割れたドアの穴を一人ずつ潜り抜ける。向かうのは技術室だ。目的は、バリケードを作るための有刺鉄線や材料である木材の入手。
「大丈夫。《アイツら》はいない」
技術室の中を見渡してくるみが言う。めぐねぇ、ゆき…と続く。最後尾である私が入り、ドアを閉めると、事態を理解していないゆきを除く全員がホッと安堵の息をはいた。
「じゃあ、後はさっき話したとおりに行きましょう」
悠里さんの言葉に私達は頷くと、それぞれの準備を始めた。私はシャベルを肩に担ぐ。
くるみを先頭に、技術室を出た。物資はまとめて悠里さんと美紀くんに持ってもらっている。雨とはいえ、流石に夜ともなると《奴ら》の数はかなり減るようで戦闘が特にないまま、順調に進んでいくことができた。
――と、二階に向かう階段に差し掛かったところで、くるみの足が止まった。後ろにいる悠里さんに待つように言うと、階段の方へと消える。
ガシャンという金属音とグチャリと何かが潰れる音がして、暫く後にくるみが頭を出す。
「もう大丈夫だ」
私たちはそうやって、階段を進んでいく。戦闘、というほどのものもなく、大体が単体でいる《奴ら》を先頭のくるみが処理するだけに済んでいた。たまに、後ろから寄ってきたのを私が処理したりもしたが。
そして、三階に着いたときだった。
くるみの足が止まる。彼女が見ているのは、バリケードだった。行く前にはワイヤーでしっかりと固定されていたそれが、今は崩れている。くるみのシャベルを握る手に、心なしか力が入った気がした。
「…行くぞ」
皆が頷くのが分かった。
「ア゙ア゙ア゙」
職員室に《奴ら》の姿が見えた。見つからないように姿勢を低くする。後で『掃除』をしなきゃな、等と考え、私は小さくため息をついた。――いや。
「…めぐねぇ、ちょっと」
小声で囁くと、めぐねぇがこちらを振り向いた。
「何かしら?」
「5人で職員更衣室に隠れといてくれない?」
早くに排除しておくべきだろう。…何にせよ、職員室を通らなければ部室へ行くことはできない。隠れてやり過ごすより、そちらの方が賢明だ。
めぐねぇはそれが分かったようで、美紀くん達と更衣室に隠れた。更衣室には何もいないことをくるみが確認していたので、大丈夫だろう。
「中には何体いるんだ?」
「見たところ3体…」
「意外と多いな…」
「元国語教師と、元英語教師と…あとあれは誰だろう?」
「そんな情報はいらねーよ」
くるみが少し顔をひきつらせた。
「じゃあ、行きますか」
「おう」
どちらからともなく頷くと、私たちは職員室へと突入した。
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職員室で愛莉ちゃん達が戦っている間、私たちは美紀さんや圭さんと話していた。二人とも、こんな状況ですっかり緊張してしまっている。それを解すためだ。
「へぇー、みーくんとけーちゃんって幼馴染みなんだー」
「そのみーくんっていうのなんですか」
「美紀だからみーくん。分かりやすいでしょ?」
「や、やめてくださいゆき先輩。みーくんじゃないです」
「はうぅぅぅーん!」
由紀先輩、と呼ばれた由紀ちゃんが感動したように胸を抑え、それを見た美紀さんが顔をしかめた。
「気持ち悪いです」
「ほら、先輩っていい響きだなって」
「由紀さんはずっと先輩って呼ばれたがってたものね」
「えへへー」と頭を掻く由紀ちゃんを見て、思わず笑みが零れる。美紀さんの空気も、先程までのように緊張していた時より弛緩していた。
――そんな風に話していると、更衣室のドアが開いた。顔を覗かせたのはくるみさん。
「もういいぞー。急ごう」
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職員室にいた《奴ら》を全員処理し終わって再び部室へ向かって歩く。と言っても、職員室と部室はかなり近い。だから、《奴ら》と遭遇することはなく。
くるみが最初に部室へ入り、皆が後へ続いていく。
そして、殿である私が入ろうとしたとき。
――…やはり、何処かで油断してしまったのだろう。…近づいてきていた、《それ》に気付くことが出来なかったのだ。
部室へと入るために扉へと手をかけた途端に、足に衝撃。ほんの少し遅れて、鋭い痛みが走る。
嫌な予感に足元を見ると。
私の足に、犬が噛みついていた。――首には、噛み傷。
…改めて言っておく。これは原作の方を重視している、と。