◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
ヴィヴィオは始業式を終えて、先生や友人とのちょっとした挨拶も済ませていた。つまり、もう何時でも帰って大丈夫、という状態だ。
だが、ヴィヴィオは何故か知らないが、異様に男子にモテる。その原因は珱嗄との暮らしにある。珱嗄の滅茶苦茶さに付き合って来て付いた、大抵の物事に動じない大人びた精神と、女子力ともいえる料理や掃除などの家事スキル習得が、同年代の中でもヴィヴィオを大人な雰囲気を持つ少女へと変貌させたのだ。所謂、お姉さんな女の子という存在に、未だ遊び盛りな男の子達は惹かれたという訳だ。
故に、ヴィヴィオは放課後、ラブレターによって呼びだされていた。しかも、3人の男子に同じ場所へ。
「ボク達、ヴィヴィオさんが好きです! 付き合って下さい!」
「「お願いします!!」」
三人の男子が、頭を90度に下げながら握手の様に手を伸ばし、制止した。おそらく、オーケーならば手を取ってくれ、という意思表示なのだろう。ヴィヴィオはその三人の姿を見て、困った様に頬を掻いた。今までもこのように告白を受けた事はあるものの、いつもながら慣れない。
だが、ヴィヴィオはこの時しっかりとその思いを真摯に受け止め、真剣に返して来た。だから、この時も真剣に考え、真剣に返す。
「ごめんね。私、パパみたいな強い人じゃないと好きになれないんだ」
その言葉は、ヴィヴィオが告白を断るのに使う定型文。嘘では無い。ヴィヴィオは本当に、少なくとも自分より強い男性でないと好みでは無い。その理由は、乙女チックに護って貰いたい思想にある。ヴィヴィオは結構少女漫画の様な展開を好んでいる。
『お前は俺が護る! だから俺と一生一緒にいてくれ!』
この台詞が、最近呼んだ少女漫画の台詞の中でのお気に入り。ヴィヴィオは結局、情熱的にどんな障害からも自分を護ってくれる様な男が好みなのだ。ヴィヴィオの中では最低限自分の父親を打倒出来る様な人が良いらしい。なんだその無理ゲー。
「じゃあ、ヴィヴィオさんのお父さんを倒せば付き合ってくれますか!?」
「え、うん! 勿論だよ! パパを倒せたら結婚しても良いよ!」
今までにない男の子達の返しに、ヴィヴィオは少し興奮してきた。自分を手に入れる為に自分の父親を倒そうとする人は今までにいなかったからだ。燃えてくるのは、仕方ないだろう。
とはいえ、実はヴィヴィオの定型文を聞いて珱嗄を倒そうとする少年達は今回が初めてではない。ヴィヴィオの知らない所で、少年たちは珱嗄に勝負を挑んでいたりする。まぁそれで勝った者はいないが。
「それじゃヴィヴィオさん! ヴィヴィオさんのお父さんを倒して、もう一度告白に来ます!」
「それではまた!」
「さようなら!」
「うん、頑張ってね~」
男の子達はそう言って、張り切って去って行った。ヴィヴィオは、その少年たちが今後どうなったのか、特に興味は無かった。冷たいと思われるかもしれないが、お父さん大好きなヴィヴィオからすれば、珱嗄が負けるなんて、さらさら思っていないのである。
「さて、リオ、コロナ! 帰ろ!」
「あれ? バレてた?」
「隠れてたのにぃ」
「気配でバレバレだよ!」
「いや気配察知を日常で使えるってどういうことなの……戦闘中ならまだしも……」
「つくづくヴィヴィオって規格外だよねー」
告白の場面を隠れ見ていたリオとコロナが出て来た。彼女達もヴィヴィオと同様に、シューティングアーツや魔法の使い手である。ヴィヴィオには劣るが、ヴィヴィオ関係で随分と充実した特訓を行なっている故に、実力はかなりのものだ。
