がっこうぐらし +α   作:ラビ@その他大勢

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こくはく

――噛まれたっ!?

 

反射的に足を振って犬を振り払う。小さなその体は、まるで軽い紙のように吹き飛んで壁に激突した。追い打ちをかけるべく、シャベルを構えて走る。

 

一歩毎に噛まれた方の足に痛みが走るが、歯を食い縛って我慢。シャベルを倒れている犬に突き刺すと、私は漸く息をついた。

 

(やらかしたかな…)

 

もしかしたら、と希望を持って下に履いてあった厚手のジーンズを見るが、案の定。噛まれた辺りが私の血で赤黒く染まっていた。

 

私がすぐ入らなかったことに疑問を持ったのか、くるみがドアから顔を出す。――だが、私の足に目をやり、ハッと息を呑んだ。そして、叫ぶ。

 

「めぐねぇ!りーさんっ!」

 

その声音にただ事ではないと感じたのか、慌てた様子で悠里さんとめぐねぇが頭を出し、くるみと同じように息を呑む。だが、めぐねぇはすぐに真面目な顔になると教師らしさを感じさせるような頼もしさでてきぱきと周りに指示を出していった。

 

「愛莉…何で…」

 

くるみが堪えきれないように漏らした。私はくるみや悠里さんの肩を借り、ゆっくりと歩きながらも答える。

 

「犬が……ね。油断した」

 

「犬…?まさか…」

 

悠里さんが呟く。…まぁ、考えてみれば想像は容易に出来ただろうことだった。それを考えなかったのは、こちらのミスでもある。

 

「気を付けてね」

 

私は、歩く度に襲ってくる足の痛みを堪えるために歯を食い縛って呟いた。

 

 

 

*******

 

「――どうするんですか」

 

ソファで横になっている愛莉先輩を見ながら、私――直樹 美紀は俯く先輩たちに向けて問いかけた。……何かないのか、と。

 

だが、返ってきたのは沈黙のみ。思わずギリ、と歯噛みしてしまう。

 

「…殺すんですか?」

 

「それは――…」

 

愛莉先輩の怪我の手当てをしていた悠里先輩が何かを言いかけて、やめる。彼女はすぐに堪えきれないように目を伏せた。実際、今のところそれ以外に出来ることが思い浮かばない、というところが実状らしい。

 

「じゃあ、どうするんです――」

 

と、言いかけたとき今まで黙っていた圭が強い口調で「美紀!」と叫んだ。そちらを向くと、明らかに怒った気配の圭がいた。基本能天気な彼女のこんな姿を見ることはそうそうなく、少したじろいでしまったが、慌てて思い直し、彼女に向き直る。

 

「――圭も分かってるでしょ。ほっといたら……どういうことになるか」

 

思い出すのはモールで皆で暮らしていた頃。今思い返したら、恐らくあの時のリーダーの傷が噛み傷だったのだろう。それに気付かなかったから…私たちは二人だけになった。それを繰り返すつもりなのか、というニュアンスが伝わったのか、圭も少し言葉に詰まる。

 

「…でも…そんなこと…」

 

何も言えず、黙ってしまった圭を尻目に、もう一度先輩たちに目を向ける。そして、再び口を開いた。

 

「…殺すんですか」

 

答えなんて、1つしかない筈だ。それを確認する。愛莉先輩が私たちを助けてくれたことに関しては感謝してもしきれないくらいには感謝しているが、それとこれとは話が別だ。

だが、誰も答えない。俯くだけで、答えは出ない。

 

――と、その時。ドアが勢いよくガラガラと開いた。何事か、と見ると佐倉先生が何か薄汚れた本を持って息を切らしていた。

 

佐倉先生は息絶え絶えになりながらも、その本を掲げて言った。

 

「ごめんなさい」と。

 

 

 

その本――緊急避難マニュアルが私たちに与えた衝撃は、相当のものだった。特に、これが人為的なものである、ということは。

 

くるみ先輩が堪えきれない、といったように呟く。

 

「めぐねぇ、何だよこれ」

 

しかし、佐倉先生は何も言わなかった。まるで――自分で全ての責任を負っているかのように。くるみ先輩は、すぐに目を逸らし最後までマニュアルを読むと黙ってシャベルを肩に担いだ。

それに気付いた悠里先輩が、心配そうに問う。

 

「くるみ…?」

 

「薬があるって書いてあった。取りに行ってくる」

 

くるみ先輩は淡々とそう答え。ドアの辺りで立っていた佐倉先生とすれ違い様に呟いた。「後で、話を聞かせてもらうから」、と。――それは佐倉先生に一番近いところに立っていた私が漸く聞き取れるようなかなり小さな声で。…だからこそ、本気で怒っていることがよくわかった。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

くるみ先輩は振り向かずに呟くと、ドアを閉めた。

そして、廊下を走る規則的な音が遠ざかると、圭はマニュアルをおそるおそる手に取りパラパラとページをめくり始めた。佐倉先生はぎゅっと目を瞑って、何かを耐えているようになにもしようとしない。

悠里先輩は愛莉先輩の手当てを終え、額に滲む汗を拭っていた。

 

最後に、ソファに横たわりずっと魘されている愛莉先輩が映った。助けに来てくれたあの時の頼もしさは、今感じられない。――ところで。私は辺りを見回した。

 

「由紀先輩は何処に?」

 

私の言葉に、部屋にいた全員が何も答えなかった。思わず圭と顔を見合わせる。

 

「――どこに?」

 

誰かがそう呟いた。




さぁて、由紀ちゃんはどこに…。
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