ヒカさん可愛い。本編始めます
湿らせたタオルを口が塞がれるようにしっかりと巻きつけて、私は階段に突入した。火が回るのが予想外に早い。煙が階段を埋め尽くしていた。
(急がないと)
生存者を助けるために、自分が死にました、等というのは洒落にならない。
煙が濃く、前が見えない。
だが。5階についた途端、薄く影が見えた。かなり前屈みの…そう、足を引きずっているような。恐らく《奴ら》だ。何かに襲いかかろうとしているような体勢。それに気付き、私は《彼》へ向かってシャベルをふるった。
頭が潰れ、血が辺りに飛び散る。最近は慣れてきたが、やはり気持ちの良いものではない。思わず顔をしかめる。
「――ぇ…」
――と、その時。掠れた女性の声が聞こえた。煙の中なので姿は影くらいしか見えなかったものの、声は確かに聞こえた。
「誰かいるの――?」
小さな声でそちらへ呼び掛ける。すると、煙の向こうから咳をする声が聞こえてきた。慌ててそちらへ向かう。すると――煙の先にいたのは、二人の少女だった。目が合い、両方が固まる。だが、先に動き出したのは向こうだった。
みるみるうちに目が潤み出したショートカットの茶髪の少女が、勢いよく私に抱き付いてきたのだ。もう片方の銀髪の少女はただ呆然としている。
取り合えず、と私は二人に問いかける。
「二人は噛まれてないよね?」
二人ともが首を縦に振ったのを見て私は頷くと、階段の方向へ身を翻した。もちろん、下にいるくるみ達と合流するためだ。
煙のせいで前があまり見えないため、《奴ら》の存在を察知するためには音しかない。耳を済ませ、階段をゆっくりと降りていく。
「――ふぅ。ここまで来れば大丈夫かな」
一階まで着き、私は安堵の息をついた。後ろを振り向くと、少女二人はしっかりとついてこれていたようだった。
「取り合えず、合流するよ」
二人に言うと、銀髪の少女がこちらに詰め寄った。
「他にも…いるんですか!?」
「うん。あと…四人かな」
銀髪の少女の瞳に、希望の色が見えるようになり。火まで付けた甲斐もあってか、一階に《奴ら》の姿はろくに見えない。私たちは、頷きあうと、モールの入り口へ向かって全速力、走り出した。
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モールの入り口から漸く出てきた愛莉達に怪我が無さそうなのを見て、あたしは他の奴らに聞こえないように小さくため息をついた。
「ったく…無茶しやがって…」
――と。入り口まで走ってきていたらしく、息を整えている愛莉達に…いや、愛莉に近寄る影があった。めぐねぇだ。
愛莉がそちらへ振り向くと同時、パシン、と乾いた音が響いた。めぐねぇが愛莉を叩いたのだ、と理解するのに数瞬かかる。
「愛莉ちゃん。自分勝手な行動は控えて」
愛莉は反射的に言い返そうとしように見えたが、何も言えずに結局黙ってしまう。
「……あんまり、心配させないで…」
めぐねぇの言葉は、最後の方には掠れていた。めぐねぇは、あたし達生徒の怪我が自分の責任だと思っている節がある。めぐねぇは、あたし達より愛莉のことが心配で、気が気でなかったのだろう。
あたしは黙ってそちらから目を逸らした。そして向けるのは、愛莉と一緒にモールから出てきた女子二人だ。
祠堂 圭と、直樹 美紀、という名前らしい。
――と。二人がいざ、車に乗り込んだときに今さらながら気付いた。
「めぐねぇー。この車、何人乗りだっけ…?」
「えぇ、と…四人乗り、だったと、思う、んだけ…ど……」
言ってる途中でめぐねぇも気づいたらしく、言葉が尻すぼみになっていく。
そう、あたし達は現在七人いる。――明らかに人数オーバーだ。
行きは五人だったので詰めれば何とかなったが、流石に七人は詰めても無理だろう…。
「これ、どうすんだ…?」
あたしの呟きは、虚空へ消えた。
四人乗りの車に七人で乗る方法とは…!?
ちと無理してモール回終了。次からは真面目に書きます。