鈴井はこの揺れが嫌いだった。「華の空挺がヘリに酔うのか。」と笑われたこともあったが、酔う酔わないとかではなく嫌いなのだ。ひとつ前に導入されていたV-107や、改良前の機体であるCHー47Jよりはだいぶ居住性が向上したこのCHー47JA輸送ヘリであっても鈴井はダメらしい。
沖縄県那覇市にある第15ヘリコプター隊に配備されているこのCHー47JAは古くなったCHー47Jの後継として導入された。J型との大きな違いは機体横に膨らむ燃料タンクの大きさだ。JA型は改良によってタンクが大きくなったことで、J型では612キロメートルだった航続距離が1037キロメートルに伸びている。搭乗員とは別に55名の兵員を輸送でき、高機動車などの車輌を内部に搭載できるほか、物資・重砲を機体下に吊り下げて輸送できる。
任務は戦闘ではない。少なくとも統幕はそう考えている。任務はヒトコトで言えば「プレハブ小屋を建設せよ」。これが内地なら大した苦労もなく完遂できる任務だが今回は離島。それも年々挑発行為を激しくしている国が領有権を主張する島だ。全く障害なく任務が終わるとは、小隊の面子はおろか政府首脳の誰も考えていない。だからこそ「戦闘を前提にしていない」と言いつつも、国内最強を誇る彼ら「華の空挺」が帯同している。
那覇空港には陸海空すべての自衛隊基地が隣接する。空自は南部航空混成団。海自はPー3C哨戒機を運用する第5航空群。陸自はUHー60JA汎用ヘリ・CHー47JA輸送ヘリを運用する第15ヘリコプター隊が那覇基地に機体を置く。通常、官民両用空港では、戦闘機のスクランブル(緊急発進)や任務を優先させるために、民間機の管制も航空自衛隊の航空管制隊が行うのだが、この那覇基地では国土交通省の航空管制官がスクランブル発進までも管制する。
近年、増加するスクランブルや某国の脅威に備え、九州から戦闘機部隊を那覇に移転して飛行隊を倍増させる計画が検討されている。併せて、民間路線の需要増による空港としての対応力も限界がきており、現滑走路の西に新たな滑走路の増設が計画され、こちらはすでに着工している。
平成XX年5月某日の深夜、那覇基地に1機のCー130H輸送機が飛来した。滑走路を抜けたCー130Hはマーシャラーの誘導で空自エリアに駐機すると、後部のカーゴドアを開いた。カーゴドアからは防弾チョッキを身に付け小銃を携帯した陸上自衛隊部隊が速やかに待機していたCHー47JAに乗り換える。彼らこそが「華の空挺」こと陸上自衛隊唯一のパラシュート部隊、第1空挺団である。彼らの標語は「精強無比」。輸送機からの落下傘降下による空挺(エアボーン)作戦や、ヘリを利用したヘリボーン作戦に特化した部隊である。4つある普通科大隊のうち、第1普通科大隊に所属する2個小隊と施設中隊が4機のヘリに搭乗する。総勢150名という1個大隊にも迫る戦力で島の実効支配をめざす。
まだ夜明けには2時間以上ある。夜が明けて、海警の巡視船が島を見たらどんな反応を示すだろうか。
「あと30分ほどで到着する。降着後は速やかに展開して施設科を守る。いいな!」
「了解!」
各小隊長の指示で、戦闘小隊が降着の準備を始める。まだ島は見えない。