◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
子供達も大人達も、トレーニングや川遊びを終えてロッジに戻って来ると、ヴィヴィオもアインハルトも酷く疲れた様子だった。
どうやら『水斬り』という一種の訓練に熱中して、いままでずっとやっていたらしく、それでかなり疲れているらしい。後先考えないのは子供の特権だなぁ、なんて考えながら珱嗄は苦笑する。
対して、なのは達も訓練でニートの珱嗄相手に返り討ちに遭ったこともあり、ずいぶんと気落ちしたようで、精神的にも疲労感を感じているらしい。子供達に向ける笑顔に少しだけ、力がない。
そんな中で、アインハルトが珱嗄に歩み寄ってきた。
「師匠」
「なんだアインハルトちゃん」
「川で水斬りという訓練を教えてもらったんですが」
「へぇ」
「師匠ならどれほど出来ますか?」
水斬り、そう聞いて珱嗄は普通に首を傾げた。この時、珱嗄の頭の中では、水斬り? 何それ? といった考えが浮かんでいたのだ。
4年間もニート生活を送り続け、この世界のまともな修行など行ったことがない珱嗄だ。そんなこと言われても困るだけだ。
だが、アインハルトの期待に満ちた眼差しが凄くそれを言い辛くさせた。
「あー……そうだなぁ」
水斬り、水斬り、と頭の中で繰り返し、どういう訓練方法なのかを想像する。珱嗄の頭の中ではとりあえず、『水斬り』は小石を投げて水の上を跳ねさせる遊びな訳だが、文字にすればそれは『水切り』である。
故に、それに似た様な物だろうと考えて、珱嗄は場を濁す感じで答えた。
「あー、そうだな。68連続は出来ると思うよ」
「68連続……!? す、凄い……!」
珱嗄とアインハルトの中で、水斬りの勘違いが起こっている。
珱嗄の中では小石が水の上を跳ねていたが、アインハルトの中では68連続で放たれる拳が川を真っ二つに両断しているイメージがあった。
アインハルトの中で珱嗄の株が急上昇だ。
「とりあえず、お昼食べるといいよ。あとで川に行って実際にやってあげるから」
「! はい!」
珱嗄がそう言うと、アインハルトはトテテとヴィヴィオ達の下へと去って行った。ふと、溜め息が出る。
お昼ご飯はバーベキューで、子供達は大人達が焼いた肉や野菜を美味しそうに食べている。微笑ましい光景ではあるが、珱嗄はその光景の中には入らずに、ロッジを離れて何処かへと去っていった。
◇ ◇ ◇
バーベキューを楽しく食べていた面々の中で、一人。珱嗄がロッジから離れて行くのを見た人物がいた。ヴィヴィオの友人である少女、コロナだ。クリーム色の髪の毛を二つ結びにして、比較的に品行方正な少女だ。
彼女もまた、ヴィヴィオと同様に格闘技に通ずる少女だが、そう行った面で珱嗄に興味を抱いていたりする。
普段、ヴィヴィオから耳にたこが出来る程聞かされる父親の話の中には、パパは凄く強い、パパは最強、誰にも負けない、といった身内贔屓なのか判断の付かない様なものがある。実際、その父親である珱嗄に師事を受けて、ヴィヴィオがあれほどまでに強くなっているという事を見れば、それなりに強い人物なのであろうが、どれほどのものなのかを知りたいと思っていた。
故に、彼女は去っていく珱嗄の後を尾行することにした。ヴィヴィオ達にちょっと食休みに散歩に行ってくると言って、その場を離れ、珱嗄の後を追う。
するとどうやら、珱嗄は先程までヴィヴィオ達が遊んでいた川辺に用があったようで、川辺にやってきていた。
そして、流れる水を眺めながら嘆息すると、珱嗄がコロナの方を見た。
「!?」
バレた? と思いながらも、身を隠す。
「何やってるの? えーと、コロナちゃん」
「わひゃあ!? あ、あはは……えーと……何してるのかなぁって思いまして……」
「ああ、だからロッジから付いて来てたのか」
「最初から分かってたんですか!?」
「まぁ気配で分かるよ」
普通に珱嗄に見つかった。言い訳するも、最初からバレていたことを知って驚愕する。コロナは珱嗄の背後、完全に見つからない様にかなりの距離をキープしながら追い掛けていたのだ。
あの距離でも見つかっていただなんて、どれほどの気配察知能力なのだろうかと思う。
すると、珱嗄は丁度良かったと言ってコロナを連れて川の前に戻る。背中を押されて川の前まで連れて来られたコロナは、何をするつもりだろうと困惑していたのだが、珱嗄はそんな彼女に言った。
「水斬りってどんなの?」
そう、珱嗄はここに水斬りの練習をしに来たのだ。練習、というよりもどういうモノなのかを知りに、だが、アインハルトとも約束してしまったのだから仕方ない。
そして、そう問われてコロナはああと納得する。
「え、と……水斬りは―――」
「ふむ」
そこから、コロナによる水斬りのやり方の教授が始まる。
珱嗄の考えていた小石は使わず、水を拳で斬る遊びの様なものだと知り、多少驚いたものの、珱嗄はコロナの説明を全て聞くと、面白そうだと、素直に感想を抱いた。
◇
それから、数分後。目の前で見ていたコロナも、バーベキューをしていた組も、驚愕の光景を見た。
嵐の様な、凄まじい轟音が鳴り響いたかと思えば、雨が降ったのだ。だが、空は満天の青空――――振っていたのは、珱嗄のいた川辺から立ち上る水柱の水。
―――その時、珱嗄達の居た川が、一時的に干水状態に陥った。水が全て吹き飛んだのだ。そして、水底にあった砂利の上に、珱嗄が立っている。
「…………嘘……」
そして目の前でそれを見ていたコロナが漏らした言葉は、そんな小さな呟きで、水の落ちてくる音で虚しく掻き消えて行った。