有り難い限りです。これからも頑張って更新していきますのでよろしくです!
悠里さんが職員室を出るのを見送って、私はめぐねぇへ振り向いた。
「――で。めぐねぇ。何を隠してるの?」
先程の会話をしているときに、少しめぐねぇの動きに違和感を感じたのだ。
「――な、何のことかしら?」
少しの空白の後にめぐねぇが答えた。
めぐねぇは余り嘘をつくのが得意ではない。なので付き合いが長いと、嘘をついているのが簡単に分かる。
「――今、隠し事はなしだよ」
「だ、だから何のことかしら?」
めぐねぇはまだ隠し通すつもりらしい。何となく私にもわかる。
今、こんな状況でさえ言わないということは、めぐねえが隠していることは本当にヤバいものなのだ、と。
だが――いや、だからこそめぐねぇ一人に背負わせるわけにはいかない。
「何か――そうだね。今の状況に関係する、大事な何かを持ってるんじゃないの?」
「――っ」
めぐねぇの表情が驚きのそれに変わる。どうやらビンゴか。
「当たり――みたいだね。何を見つけたの?」
質問を変える。めぐねぇは観念したようにため息を吐くと、机から一冊のマニュアルを取り出した。
「これ、なんだけど」
マニュアルを持つ手が震えている。
「緊急避難マニュアル…?」
何か、すごく嫌な予感がした。
――感染が爆発的に増加した、いわゆるパンデミック状態が引き起こされた場合――
――寛容といたわりの精神は、本文書開封時点においては、美徳ではない。覚悟せよ――
――あなたの双肩には、数万から数百万の人命がかかっている――
「――なに、これ。これじゃあまるで――」
まるで――これが人為的に起こされたものみたいじゃないか。
いや、そうじゃない。この文面からして、人為的に起こされたものだろう。それが意図的に起こされたものかは分からないが。
声が震えているのが自分でもよくわかった。
クシャリ、と音をたてて手元のマニュアルが潰れる。
――ふざけるな。
これを読み終わった時に思ったことはそれだった。怒りが思考を塗り潰そうとしてくる。
このままじゃダメだ。私が持たない。
「――すぅ――」
深呼吸を繰り返す。幾分か落ち着いた。めぐねぇに目をやる。
「これは――誰から?」
今最も重要だと思うことをめぐねぇに聞いていく。黒く塗り潰されていた所も気になったが、めぐねぇは恐らく知らないだろう。
「校長先生から――」
めぐねぇは目を伏せ、答えた。
つまり――校長先生が何か知っているかもしれない。
(今度校長室に行かなきゃな)
私はめぐねぇを見た。彼女は一人でこんな秘密を抱え込もうとしていたのだ。余りにも――無茶がある。
そう思うと、私には目の前に座っているめぐねぇがとても脆いもののように思えた。
「話してくれてありがと、めぐねぇ」
私はめぐねぇに笑いかける。考えていても仕方がない。結局のところ今、私が出来ることをやるだけなのだ。
「じゃあ、気を取り直して遠足のことについて話そ?まず行き方の事だけど…」
めぐねぇは私が無理をして笑っていることに気づいているだろうが、何も言わなかった。彼女のこういう気遣いはありがたい。
「――…ええ、そうね」
私達はもうその話題については触れなかった。ただ、私はめぐねぇと話しながらも、あのマニュアルのことについて考えていた――
「よーい、ドン!」
ゆきが手を振り上げる。それと同時に、私は走り出した。背中に背負うのはシャベル。
(これキツいな――)
走るのにシャベルは邪魔だ。それがよく分かる。しかし、これを背負わないわけにはいかない。
私がゴールまで走りきると、悠里さんがストップウォッチを止めた。
「やっぱりくるみの方が早いわね…」
私も結果を見たが、結構酷い。くるみより軽く8秒以上は遅かった。
「まぁ、鍛え方が違うからな。じゃあ、あたしが取ってくるのでいいのか?」
私達は意味なく、走るスピードを計っていたわけではなく誰が車を取りに行くのかを決めていたのだ。
結局、行く方法は車に決まった。問題は駐車場にあるめぐねぇの車をどうやって取りに行くかだったが、これも特に話し合うことなく決まる。
五人のなかで戦える、私かくるみが取りに行くしか無かったのだ。そのため、今シャベル装備時の全力疾走タイムを計っていたのだが…
(元とは言え、陸上部のエースさんに叶うわけはないよね――)
無事惨敗。と言うわけで、くるみが車を取りに行くことに決まった。
「遠足でも何でもかかってこい!」
くるみはかなりテンションが上がっている。
(運転してみたいって言ってたからね…)
ちなみに、私が負けるのを承知でタイムを計ってもらったのも、車を運転してみたかったからである。
(《奴ら》を思いっきり轢いてみたい…)
こういうときの定番だ。
「愛莉さん怖いわよ…?」
悠里さんにたしなめられる。どうやら不気味な笑みを浮かべていたらしい…。私も疲れているようだ。
「ごめんごめん。で、明日行くんだよね?」
「ええ。なるべく早い方がいいと思ったから」
悠里さんが答える。
「明日からかなりハードになりそうだな…」
私は、誰に言うでもなく呟く。日程としては、一日目に移動、二日目に探索だったはずだ。
「誰か――いるといいな――」
私の呟きは、誰にも拾われることはなく。ただ、風に消えた。
遠足に行くための下準備回です。
愛莉はゲームの影響で『ゾンビは車で轢くものだ』という間違った常識を持っている様子。
この子に車は運転させちゃダメだな…。