◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
無人世界カルナージは、首都クラナガンから臨行次元船で約4時間、標準時差は7時間、一年を通して温暖な、大自然の恵み豊かな世界。
ヴィヴィオ達が四日間の合宿旅行に行くのは、そこに居を構える、過去スカリエッティに力を貸していた少女、ルーテシアとその母親の家だ。
宿泊ロッジに天然温泉、レイヤー建造物で作りあげた訓練フィールドや、ヴィヴィオ達のフィジカルアップに使えるアスレチックフィールド等々、様々なおもてなしの要素が詰め込まれている場所故に、ルーテシアは自信満々にヴィヴィオ達を待ちかまえていた。
のだが、
「え? 珱嗄さん、来るの?」
「そうみたいなのよー……どうしましょ、緊張してきたわぁ」
唐突に、珱嗄が顔を出すということが分かって緊張を禁じ得なかった。
ナンバーズの面々もそうだったが、4年前の事件でヴィヴィオを攫った張本人がルーテシアなのだ。命令されてやったこととはいえ、凄まじい罪悪感が4年越しで湧き上がる。通信では気にしていないらしいと聞いたけれど、それでもヤバいヤバい怒られないかな最悪殺されるんじゃないのかな、なんて内心は焦りと恐怖で占められていた。
「だ、大丈夫よールーテシア、ちゃんと謝れば許してくれるわよー……多分……それに、ヴィヴィオちゃんだって味方になってくれるわよ」
「う、うん……」
何を言っても、既に珱嗄達は此方へ向かっているところだ。今更何をしたところで意味は無い。ちゃんと謝らなければならないだろう。
許して貰えなかったら、取り敢えず死ぬ覚悟はしておこう、と思った。
「いやいや、許さないよ。なに言ってんの」
「そうですよね………え!?」
「誰!?」
と思った矢先、珱嗄が現れた。ヴィヴィオ達が来るまでまだ1時間程掛かる筈なのに、何故珱嗄が此処にいるのかと驚愕の表情を浮かべるルーテシア達。
「話に出てきた珱嗄さんです。どうも、ヴィヴィオがお世話になります」
「あ、はい、どうも……」
だが珱嗄は気にせずルーテシアの母親、メガーヌに挨拶する。メガーヌも唖然としていて言われるままに頭を下げていた。
反対に、ルーテシアは珱嗄の姿を鮮明に覚えている。当時は10歳という幼い年齢ではあったが、ヴィヴィオを連れ去ろうとした時に見た珱嗄は、凄まじい威圧感と圧倒的な速度で迫っていた、その青黒い髪と着物の組み合わせ、そして4年前と一切変わらない容姿は、ルーテシアの記憶の底からその時の恐怖をサルベージした。
「あ……は……」
「んん? おやおや、どうしたルーテシアちゃん、珱嗄さんですよ? 何か言うことがあるんじゃないのかなー?」
珱嗄にそう言われて、ルーテシアはハッとなる。そして、なんとか硬直した身体を動かして言葉を紡ぎ出した。
「あ、あの時はごめんなさい!」
「挨拶に決まってんだろ何言ってんだ」
「あたぁっ!?」
勢いよく頭を下げたルーテシアの後頭部を、これまた勢いよくぺしーんと叩いた珱嗄。情けない悲鳴が上がったが、ルーテシアはそろそろと珱嗄の顔を見上げた。
すると、珱嗄は呆れた様な表情を浮かべながら彼女を見下ろしていた。頭を擦りながら上体を起こすルーテシア。きょとんとしている彼女の頭に、珱嗄は手を乗せながらゆらりと笑った。
「ナンバーズのお嬢ちゃん達にも言ったけど、4年前のことなんて俺はもう気にしてねーの。一々謝られても面倒臭いし」
「で、でも……」
「それでもまだ気にするって言うのなら、最高のおもてなしをしてくれればそれで良い。存分にもてなせ、分かったか」
「あ……はい!」
珱嗄の言葉に、ルーテシアは頷く。
ちなみに珱嗄が此処にいるのは、先に転移魔法でやってきただけである。ルーテシアはヴィヴィオを連れ去った張本人、ならばやはりナンバーズ同様に気にしているのではないだろうかと考え、ヴィヴィオ達が到着する前にその辺のやり取りを済ませておこうと思ったのだ。
皆のいる前でそんなやり取りをするのも、水を指すようで面倒臭い。珱嗄も、ヴィヴィオ達が楽しく旅行する中で暗い話をするのは気が引けたのだ。
「てことで、俺ちょっと寝たいんだけど」
「珱嗄さん!?」
「本当だ、珱嗄さん!」
「…………誰だお前ら」
「「え……!?」」
珱嗄は話は終わったとばかりに何処か昼寝でもしようと思ったのだが、そこへ二人の少年少女が駆け寄ってきた。
赤い髪の少年と、桃色の髪の少女。何処か見覚えのある二人だったが、珱嗄は相手するのも面倒で、突き放す様な対応をした。
すると、物凄くショックを受けた様な表情を浮かべる二人。なんだか居た堪れなくなる感じだった。ルーテシアが。珱嗄は特にそういう感じでもないようで、頭を掻きながらジトっとした眼で二人を見ている。
「お、珱嗄さん……エリオとキャロです! 機動六課の時のフォワードだった!」
「え? ……ああ、なるほど」
ルーテシアの耳打ちでなんとか思い出した珱嗄。言われてみればなんとなく面影がある。
「なるほどなるほど……お前らかぁ……うんうん、久しぶりだなぁエリオちゃん」
「……私、キャロです……」
キャロの頭を撫でながら珱嗄は久しぶり久しぶりーと言うが、名前を間違えていた。キャロはずーんと沈んだ様子で自分の名前を訂正した。
「ああ、そうだそうだ。久しぶりだなキャロちゃん、ちょっと背が大きくなったんじゃないか?」
「本当ですか!?」
「本当本当、一回り大きく見えるよ、うん」
「ありがとうございます!」
珱嗄の言葉に喜ぶキャロだが、珱嗄は適当言っているだけである。
「で、そっちはエリオか、うん……あれだな……大きくなったな!」
「ありがとうございます!」
「で、なんだっけ、あのフリードとかいう竜は元気か?」
「……それ、キャロの方です……」
「ああ、うん分かってたよ? まぁ二人ともなんだか成長したようで良かった良かった」
完全に忘れられていると二人は思った。あれだけ一緒に仕事をしたから少しは覚えてて欲しかったと思ってしまうのだが、まぁ珱嗄らしいと言えば珱嗄らしいのかなぁと思う二人。
過去お世話になった人が、変わらずにいてくれるというのは、少しだけ嬉しい物があった。
「まぁじきにヴィヴィオ達も来るだろうし……仲良くしてやってくれ。確か機動六課時代のお前らと同い年だし、お前ら14歳だろ? 通じる者もあるだろうしな」
「え……」
「珱嗄さん……覚えて」
「じゃ、よろしく頼むぜ、エリオにキャロちゃん」
珱嗄はそう言って、宿泊ロッジへと歩きながら、二人の頭をぽんと叩いた。
「……はい!」
「任せてください!」
キャロとエリオは、珱嗄の言葉に、元気良く返事を返した。