◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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その後の話

「さて、と」

 

 珱嗄は眼の前で倒れている『少女』を見下ろしながら、近づいた。デコピンによって気絶した女性は、どうやらこの少女が変身していた姿だったようで、気絶したら元の姿に戻った。珱嗄はビニール袋片手に頭を掻いた。面倒なことになった、と。

 どう見てもこの構図は大の大人が中学生程の少女を気絶させた様にしか見えない。他人に見られたらちょっと不味いことになるだろう。六課の時代は高町なのはやティアナ・ランスターを素っ裸にして素巻きにしたこともある珱嗄だが、どうも娘のヴィヴィオとあまり変わらない少女を痛めつけるのは気が引ける。珱嗄が手を上げたのはデコピン一発なのだが、誰がデコピンで気絶したとか信じるのだ。

 

「……仕方ない。誘拐しよう」

 

 珱嗄はそう言って、少女を背負った。すると、チャリン! と少女のポケットから何かが零れ落ちた。

 

「……コインロッカーの鍵、ね……いっそコインロッカーに詰め込んで帰ろうかな……」

 

 珱嗄はやる気は無いけどそう呟き、落ちた鍵を拾う。そして、まずは近場のコインロッカーへと向かうことにした。幸い、距離はそう遠くない。体勢の崩れた少女を背負い直して、歩きだす。

 そして、歩きながら珱嗄は少女の事に付いて思考を張り巡らせた。

 

 まず、少女の外見に付いてだ。戦闘中、余裕があったので観察してみたが、少女の瞳は娘のヴィヴィオと同じく虹彩異色(オッドアイ)の瞳であり、覇王と名乗っていたことからベルカの王様時代の関係者かと、珱嗄は当たりを付けてみる。

 そして、オッドアイと言えば、とふと思いつく。おんぶの形から少女を抱っこする体勢に変える。片手をゆりかごの様にして、片手をフリーにした。そして携帯を取り出し、一人の友人に電話を掛けた。

 

「あ、もしもし?」

『珱嗄さん? どうしたんだ?』

「いやな、オッドアイの少女をぶっとばしちゃって。取り敢えず今から誘拐しようと思うんだけど、オッドアイってお前もじゃん? なんか心当たりない?」

『オイ待て、色々ツッコミどころ満載だぞ!?』

「いやいや、そういうの良いから。で、どうなの――――神崎君」

 

 珱嗄が電話を掛けたのは、神崎零。珱嗄と同じく転生者で、銀髪で金色と青色のオッドアイを持つ青年だ。彼は元々ランクEXの魔力保有量を誇っていたのだが、とある事情でそれを失い、珱嗄の手助けによってランクSSにまでその能力を回復させた経歴を持つ。そして現在は時空管理局で一つの艦隊を指揮する艦長の座に付いている。

 

 彼は時空管理局最強と呼ばれる実力者であり、ゆりかごの一件以来、任務達成率97%という脅威の記録を叩きだしている。そして、彼がそこまで実績を上げられたのは、彼のレアスキル『無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)』にある。まぁ詳細は語るまでもない。

 

『あー……悪い、珱嗄さん。俺の原作知識はstsまでなんだ……だから聖王のゆりかご以降の物語はちょっと……』

「あ、そう……じゃあ最近の格闘経験者襲撃事件の事は知ってるよね?」

『ああ、小耳に挟んだ程度だけどな』

「神崎君の方で手を回して解決にしておいてくれ。犯人捕まえたから」

『……まさかその少女が?』

「そうだよ」

 

 珱嗄の言葉に、電話の向こうで神崎が頭を抱える光景が眼に見えた。

 

『はぁ……分かったよ……こっちで報告しておく。確認するが、もう犯行は起こらないんだな?』

「ああ」

『全く……じゃ、報告書まとめるからもう切るよ……じゃ』

「ありがとさん」

 

 電話が切れる。珱嗄は携帯を懐に仕舞い、再度少女をおんぶする形に戻した。そして、歩きながらの会話だったので、気付けばコインロッカーに辿り着いていた。番号を探して、拾った鍵で解錠する。中にあったのは少女の物と思われるカバン等の私物だった。珱嗄はそれを取り出し、コインロッカーを離れる。今度こそ自分の家に帰るのだ。

 

「あーあ……からあげ、冷めてら」

 

