◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
古代ベルカの時代。王と呼ばれた存在が数名、いた。中でも現代に名を残している王が、少なくとも三人いる。
―――最後のゆりかごの聖王。『オリヴィエ』
―――シュトゥラの覇王。『イングヴァルド』
―――ガレアの冥王。『イクスヴェリア』
いずれも優れた王として名を連ねる悲劇の王達だ。
そして、現代にはその子孫ともいえる存在がいる。それが聖王のクローン、ヴィヴィオ。覇王の血を色濃く継いだ、アインハルト。長年眠りについている冥王、イクスヴェリア。それらの三名は今、一同に会している。
しかも、アインハルトとヴィヴィオに関しては、同じ格闘術の使い手として。これほどの偶然があるだろうか? 偶々同じ時代に、偶々同じ格闘術の使い手で、偶々同じ王の血をひく者として、偶々出会ったこの奇跡。別に悪いことではない、が……何か悪い思惑があってこんな奇跡が起こったのではないかとさえ思えてしまうのは、気のせいだろうか。
最も、今は関係無いだろう。出会えたのなら、話が出来る。話が出来るのなら、分かり合える。分かり合えたのなら、後は笑いあうだけだ。彼女達は覇王と聖王ではない。ただのアインハルトと、ただのヴィヴィオ、そこに古代ベルカの悲劇は入り込む必要はない。
「仲良くなろうよ、アインハルトさん」
「………私にそんな気持ちは分かりません……ですが、拳を合わせてくれるというのなら是非もないです」
「はい! まずはお互いに歩み寄る所から、ですね!」
「いや、そういうことではなく……」
「はい! つまり一回戦うことが仲良くなる第一歩ってことですね!」
「え、いや、その……違くて……………はい」
「えへへっ!」
アインハルトとヴィヴィオは、本来の目的通り格闘技での試合を行うことにした。アインハルトは聖王を超えたかった、言ってみれば最も強い王となりたかったからという理由だが、ヴィヴィオは珱嗄譲りの強引さでアインハルトに自分の意見を押し通した。
このへんは珱嗄の影響が色濃く受け継がれている。やはり、血は繋がっていなくとも、親子なのだ。
という訳で、ヴィヴィオとアインハルトは動きやすい格好になって対峙している。既にお互い柔軟やアップは済ませており、準備は万端である。後は全力全開、拳と拳をぶつけあうのみ。
「ヴィヴィオ」
「あ、パパ」
「不知火は無しな」
「あはは、まだ未完成だもん。言われなくてもやらないよ!」
「なら良い」
珱嗄はそう言うと、ギャラリーのいる場所へと着物を翻して戻って行った。ヴィヴィオはそんな珱嗄の背中を見て、少しだけ首を傾げたが、アインハルトとの試合を前に余計な思考は無駄と切り替えた。珱嗄とは違って、前向きに思考を切り替えるのがヴィヴィオの長所だ。いわば、綺麗な珱嗄、みたいな感覚である。
まぁそんなことはどうでもいい。今は二人の勝負である。
「んじゃ、スパーリング4分1ラウンド。射砲撃と拘束はナシの格闘オンリーな」
審判であるノーヴェがそう言うと、二人は頷いて了承を返した。
「レディ――――ゴー!」
そして、ノーヴェが試合開始の合図を出す―――と、同時だった。
「――――ッ!?」
ヴィヴィオが懐に潜り込んでいた。それも、アインハルトも目視出来ない……否、珱嗄以外の全員が目視出来ない速度で、アインハルトの懐に潜り込んでいたのだ。珱嗄は思った。まさしくそれは、不知火のそれと同じだと。
そして、ヴィヴィオは拳を振るう。狙うはアインハルトの顎。上手く入れば脳を揺らすことが出来る一撃必倒の技となる。そう、これはヴィヴィオが無意識下で編み出した、珱嗄とは別種の『不知火』。
