◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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空白期
高町なのは撃墜


 さて、珱嗄が闇の書事件を解決してから約2年ほど。高町なのはとフェイト・テスタロッサは正式に管理局に入局しており、最後の転生者である神崎零もまた同様に入局していた。

 フェイトは原作の様にハラオウン一家に引き取られる事もなく、生き残ったプレシア・テスタロッサの下、引き取られた。珱嗄が闇の書事件を解決し、管理局に目を付けられた結果姿を眩ませたので、残されたアリシアも同様に引き取られる。実力的にテスタロッサ姉妹の二人は高い。姉のアリシアは既にエース級といっても良いし、フェイトは将来エース級と有望な才能を秘めている。管理局としてはかなり得になる人材だった。

 また、高町なのはもフェイト同様に将来有望な才能を秘めた魔導師だ。なのは、フェイト、アリシア、神崎の4名が管理局入りした事実は、管理局の戦力を大幅にアップさせ、将来的にも期待が高まる。

 他にも、八神はやて達夜天の書陣営も贖罪の為に管理局への2年間無償奉仕をしなければならないという事も有り、4人の他に夜天の書の主及びヴォルケンリッターという戦力も管理局に入っている。管理局としたら万々歳だ。

 

 

 だが、そんな期待とは裏腹に、事件は起きる。

 

 

 高町なのはの撃墜事件。その期待と実力、人格からなのはは随分と身体に鞭打って仕事をこなし続けたのだ。結果、疲労も溜まって行き限界が来た。

 とある任務中に現れたアンノウンが高町なのはを撃墜した。本来の実力なら寧ろ返り討ちに出来た相手なのだが、そこで疲労がたたったのだ。身体は思うように動かず、アンノウンの攻撃が直撃。なのはは撃墜された。

 

 そのアンノウンは一緒に来ていたヴィータによって破壊されたのだが、なのはは重傷を負ってしまい入院を余儀なくされたのだ。

 

「アタシがなのはをちゃんと休ませなかったから……」

 

「ヴィータ、お前の気にする事ではない。それに、なのはもヴィータにそんな事を思って欲しくない筈だ」

 

 なのはが入院してから少し。ヴィータはなのはが撃墜された事を自分の責任だと思い、自分を責めていた。

 

「でもよ……」

 

「……はぁ、今日はもう遅い。帰ろう」

 

「……おう」

 

 シグナムはそんなヴィータを慰め、なのはの病室からヴィータを連れて帰る。その際、横たわるなのはを見るが、やはり動く気配は無く、巻かれた包帯と滲む血の色がとても痛々しかった。

 医者からはもう魔法は使えないかもしれないと言われているし、現場復帰も絶望的。なのははそんな現実に耐えられるのか、なのはの友人は皆そう心配している。

 フェイトもはやてもヴォルケンリッターもクロノもアースラの局員も皆だ。

 

 

 だが、そんな中アリシアだけ、アリシアだけは違った。

 

 

 なのはの絶望的な状況の中、アリシアはそうは思っていなかったのだ。アリシアはとある一人の人物の事を思い浮かべていた。過去未来現在全ての魔法を保有し、その全ての魔法を使いこなしてみせるたった一人の男の事を。死んでいた自分の蘇生、不可能とされた夜天の書の復元と色々不可能とされた事をやり遂げて見せた自分にとって恩人で、家族で、憧れで、師匠である男を。

 

「お兄ちゃんなら、なのはちゃんを……助けられる」

 

 アリシアはなのはの病室の前でそう呟いた。ヴィータとシグナムが去った後、アリシアはなのはの病室に訪れたのだ。

 扉を開け、なのはの傍に近づく。自分の手じゃ何も出来ない。あの男から教わったのは、少しの結界魔法と自身の武器となる強力なバインド魔法のみ。勿論、あれ以降ずっと研鑽していろいろ会得した魔法はあるし、随分とバインドの種類も増えた。

 周囲からは『束縛の処女(バインドメイデン)』や『拘束好き(バインドマスター)』とまで言われるほどにもなった。

 

 それでも、目の前の少女を救うには余りにも小さな力だ。

 

「どこにいるの……お兄ちゃん」

 

 生きているのは分かる。アリシアの五感はあの男からの魔力ラインから魔力が供給されていないと機能しない。故に、男が死ねばアリシアの五感の一切は消えて無くなり、戦闘どころか歩くのも難しくなる。

 現在アリシアが無事に生きている事が、あの男の生きている証拠なのだ。

 