だが、ヴィヴィオは珱嗄に色々なことを教わっている。気配察知、衝撃透し、重心の効率的な移行法、手刀を使った戦い方、その他にも各種戦闘におけるノウハウなど、様々だ。中でも、ヴィヴィオの得意とするのは、後の先を取るカウンターアタック。まだまだ発展途上だが、これに関してだけはヴィヴィオも胸を張れる。
「やっぱりヴィヴィオのお父さんに会ってみたいなぁ」
「ヴィヴィオを此処まで規格外にしちゃったお父さんだもんねー」
「私なんてパパに比べたらまだまだひよっこだよ……あはは」
ヴィヴィオ達は、そう言いながら帰路に付く。
「あれ? ヴィヴィオ、その子は?」
「あら、可愛いぬいぐるみだね!」
そんな中、コロナとリオはヴィヴィオのデバイスに気が付いた。そう、聖王のゆりかごを改造して小さなデバイスにした、正真正銘ヴィヴィオ専用の無敵のデバイスだ。名前はまだ無いが、仮に『聖王のゆりかご』と呼べるこのデバイスは、八神はやての持つ最強格のデバイス『夜天の魔導書』と並べる程のデバイスだ。つまり、ロストロギア級。
「えへへ、今日の朝パパがくれたんだ。私のデバイス! ちょっとクセのある子だけどね」
「へぇ、そうなんだ! 良かったね!」
「名前はなんて言うの?」
「あ、まだ登録はしてないんだ。でも、名前だけは決めてあるよ!」
ヴィヴィオは駆け出し、二人より前に出ると、振り返る。そして、楽しそうに、幸せそうに、満面の笑みを浮かべてこう言った。これが、私の
―――『
◇
「それじゃあね!」
「「ばいばーい!」」
それから少し経って、ヴィヴィオ達は図書館に寄り道した後、解散した。ヴィヴィオは一人、家路に着く。そして、家に近づいてくると、見覚えのある後ろ姿を見つけた。そして、その後ろ姿を見て嬉しそうに笑顔になる。
より一層駆ける足に力を込めて、速度を上げた。そして、その背中に抱きつくように突進した。
「パパ! ただいま!」
「うお、っと―――お帰り、ヴィヴィオ」
その背中は珱嗄。ヴィヴィオを愛し、育てて来た最強の父親。そして、ヴィヴィオがこの世で最も大好きな無敵のお父さんである。
珱嗄はヴィヴィオの突進を受け止め、そのままおんぶした。
「さ、家に帰ったらお昼ご飯にしよう」
「うん!」
ヴィヴィオは珱嗄の首に腕を回し、元気に返事を返した。珱嗄はそんなヴィヴィオに苦笑しながら、自分達の家へと歩き出した。
◇ ◇ ◇
家に着いて、珱嗄の作ったチャーハンを食べていると、来客があった。インターホンが鳴り響き、珱嗄がチャーハンの皿を持って、食べながら応対する。玄関に着き、珱嗄は扉を開けた。
そこにいたのは、アリシアだった。珱嗄と一種の魔力ラインで繋がっており、その五感が全て珱嗄と同等の代物になった少女である。二人の関係は、主人と主人と同等の五感を持った使い魔、みたいな関係だ。珱嗄が契約を切れば直ぐにでもアリシアは全ての感覚を失うだろう。
「もぐもぐ………なんか用?」
「うん、まずチャーハン食べながら来客の相手をするっておかしいよね?」
「………もぐっ」
「食べるのやめてよ!?」
アリシアは珱嗄にそう突っ込んだ。昔から珱嗄は変わらない。自分勝手で、マイペースで、その癖なんでも出来る一種の完璧超人。そして、アリシアの命の恩人で、師匠で、義兄。だから、嫌いにはなれない。
「で、何の用?」
「うん、ちょっとした報告……てゆうか注意、かな?」
「あれ? アリシアお姉ちゃん?」
「はろー、ヴィヴィオ。久しぶりだね!」
「うん!」
アリシアは、珱嗄によって蘇生された元死人だ。そして、今は妹であるフェイトや母であるプレシアと共に暮らしている。小さい頃は珱嗄の妹という設定で一緒に暮らしていた時期もあったので、なんの血縁関係もなにもない他人なのだが、それでも二人は家族なのだ。
故にアリシアにとってヴィヴィオは家族だ。本当の家族ならアリシアはヴィヴィオの叔母に当たるのだろうが、そこはアリシアが断固として認めなかった。『叔母さん』と呼ばれるのは年齢的にも嫌だったのだろう。
