◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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食事会

 トーナメントが進み、ヴィヴィオのチームで残ったのはヴィヴィオ、アインハルト、そしてまだハリーとの試合を残しているリオの三人だ。

 ヴィヴィオとアインハルトは、珱嗄の修行によりおそらく十代女子の中でもかなり上位の実力をつけることが出来ている。この結果もまぁ妥当なものだろうと珱嗄自身は思っているし、この後の試合もきっと上位選手たちと互角に戦うことはできるはずだと考えてはいる。

 

 けれど、それでも優勝はできないことも確信していた。

 

 何故か。

 ヴィヴィオやアインハルトの二人、いや、二人だけでなくリオや敗北してしまったコロナにも当てはまることだが、彼女達はそもそも今大会が初めての公式戦であり、その経験値は圧倒的に不足しているからだ。

 いかに珱嗄とスパーリングを繰り返していたからといって、いかに密度の濃い練習を続けてきたからといって、練習はやはり練習だ。自身の予測以上のことは起こらない。

 

 本番では、相手は相手の思考で動くのだ。

 当然、自分では予想していないことが起こる。知らない技、知らない魔法、知らない動き、知らない実力、知らない作戦――――そして、知らない相手の過ごしてきた時間。

 上位選手たちは、またこの公式戦に何度も出場している選手たちは、そういったものがあることを知っているし、そういったものが勝敗を大きく変えることも思い知っている。

 だからこそどう成長してくるのかを出来る限り予想するし、敗北させられたものに対してどう対応するか自信を磨いてくる。

 彼女達は、そうやって自身の幅を広げてきたのだ。

 

 大してヴィヴィオたちは初出場。

 実力はあっても経験は浅く、相手のことは知っていても実体験はない。故に彼女達にできたのは、己に合ったスタイルを見つけ、それを伸ばし、それを活かす作戦を練ってくることだけ。

 それでここまで勝ち上がってきたのだから確かにそれは凄いことだ。

 

 けれど、

 

 それだけで勝つことが出来る程上位選手は甘くはない。

 

『ハリー選手の怒涛の攻撃!! リオ選手、防戦一方です!』

「ぐっ、くっ……!」

「オラオラァ! 守ってばっかじゃ、勝てねーぞッ!!」

 

 試合が開始されてから、リオの春光拳はハリーに対して有効打を与えてはいた。けれどヴィヴィオの試合を見て影響されたからか、ハリーの集中力が普段の試合以上に研ぎ澄まされており、その悉くが対応されたのだ。

 直撃はなく、大ダメージも与えられない。

 ハリーから放たれる言葉はいつも通り苛烈だが、その瞳の奥に冷静に状況を把握している領域があると、リオには感じられた。

 

 無意識なのか、それとも意図的かハリーの動きや攻撃に、不利な状況へと誘導されてしまう現状。リオは焦っていた。

 珱嗄には互角に戦えると言われていたし、事実なんとか防御にリソースを割いて凌いでいるのだから戦えてもいるのだろう。

 

 けれどハリーの放つプレッシャーに、競技者としての執念というか、凄みを感じてしまう。自分とは圧倒的に違う、厚みを。

 

 だからこそ、そんな圧に経験のなかったリオは気持ちで負けてしまったのだろう。

 そうして出来た一瞬の隙が、リオを敗北へと追い込んだ。

 

 追い込まれた先でハリーの生み出したバインドに身体を拘束され、遠隔操作砲撃による超火力攻撃を直撃で喰らってしまった。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

「……!」

 

 結果、ライフを削り切られたリオは敗北。

 ハリーのライフも小まめな反撃で三分の二以上削ってはいたのだが、直撃はさせられないという結果に終わってしまったのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 そして全ての試合が終わって、四回戦以降は別日となったこの日。

 ヴィヴィオたちは回復も済み、試合前と同じ万全の状態で帰路についていた。

 珱嗄が保護者として付き添い、ヴィヴィオたち四人を送っている。

同じ学校に通う以上家は近いのだ、それぞれの家へと送り届けるくらいは大した労力ではない。

 

 リオやコロナは敗北してしまったので若干暗い顔をしているけれど、それでも自分の全力は尽くすことが出来たし、何故負けたのかも分かっているからか苦しそうではなかった。ヴィヴィオとアインハルトはそんな二人の様子に少し心配そうにしているが、二人が此処で折れてしまうような人ではないと知っているからか、声を掛けることはしない。

 少し気まずい沈黙の空気の中で、四人は並んで歩いている。

 

「……」

 

 珱嗄はそんな四人の後ろを歩きつつ、その空気感を感じとって気付かれない程度の短い溜息を付いた。すると、不意に時間を確認し始める。

 

「十七時半か……まぁ早いけどいいか」

「え?」

 

 そしてぽつりと呟いた珱嗄の言葉に、ヴィヴィオたちは気まずさから逃げるように足を止めた。振り返って珱嗄を見る四人、その視線を一身に受け止め、珱嗄はふと笑みを浮かべる。

 

「ご飯食べに行こう」

「え、でも……」

 

 珱嗄の言葉に、ヴィヴィオは心配そうにリオとコロナを見た。

 けれど当の二人はそんな視線を受けて心配させていたことに気がつき、落ち込んでいた表情をコロッと変えて心配させないように苦笑してみせる。

 気まずさが霧散するように晴れて、ヴィヴィオはコロナとリオに近付き手を繋いで笑った。

 

「えへへ、ごめんねヴィヴィオ……私たちは大丈夫だよ」

「うん、すごく悔しいけど……でも、次はきっと勝てるように頑張る」

 

