◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
大会に限らず、イベントというものは始まるまでが長く、始まってからがあっという間に感じてしまうものだ。
実際、このインターミドルも始まってから既に三回戦まで試合が進んでいた。この時点でかなりの数の競技者が敗北し、既に脱落している。残った勝者はごく僅か――闘技場に立てばルーキーも上位入賞者も関係なく対等なのだ。
そして今から始まるのは、同じチームで切磋琢磨してきた二人。
コロナとアインハルトの戦いである。
両者共にノーヴェたちのコーチの下、今日まで研鑽を積んできた。また珱嗄による指導もあって、互いに互いの実力は未知数なものへと変化している。
油断できないのは当然だが、何が起こってもおかしくはないと思えてしまうことが恐ろしいのだ。なにせ、珱嗄であれば何を仕込んでいてもおかしくないのだから。
『三回戦まで勝ち進んできたのは初参加のスーパールーキーにしてゴーレムマイスター! コロナ・ティミル選手は此処までゴーレム創成後は他を圧倒する勢いで勝利を収めています!』
闘技場で向かい合う二人、闘志は十分、同じチームだとしても勝ちを譲る気はさらさらない。
『対してこちらも初参加! 古流武術『覇王流』の使い手であるアインハルト選手は、ここまで全試合1ラウンド内でKO勝利を収めています! コロナ選手と同チームであり、同じ学校の先輩後輩でもある関係ですが、運命の試合の結果はどうなるのか!?』
実況からの紹介で観客は二人の関係性とスタイルの違いに沸きあがり、二人を取り巻く興味の渦がどんどん大きくなっていく。
視線が衝突し、互いが今日までの特訓でやり残したことはないという自信を感じとった。コンディションも、闘争心も、手札も完璧。
あとは戦ってから決まること。
全身全霊を尽くすのみだ。
「コロナさん……今日は勝たせていただきます」
「私もです……私の全部、アインハルトさんにぶつけます」
短く言葉を交わし、ゴングの時を待つ。
開幕ダッシュで一気に距離を詰め、KOを狙うことができるアインハルトと違い、コロナはゴーレムを作る隙をどう作るかが鍵となる。
そんな中で、コロナは特訓でノーヴェに言われたことを思い出していた。
「(ここぞという時に使えって言われたあの技……本当ならそうするべきなんだと思うけど、でも、だからこそ)」
コロナのゴーレム操作の延長技術、それは自分の身体への負担を無視した身体操作。
『ネフィリムフィスト』
自分の身体をゴーレムと同様に操作することで、近接格闘戦であっても戦うことができる。何せプログラムしたことであれば脊髄反射レベルで身体を動かすことができるのだから、そのコンマ数秒が先の先を確実に取る。
だがその欠陥として、肉体への負荷が高く、長時間の使用は対応も容易くなるということ。プログラムしたことへの自動迎撃は確かに神速だが、それ以外の操作は逆に動作が遅れるのだ。
純粋な近接格闘者であれば、そのコンマ数秒の隙は恰好の的。
故にノーヴェからは使用はここぞという時のみだと言われていた。
しかしコロナはノーヴェだけでなく、珱嗄にも指導を受けたのだ。彼の無茶苦茶ぶりはコロナ自身にもある程度の影響を与えている。
つまり―――
『試合、開始―――!!』
「ティオ、行きますよ……空破断で動きを止めます!」
アインハルトが速攻で距離を詰め、コロナのゴーレム創成を妨害しようと踏み込んだ。
「『ネフィリムフィスト』」
「なっ……ガッ!?」
しかしその瞬間、コロナの足がアインハルトの意識の外から彼女の顎を蹴り抜いた。
脳が揺れ、アインハルトの膝が崩れる。
「アインハルトさん……私、最近こう思ったんです」
「ぁ……っ……!」
自分の目の前で跪き、脳震盪を起こしているのか中々立ち上がれないアインハルトに、コロナは言う。
「私の長所は、戦術を組み立てる知性と発想力……そしてどんな時でも冷静さを失わない精神だと言われました。だから、それを最大限生かそうって」
「ぐ……コロナさん」
「だから、私の手のひらで転がって貰います!」
アインハルトの視界が定まり、なんとか立ち上がる。
だが、その瞬間気がついた―――コロナの背後に、巨大な影が存在していることに。
「―――!」
「叩いて砕け――ゴライアス! 『ギガントナックル』!!」
そして気がついた時には遅かった。
話している間にゴーレム創成を終えていたコロナ、創造された巨神ゴライアスの拳がアインハルトに叩き落とされた。『ネフィリムフィスト』で反撃を受けてからの巨人の一撃。
恐ろしいのは『ネフィリムフィスト』による身体操作から、ゴーレム創成、操作と魔法の変換速度が早過ぎることだ。いつ『ネフィリムフィスト』を発動し、いつ『ゴーレム創成』に入ったのかすらわからないほど、コロナの魔法操作能力が向上している。
