ストライクウィッチーズ 大怪獣空中決戦 作:サイレント・レイ
――― 501JFW基地 ―――
マロニーの思うがままにアイスランドの鳥捕獲作戦を了承しまったリネット達3人は、基地に帰って早々に501JFWの全員を作戦会議室に集合させての作戦会議を始めていた。
「先程も言いましたが、鳥捕獲作戦に名案があったら、さっさと出して下さいね!!」
但し、嫌々請け負った事から、ミーナは見るからに機嫌が悪かった為、美緒とリネットは彼女と一緒に壇上にいるも、明らかにミーナから距離を取っていた。
只、作戦会議自体はミーナは真面目に検討をしていた。
「こー、飛び立った処に麻酔でパァーンとやってしまうのが、手っ取り早くない?」
で、いの一番に出されたのが、バルクホルンと共にミーナと長く組んでいる、見るからに眠そうにしている通りに超怠惰(当初は生真面目だったが、とある伯爵ウィッチが原因で性格が反転)なカールスラント四強の一角のトップエースであるエーリカ・ハルトマンの麻酔弾の使用であった。
まぁ、鳥獣の捕獲作戦では
「論外ですね」
「何でだよ!」
だがハルトマンの提案は、しかめっ面のミーナが何かを言うより先に、ペリーヌに否定された。
「此の場合、使われる麻酔は筋肉を弛緩させる物なのです。
少なすぎると効かないし、多すぎると呼吸機能や循環機能までが弛緩して死んでしまう危険性があるのです。
鳥のデータが無いに等しい現状での麻酔弾の使用はリクスが大きすぎます」
元々ペリーヌは実家が魔法医であり、魔法適正が高かった為に軍人になった事から医者への道を自分自身で閉ざしてしまったが、ミーナがペリーヌに頷いている事からも分かる通りに此の手の知識は豊富の様だった。
まぁ、正論とは言え、傲慢にも感じる口調的から、ハルトマンがペリーヌにムッとしていた。
「それに例え麻酔弾を使ったとしても、海か地上に落ちてしまいますから、海なら溺れて溺死、地上なら墜落死する可能性が高いですよ」
更にペリーヌにリネットが補足して、麻酔弾が有効な手であるものの、生半可な麻酔弾の使用は出来ないとの結論に達した。
「だったらさぁー!
檻作って、そこんとこに閉じ込めちゃえばいいじゃん!」
「あのですね、
あの鳥が入る程の大きな檻を作ってアイスランドに置くのに、どれだけ時間が掛かると思っているのですか!?」
そこで今度は501JFW最年少でロマーニャのウィッチであるフランチェスカ・ルッキーニが檻の使用を提案したのだが、全員が一斉に溜め息を吐いた時点で分かってはいたが、ペリーヌが常識的な意見で否定した。
「それに、その方法ではもし逃した個体がいたら警戒するから、やるなら6頭一気に捕まえないといけません」
「……難しい、な…」
ミーナの檻使用の難しさの補足に、美緒が唸り声を上げた。
「ですけど、麻酔弾を使うのも、檻を使うのも有効な手に変わりありません。
何とかして鳥達を何処かに閉じ込めてから麻酔弾を使うのが一番の方法だと思います」
「流石、サーニャ!!!」
サーニャ・V・リトヴャクの指摘にベタ誉めしているエイラは兎も角として、確かに一番の手段はサーニャの言う事であった。
「だとしたら、やはり問題は檻だな。
まぁ、檻じゃなくても6頭一挙に閉じ込められる物が必要だ」
「だからと言って、あまり時間の掛かる物は作れませんよ」
美緒が捕獲に必要品の1つにボヤいていたが、そんな彼女の隣でのリネットの呟きに“ん?”とした。
「…どう言う事だ、ビショップ?」
「今にして思ったんですけど、鳥の1頭はほぼ南に向かってました。
おそらく、あの鳥は……
リネットの言葉に全員がギョッとしたが、よくよく考えたら鳥が獰猛な食欲がある以上は餌が無くなるだろうアイスランドに止まり続ける訳が無かった。
「本当か、それは!!?
アイツ等はブリタニアに来る可能性があるのか!!?」
「あ、は、はい!