 二人がそう言ってヴィヴィオの手を繋ぎ返し、そのまま包み込むようにヴィヴィオを抱き締めた。

 

「うん……うん! 二人とも、すっごくいい試合だったもん、私も負けてられないって思ったよ」

 

 そんな三人の姿を見て微笑むアインハルト。

 

「アインハルトちゃんは混ざらなくていいの?」

「いいんです、あの三人の友情は尊いものだと思いますから」

「ふーん、まぁ後々アインハルトちゃんももみくちゃにされると思うけどね」

「それはそれで尊いので良いんです」

「アインハルトちゃん、俺と関わってから結構変わったよね」

「今更です」

 

 珱嗄の言葉にアインハルトはとても満足そうな表情を浮かべている。

 ヴィヴィオたちの姿を見ていいものを見ましたとばかりに良い表情をしていた。珱嗄はそんなアインハルトの姿にハハ、と軽く笑う。

 

 そしてヴィヴィオたちがお互いから離れてから、珱嗄は口を開いた。

 

「今から食事会を開くから、皆でちょっとした中打ち上げするよ」

「食事会? この五人で?」

「いや、もっといっぱい人呼んでる」

「?」

 

 人を呼んでいるという珱嗄の言葉に首を傾げる四人だったが、珱嗄が指を鳴らすと同時に大きな魔法陣が展開され、五人を包み込む。

 驚愕に目を見開く四人だったが、これが転移魔法だと気付いた瞬間――視界が光に包まれて何も見えなくなった。

 

 

 ◇

 

 

 転移した四人の目に次に飛び込んできたのは、広い空間に用意された色とりどりの料理や、綺麗に配置された大きなテーブルと椅子たち。煌びやかな装いがなされている部屋の装飾はあまり目にすることのない高級感を醸し出していた。

 

 あまりに馴染みのない空間に萎縮してか、四人とも珱嗄に近づいて緊張し始めた。

 

「パ、パパ、ここ本当に私たちが居て大丈夫なの?」

「ん、予約したからね……多分そろそろ他の皆も来るんじゃないか?」

 

 珱嗄がそう言うと、近くにあった大き目の扉が開いてその向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「あ、ヴィヴィオさん! お早いですね!」

「み、ミウラさん!?」

 

 声と共に駆け寄ってきたのは、ヴィヴィオと対戦したミウラ。その後ろからは八神はやてとその家族であるヴォルケンリッター達がいた。ぞろぞろと人が増え、八神一家に遅れるように、なのはとフェイト、元機動六課のフォワードの面々もやってくる。

 ノーヴェたち元ナンバーズや聖王協会の面々も姿を見せ、ヴィヴィオも数回した会ったことのない神崎零まで現れた。

 

 そうして人が増え、広い空間は一気に顔見知りの面々で埋め尽くされていく。

 

「パパ、こんなのいつ用意したの?」

「ヴィヴィオたちが試合やってる間にちょちょっと」

「えー……」

 

 珱嗄はヴィヴィオたちが試合をやっている間に、分身魔法を使って一人は観戦し、一人は色々と手配して回っていたのだ。

 全員が持っていた今日一日の書類仕事を分身という数を使って全て終わらせ、必要なら解決にあたっていた事件を幾つか解決し、なんなら犯人も証拠ごと何人か確保してくるという力技で全員に時間を作らせるという無茶苦茶であるが、その甲斐あって全員がこうして食事会にやってくることが出来た。

 

 ヴィヴィオはそこまで予想は出来ないけれど、また珱嗄が無茶苦茶したんだろうと思ってガクリと肩を落とす。

 

「またパパは……」

「此処にいるのは全員俺が関わってきた人間だよ」

「!」

 

 四人は珱嗄の言葉に興味を持ったのか集まってきた人々を見る。

 

「挫折を経験した奴もいるし、無茶した奴もいるし、俺以外になら負け知らずの奴もいるし、悲劇を経験した奴なんて腐るほどいる……皆何かしらの苦悩を乗り越えてきた奴らだよ」

「……」

「だからヴィヴィオたちの抱える平和的な悩みくらいなら、なにかしらの答えをちゃんとくれると思うぜ――訊いてみなよ、あいつらの話」

「パパ……」

「そんで飯を食いなよ。そうやって色々感じて、自分らしく強くなればいいんじゃないか?」

 

 珱嗄は今日までの試合で、勝っても負けても何かしら自分なりの壁や問題を持って帰ってきたヴィヴィオたちに、手っ取り早くヒントを与えるためにこれだけの人を集めたのだ。

 珱嗄が教えていなかった、競技者としての真っ当な精神を獲得するためには、きっと珱嗄ではなく、真っ直ぐに戦ってきた彼ら、彼女らの方が向いていると思って。

 

 珱嗄が食事会の開幕を宣言し、各々が食事を楽しみながらワイワイ盛り上がる。

 といっても、ヴィヴィオたちに色々話をしてやってくれという珱嗄の考えは伝わっているので、全員ヴィヴィオたちに好意的な姿勢で話をしようと受け入れ態勢を整えている。

 

 そしてヴィヴィオたちが珱嗄の下から離れて話を聞いてみたい人の下へと歩いていこうとすると、珱嗄はそういえばと思い立ったように声を掛けた。

 

 

「そうそう、恋愛絡みのことは訊くなよ! その辺は皆なんもわかんねーと思うから!」

 

 

 その言葉の先、ヴィヴィオたちはよく覚えていない。

 

 ただ、『セットアップ』の大合唱と珱嗄の下へと飛び掛かっていく大量の人影だけは、強く頭に残っていた。

 

 

 




※この後お話は色々聴くことが出来ました。 ヴィヴィオ


次回で最終回にする、予定です(?)





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