 だがそんな少女の前に、男は現れない。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 それからしばらくして、体も少しづつ回復してきた高町なのはは、意識を取り戻した。

 

「なのはっ……!」

 

「フェイトちゃん……痛いよ」

 

 意識を取り戻したなのはの傍には、フェイトや多くの仲間がいた。だが、なのははそんな仲間が去った後、辛い現実を知る。

 二度と魔法は使えないかもしれない。リハビリを繰り返せば、可能性は低いがまた使えるようにはなるかもしれないが、本当に可能性は低い事も全部。

 

「……っ」

 

 誰もいない病室で、高町なのははシーツを濡らしながらぽろぽろと涙を流す。

 

「もう……諦めるしかない……のかな……!」

 

 ぽつりとつぶやいても、その言葉に対して帰ってくる言葉は無い。あるとすれば、自分自身だ。言葉にした諦めを、自分の心は肯定する。もはや魔法は使えない。諦めるしかないと。囁く言葉は大きくなり、なのはの心を圧し折っていく。

 

 だが、そこへ一人の少年が声を掛けた。

 

 

「まだ諦めるには早いぞ。なのは」

 

 

 はっとなり、顔を上げると、そこには自分を真っ直ぐに見つめる神崎零がいた。拳を握り、泣きそうになりながらも、なのはに声を掛けた。

 

「零君……」

 

「俺は、一回諦めた。昔、死にそうになったあの闇の書事件の時。もう魔法が使えない、力が使えないって。でもな、それを取り戻してくれた人がいた。諦めたくなかったから、俺は地べたに頭を擦りつけてプライドも何もかもを投げ打って、もう一度魔法の力を取り戻したんだ。……だから、まだ……まだ諦めないでくれ。なのははまた魔法を使えるようになる。俺が使えるようにさせて見せる!」

 

 神崎零は、魔法を取り戻してから随分と頑張った。今までの様な女性に嫌われる様な下卑た視線を向けなくなり、しつこく言い寄る事もなくなり、ただ人が笑顔になれる様にその力をふるって来た。

 身体も成長して体格も良くなり、顔も良いのでその行動は女性達に好かれた。告白される事もあったし、話しかけられることも多くなった。

 なのは達もそんな神崎を認めているし、友達としていい人物と思っている。

 

「……うん」

 

「じゃ、じゃあな。俺が言いたいのはそれだけだ……また来る」

 

「うん、ありがとう。零君」

 

 神崎は照れくさそうに病室を出る。だが、なのははそう言った物の正直諦めの気持ちは大きかった。神崎はどうにかしてみせると言ったが、その方法が有れば苦労しないのだ。

 

「………でも、諦めるしか……ないよ」

 

「本当にそうかな?」

 

「!?」

 

 病室のドアとは反対から聞こえた声。どこかで聞いた様な、そんな声が響いた。振り向いた先には。窓に足を掛けてゆらりと笑う男がいた。

 

「先……生……!?」

 

「ようなのはちゃん。お久しぶり」

 

「なんで、先生が此処に!?」

 

 そう、そこにいたのは泉ヶ仙珱嗄。アリシアの恩人であり家族であり憧れであり師匠である男、そして神崎の魔法の力を取り戻した男。不可能を可能にして見せた男だった。

 

「いや、アリシアとはある魔力ラインで繋がってるんだけど……ちょっと前からアリシアの悲しみの感情が大きくなって俺の方に流れ込んでくるんだよ。邪魔くさくて仕方ない。だから、その原因をどうにかしようとやって来たんだけど……こんなことになってたんだねぇ」

 

 珱嗄はそう言ってなのはの身体を見る。あちこちにまかれた包帯と、満身創痍な身体。一目でどういう状況かは理解出来た。

 

「で、諦めるの?」

 

「! ……だってそうするしか」

 

「俺はお前の身体を治すことが出来るし、魔法の力も元に戻すことができるよ?」

 

 その言葉に、なのはは驚愕の表情を浮かべる。

 

「どうする?」

 

「……治せるなら、お願いしたいです……」

 

「そう。なら、交換条件だ。このロストロギアを預けるから、俺が去ったら使え、いいね?」

 

「え、こ……これは?」

 

「それは俺が作った消去魔法を軸にしたロストロギアでね。発動すれば術者も含めて世界中の人間が俺の事を忘れる。記憶喪失を起こさせるわけだ」

 

 珱嗄の言った事は、またも驚愕の事実だった。

 

 

「さて、拒否権は無い。さくっと治してやるよ」

 

 

 珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。

 

 

 

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