◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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ヴィヴィオVSミウラ

 珱嗄がコロナとアインハルトを連れて練習場であれやこれやしている最中、試合は着々と進んでいた。

 『雷帝』ヴィクトーリアは聖王協会のシャンテに対して秒殺を決め込んで勝利したし、無事に四回戦へと駒を進める人間が揃ってきている。

 

 そして遂に、ヴィヴィオとミウラの戦いが始まろうとしていた。

 珱嗄の姿がないのは、ヴィヴィオも気がついていたし、セコンドにはコロナを叱った後に駆けつけてくれたノーヴェがいるから問題ない。だがほんの少し残念そうでもあった。

 折角ここまで来たのだから、どうせなら父親に見てもらいたいと思うのは、娘として当然の感情だろう。

 

 だからか、闘技場に上がり、ミウラと対面するヴィヴィオの表情は少し浮かない。

 

「ヴィヴィオさん……? 大丈夫ですか?」

「あ、いえ! 大丈夫です! ちょっと、見てほしい人がいなかったから残念だなって思っただけなので」

「そ、そうですか」

 

 お互いギクシャクしながらも、試合は別だと切り替える。

 バリアジャケットを展開し、準備は万端――あとは試合開始を待つばかりだ。

 

 珱嗄は見ていないけれど、それでも珱嗄は娘を無下に扱っている訳ではないことを知っている。ヴィヴィオは珱嗄が試合の途中でもちゃんと見に来てくれると信じている。

 

『それでは予選四組三回戦! 泉ヶ仙ヴィヴィオ選手対ミウラ・リナルディ選手の対決です! 此方も新人同士の組み合わせですが、今大会のルーキーたちは一様にレベルが高いです! この二人も初戦、二回戦と順当に勝ち進み、ミウラ選手に至っては上位選手であるミカヤ選手を打倒するという大金星をあげております! 注目の試合です!』

 

 実況のアナウンスに、会場のボルテージもぐんぐん上がっていくのを感じる両者。それに反比例するように精神は落ち着いていき、集中力も高まっていく。

 

『試合、開始です!』

 

 ゴングが鳴り響き、試合開始を二人が自覚した瞬間。

 

「ジェットステップ―――」

「!?」

 

 ヴィヴィオが高速の歩法でミウラの懐まで踏み込んでいた。

 それだけならまだミウラも反応出来ただろうが、ヴィヴィオは更に魔力を開放する。一気に膨大な量の魔力が両者を包み込み、ミウラは一瞬強大な攻撃がくると身体を硬直させてしまった。

 

 しかし、それこそヴィヴィオも思い通り。

 

 膨大な魔力の波動は一瞬にして霧散し、ミウラはその反動でヴィヴィオの姿を見失ってしまう―――そう、これは紛れも無い『不知火』の前兆。

 前回のアインハルトが使って見せたことでミウラもそれを理解した。だが一回見失ってしまえば確実に動作が遅れてしまう。

 

「『不知火:連覇』!!」

 

 アインハルトの迦楼羅に比べれば威力は落ちるが、それでもあからさまな隙を突ける以上溜めがしやすく、その拳は集束砲(ブレイカー)に匹敵する威力になっている。これほどまでに早く魔力を集束できるのは、ヴィヴィオのデバイス《セイクリット・ハート》が規格外だからだ。

 聖王のゆりかごをそのままデバイスにしたことで、魔力炉から無限に供給される魔力がノータイムで使えるのだ。勿論大会の規定に違反しない程度に使える魔力量に制限は付けてあるけれど、魔力を練るという工程を除外して魔法を展開できるというのは大きなアドバンテージだ。

 

 ヴィヴィオの踵がミウラの後頭部を蹴り抜き、前のめりに倒れそうになるミウラの足を払い、頭を掴んで地面に叩きつけ、反動で持ち上がったミウラの両足を掴んで持ち上げると、そのまま振り回して地面に叩きつける。反動で空中にバウンドしたミウラのボディにに膝を入れ、更に持ち上がったミウラの顔を全力で殴り抜く。

 

 計五連撃――珱嗄のように十連撃とまではいかないが、現在ヴィヴィオができる最高連撃。

 

 その叩き付けに関しては通常攻撃に相当するだろうが、拳や蹴りに関してはその全てが集束砲(ブレイカー)級の攻撃。しかもほぼ全てが直撃だ。

 完全な初見殺しであり、『不知火』の前兆として使う魔力も接近して二人を包む範囲で使い、かつ猫騙しのように一瞬の展開にすることで最小限の魔力消費に抑えている。

 

