◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
そうして、珱嗄がヴィヴィオ、ノーヴェ、その妹のウェンディに連れられてやってきたのは、ミッドチルダの中央市街地の一角。どうやら後から合流するヴィヴィオの友達がいるようで、ひとまず待ち合わせ場所へとやって来たのだ。
勿論、そこにいたのは小学生離れなファッションセンスをした二人の少女。コロナとリオだ。彼女達を見つけたヴィヴィオは笑顔をぱっと咲かせて駆け寄って行く。
「コロナ! リオ!」
「あ、ヴィヴィオ!」
それに続いて歩いていくノーヴェとウェンディ、その後ろからまだ眠そうな珱嗄がゆらゆらと歩いてきた。一応市街地ということで、珱嗄はデバイスであるミストを起動させ、普通の服装でバリアジャケットを展開していた。なんでも、人前で着物姿は止めてくれとヴィヴィオが言うのだ。何が恥ずかしいのやらと首を捻ったが、珱嗄は淡々と了承した。今は黒いタンクトップに白いYシャツ、そしてジーパンを履いていた。靴はスニーカーとラフだ。
「リオ、コロナ、紹介するね! この人が私のパパだよ!」
「え?」
「この人が?」
ヴィヴィオが二人が会いたいと言っていた珱嗄を紹介する。すると、二人は珱嗄の顔を見上げて吃驚した様な表情を浮かべた。まさか、こんなに若いとは思っていなかったのだろう。しかも、ヴィヴィオと全く似ていない。金髪でもなく、二色あるヴィヴィオの瞳のどちらの色とも同じでない瞳の色、顔立ちもあまり似ていなく、どちらかというと父親には見えなかった。
珱嗄はそんな二人の視線に気付いて、苦笑する。二人の目線に合わせる様に膝を着き、二人の頭に手をぽんと乗せた。
「初めまして、ヴィヴィオの父親の泉ヶ仙珱嗄だ。ヴィヴィオがいつも世話になってる」
珱嗄がまともな挨拶をしているのを見て、ヴィヴィオ達はきょとんとした。
対して、リオとコロナは丁寧な挨拶に姿勢を正し、頭を下げて挨拶を返す。
「は、初めまして! コロナ・ティミルです!」
「リオ・ウェズリーです! よろしくお願いします!」
二人がそう言うと、その小さな頭をぽふっと撫でて珱嗄は立ち上がった。そして、そのやり取りが終わると、珱嗄はきょろきょろと辺りを見渡す。どうやら久々の外の街並に興味津津の様だ。
そうしている内に、コロナとリオはノーヴェ達とも自己紹介をしていた。だが、二人の興味はその間も珱嗄へと向けられていた。二人の視線の先で、珱嗄は一つ、欠伸を漏らしたのだった。
◇ ◇ ◇
そこから、少し移動してやって来たのは中央第4区、公民館にあるストライクアーツの練習場。昨今、このミッドチルダではストライクアーツが競技として、スポーツとして、有名になっている。数多くの格闘経験者が魔法を組み合わせて自分だけのスタイルを会得し、凌ぎを削る戦いの様子は、見るもの全ての心に感動と衝撃を与えた。
始める理由は十人十色。エクササイズやダイエットで始める者もいれば、ガチで最強目指して始める者もいる。もっと細かく言えば、いじめっ子の鼻っ面をぶん殴ってやりたいからという理由もあったりする。ヴィヴィオ達は純粋にストライクアーツの魅力に惹かれて始めたケースだ。
「え、何? 俺もやんの?」
「此処に来て何言ってんだよ……良いからほら、ジャージ位展開出来んだろ?」
「ノーヴェとか言ったな……お前結構馴れ馴れしいな」
「同じ格闘者同士なんだから、仲良くやって行きたいんだよ……」
ノーヴェがなんか良い感じの雰囲気を纏ってそんな事を言った。珱嗄はうえーっと顔を歪めて首をコキッと鳴らした。
「はぁ……ヴィヴィオにも言われたし……ミスト、ジャージもーど」
『yes,my master』
珱嗄のデバイス、ミストルティンが珱嗄の指示通り珱嗄の服装をジャージに変えた。そして、丁度更衣室で着替えて来たヴィヴィオ達が珱嗄の下へとやってきた。
「パパ、着替えて来たよ!」
「うん、見れば分かるよ。まぁそれぞれ好きにやると良いよ……というか俺ここの使用についてのルールとか知らないんだけど」
「仕方ないなぁ……ほら、利用者の皆がやってるように、空いてるスペースで各々好きに練習するんだよ」
珱嗄はヴィヴィオの説明に頷き、周囲を見た。トレーニングマシーンを使っている者もいれば、二人でスパーリングをしている者もいるし、ストレッチをしている者や、師匠に動きの指摘をして貰っている子供達もいた。本当に人それぞれに頑張っているようだ。
「ふーん……」
「パパもシャドーとかやってみたら?」
「まぁそれ位しかやることないよなぁ……それじゃ―――」
珱嗄は足を肩幅に開き、拳を握った。そして大きく呼吸をし、じり……と地面を掴む様に足に力を込めた。
そして、
身体を捻り、片足を前へ踏み込む。そしてそこから生み出された力を足から腰、腰から肩、そしてそこから拳へと伝達させ、目視も出来ない速度で前の空間に拳を振り抜いた。そして、音も無く拳を振り抜いた体勢で動きを止める。そこから数秒後―――
―――パァァアン!
