリーが支える。

 

 顔面を狙わなかったのは、後々後遺症を残さないようにというハリーの手心だろうが、エルスはすぐに担架で医務室へと運ばれていった。

 

『しょ、勝者! ハリー・トライベッカ選手―――!!』

 

 ハリーがノーダメージで勝利した姿に、観客は彼女の優勝さえ想像したのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 プライムマッチが終わったその夜。

 ハリーの試合を見たリオは、そのあまりの強さに緊張していた。無傷で勝利することの難しさは、競技者であれば容易に想像できる。

 しかも今回は都市本戦上位者同士の戦いであり、お互いに実力が拮抗している筈の試合。にもかかわらず無傷での勝利――圧倒的な実力差があるわけではなく、ハリーの作戦勝ちの結果だが、それでもそれを成立させるだけの実力と胆力は恐れ入る。

 

 次に戦う相手がそのハリーであると考えれば、リオの緊張も当然だ。

 

「ハリー選手……凄い」

「うん……」

 

 録画した試合映像を再度見て、零れるように呟いたリオの言葉に、ヴィヴィオが同様に頷いた。

 今はヴィヴィオの家で、ヴィヴィオとリオの二人が試合映像を見ていた所だ。コロナとアインハルトはお互いの試合の為に猛特訓中で、この場にはいない。何故リオが此処にいるのかと言えば、試合相手が決まったことで珱嗄にアドバイスを貰いに来たのだ。

 

「私大丈夫かな……」

「パパ……何か作戦とかないの?」

「ん、まぁハリーちゃんはリオちゃんと同種の高火力格闘競技者だからね、真正面からやり合っても互角に戦えるとは思うけど、やっぱり経験の差は埋められない」

 

 珱嗄の言葉に、リオはより不安そうな表情になる。

 

「けど、そもそもリオちゃんの長所は春光拳による多彩な攻撃手段と、高い腕力や魔力に加えて炎と雷のダブル変換気質を活用した高火力を駆使した戦闘スタイルにある」

「はい……」

「それに、今回俺が出した課題をクリアしたことで魔力操作と変換速度も向上しているからね。単純な勝率でいえば六割くらいじゃないかな? まぁ戦ってみれば分かると思うよ」

 

 珱嗄の勝率六割という言葉に、リオは驚愕の表情を浮かべる。

 今日の試合であれ程までの実力を見せたハリーに対し、リオが勝つ可能性が六割もあるというのだ。思ってもみなかった言葉に、リオは緊張も忘れて前のめりに食い付いた。

 

「な、なんでですか!?」

「まぁ単純に相性の問題だよ。ハリーちゃんの長所は高いタフネスと高火力の砲撃、堅実に積み上げられた戦闘センス……そこにはある種攻撃手段の偏りがある。俺がこの二ヶ月鍛えてきたリオちゃんなら十分対応できる範囲だ」

「な、なるほど……でも、それでも六割なんですか?」

「まぁそれだけならもっと高い勝率でもおかしくはないけれど、そこで彼女が積んできた経験が脅威になってくる。インターミドルで多種多様の選手と戦ってきた彼女なら、リオちゃんの動きにも即時対応してくる可能性も十分あるんだ」

 

 珱嗄の言葉に、リオはなるほどと頷き、やはりハリーは強敵であると再認識する。

 だが先程までの緊張とは打って変わって、珱嗄のコーチで鍛えてきた日々を思い出し、自信を取り戻した様子だった。あの珱嗄が、自分がハリーにも負けない選手であると断言してくれたのだ、これ以上に自信になる言葉はないだろう。

 

 自分の春光拳と持って生まれた才能、それがハリーという強敵にどこまで通用するのか、そう考えれば沸々と闘志も湧き上がってくるというものだ。

 

「凄いよリオ! パパは冗談は言うけど嘘は言わないから、きっと大丈夫だよ!」

「うん……精一杯やってきたもん、あとは全力でやるだけだよね! 私、頑張るよ!」

 

 リオにヴィヴィオが抱き付き、凄い凄いと興奮したように言うと、リオもそんなヴィヴィオに笑顔を浮かべて両手をグッと握る。

 やるべきことはやってきたのだから、あとは全力を尽くすだけ。

 

 そうしてリオは、明日の試合に向けて今は十分に休むべきだという珱嗄の言葉に、帰って行った。

 

「ねぇ、パパ……私はミウラさんに勝てると思う?」

「さぁ、どうだろうな」

「むぅ……」

 

 リオを見送ってから、ヴィヴィオが聞く。

 珱嗄はその問いに対して明確に勝てるとは言わなかった。絶対に勝てる試合はないし、絶対負ける試合もない。下手に断言できる問題ではないからだ。

 唇を尖らせたヴィヴィオではあったけれど……、

 

「でも、俺はヴィヴィオの父親だからな――娘の勝利を信じてるし、願ってるさ」

「……そっか」

 

 そんな珱嗄の言葉があれば、心配も不安も消えてくれた。

 

 




 小説家になろう様で連載しているオリジナル小説、『異世界来ちゃったけど帰り道何処?』が、とても喜ばしいことにマッグガーデン様より書籍化決定いたしました!
 皆様の応援もあってのことだと思います!本当にありがとうございます。

 今後の書籍情報やキャラデザイラストなど、Twitterの方で随時伝達させていただいていますので、よろしければ是非フォローお願いいたします!

 こいし@きつね君書籍化:@koishi016_kata
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