『き、きまったー!!! 開始6秒で鮮やかな連撃がミウラ選手を襲います! たまらずダウン―――!!』

 

 ミウラはその連撃に強烈なダメージを負い、なんの抵抗も無くダウンを取られてしまう。

 

『ミウラ・リナルディ LIFE:15000→1210 DAMAGE:13790』

 

 意識を失っているのか、立ち上がる様子もなかった。

 ヴィヴィオは油断はしないとばかりに構えを解かず、倒れ伏すミウラを見下ろしていた。審判のカウントが始まり、ミウラの様子を伺う。

 

 1、2、3、4……

 

 カウントが進み、会場には緊張感が走り出す。

 ミウラは前回の試合で上位選手を打倒したスーパールーキーだ。その実力は誰もが認めているし、今回も何かやってくれるに違いないと期待も大きかった。

 対してヴィヴィオは此処まで無難に勝ち抜いてきているものの、特に相手も上位選手ではなかったし、目立つことはない選手だった。それがどうしてか、ミウラを開始数秒で沈めてしまった。

 

 この時点でヴィヴィオという少女に対する認識は、たんなる新人という域を脱している。

 

 5、6、7、8、9……

 

 カウントが進み、セコンドにいたヴィータやザフィーラがミウラに声を掛けて起こそうとするが、ミウラはピクリとも動かない。

 

 そしてヴィヴィオが構えを解いた瞬間。

 

 10!

 

『立ち上がれない……!!! この試合、勝者――泉ヶ仙ヴィヴィオ選手!!! 開始6秒でミカヤ選手を打倒した超新星ミウラ選手を沈めてしまった!! 一体何者なんだーー!!?』

 

 ヴィヴィオがミウラの下へと近付き、身体を起こすと、ミウラはようやく目を覚ましたのかぼーっとした目でヴィヴィオを認識する。

 

「!? ヴィ、ヴィヴィオさん!? し、試合は!?」

「えへへ、私の勝ちです」

「あぅ……そ、そうですか……」

 

 ハッと我に返ったように試合のことを思い出したミウラだったが、時既に遅しだったと知ってがっくりと肩を落とす。

 何もできなかったことは悔しいが、元々初見で対応できる実力が自分に無かったのが悪い。ヴィヴィオが自分よりも強かっただけの話だ。

 

 ミウラが素直に賞賛したくなるほど、ヴィヴィオの攻撃は鮮やかだった。

 

「ヴィヴィオ、そいつはこっちで預かるよ」

「ヴィータさん!」

「大丈夫か、ミウラ……っしょっと」

「あはは、すいません……負けちゃいました」

 

 そこへセコンドにいたヴィータとザフィーラがやってきて、フラフラのミウラに肩を貸して、支えていたヴィヴィオから預かる。

 

「良い試合っていうには速攻すぎたが、正直驚いたぞヴィヴィオ」

「えへへ、パパが教えてくれましたから」

「珱嗄な……ったく、反則にもほどがある親子だ」

「ヴィヴィオさん、次は負けません……またよろしくお願いします!」

「こちらこそ! 楽しみにしてます!」

 

 珱嗄の存在に呆れるヴィータだったが、ミウラはヴィヴィオに対して尊敬をもって挨拶する。試合が終われば、敵ではない――そんな競技者としての精神が、ミウラにはしっかりと教えられているのがよく分かる言葉だった。

 だからヴィータもそれを受けて笑顔で返すことができたし、ミウラが伸ばした拳に対してこつんと拳を返すことができた。

 

 競技者として、ミウラほど理想的な人間もいないと思える程だ。

 

 そしてヴィヴィオが連れられて行くミウラを見送り、自分も闘技場を下りようと振り返った時、その視線の先、セコンドであるノーヴェの隣に珱嗄の姿を見つけた。

 

「!」

「よ、ヴィヴィオ、見てたぞ……よくやったな」

「パパ!」

 

 喜びのあまり大人モードが解除され、ヴィヴィオは珱嗄に向かって駆け出し、その胸に思いっきり飛び込んだ。珱嗄はそんなヴィヴィオを受け止め、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。見てほしい人に、ちゃんと見て貰えたということがヴィヴィオには嬉しかったのだ。

 

