◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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四人目

 さて、ページも埋まり、はやてを救う為の段取りが全て整った翌日。俺は休日で、今日にもはやてを救う事の出来るという朝を迎えた。守護騎士は、全員その時が待ち遠しいのか早朝4時から俺を起こし、機嫌を損ねた俺によって強制的にザフィーラ以外全員ソファーに沈んだ。そして、俺は引き続き眠ったのだった。

 

 俺が次に目覚めたのは、朝の7時頃。すっかり習慣になってしまった起床時間に、ひとつ欠伸が出た。ソファーに転がる守護騎士を全員起こして、俺は今日の事を話そうとする。

 

「今日ははやてを救う魔法を行使する訳だが―――?」

 

 不意に、はやての部屋から響く鈍い音、何か重い物が床に落ちた様なそんな音が聞こえてきた。嫌な予感が膨れ上がり、駆けだす。急いで2階に昇り、後ろから追いかけてくる守護騎士達を気にせずにはやての部屋へと駆けこんだ。

 そこには、床に倒れて胸を抑えるはやての姿。ソレが示す事は―――

 

 

 ―――麻痺の侵食の末期症状

 

 

 思ったよりも早くはやての身体を侵食していた闇の書の魔力。それは、バグによる守護騎士達の判断能力の低下や本人であるはやてがその痛みを隠してきた事による物。この状況まで気付く事の出来なかった失敗。

 

「っはやて!」

 

「ぅぐっ……ぅぅ……!!」

 

 はやてを抱え上げ、後から来たヴィータ達に救急車を呼ぶ様に指示を出そうとして、止める。十数分後に来る救急車を待つよりも、自分で病院へ連れて行った方が速いと判断したからだ。

 そうして、はやてを救う暇もなく、病院へと駆けこんだのだった。

 

 そして、この事態を皮切りに俺達の計画は様々な邪魔によって崩壊する。そう、これまで俺達の邪魔をして来た管理局や仮面の男、そしてこれまで現れていなかったあの三人以外の最後の転生者による干渉によって―――

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「まったくもう、皆大袈裟や。ちょっと胸が攣っただけやのに……」

 

「……まぁお前がそう言うのならいいけど……」

 

「はやて……」

 

 完全に闇の書の影響なのだが、はやてはそう言ってごまかした。おそらく、全員が闇の書の影響という事に気が付いている事を知っててそう誤魔化しているのだ。はやてにも、この救出作戦を行なうに当たって全ての段取りを話しているのだから。

 ヴィータが心配そうな声を上げ、はやてがヴィータの頭を撫でているが、その表情には若干の苦悶が感じられた。よくよく見れば気付けた変化を見逃していた事は既に諦めている。侵食が此処まで進行しているのは事実なのだ、過ぎた事を悔やんでも仕方ない。

 

「さて、それじゃあ俺らはそろそろ帰るよ。無理させるのも良くないしな」

 

「! ああ、そうだな。ヴィータ行くぞ」

 

「ああ、はやてまたお見舞いに来るからな!」

 

「うん。またな」

 

 そう言って、はやては笑顔で手を振る。病室の扉を閉めて、俺達はその場を離れた。痛みを堪えて笑う事がどれだけ身体に負担を掛けるかは予想するに難くない。

 

「珱嗄、主はやてを救う魔法は……」

 

「ああ、準備だけなら終わってる。魔力だって蒐集した闇の書のページがあれば十分に足りる筈だ。だが」

 

 だが、その魔法には複雑な条件下で行なわないと効果を発揮しない法則があった。元々、俺の用意した魔法は、一つでは無い。複数の魔法を同時展開して、はやての中に侵食している魔力の分離と闇の書内のバグの除去、管理者権限の奪回をしなければならない。

 故に、その複合魔法には様々な条件をクリアしないといけない。その内の一つが、屋外で行なう事。つまり、病院に居る間は屋上に行かない限り使えないのだ。

 

 だが原作では本来この段階まで侵食が進むのはもっと前の事。珱嗄の気功による浸食の妨害は確実に効果を上げていたのだ。でなければ、この時点で既にはやては死んでいただろう。

 

「そうか……」

 

 俺からその条件を聞いたシグナムは肩を落とした。その様子に、俺も嘆息する。

 

「とりあえず、帰ろうか。はやてを救う事自体はまだ出来る。屋上に移動させて魔法を発動すればまだまだ間に合うんだ」

 

 そう言って、俺と守護騎士が歩き出したその時、ひとつの声が全員の頭に響いた。それは、今まで聞きなれた声。俺自身が蘇生し、共にこの半年を過ごした彼女の声だった。

 

 

『お兄ちゃん! 大変だよ、凄く強い人が襲い掛かって来た!』

 

 

