階段を一段飛ばしで駆け上がる。声が聞こえたのは恐らく5階だ。そして声が聞こえた、と言うことは。
安全である室内にいない、と言うことだ。
(急がなきゃ)
――と焦ったその時。
「ア゙ア゙ア゙」
注意が散漫になっていたのだろうか。
4階についた途端、突然横から唸り声が聞こえた。考えるより早く、条件反射でシャベルをそちらへ振り抜く。ゴシャ、と音を立てて私に掴み掛かろうとしていた《彼》の頭が潰れた。
「流石にここら辺は沢山いるか…」
内心、冷や汗をかく。今のは危なかった。一応防具としてコートを着ているとはいえ、必ずしも安全とは言えない。噛まれるのはなるべく避けておきたい。
辺りを見回し、すぐ側に《奴ら》がいないことを確認すると、私は売り場に身を潜めた。
4階から5階に掛けての階段には、《奴ら》が沢山いるのが見える。小さく舌打ち。流石に、あの群れの中に突っ込んでいく勇気はない。
ならば、どうするか。
一度落ち着くために深呼吸。そして、思考。
(《奴ら》の気を引くためには音――)
何か、大きな音を出すもの。
例えば――警報器のような。
その考えに至り、私は素早く辺りを見やる。だが、非常ベル等は近くにない。
「――…なら」
私はそう呟くと、紳士服売り場に向かった。
*******
「あいちゃん遅いね」
隣にいるゆきが呟いた。退屈そうに足を揺らしている。
ここは一階の正面玄関。あたし達はここまで走ってきていた。だが…確かに愛莉が来るのが余りにも遅い。単純に撒くだけなら途中であたし達に追い付けた筈なのに。
(もしかしたら、もう…)
何となく浮かんだ嫌な考えを、頭を振って飛ばす。愛莉なら大丈夫、そう信じるしかない。だが。
(あいつは無茶しすぎなんだよな…)
少しの怒りが沸いてくる。もし無事に戻ってきたら一発くらい殴ってやろうか。
――と、そんなことを考えていたときだった。
ジリリリ、とベルの音が広いモール内に響き渡ったのは。思わず音源を探して上を見上げる。あれは…
「煙…?」
隣にいたりーさんが呟く。
そう、黒い煙が四階の窓からもうもうと出ていた。まるで…そう、火事みたいに。どうやら、今も鳴っているこのベルは、火災報知器のものらしい。
「なんで…」
めぐねぇも呆然としている。だが、あたしは確信していた。
あれは愛莉がやったのだ、と。
「誰かいたってことかよ…」
わざわざ、あんなところに残ってまで何かをする理由。それは、生存者がいた、くらいしか考えられない。
(あたしは《奴ら》がいたからすぐに引き返したしな…)
なら――愛莉を信じて待つしかない。
助けに行く、という考えも浮かんだが、めぐねぇ達が危険すぎるので断念。
「無事でいろよ、愛莉」
あたしは、黒い煙を見上げてそう呟いた。
状況を整理しよう。
四階の紳士服売り場に向かった愛莉。
そして四階の窓から出る火事の煙。
そうです、愛莉ちゃん、やっちゃいました。流石初期装備が簡素火炎放射器!安全性を省みないにも程があるぜ!
…焦ってるとは言え、他にも何か方法あるでしょうに。