 ほんの6秒の試合ではあったけれど、それでも珱嗄に教わった最大の技を綺麗に決め、勝利した姿を当の本人に見てもらえるなど、これ以上に嬉しいこともないだろう。

 ヴィヴィオにとっては、これは親子で作り上げた勝利なのだ。

 

「さ、次はリオちゃんのプライムマッチがあるからな……さっさと戻ろう」

「うん!」

 

 そういって珱嗄にだっこされたまま控室に戻っていくヴィヴィオ。その姿は年頃の少女のもので、先程まで闘技場の上にいた人間と同一人物に見えないほどあどけない。

 

 しかし観客にとっても珱嗄にとっても、その姿はやはり微笑ましく、それでいいのだと思えてしまうほどに幸せな親子の形がそこにあった。

 

 

 ◇

 

 

「ちょっと待ちな」

「!」

 

 控室に戻る最中、珱嗄のだっこから降りて隣を歩いていたヴィヴィオは、不意に掛かった声に足を止めた。

 通路の横に立っていたのは、ハリー・トライベッカ。

 この後リオと対決する予定の上位選手が何故、と思うヴィヴィオだが、ハリーの視線が珱嗄に向かっているのを見て、なんとなく事情を察した。

 

 つまり珱嗄がまたなにかやったのだ。

 

 隣に立つ自身の父親にジト目で視線を送るヴィヴィオだが、珱嗄は何処吹く風で飄々とした表情を浮かべている。

 

「よぉ……そいつがお前の娘か?」

「そうだけど」

「そうか……いきなりすまねーな、オレはハリー・トライベッカだ……よろしくな、ヴィヴィオ、だったか?」

「あ、はい! 泉ヶ仙ヴィヴィオです! お会い出来て光栄です!」

 

 ハリーから突然声を掛けられて、慌てて頭を下げるヴィヴィオ。

 そんな彼女の姿に、本当に珱嗄の娘なのかとヴィヴィオの良い子さ加減に驚くハリーだが、良い奴ならそれに越したことはないと切り替える。

 

 先程の試合、ハリーも勿論見ていた。

 珱嗄がセコンドで現れたのもそうだが、元々研究熱心でもある彼女は全試合をしっかり見ているのだ。そしてヴィヴィオの試合を見て確信した――珱嗄の娘であると。

 

「さっきの試合、凄かった――けど、お前にはなんの恨みもないが、個人的にそこの奴にリベンジしてぇんだ……だから、お前とやる時は全力でやらせてもらうぜ」

「えっと……試合なら全力でやるのは当然なのでは……?」

「……うるせぇ!」

「ご、ごめんなさい!」

 

 ドシリアスな空気でヴィヴィオに宣戦布告するハリーだったが、ヴィヴィオの正論にただそう返すしか出来なかった。

 同時に再度確信する。シリアスな相手に素でおちょくるような発言をぶち込んでくる感じが、まさしく珱嗄の娘だと。しかも無自覚なのが余計に性質が悪い。

 

 とにかく、と咳払いをしつつ話を戻すハリー。

 

「お前はオレが倒す! 首洗って待ってな!」

「えと、まずはリオに勝たないと私とあたらないですけど」

「うるせぇなぁ!! こういうのは黙って受け取っておけよ! どうしてお前ら親子は人の神経逆撫ですんだ!」

「ご、ごめんなさい!」

「ったく! とりあえず、言いたいことは言ったから! じゃあな!」

 

 ぷりぷりと怒りながらハリーは大股に去っていく。

 ヴィヴィオは怒らせてしまったとおろおろするも、珱嗄は逆にコントみたいで面白がっていた。現に堪えたようにくつくつと笑っている。

 

「はぁ……それはともかく、パパ、ハリー選手になにしたの?」

「ん? 絡んで来たから返り討ちにした」

「なにしてるの」

「だって絡まれたから、降りかかる火の粉を払っただけだぞ?」

「実力と年齢とモラルを全部無視した行動やめてよ、恥ずかしいなぁ」

「ごめんごめん」

 

 ハリーが姿を消して、また控室に向けて歩き出した二人。

 娘がグチグチと父親に説教し、父親はそれを笑いながら受け流す。そんな親子のやりとりは、控室に着くまで続いた。

 

 




ミウラ好きのみなさんすいません。



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 皆様の応援もあってのことだと思います!本当にありがとうございます。

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 今後の書籍情報やキャラデザイラストなど、Twitterの方で随時伝達させていただいていますので、よろしければ是非フォローお願いいたします!

 こいし@きつね君書籍化:@koishi016_kata
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