進路方向が正しかったので、多分~…あの鳥には、渡り鳥と同じ様な地磁気を読む能力があると思います」
思わず美緒がリネットの両肩を掴んで揺さぶり、そんな美緒の行為にペリーヌがギョッとしたのは置いておいて、リネットの予想が正しい場合はかなり不味い出来事が起きるのは目に見えていた。
「だとしたら、尚更アイスランドの鳥達を早く捕獲しないといけないわね。
チョット、マロニーに賛同するのは癪だけどね…」
「でもさぁ~…今んとこ、その手段が無いじゃん」
ミーナが改めて気を引き締めたは良いが、バルクホルンの言う通りに捕獲手段………特に鳥6頭を閉じ込める物や場所がどうしても浮かぶ事が出来ずに只空しく時間が過ぎていった。
「……お開き、だね」
「そうだな」
手詰まりと判断して、ハルトマンが立って更にエイラが続いて退室しようとしたが…
「…すみません、宮藤軍曹はおられますか?」
…こんな時に、何かを手に持った兵卒が不在の芳佳を求めて入室した。
「すみません、芳佳ちゃんは任務で出向いているのですけど」
「失礼しました。
ですけど、宮藤軍曹宛の荷物が届いたのです」
ミーナが兵卒を睨んでいたが、少なくとも美緒の無言の了承の下でリネットは芳佳宛の荷物の包みを開いた。
「お、こりゃ扶桑人形じゃないか!?」
でその中に入っていたのは、スオムス
しかも、人形自体が今にも動き出しそうな精巧な出来であるだけでなく、硝子ケース入りと言う見るからに高級感が漂う1品だったから、並の人間が手に入る代物ではなかった。
「此のウィッチって、いらん子中隊の奴だよな!?」
「あ~…、ウーシェ、元気にしているかな?」
早速、501の面々が一斉に注目して、扶桑人形のモデルが自分の祖国を守った部隊の1人である事からエイラが真っ先に気づいて、その事からハルトマンがウーシェこと双子の妹ウルスラ・ハルトマン(元いらん子中隊所属)を思っていた。
「処で、此の人形はどうしたのですか?」
「はい、杉田大佐を初めとした空母『赤城』の乗員一同からのお礼品です」
「ああ、あの時のか」
「困ります!!
こんな事をされては!!!」
リネットの質問からの返しから、美緒が芳佳の初陣である彼女のブリタニアまで送り届ける途上にあった空母『赤城』の防衛戦からだと分かって笑ったが、排他的感情を持っているミーナは直ぐに何の罪もない兵卒に怒鳴っていた。
「…あ、有った!!!」
だが、そんなミーナの怒鳴りは直ぐにエイラの叫びで打ち止めになった。
「…有ったって、何が有ったのですか?」
「直ぐに用意できるだけでなく、鳥6頭をいっぺんに捕まえられる檻が!」
ミーナが眉間に皺を寄せながらエイラ質問をしたが、そのエイラの返しに他共々理解出来なかった。
「此れだよ、此れ!!!」
只、エイラが扶桑人形を指し示したので、取り合えずはその扶桑人形を暫く見つめていた。
――― アイスランド・南方沖合い ―――
エイラの提案が主軸となった鳥捕獲作戦案が連合軍司令部に即日了承を受けた翌日の暗くなり始めた夕暮れ時、扶桑・ブリタニアの連合艦隊がアイスランドの沖合いに展開してからの最後の準備が調えられようとしていた。
尤も、ブリタニア艦隊は空母『イラストリアス』を初めとした主力艦艇はアイスランドの近海にいて、駆逐艦の多くは周辺海域から漁船群を追い出したり近づかないように見回りをしていたので、此の海域にいるのは扶桑艦隊のみであった。
「まさか『赤城』にこんな事をさせる事になるとは思いませんでしたよ」
「本当にすみません、杉田艦長」
エイラの提案である、誘き寄せた鳥6頭を空母の格納庫に閉じ込めた後に麻酔弾で捕獲する作戦を実施する艦に『赤城』が選ばれた為、『赤城』艦長の杉田淳三郎大佐が苦笑して、ペリーヌと共に彼の隣にいるリネットが直ぐに頭を下げていた。
因みに『赤城』が選ばれた理由は2つ、1つは母艦航空隊が再編中であった事、2つには『赤城』が密閉型格納庫(ブリタニア空母群は全て開放型)を採用している為であったからだ。
此の為に、撒き餌の準備や作戦指揮所兼任の狙撃陣地作製作業等が行われている『赤城』は必要最低限の乗員しか乗り合わせておらず、艦長の杉田がその他乗組員共々旗艦の重巡『筑摩』に一時的に移って指揮を取っていた。
「本当に『赤城』を此所に配置していいんだな?」
「…あの鳥達は、その後も南方に向かって飛行されたのが確認されたので、餌が豊富にあるブリタニア本土を目指していると思います。
追い散らすと言え、その進路上に『赤城』を配置しておけば成功率はかなり高くなる筈です」
で貧乏クジを引かされた杉田の隣にいるリネットに、ご丁寧に現場に出向いてきたマロニーが彼女に訊ね、当のリネットは目線が冷たかったものの取り敢えずは返した。
「成功してもらわないと困る。
もし失敗してブリタニア本土に浸入させたら、大変な事になるぞ」
「お言葉ですが、こんな頼りない状況下で捕獲を命令したのは貴殿方です!」
ペリーヌが睨みながらマロニーに返していたが、リネットはマロニーの外見や態度に反しての小者振りを感じ取っていた。
「ですけど、どんな状況下でもベストは尽くします」
「……宜しく頼むよ」
最後にリネットの返し通りに501と連合軍は本気度合いは本物で、現にミーナは現場指揮を取っているから他共々此所にいなかったし、更に『赤城』の護衛に『秋月』『照月』『凉月』『初月』の扶桑でも貴重な防空能力に優れた秋月級駆逐艦が4隻も動員されていた。
だがリネットは本作戦の501の指揮官の立場と言え、ミーナにマロニーの対応を押し付けられたのではないかと心の片隅で疑っていた。
『此方ミーナ、リーネさん、聞こえますか?
