「生きていればそれでいいの――?」
嗚呼、言ってしまった。もう戻れない。目の前にいる美紀の顔が絶望に染まった気がした。
でも。これ以上ここに居てもダメなのだ。一週間以上モールの中にいたが、誰も来なかった。
(なら…こっちから探すしかないじゃない)
美紀から目を逸らし、外に出るための道具を積めたリュックを改めて背負い直す。そして辺りを警戒しながらドアを開けたときだった。
ガラガラ――と、何かが崩れる音。
「「――っ!?」」
美紀と私は息を呑み、音源を探した。
「圭。さっきのって…」
美紀がおずおずと聞いてくる。私は頷き、答えた。
「うん、階段の方からした」
《彼ら》は基本同じことしかしない。
だから、今までに無かった音がするということは。
(何か――変化があったとか…?)
その時、階段の方から声が聞こえた。
「くるみ!さっさと行って!」
声。唸り声ではない、生存者の声だ。思わず美紀と顔を見合わせ、どちらからともなく頷いた。
「美紀」
「う、うん、分かってる」
美紀が荷物を纏めるのを待つ。
恐らく、このモールで生存者と会える最初で最後の機会だろう。逃すわけにはいかない。美紀がリュックを背負うのを見届けると、私は警戒しながら外に出た。向かうのは音源である階段だ。
辺りに《彼ら》がかなり少なかっため、特に何事もなく進むことができた。
――そして、階段が見える位置に来たとき、隣にいた美紀が呟く。
「バリケードが…壊れてる」
思わず階段を覗き混む。だが、何故か煙が籠っていて、見通すことが出来ない。仕方なく大声で呼び掛ける。
「誰かいませんかー!!」
しかし、その声に答えたのは人の声ではなく、《彼ら》の唸り声だった。
「――っ!!」
しまった。生存者がいることに浮かれて、《彼ら》が音に反応するという、とても大事なことを忘れていた。
自分の迂闊さに嫌気が差しながらも、逃げるために身を翻す。
「美紀!こっち!」
美紀の手を引き、向かうのは家具売り場。障害物が沢山あるため、逃げやすいからだ。
そして、二人でタンスの陰に身を隠す。上がった息を整える。
「どうしよう…」
美紀と顔を見合わせる。あの状態だと、どうやっても階段は抜けることが出来ない。
――そう考えていたときだった。
ジリリリ、とベルの音が鳴り響いたのは。
条件反射で身を縮ませてしまったが、音がしているのはここではないことに気付き、ほっと安堵のため息をつく。
「これって…火事のベルだよね…何で」
美紀が隣で何かを呟いた。だが、どうやら私に向けたものではなかったようなので、ひとまず置いておく。
まだベルは鳴り響いていて、《彼ら》は音の方向へ進んでいる。
(今なら…行けるかも)
私は美紀の手を取ると、さっきの階段へ向かった。物陰に隠れて耳を済ます。
(《彼ら》の声は聞こえないから今なら…)
そう考え、階段を覗き混む。美紀も続いた。そして、覗き混んだ先には。
「「――っ!」」
ただ、黒い。それが煙だと気づくのに、数秒かかった。急いで、煙を吸わないようにハンカチをポケットから出し、口を覆う。
生存者と会うには、絶対にこの階段を通らなければならない。だが、この煙の中を進むのは明らかに無謀だ。視界が悪すぎるので、《彼ら》が目の前にいても気づかない可能性すらある。
(どうしよう…)
焦りや不安等がごちゃ混ぜになり、まともに考えることが出来ない。
「ア゙ア゙ア゙」
そして、その状況に追い討ちをかけるように突然隣から唸り声が聞こえ、私は思わず目を瞑った。