後から大きな音が響いた。ヴィヴィオ達はその音がどういうものなのかをしばらくしてから理解する。拳が音を置き去りにしたのだ。空気の壁を拳が貫き通した音が、拳の速度に付いていけずに数秒後に追い付いてきた。
先程までざわざわと楽しそうな喧騒があったその練習場に、沈黙が訪れた。そして、その中心にいる珱嗄は、ふと一息吐いて元の姿勢に戻る。肩をぐるぐると回して、拳を開いた右手をぷらぷらと振った。
「ふぅ、まぁ軽くこんなもんか……しばらく動いてなかったけど、鈍ってはいないみたいだ。流石神様ボディ」
珱嗄がそう呟くと、ヴィヴィオ達がはっと我に返った。そして、珱嗄に勢いよく詰め寄ってきた。
「ぱ、パパ! 今の何!?」
「そうだ、どんな速度で打ってんだよ!?」
「どんなって……音速をちょっと超えただけだろうが」
「お前何言ってるか分かってる!?」
珱嗄の規格外さは知っていたが、魔法も何も使わずに拳だけでそんな事が出来るとは思っていなかったらしい。リオとコロナ、ウェンディはパクパクと口を開け閉めするばかりだった。
「まぁアレだ……そこらの奴には負ける気がしないね!」
「な、なんだこの迫力は……勝てる気がしねぇ……!」
「パパの化け物さ加減を改めて思い知ったよ……」
ノーヴェとヴィヴィオは珱嗄の言葉に、頭を抱えて戦慄する。4年経ったとしても、ずっとニートで無気力な引き篭もり生活を送っていたとしても、珱嗄は変わらず最強なのだ。誰にも届かない場所に、珱嗄は鎮座していた。
「お前達が引っ張り出してきたのは、こういう男だぜ?」
珱嗄の言葉に、ヴィヴィオ達は自分達が無理矢理にでも引き連れて来た、珱嗄という存在の強大さに気付く。そして、格闘者として少しだけ―――身震いした。拳を合わせてみたい、という思いが胸の内で渦巻き、二人の表情を……闘志の籠った瞳と、嬉しそうな笑顔に変えたのだった。
◇ ◇ ◇
それからしばらく、珱嗄を除いた全員が各々練習に励んでいた。珱嗄は全員の動きを見て、一定の間隔で駄目だしを貰いに来るヴィヴィオ達にそれぞれ修正点を出していた。
周囲の利用者達は、珱嗄へ興味の視線を向けていたが、珱嗄に話しかけたりしてくる者はいなかった。
「ふーっ……疲れたぁ……!」
「はぁ……はぁ……」
「げほげほっ……やばい、唾が喉に……!」
そして、ずっと動き続けていたヴィヴィオ達が珱嗄の座っているベンチへと休憩にやってきた。汗だくでインナーもぐっしょりと汗で濡れていた。息も荒く、明らかに体力のペース配分を間違えている。
これも珱嗄の一撃に感化された結果だ。あの一撃を見た全員が自分も頑張ろうと普段以上に張りきったのだ。全員もう動けないとばかりに床へへたり込んでいた。
「わはは、ほら飲みものだ」
珱嗄はそんな三人にそれぞれ一本ずつスポーツドリンクを渡した。三人はそれを受け取って、一気に煽った。そして、飲み口から口を離し、一息吐いてようやく呼吸が整ってきた。
「いやー、ちょっと頑張りすぎちゃった」
「でもまぁ、知らない間にかなり成長してるじゃないか」
「ほんとっ!? えへへ、やった!」
ヴィヴィオと珱嗄のやり取りを見て、リオとコロナは微笑ましく思ったのか、タオルで汗を拭いながら微笑んだ。
「ねぇパパ」
「ん?」
「ちょっとノーヴェとスパーリングやってみてよ!」
「めんどくせぇよ……」
「お願い! やってくれたら今日の晩御飯は唐揚げにするから!」
「何故俺が唐揚げで動くと思ったのか教えてくれるかなヴィヴィオさん」
珱嗄はため息を吐いてベンチから立ち上がった。後ろ頭をガシガシと掻いて、心底面倒そうにこちらを見ていたノーヴェへ歩み寄る。
それにつられて、周囲の人々の視線がより強まった。珱嗄がまた何かをすると思ったのだろう。さきほどの拳で強い興味を向けられていたのだ、試合となればもっと興味が向けられることになるのは自明の理。
「こんな視線の中じゃ……やらないって選択肢はなさそうだ」
珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。