「で、注意って?」
「あ、うん。最近格闘経験者を襲撃する事件が多発してるから、お兄ちゃんも狙われるんじゃないかなって」
「俺が襲われる、ねぇ……その襲われた奴って多少なりとも名が知れてる奴だろ?」
「え、あ、うん……まぁそうだね。ストライクアーツの有段者とか……有名な大会の入賞者とか……格闘系の実力者だね」
「なら俺は大丈夫じゃね? だって俺聖王の一件以来何もしてないし……ここ最近相手にしたのだって『娘さんをボクに下さい!』っていう少年達だけだし」
珱嗄の言葉に、アリシアはなにしてんだコイツ。と遠い眼にした。ツッコミどころが満載だけれど、珱嗄の行動に一々ツッコんでいると切りが無い事はずっと昔に理解しているので、敢えてスルーする。
そして考える。確かに、珱嗄の功績と言えば2年前の聖王の一件くらいだ。それからは管理局員ではないということで隠居。それ以来特に何をした訳ではないし、犯罪者や実力者と戦った訳でもない。名が知られている訳が無いのだ。
「だから大丈夫。それに、俺は襲われた程度じゃやられてやらないよ」
「……ま、そうだね!」
「アリシアお姉ちゃんもパパのチャーハン食べる?」
「あ、じゃあいただいていこうかな」
「残念だったな。お前の分など無い」
「酷い!!」
そんな風に、笑いあいながら珱嗄達は家に入る。勿論、アリシアもちゃんとチャーハンを食べた。
◇
「……そんな事は無いと思ってたんだけどなぁ……」
「泉ヶ仙、珱嗄さんとお見受けします……少し、お付き合い願えるでしょうか」
「お前誰?」
時刻は夜。ヴィヴィオももう寝静まった時間だ。珱嗄は少し小腹が空いたのでコンビニに行って何か買ってこようと外へ出たのだ。家には珱嗄が滅多に使わないデバイス、『ミストルティン』が結界を張っているので、警備は万全。安心して出て来たのだ。
そして、今はその帰り。ヴィヴィオの明日のおやつに、とばかりに買ってきたプリンと、夜食に買ってきたからあげを携えながら歩いていたら、例の襲撃者がやってきたのだ。
姿は翠掛かった銀髪で、髪の長い女性。顔を隠すつもりはないのか、普通に顔は見えた。青と青紫のオッドアイが綺麗な美しい女性だった。姿はバリアジャケットなのか高町なのはのものに似た様なジャケットと短いタイトスカート、そして白いニーソックスを履いていた。拳にナックルグローブを付けているので、やはり近接格闘を得意とする最近の襲撃者と珱嗄は見ていた。
「失礼しました。私は、カイザーアーツ正統ハイディ・E・S・イングヴァルド。『覇王』を名乗らせていただいています」
「パンツ見えてるよ」
「……すいません」
珱嗄と覇王と名乗った女性の立ち位置としては、珱嗄は歩道に立ち、女性は街灯の上に立っていた。パンツ丸見えである。
指摘された女性は少し恥ずかしそうに飛び降りた。そして、珱嗄と同じ歩道に着地する。
「で、俺の事は誰に聞いたんだ? 正直、俺は名が知れるほど何かした覚えは無いんだけど」
「……風の噂で聞きました」
「へー……それで? 何の用だ?」
「聞きたいことが一つ、貴方は聖王オリヴィエのクローンの娘と知り合い……ということですが、合ってますか?」
「ああ、俺が保護している娘だけど、確かそうらしいね」
珱嗄はヴィヴィオ、というより聖王のクローンと言った事と、覇王を名乗った所から、王様関係の襲撃者かと予想を付ける。
「なるほど……ということは、貴方の家にいる……と?」
「そういうことになるね。今もベッドの上ですやすやとよだれ垂らして寝てんじゃね?」
「……そうですか……少し気になっているのですが、随分と冷静、というか呑気ですね?」
「え? 今ってなんか焦ったりするところ?」