『き、決まったー!! コロナ選手、開幕速攻を仕掛けたアインハルト選手を綺麗に迎撃! カウンターアタックに巨人の一撃がアインハルト選手を襲う!!』
会場はそんなコロナの一連の攻撃に歓声をあげ、実況の声色も興奮を隠せないようだった。
「ぐ、はぁ……!」
だが、アインハルトもただでは終わらない。
しっかりと防御を固め、ダメージを減らしていたらしい。けして少なくないダメージではあるが、二本の脚でまだ立つことができていた。
『アインハルト・ストラトス LIFE:15000→6800 DAMAGE:8200』
全てが綺麗に直撃したからか、ライフが半分以上削られてしまった。防御に使った左腕も打撲判定を受けて力が入りにくくなっている。
「(油断した……まさかゴーレム創成ではなく自分の肉体操作を使うなんて……! このご時世にこんな危険な技を使うとは思わなかったです……!)」
アインハルトも改めて気を引き締め、構えを取る。
「(かつて聖王オリヴィエも辿り着いた境地……ですが、コロナさんはそれとは全く違う……魔法の切り替え速度が尋常じゃない……私の行動を見てからでも『ネフィリムフィスト』の発動、操作が十分間に合うくらいに)」
かつて古代ベルカの戦乱において、聖王オリヴィエも使用した危険を伴う身体操作……しかしコロナの魔法切り替え速度であればその危険度も大きく緩和されているのだ。
相手の行動を見てから『ネフィリムフィスト』を発動させ、迎撃する。そして迎撃が終われば即座に魔法を切り替え、『ゴーレム創成』に入ることもできる。
迎撃の瞬間にのみ使用される身体操作であれば、自身への負荷はほぼ皆無。
寧ろ容易に接近戦を仕掛ければ、先程のコンボで簡単にライフを削り取られてしまう。珱嗄によって魔法操作能力が向上させられたコロナだからこそ、辿り着いた境地だ。
「まだまだ行きますよ! ゴライアス!」
「ですが、私もまだここからです!」
ゴライアスの肩に乗ったコロナの操作で巨人はその巨大な身体を動かす。腕の一振りで強烈な一撃を繰り出せるゴーレムは、攻撃範囲も含めて脅威的だ。
だがアインハルトはその身のこなしでゴライアスの攻撃を次々と対応し、捌いていく。巨大な拳を時には受け流し、躱し、反撃のチャンスをうかがっていた。
そして、反撃の為に拳が地面を叩いた瞬間、その上へと飛び乗る。
「(ゴーレムではなく、術者本人を叩く!)」
狙うはコロナ本人。
巨大なゴーレムを破壊するには骨が折れる以上、術者本人を叩く方が余程効率的だ。
だが、コロナの目の前まで迫った瞬間、
「『ネフィリムフィスト《虎砲》』!」
「なっ……!?」
ゴーレムを操作しているにも拘らず、コロナは身体操作を使い、アインハルトのボディを両手の掌底で撃ち抜いた。突進の勢いが殺され、反動で動きの止まるアインハルトの胸倉を掴み上げ、そのまま背負い投げの要領で地面へと叩き落とす。
ゴーレムと同時操作などそんな超高等技術を、小学四年生であるコロナが使うなど――そう思ったアインハルトだったが、それは間違っていた。
コロナは同時操作をしたわけではない。
『コロナ選手のカウンターが決まったー!!! だがゴーレムとの同時操作でしょうか、これは凄まじい魔法制御……いや、違います!』
そう、コロナが地面にアインハルトを叩き付けたと同時、ゴライアスが自壊を始めたのだ。
実際、コロナはゴーレムの制御を手放し、自身の肉体操作へと切り替えたのだ。だがゴーレムが崩壊する前にアインハルトへカウンターを入れただけ。
落ちていく自身の身体を制御して上手いこと着地するコロナだが、アインハルトは自壊したゴーレムの破片が雪崩れ込み、生き埋めになってしまう。
「『ロックバイント』!」
更にはその隙を塗ってアインハルトの身体をバインドで拘束するコロナ。それと同時にゴライアスが更に創成された。
「これで終わりです――『ギガントナックル』!!」
「まだ、です!!」
振り落とされたゴライアスの拳に対し、バインドを跳ねのけたアインハルトの拳が迎え撃つ。溜めも不十分、体勢も不十分な状態で放たれたアインハルトの拳は、一見無謀にも思えたが、
「はぁ、あああああああ!!」
「そんなっ……!?」
その拳はゴライアスの拳を砕き、巨人の右腕を吹き飛ばした。
「あの体勢からなんて威力……どうやって!?」
「はぁ……はぁ……」
『アインハルト・ストラトス LIFE:6800→2450 DAMAGE:4350』
アインハルトのライフはギリギリだが、まだ彼女は何も手の内を見せていない。
たった今放たれたソレは、見た目こそ違ったがまさしく覇王流『断空拳』だった。本来なら打ち下ろしでしか使えなかったアインハルトだが、珱嗄の指導により彼女の断空拳はその完成度を大きく向上させていたのだ。
彼女は『不知火』を習った際のことを活用し、遠心力や重力、自身のバネ、そういったあらゆる力を利用することで、どんな体勢でも断空拳を放つことができるようになっていた。