 珱嗄の買ったからあげは、既に冷たく冷えてしまっていた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 家に帰って来た珱嗄は、とりあえずヴィヴィオが寝ていることを確認し、自分のベッドに少女を寝かせた。珱嗄は温熱魔法で唐揚げを温め、少女が寝ている横で椅子に座り、はふはふと唐揚げを食べ始めた。珱嗄は神から貰った『人間の習得し得る全ての技術』の応用で、『人間が生み出した全ての魔法』を技術として使用する事が出来る。過去にあった魔法から、現在使われている魔法、そして未来に生まれる魔法も全てだ。

 この温熱魔法もその一つだ。物体の温度を上げることが出来る魔法なのだが、使い方次第では人間の体温を上げ続けて最終的には熱死させることも可能。まぁいかなる魔法も使い方次第という事だ。

 

「もぐもぐ………それにしても、この子は一体誰だろ? 名前名前……と」

 

 珱嗄は唐揚げを咀嚼しながら少女のカバンを漁る。中に入っているのは、教材やタオル、そして替えの服、そして学生証だった。珱嗄は教材を机の上に置き、タオルをその上に置き、替えの服やパンツをその上に置き、学生証を取り出した。

 

「えーと……アインハルト・ストラトス……St.ヒルデ魔法学院の中等科一年生、ね。なるほど、あの学校は初等科と中等科は同じ棟に纏められてるし、俺に襲撃掛けた少年たちの話から俺を知ったって所か……風の噂とは良く言ったもんだね」

 

 珱嗄はその学生証からそう推測する。まさか襲撃者がこんな子供とは思っていなかったから、珱嗄の存在を知る方法がどのようなものなのか全く推測が付かなかったのだが、これで得心が行く。

 元を辿れば自分の娘がモテるのが原因だったのだ。娘が告白され、父親みたいな強い人が良いと断り、結果振られた少年たちが珱嗄を襲い、負けた少年たちが学校でその話題を出し、アインハルトはそれを小耳に挟み、じゃあ私も、とばかりに珱嗄を襲撃した、ということだろう。

 

「ま、いいか。危険視する様なレベルでもなかったし」

 

 珱嗄はそう呟いて学生証をカバンに投げ入れた。そして、服も教材も全て適当に詰め込む。問題は全て解決された。ならばもうあれこれ考える意味は無いのだ。

 

「幸い、俺は睡眠とか食事とかあまり必要としないハイブリッドボディだし、今日は徹夜して眼が覚めるのを待つとしようかね」

 

 珱嗄はそう言って、最後の唐揚げを口に放り込んだ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 翌朝

 

 

「あれ? パパ、今日は早いんだね!」

「おはようヴィヴィオ。今日は徹夜したんだ」

「え、なんで?」

「暇潰しに徹夜しようと思って」

「徹夜で何かするんじゃなくて暇潰しにただ徹夜したってこと!? 理解の範疇を超えてるよ!?」

 

 翌日の朝、ヴィヴィオは自分よりも早く起きている珱嗄を見て、少しびっくりしていた。というより、暇潰しのやりかたが人と違い過ぎて更にびっくりしていた。

 というやり取りを終えて、ヴィヴィオは珱嗄の作った朝食を食べる。

 

「今日は午後から教会の方へ行くんだっけ?」

「うん! ノーヴェ達も一緒だって」

 

 珱嗄の問いに、ヴィヴィオはそう答えた。現在、教会には古代ベルカ、ガレア王国の王であり、遥か昔は破壊と殺戮を好んだ冥王とされた少女が眠り続けている。名前はイクスヴェリアといい、珱嗄は会った事は無いが、スバル達が知らない内に関わった事件で助けたらしい。詳しくは知らない。

 ヴィヴィオが聖王のクローンであることもあって、古代ベルカの王という関係で良く会いに行っているらしい。実は珱嗄がアリシアの蘇生に使った『覚醒魔法』を使えば意識の覚醒は簡単なのだが、それが行なわれるのはおそらくずっと先の事だろう。

 

 また別の話だが、聖王事件の後もヴィヴィオは六課時代に会った人々と親しい交流を続けている。スカリエッティの残したナンバーズの少女達や、フォワードの4人、高町なのはやフェイト、八神はやて達夜天の書組のメンバーとも仲良くやっている。

 実は珱嗄が修行を付ける時以外は、ノーヴェ達と共に訓練に励んでいたりする。強さ的にはノーヴェと同等位。珱嗄があまり家から出ないので、結果的にそうなったのだ。

 

