…ゆき視点を未だに書いてない。
あたしは部屋を走り去ると、ひたすら何も考えないように地下へと向かった。――…と、その途中で。
あたしとは違う足音が後ろから付いてきているのに気が付いた。足を引きずっているようなものではなく、しっかりと歩いている足音なので《奴ら》ではない。あたしが振り向くと、そこにいたのは。
「……何してんだ、ゆき。りーさん達と待ってろよ」
桃色の髪に、猫耳のようなものがついた特徴的な帽子。――ゆきだ。
「…私も行くよ」
初めて見るような、ゆきの真面目な表情。あたしはシャベルを肩に担ぎ直すと、首を振る。
「危なすぎる。ゆきは待ってろ」
「やだ。私も行く」
…学園生活部で一緒に暮らしていて、もう流石にゆきが意外と頑固なのは知っている。あたしは大きくため息をつくと、1つだけ呟いた。
「あたしから離れんなよ」
コクン、とゆきが頷くのを見て、あたしはまた地下へ向かって歩き始めたのだった。
「ゆき、目を瞑って耳塞いでろ」
階段の奥から足を引き摺る音が聞こえた。隣を歩いていたゆきを手で制する。一応後ろを確認して何もいないことを確認すると、あたしは階段を駆け降りた。
「ア゙ア゙?」
あたしの足音に反応して、ゆっくりと振り向く《彼》の背中を勢い任せに蹴り、ドアが開いてあった教室に押し込む。いつもなら気にせずに廊下で倒すが、すぐ後にゆきとここを通る以上なるべく廊下を汚すわけにはいかない。
背中を蹴られ、勢いよく吹き飛んだ《そいつ》が体を起こす前にその頭へシャベルを振り下ろす。グシャ、と不快な音が教室内に響いた。
《そいつ》がもう動かないことを確認して、私はゆきの元へと急いだ。階段の陰に隠れていたゆきの頭を叩いて終わったことを告げると、ゆきは少し悲しそうに顔を歪めながらも確りと頷くのだった。
地下室はかなり暗く、数歩先すら見えないような有り様だった。あたしがポケットに入れてるペンライトを取り出そうとポケットを漁っていると、急にパッと光がついた。暗闇に少し慣れ始めていた目には刺激が大きかったようで、目がチカチカと瞬く。堪らず目を覆うように手を翳す。
どうやら、電気はゆきが着けたようだった。電気をつけると言う発想が出来ないほど焦っていたことに自分で気付き、嘆息する。
「よぉし、くるみちゃん!れっつごー!」
未だにいつも通りを貫いているゆきにあたしはにっと笑うと、大きく頷いた。
「おう!」
やっぱり、ゆきに来てもらって良かったかもしれない。
*******
「ゆきちゃん…本当に何処に行ったのかしら…。くるみと一緒だったら良いんだけど…」
ウロウロと室内を忙しなく歩き回る悠里先輩を見て、私――祠堂 圭は空元気なのを自覚しながらも少し大きめに声を出した。
「大丈夫ですよ!きっと!」
声が少し震えてしまっていただろうか?
――いや、多分大丈夫なはずだ。
「え、ええ。そうよね…きっと、そう…」
悠里先輩は、未だに心配そうだったが、忙しなく歩き回ることはしなくなっていた。
――と、不意に。ガチャガチャという金属音が室内に響いた。全員が弾かれたようにそちらを向く。全体を覆われるように布を掛けられた状態で姿は見えないものの、愛莉先輩が自分を縛る邪魔な手錠を力ずくで外そうとしているのは、見ていて明らかだった。
「――っ!!」
息を飲んだのは、誰だったのか。――或いは、全員か。
よくよく一話から振り返ると重い話だなぁ…(他人事)