今の彼女は拳、突き、掌底、蹴り、肘打ち、膝、どの部分でも断空を放つことができる。近接戦闘において、どこからその必殺が飛び出してくるかわからないというのは、相手にとって致命的な判断ミスを誘うことになる。
ほぼ初見殺しなその技だが、今回はコロナの頭の回転が早かったこともあり、防御に使わざるを得なかった。
「ですが……次は必ず当たります」
「まさか……!」
ドン、という地響きすら感じさせる震脚と同時、アインハルトから膨大な量の魔力が、波動となって溢れ出した。
これはまさしく、珱嗄の教えた『不知火』の待機状態。鞘に収められた刀を、抜刀術で抜こうとしているかのような鋭く重く、大きな威圧感。
コロナはこの技の仕組みを知っている。
けれど魔法を使う者として、アインハルトから放たれる圧倒的な魔力の波動とプレッシャーを無視することができない。
そして――
『アインハルト選手が消えた―――!!』
実況も含め、全ての観客の目からアインハルトが消失し、
「――『不知火:迦楼羅』!!!」
「がっ……ぁ……ハッ……!?!?」
気付けばコロナの鳩尾を、アインハルトの拳が撃ち抜いていた。
くの字に曲がって、両足が地面から離れたコロナは、突然訪れた強烈な衝撃に、声も出ず、身体中から空気が吐き出されるのを感じる。メキメキと全身の骨が悲鳴を上げ、内臓が掻き回されるような不快感を感じた。
痛みと吐き出した空気を置き去りにするように体が吹き飛ばされ、場外へと飛んでいく。そしてズガン、という大きな音と共に壁に衝突して止まった。
「ぅ……げ……おぇえッ……!!?」
意識はあるが、蹲るようにして嗚咽を漏らすコロナ。
未だに内臓がぐしゃぐしゃになったような不快感と揺れる視界の気持ち悪さに、ついには胃の中のものを吐き出してしまった。
クラッシュもシミュレーター故に人体には最低限配慮されているが、感じている痛みやダメージは本物だ。あまりに強烈なダメージを一度に貰えば、吐いてしまうことも十分にあり得る。
立ち上がれないコロナの意識を無視して、場外ダウンのカウントが鳴り響く。
『コロナ選手場外ダウン――!! 続行は不可能か!?』
本来なら続行は不可能。
珱嗄から伝授された必殺の拳、如何にアインハルトがまだ未熟とはいえその威力は直撃なら十分すぎるレベルだ。
しかし、コロナには戻ってくるための魔法があった。
『コロナ選手、戻ってきたー!! あの一撃を喰らって、続行可能なのか!? なんという精神力!!』
「ネフィリム、フィスト……」
「コロナさん……そんな……」
身体操作を使って、身体のダメージを無視した続行。
意識は朦朧としており、身体の震えも止まっていないにも拘らず、彼女の身体は残酷な前に綺麗な構えを取った。
『コロナ・ティミル LIFE:15000→390 DAMAGE:14610』
ライフもギリギリで、最早勝ち目はない。
にも拘らず続行するのは、何故なのか――それをアインハルトには理解できなかった。
だが、セコンドについていたノーヴェはそれを良しとしない。
『おおっと此処でセコンドからタオルが投げられました!! 試合終了です!! 勝者! アインハルト選手ーー!!』
限界を迎えているコロナに、これ以上のダメージは選手生命に関わると判断したノーヴェが試合を終わらせる。アインハルトも安堵の息を漏らし、構えを解いた。
そしてすぐにコロナの傍へと歩み寄り、肩を貸そうとした時、
『おおっと!? コロナ選手、アインハルト選手に攻撃!? 試合は終了したというのに、どうしたことでしょうか!?』
「コロナさん!? なにを……?!」
「―――」
コロナは試合終了の声が聞こえていないのか、気を失ったまま拳を振るっていた。アインハルトが居ない方向に向かって、よろよろと歩き、『ネフィリムフィスト』で悲しいまでに鋭い拳を。
それに気がついたアインハルトは、泣きそうになりながらもコロナの首を手刀で叩き、強制的に動きを止めた。魔法が解除され、コロナの身体がガクンと落ちる。
気を失ってでも戦おうとしたコロナ、そして自身の痛みを無視した『ネフィリムフィスト』の残酷さを目の当たりにして、アインハルトはとても胸を痛めた。
「コロナさん……平和な世界を生きる優しい貴女に、この魔法は危険すぎます」
コロナの身体を抱え上げ、救護室へと運ぶアインハルトだったが、その勝利は少しだけ悲しかった。
小説家になろう様で連載しているオリジナル小説、『異世界来ちゃったけど帰り道何処?』が、とても喜ばしいことにマッグガーデン様より書籍化決定いたしました!
皆様の応援もあってのことだと思います!本当にありがとうございます。
また発売日も決定し、12月10日に発売となりました!
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こいし@きつね君書籍化:@koishi016_kata