「パパも行こうよ!」

「面倒臭いからヤダ」

「むー……そんなんじゃ引き篭もりになっちゃうよ?」

「唯でさえ無職だしな」

「自分の事だよね!?」

 

 昔は最強の魔導師としてゆりかご事件でぶいぶい言わせた珱嗄だが、今ではその影も無く、ただただ無職の青年である。見た目的には整っているし、戸籍上はまだ19歳と成人していないことになっているので、まぁ無職でも問題ないと言えば問題ないのだが。

 

「リオやコロナもパパに会ってみたいって言ってたし……」

「あー、お友達だっけ?」

「うん!」

「……教会かぁ……面倒だなぁ……それに……」

 

 珱嗄は未だ自分の部屋で寝ている少女を思い浮かべ、やはり外には出れそうにないなと結論付けた。午前中はとりあえずヴィヴィオに留守番させて、そのノーヴェ達にあの少女を押し付けようと考えているのだ。それに、教会に行くと珱嗄はなんだかんだで目立つのだ。面倒極まりない。

 

「……パパ、だめ?」

「………はぁ、分かった分かった。行けばいいんだろ、行けば」

「やった!」

 

 ヴィヴィオは何処で覚えたのか首を傾げながら上目づかいという技を使って来た。珱嗄はそんなヴィヴィオに呆れながらも、仕方ないかとため息をついた。少し面倒だが、目の前で喜ぶ娘の顔を見れば、それも仕方ないと思ってしまうのは、やはり珱嗄が父親として娘を想っているという事なのだろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その後、珱嗄は自室に戻ってきた。ヴィヴィオはとりあえずリビングを掃除している。

 

「よー覇王ちゃん」

「!」

 

 珱嗄が部屋に入ると、少女は起きていた。何処だか状況把握をしていたようで、そこに珱嗄が現れたということだろう。

 珱嗄はそれを理解して、とりあえず朝食を取らせることにした。リビングから持ってきたのは簡単に作ったサンドウィッチだ。皿にのったそれを少女に差し出すと、少女は少し戸惑った表情を浮かべて、それを手に取り、口に入れた。

 

「あ、美味しい……」

「それは良かった」

「あっ……」

 

 ふと漏らしてしまった感想に、少女は肩を縮こまらせてしまった。そして、少女がサンドウィッチを全て完食したのを見計らって、珱嗄は話を始める。

 

「さて、お嬢ちゃん。昨日の事は覚えてるか?」

「ええ……私は、負けたんですね」

「そうだね」

「私を……どうするつもりですか?」

「どうもしないけど?」

 

 珱嗄の言葉に、少女はきょとんとした。ぶっちゃけどうでも良くなってきたのだ。

 

「襲撃掛けるならそれでもいいし」

「……聞かないんですね。私が襲撃を掛けている理由」

「だってそれ聞いたら絶対面倒じゃん。だるいし、そういうのはおまわりさんに任せた方がいいんだよ」

「私が言うのもなんですが、貴方結構酷い性格してますね」

「そいつはどうも」

 

 珱嗄はゆらりと笑ってそう返した。少女、アインハルトはそんな珱嗄にむっとなりながらもそれを抑えた。

 

「じゃあ、私は帰ります」

「おう、じゃ転移させるわ。俺に襲撃掛けた場所に」

「え――――!?」

 

 珱嗄はカバンをアインハルトに放り投げると、そのまま転移魔法でアインハルトを襲撃場所へと転移させた。

 

「……ふぅ、まぁ後はご自由にどうぞって感じかな? どうせ俺の家から自分の家までの道筋分かんないだろうし」

 

 転移させたのは珱嗄なりの気遣いだった。中学生とはいえ、何処かも分からない場所から自分の家に帰るのは少し労力を使うだろう。だから、襲撃場所からなら分かると判断して、転移させたのだ。

 珱嗄はアインハルトの体温がまだ残ってるベッドに腰掛けて、欠伸を一つ漏らした。午後からはヴィヴィオの意向で教会に行かなければならないのだ、少し位休んでいてもいいだろう。

 

「……そういえば教会の面々に会うのってゆりかごの一件以来じゃね?」

 

 珱嗄はゆりかごの一件以来、原作のメンバーとは会っていない。ヴィヴィオにナンバーズの面々を紹介したのは唯一原作組で珱嗄に会いに来るアリシアなのだ。故に、珱嗄は全くと言って良いほど原作組に会っていない。

 

「忘れられてるかもしれないなぁ」

 

 珱嗄は自室で一人、そう呟いた。

 

 

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