「……一応襲撃が名目になる事態だと思うのですが」
女性はそう言って頬を掻いた。どうも緊張感に欠けるこの状況についていけていないのだろう。珱嗄は相手のペースを崩すのを素で行うので、どうもやりにくいのだ。
「で、それだけか覇王ちゃん」
「いえ、所在が分かればもう結構です。あとは、もう一つ確かめたいことがあります」
「マジ? 俺に彼女がいるかどうか? 全く仕方ないな……今はいないよ!」
「い、いえそういうことでは……」
「え、俺の彼女に立候補とかそういう訳じゃないの?」
「ち、違います!」
珱嗄は慌てて否定してきた覇王娘にあからさまな表情で肩を落とした。
「違うのかよ。モテ期来たかと思ったのに……じゃあ何?」
「聞く所によると、貴方はかなりお強いとのこと……貴方の強さと私の拳……どちらが強いか、手合わせ願います」
「嫌だ」
「………何故ですか?」
「俺が勝っても負けても得が無いから」
珱嗄の正論に、女性は黙ってしまった。確かにそうだと思った。今まで相手してくれた面々は、恐らく自分の強さに自信を持っているか、襲撃に対して逃走という選択をしてこなかったのだ。だから戦って貰えた。
だが、この場合珱嗄は戦わないことを選んだ。この女性の目的が『どちらが強いか』というものであるならば、相手に戦意がないと確かめられない。つまり、戦わないという選択肢が最も有効なのだ。
「……じゃあどうすれば戦って貰えますか?」
「んー……じゃあ俺が勝ったらお前襲撃止めろ」
「……分かりました」
「んじゃまぁやるか」
「ありがとうございます。防護服と武装をお願いします」
珱嗄の今の姿は変わらず着物姿だ。今も昔も、これが珱嗄のスタイルであり、戦闘服でもある。そもそもミストルティンを置いて来ているので、武装も何も無い。
「ゴメンね、俺はこれが一番やりやすいんだ」
「……そうですか……では、参ります」
「掛かっておいで、からあげ冷めちゃうからさくっと終わらせよう」
珱嗄の言葉が終わる前に、女性は地面を蹴っていた。滑り込むように珱嗄の懐へと潜り込む女性。そしてそのままアッパーで珱嗄の顎を狙う。しかし、珱嗄はそれを身体を後ろへ反らすことで躱した。だがそこでは終わらない。身体が伸び切る前に女性は回転し、回し蹴りを珱嗄の顔の側面に向かって叩きこむ。しかし、その蹴りも珱嗄がしゃがむことで躱した。その際、足を上げていたのでパンツが至近距離で見えてしまったのだが、珱嗄はそれを指摘しなかった。
「んー、ヴィヴィオと同じ位……かな?」
「くっ……!」
珱嗄は女性の強さをヴィヴィオと同じ位かと判断した。
(この人、強い……! しかも、私の攻撃をその場から動かずに躱した……!)
対して、女性の方は珱嗄が自身の攻撃を容易に躱したことから、珱嗄の強さを感じ取って脅威に感じていた。そして、圧倒的な実力も感じている。
(でも………それでも―――私は自分の強さを証明する……!)
女性は内心で強い想いを燃え滾らせ、珱嗄へと肉薄する。そして、魔力を拳へと集める。そして、しゃがんでいる珱嗄に叩き落とす様に拳を振り下ろす。
「覇王―――断空拳!!」
技名だろうか、女性はそう言って珱嗄に拳をぶつけて来た。が、珱嗄はそれをぱしっと受け止めた。衝撃が分散し、珱嗄にはダメージが伝わらなかった。
「なっ……!?」
「残念、でも中々良い技だった」
「っ――――!」
珱嗄は受け止めた拳を掴んで、引っ張った。女性が引っ張られた方へとつんのめる。珱嗄はそのつんのめった女性の額に指を当てた。そして、そこから繰り出される技は、誰にでも出来るシンプルな技。
「デコピーン」
「あだぁっ!!?」
女性はデコピンの威力に頭が後方へと仰け反り、そのまま気絶した。デコピンで終結したこの襲撃事件、珱嗄は結局あっさり終わらせてしまったのだった。