珱嗄の不知火が力と速度にものを言わせた一撃必殺の剛拳派とするならば、ヴィヴィオの不知火は速度と精密さと技術を組み合わせた、一撃必中の技巧派の技。
珱嗄の不知火が自分の持ち得るもので使えないのなら、自分の持ち得る武器で同じ結果を出す技にすればいい。足りないものは、別のもので補えば良いのだ。とはいえ、ヴィヴィオは自分の編み出したその技巧派不知火を武器として認識していない。あくまで、剛拳派の不知火を習得しようとしているのだ。既に、不知火を習得していると言っても良いにも拘わらず。
「あああああああっ!!」
「!……ふふ」
アインハルトは最早目の前に迫った拳に気が付き、即座に上体を後方へ反らし、拳を躱す。ヴィヴィオは絶対に当たるかと思っていた拳が躱されたことで、驚愕しながらも笑った。やはり、こうでなくては面白くない。
ヴィヴィオは追撃とばかりに振り抜いた拳ともう一方の拳を組んで、ハンマーの様に振り下ろした。それは体勢の崩れたアインハルトにとって躱せないタイミング。
しかし、アインハルトは更に後方へ身体を倒し、バク転の要領で後方へと距離を取る。そして、すぐさま攻撃へと転じた。振り下ろしたハンマーを解いて構え直そうとするヴィヴィオに、アインハルトは手刀による突きを繰り出す。まだ体勢の整っていないヴィヴィオ故に、その突きは当たると思われた。
だがそれは間違いだ。ヴィヴィオは構え直そうとしたのではない、そこから近づいてきたアインハルトにカウンターを繰り出そうとしていたのだ。それに気が付かず、まんまとヴィヴィオの懐へと入り込んできたアインハルトに対してヴィヴィオは、胸の前でぐっと両手を溜めて姿勢を低くした。
手刀がヴィヴィオの頭の上を通り抜ける。そしてヴィヴィオはアインハルトの下から彼女の腹部へとその両手を突きだす。二本の腕による掌底。クリスによる聖王強化が為されている今、その威力は細い腕から生み出される予想を大きく超えていた。
「がふっ……!」
「――――ってい!!」
後方へ大きく吹き飛ぶアインハルト。当たったのは腹部なのに、そのダメージは全身に満遍なく伝導する。珱嗄との修行で身に付けた技術の一つ、『衝撃透し』を使ったのだ。ヴィヴィオはこの技術を掌底の時のみ使える。拳では上手くダメージを伝えられないのだ。掌という相手に触れる範囲が広い攻撃方法の方が上手く出来る。
「……ヴィヴィオの奴って、こんなに強かったっけ?」
「いや、あたしの知る限りじゃあそこまで速くなかった」
「じゃあなんでいきなり……」
「多分……あのデバイスじゃないか? 前と違う要素があるとしたら、アレしか考えられない」
ノーヴェとスバルがそう考察する。ヴィヴィオの凄まじい成長に少し恐ろしいモノを感じながらも、素直に賞賛する想いもあった。
「珱嗄さん、アンタ……ヴィヴィオになにをやったんだ?」
「デバイスだよ。ちょっとゆりかごを圧縮しただけの」
「なるほど……ん? 今なんて言った?」
「おっぴろぴーん」
「せめて言語で返してほしかったなー!?」
「でゅーわー!」
「ティィアナァァァ!!!」
珱嗄のボケと、ティアナのコーラス。まだこのノリに付いていけないノーヴェは直ぐにぶちぎれた。ツッコミを行うにはレベルと経験値が足りないようだ。まだまだ未熟よのう。
「まぁ俺が育てた娘だ。あれくらい出来るさ」
「……こりゃ、うかうかしてっと追い抜かれるかな……ハッ、燃えるぜ!」
「わはは、もう抜かれていることに気が付かないノーヴェちゃんであった」
「ま、まだ負けてねーしっ!」
ヴィヴィオの圧倒的な戦いの最中、珱嗄達はそんな会話をしていたのだった。