鳥が6頭全て飛び立ったわよ!!
此れからそっちに追い込むからね!』
「『赤城』に備えさせろ!!!」
そして鳥達が飛び立った事がミーナの無線から伝えられ、捕獲作戦開始となって直ぐに杉田が動いたが、マロニーは“6頭全て”の単語にギョッとした。
「6頭もいるのに、ちゃんとやれるのか!?」
「その為にミーナさん達6人が動いていますし、ソードフィシュを6機用意させたのです!」
事前にした筈なのにオドオドしだしたマロニーに、リネットが他共々呆れながら説明した通り、鳥達はミーナ、美緒、エイラ、サーニャ、ハルトマン、ルッキーニとの501の凄腕6人が照明で追い散らしているだけでなく、旧式を通り越してまもなく化石の域に入ろうとしている複葉機ソードフィシュ艦攻6機が、今回はその旧式度合いが幸となってミーナ達を支援していた。
因みに追い散らし隊の6人の中で、エイラは嫌がってペリーヌに押し付けようとしていたが、サーニャの参加を知って直ぐに掌を返しての参加をしたと言う事を書いておく。
まぁ、マロニーの事など関係なく作戦は順次進んでいたのだが、そんな彼の不安が具現化したのか『凉月』から変な一報が届いた。
「『凉月』より発光信号!
西方より此方に接近する機影2!!!」
「機影?
しかも西からだと?」
現在、捕獲作戦実施期間中はブリタニアとリベリオン両国で此の海域一帯での飛行禁止令が出ていたので、しかも方角的にもおかしかったので、全員が頭に思い浮かべた単語は“ネウロイ”であった。
「対空戦闘ぉ、用意!!!」
「ペリーヌさん!!!」
「ええ、勿論!!!」
此の為に、『筑摩』艦長が戦闘配置を命令し、リネットとペリーヌは艦橋を飛び出してストライカーユニットがある艦尾飛行甲板に向かった。
『戦闘中止、戦闘中止!!!
接近中の機影2は友軍ウィッチ、友軍ウィッチなり!!!』
だが2人してカタパルトに乗せられたストライカーユニットを履こうとした直前に、接近するのはネウロイではなくウィッチである事が艦内放送で伝えられた。
「まったく、はた迷惑なウィッチですわ!!」
「でも何所のウィッチでしょうか?」
取り敢えずカタパルトから下りたペリーヌが毒を吐いてリネットが宥めながら疑問を感じていたが、当の2人の……やたらとガソリン缶を背負ったり担いでいた上になんか見覚えのあるP51と零戦のストライカーユニットを各々に履いた2人のウィッチは、当初は『赤城』に着艦しようとしていたが旗艦が『赤城』ではなく『筑摩』てある事が分かった事から、大きく旋回してから『筑摩』や艦隊側の静止を無視して『筑摩』の飛行甲板ギリギリ一杯に着艦した。
「貴女達何をやって、え!!?」
「シャーリーさん!!、と………バルクホルン、さん?」
『筑摩』の甲板要員共々ウィッチ2人に怒鳴ったペリーヌとリネットだったが、その2人が別任務に行っている筈のシャーリーとバルクホルンだった事に驚いていた。
尚、何でリネット(とペリーヌ)がバルクホルンの認知が遅れたのかと言うと、バルクホルンが飛行距離の関係でBf109(航続距離が短い)でなく芳佳の零戦を履いていただけでなく、ドテラを羽織って口にマスクを着け、多分当初は氷が入っていたと思うが、水袋を頂頭部にくくり付けられていたからである。
後者のは、バルクホルンが真冬の大西洋に落ちた事から風邪をひいていた為であり、現にシャーリーがガソリン缶全てを投げ捨てながら軽やかにストライカーユニットから飛び下りたのに反して作業員2人の手を借りてのヨタヨタだった上、顔が真っ赤になっていた。
「2人ともどうしたのですか?」
「環礁の捜索はどうしたのですか?」
「此所の司令部に会わせろ!!!」
「大変なモノが近づいているぞ!!!」
リネットとペリーヌがバルクホルンとシャーリー2人の来訪理由を訊ねようとしたが、当の2人はそれを無視して逆にリネットとペリーヌに大声での要望をした。
感想・御意見を御待ちしています。
今回の投稿前に第4話での鳥(ギャオス)は5頭でしたが、此れを1頭増やしました。
芳佳
「……私だけ、出番と台詞が無かった…」