◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
ヴィヴィオとアインハルトの勝負は、熾烈を極めた。
たった五分間の勝負ではあるものの、一秒の間に数々の打撃がぶつかり合う様は、まさしく実力のある者同士の戦い。
ヴィヴィオが拳を振るえば、アインハルトは覇王流で受け流しながらカウンターを繰り出す。そしてそのカウンターを躱したヴィヴィオは、アインハルトの隙を見逃さずにボディを狙って膝蹴りを繰り出す。しかしそれはアインハルトのわざと見せた隙、アインハルトは逆にその膝蹴りを受け止めて投げ飛ばす。
しかし、ヴィヴィオはその勢いのままに投げ飛ばされ、空中で体勢を整え着地する。
打って打たれて、躱し躱される戦い、未だに決定打が入らない均衡した状態の中、ヴィヴィオとアインハルトは高揚し、戦いを楽しんでいた。
拮抗した実力、お互いの全力をぶつけても倒すことが困難な相手。自身を研磨し、日々強くなろうと努力している彼女達からすれば、そういう相手がいることは何より喜ばしいことだった。
今この時ばかりは、聖王や覇王等、あらゆるしがらみを越えて二人の少女―――ヴィヴィオとアインハルトの二人だけの戦いだった。
「はぁ!!」
「やぁ!!」
拳と拳が、もう何度目になるか分からない程衝突する。
「珱嗄さん、このままじゃじり貧だけど……どう思う?」
「さぁねぇ……実際、実力は拮抗してる。手数の多いヴィヴィオと技術で勝るアインハルトちゃんは相性が互いに悪いからな」
「うーん……でももうすぐ制限時間だけど」
「つっても……直ぐに均衡は破れると思うよ」
珱嗄達はそんな会話をする。もう3分以上も打ち合っている二人の決着は、未だに見えてこない。だが、均衡は直ぐに破れると珱嗄は言った。
そして、その言葉を証拠付けるかのように、その均衡は不意に破れる。
「はぁあああ!!」
「っぐ―――!!」
アインハルトがしゃがみ、打ち上げる様に顎を狙った蹴りを繰り出し、ソレに付いていけなかったヴィヴィオがついに一撃を喰らった。その威力に、ヴィヴィオの足が若干宙に浮く。
そして、アインハルトの攻撃は止まらない。蹴りあげた後直ぐに立ち上がり、ヴィヴィオのガラ空きになった腹部へと技を叩きこむ。
「覇王――――断空拳!!」
「あぐっ……!!」
その場で回転し、珱嗄によって教えられた遠心力を利用した回転式断空拳を繰り出したアインハルト。この技は元の断空拳よりも溜めの時間を必要としない故に、一秒早く技を打ち込む事が出来る。一度断空拳を受けた事のあったヴィヴィオは、その一秒に付いていけない。
予想外に早い打ち込みに、防御が間に合わない。結果、その断空拳はヴィヴィオの腹部に直撃し、ヴィヴィオを吹っ飛ばす。
地面を削る様にして転がるヴィヴィオ、なんとか体勢を立て直して立ちあがるも―――
「一本! この勝負、アインハルトの勝ちだ!」
勝負は今の一撃で決着を迎えていた。
勝敗の宣言を聞いて、ヴィヴィオはへたっと肩を落とす。荒い呼吸を整えながら、まだ余裕のある表情のアインハルトに歩み寄り、手を出しだす。
「あはは……負けちゃった。でも、次は負けないです!」
「……ええ、またやりましょう」
アインハルトはヴィヴィオの手を固く握り、握手を交わす。お互い、ライバルと呼べるような相手であると、認め合い、またいずれ戦おうという約束を込めたその握手、ソレを見ていた珱嗄達は微笑ましいものを見る様に笑みを浮かべていた。
◇
「でも、なんで均衡が破れるって分かったの? 珱嗄さん」
勝負が終わった後、手頃な喫茶店へと移動した珱嗄達。ヴィヴィオとアインハルト、珱嗄、そしてノーヴェの四人はテーブルに着き、スバル達もまた別々のテーブルを囲んでいた。
そしてそんな中そう言ったのはノーヴェだ。実力は拮抗し、均衡した攻防を繰り広げる二人には何ら差はなかった。にも拘らず、珱嗄が均衡が崩れると分かったのは何故なのか?
それは、ヴィヴィオとアインハルト、両方を師事していたからこそ分かる決定的な差が、二人にあったからだ。
「一見、ヴィヴィオとアインハルトちゃんの実力は同等に見える。性質は違うが、その実力はどっちが勝ってもおかしくはないだろう。でも、俺は最初からアインハルトちゃんが勝つ可能性は8割くらいだと思っていたんだよ」
「え?」
「戦った二人は多分勝敗の原因が何にあるのか、多分分かってると思うけど……アインハルトちゃんとヴィヴィオでは、体力に大きな差があるんだ」
そう、珱嗄はアインハルトとヴィヴィオは体力に大きな差があることを知っていた。実力が拮抗し、そして均衡した勝負を繰り広げるであろうと予想出来た珱嗄からすれば、体力の多いアインハルトの方に分があることは明らかだったのだ。
だからこそ、ヴィヴィオとアインハルトの勝負は最初の不知火のぶつけあいの時、ヴィヴィオがアインハルトを倒せなかった時点で、珱嗄はアインハルトの勝利だろうと思っていた。あとはヴィヴィオがこの一週間で何か別の技を会得している可能性を考えたが、それもなかったので、結果は珱嗄の予想通りとなった訳だ。
「なるほどねぇ」
「むー……でも悔しいなぁ……」
「私の方が幾分先に生まれてますから……その分の差です。同年代に生まれていれば、どうなったか分かりませんよ。負けるつもりはないですけど」
納得するノーヴェを差し置き、その話を聞きながらもやはり悔しいのかむくれるヴィヴィオ。だがその半面、アインハルトは勝者の余裕と言うべきなのか、苦笑しながらも強気にそう返した。
「私だって負けません!」
「いつでも相手になりますよ」
そんなことを言うヴィヴィオとアインハルト、どうやらこの二人はこれから先も互いに競い合うような相手として、長く付き合っていけそうだな、と珱嗄は苦笑した。