◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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歴史

 覇王、クラウス・G・S・イングヴァルド、彼は覇王として乱世のベルカで短い生涯を生きた男である。

 

 その時代は、血で血を洗う様な戦いの日々だった。戦争は絶えず、国同士の一歩も引けない小競り合いが更に大きくなって、多くの国を巻き込んでの闘争の日々だった。

 

 戦う誰もがこの乱世の終わりを望み、けれどその為には戦わなくてはならない。

 

 そんな悲しい時代の覇王、それがイングヴァルドである。

 

 しかし、悲しいことばかりでもない。

 覇王イングヴァルドのシュトゥラ家と聖王オリヴィエの聖王家は国交があり、二人は兄妹の様に育った。お互いに信頼の置ける相手として、そして魔導と武術の使い手として、高め合う事の出来る相手でもあった。

 花の様に明るい笑顔を見せるオリヴィエを、イングヴァルドは本当の兄妹の様に愛していた。恋愛感情があったかどうかは定かではないが、それでも家族の様に大切に思っていたのは確かだ。

 

 だが、その幸せも、乱世の中に呑みこまれて消える。

 

 オリヴィエは聖王のゆりかごの運命に従って―――乱世に死んだ。

 イングヴァルドはそれを止められなかった。行ってしまうオリヴィエの背中を、足を、止めることが出来なかった。その後悔は彼を突き動かし、その悲しみは彼を武の道を極めんとする行動へと走らせる。

 

 全てを投げ打ち、一騎当千の力を得て―――それでも何も望んだものは手に入らないまま、その生涯を終えた。

 

 だからこそ、彼は覇王であり、その記憶は現代の覇王の血を受け継ぐ者へと継承されている。悲しみの記憶とその悲願が、痛々しいほどに、残っている。

 

 

 そしてその継承者こそが、アインハルト。彼の生み出した覇王流が、弱くないと証明する事を、悲願とした少女である。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……どんな人だったんだろうね、クラウス陛下って」

「うん……」

 

 そして、ルーテシアからそれを教えられていたコロナとリオは、少しだけ悲しい表情でそう呟いた。今更変えられる事実ではないし、過去は過去のままかもしれないが、あまりに悲しい悲劇の乱世に、彼女達は言葉も出なかった。

 

「……どんなもなにも……頑固でへたれでオリヴィエちゃんを前にすると途端に態度が変わる様な、普通の男だったよ」

 

 だが、そこに珱嗄がそう言った。三人の視線が珱嗄に集まる。

 

「え、珱嗄さん知ってるの? というか会ったことあるの?」

「俺の頭の中にはね、記録を辿ることが出来る魔法がある。まぁ言った通り、対象に記録された記憶や、過去のことを知ることが出来る魔法だ。その魔法で俺の頭の中にある別の魔法の記録を調べれば、どんな奴がどんな感情でどんな経緯でどうこの魔法を生み出したのかも分かるし、その魔法を一体何人が使ったことがあるのかも分かるんだよ」

「え、と……それってつまり、過去のことを知る魔法ってこと?」

「そう。そんで、俺は『聖王のゆりかご』をその魔法で調べたことがある」

 

 聖王のゆりかご、まさしく乱世の時代最大の聖遺物にして破壊の兵器。

 それの記録を辿れば、聖王オリヴィエの過去やイングヴァルドの過去を辿ることが出来る。とはいえ、それでは乱世で戦う二人しか分からないだろう。

 

 故に、珱嗄はそこで、『夜天の書』や『格闘術(ストライクアーツ)』にもその魔法を使ったことがあるのだ。夜天の書の中には、乱世の時代の記録もある。まして、格闘術の歴史を辿れば一発だ。オリヴィエとイングヴァルドは、武を持って競い合う仲でもあったのだから。

 

 だから珱嗄は知っている。聖王オリヴィエと覇王イングヴァルドが何処で、誰と、何時、どのように、過ごしていたのか。どのように生きていたのかを。

 

「……珱嗄さん、それってやっぱり教会や管理局が黙ってないと思うんだけど」

「ほっとけほっとけ……それに、確かに悲しい物語かもしれないけど、俺からしたらもっとやりようはあったと思うよ。家とか規則とかそんな物に縛られて救えるもんなんてほんの僅かだ、自分がどうしたいかで動いた奴ほど、案外凄い力を発揮したりするんだよ」

「……それって珱嗄さんそのものだよね」

「わははっ、そうだな……俺は俺の思った通り、俺のやりたい事をやってるね」

 

 コロナとリオは、珱嗄がゆらゆらと笑う姿に、少し良く分からないといった表情を浮かべる。やりたいことをやる、それは当たり前ではないのか? と思ってしまうのだろう。

 今の彼女達はまだ幼い小学生。未だに社会における規則ややりたくてもやれない状況というのがあまり実感出来ないのだろう。

 

 珱嗄は、そんな彼女たちの表情に気付き、苦笑する。

 

「難しかったか? まぁいつか分かる時が来るよ……やりたくても出来ないって時がね」

「……はい」

「むー……」

 

 二人の頭を撫でてそう言ったが、コロナは素直に頷いたものの、子供扱いが気に入らなかったのか、それとも今知りたかったのか、リオは少し唇を尖らせていた。

 その表情に珱嗄はまた苦笑する。

 

 すると、ノーヴェから通信が入った。

 

 

『―――お、珱嗄さんもいるのか。今からスターズが模擬戦やるんだってよ、見に来ないか?』

 

 

 その言葉で、会話の空気が明るい物へと変わった。

 

 

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