「あの時、置いていこうとして、ごめん」
――圭の言葉に、私は何も言えなかった。圭も頭を下げたまま言葉の先を続けず、二人の間に沈黙が流れる。耐えきれず、私は曖昧に笑った。
「け、圭?別に私は気にしてな――」
「嘘だよね。ずっとギクシャクしてるもん」
だが。核心を突かれ、思わず黙ってしまう。そう、実際に、モールから戻っても私と圭との間には何か気まずい空気が漂っていた。ただ、二人とも気付いていないフリをしていただけだ。気づかないフリをして、今の状態を仮初めでも守ろうとしていた。
「美紀を見捨てようとした訳じゃないけど……それでも、ごめん」
2回目の圭の謝罪に、私はどうすれば良いのか分からずにおろおろと視線を宙にさ迷わせる。…だが、深く息を吸って、気持ちを落ち着かせ。
「うん。……私こそ、ごめん」
――圭に頼りきっちゃって。心細かったのはきっと圭も同じなのに。
続きは言わなかったが、意味は伝わったようで。圭が頭をあげると、その頬には涙が伝っていた。
「……美紀っ…ありがとう」
涙ながらに勢いよく抱き付いてきた圭に微笑みかけ、私も圭の温もりを離さないようにぎゅっと抱き締めた。
*******
「あのマニュアルって何だったの?めぐねぇ」
あたしの言葉に、俯いていためぐねぇがポツポツと話し始めたのは信じがたい事実だった。
話が終わり、それを聞いていたりーさんが呆然と呟く。
「この感染は…学校も…関係しているってことなんですか」
「……多分」
力無く首肯するめぐねぇを見て、あたしはシャベルを強く握りしめた。
何で、何で、何で。
そればっかりが頭に回り、まともな考えが出来ない。――と、そんなとき。後ろの方からか細い声が聞こえた。
「学校に……っっ……関係が、あるなら…校長室を調べてみれば、良いんじゃない?」
弾かれたように後ろを向くと、いつ起きたのだろう、愛莉が足の痛みに顔をしかめつつ体を起こしていた。りーさんが慌てて駆け寄る。
「愛莉さん!!大丈夫なの!?」
「あー…うん、一応大丈夫みたい……っつつ」
「あいちゃん!!」
力無く笑う愛莉に、薬を打って愛莉が大人しくなってからずっと手を握っていた由紀が感極まったように嗚咽を漏らして勢いよく抱きついた。由紀を受け止めきれず、愛莉がソファへと倒れ込む。そんな二人の元へと、めぐねぇとりーさんも慌てて駆け寄った。だが、あたしは一人だけシャベルを構えた。警戒を解かずにジリジリと愛莉に近付き、彼女の目を見る。そんなあたしの様子に、愛莉はふっと表情を緩めて無抵抗ということを示すように両手を上げた。
「愛莉、体はどうなんだ?」
「自分の感覚ではいつもと違うのは『少し体が軽い』くらいかな。別に今のところは食欲がどうとかはない」
「…大丈夫なんだな?」
「多分…としか言いようが無いけどね」
少し自信が無さげに微笑む愛莉に、あたしは肩の力を抜いてシャベルを下ろす。――どうやら、愛莉の言葉に嘘はない。
「くるみが薬取ってきてくれたんだよね?――ありがと」
不意に投げ掛けられた愛莉の言葉に、あたしは照れくさくなってしまい、頭を掻いて目を逸らした。
そんなあたし達を見ていたりーさんが、愛莉へと向き直る。
「愛莉さん、さっき言ってた校長室っていうのは?」
「…学校が知ってたのならその長である校長が知らないわけないでしょ?……まあ、前に一回見に行って鍵が閉まってたから諦めたけどね」
そう言った愛莉の言葉を聞いて、その場にいたあたしとりーさん、由紀の視線がめぐねぇへ向く。めぐねぇが神妙に頷く。
「ええ、職員室に校長室の鍵はあるわ」
次に起こす、あたし達の行動が決まった瞬間だった。