 それは、この事件をさらにややこしくする新たな人物の登場だった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 元々、珱嗄達ははやてを病院に連れていく際に留守番として闇の書陣営のナンバー2であるアリシアを残していた。結界自体は珱嗄が張っていたし、危険は無かったのだがそこへ問答無用の強者が攻めて来たのだ。

 それは、珱嗄とは違う神崎達と同じ神による転生を果たした最後の転生者。そう、元々神崎達転生者は全部で『4人』。最後の一人は今まで身を隠し、その力を研磨し続けていたのだ。

 

 それが、闇の書事件が始まってその姿を現した。彼が最初に起こした行動は、闇の書事件介入の為にはやての自宅を訪れる事。元々原作を知っていてもアースラの座標は知らない上に、仮面の男と協力する気は毛頭無かったから、消去法ではやての家にやって来たのだ。

 

 そして、張られた結界をその特典で悠々と消し去った。

 

「―――結構強力な結界だったな……それに、アリシア・テスタロッサが生きてる」

 

 そう言う彼の目の前には身がまえたアリシアがいた。何故珱嗄による魔改造を受けたアリシアが身構えたまま動かないのかというと、目の前に悠然と立つ彼の実力がそこしれなかったから。

 アリシアでも破壊出来ない珱嗄が張った結界を楽々破壊した彼はまず間違いなくアリシアよりも実力が上だった。その特典とここまで研磨してきた年月は、アリシアを軽く超えているのだ。

 

「俺がいない間に随分と他の転生者達が色々やってくれたんだなぁ……俺の女に手を出した、か。舐めた真似してるじゃねぇか」

 

 彼が一言喋る毎に、身体を駆け巡る気持ち悪さ。それは神崎と似た様な物で、神崎以上に気持ち悪かった。

 

「貴方は、何?」

 

「ん? ああ、悪いな……自己紹介しよう。俺の名前は霧咲俊也(きりさき しゅんや)。よろしく」

 

 霧咲俊也。4人目の転生者にして、転生者の中で最も実力を持った転生者だった。その特典は、魔力ランクSSSに王の財宝(ゲートオブバビロン)、そして転生者の特典を一つ奪い取る奪取権だった。そして、彼がこの世界での修行中に習得した驚異的な魔法、『消去魔法』

 古代ベルカでたった一人の戦士が発現させた後にも先にもその戦士だけの魔法。魂や命以外のあらゆる物を消去させてしまう魔法だった。それを彼は会得していた。

 

「さて、それじゃあちょっと聞きたい事が有るんだ。まず……はやては何処だ?」

 

「っ……!?」

 

「なんだ、教えてくれないのか? ははは、照れてるんだな。可愛い奴だ」

 

「何が目的なの……」

 

「勿論、はやてを救うのさ。俺の力なら、簡単にはやてを救う事が出来る」

 

 自信満々にそう言う俊也。だが、アリシアはその言葉を聞いてはやてに俊也を会わせる訳にはいかないと判断した。

 

「させない……」

 

「へぇ……原作じゃ分からなかったけど、以外と反抗的な性格してるんだなアリシア。いいじゃないか、そういうの好きだぜ」

 

 アリシアは俊也に近づき、その拳を叩きつける。だが、俊也はその拳を障壁で難無く防いだ。

 

「速いな、だけど俺よりは遅い」

 

 俊也の言葉と共に、アリシアは全身の力が抜けてその場に倒れ落ちる。消去魔法、その対象はアリシアの身体能力。俊也はアリシアのスピードが魔法によるものではないと察したので、その魔法で身体能力自体を消去したのだ。

 

「な……ぁ……」

 

 消去された身体能力は、しばらく戻る事は無い。消去魔法とは、一時的とはいえその存在を完全に消し去るのだから。

 

「ははは、いいねぇ。そういう姿、そそるぜ」

 

「くぅ……」

 

 アリシアに俊也は近づき、顎に手を添えて持ち上げた。表情を歪めて俊也を眺めるアリシアだが、俊也はその表情ですら笑みを浮かべて眺めた。

 

「じゃ、お前が俺の最初の女だ。喜べよ、アリシア」

 

「(―――お兄ちゃん……!)」

 

 そう言って、アリシアの唇に自身の唇を近づける俊也。完全に力の入らないアリシアは、抵抗出来ない。完全な征服感に酔いしれる俊也は、その唇をアリシアの唇に押し付ける

 

 

 寸前で、地面とキスをした。

 

 

 

「何をしてんだ。オマエ」

 

 

 

 その言葉と同時、俊也の頭を地面に叩きつける腕がアリシアの視界に入る。そして、ゆっくりとその腕を辿って行くと、そこには心の中で助けを呼んだ男の姿。自身の命を救った人物にして、戦い方を教えてくれた恩人。そして何より自身が一番信頼している男でもあった。

 

 そこにいたのは、アリシアも初めて見る冷たい瞳を浮かべた泉ヶ仙珱嗄だった。

 

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