その日、奉仕部は静かな熱気にあふれていた。
いつもの長机は片付けられ、部室の後ろに置かれてある学校机を二台突き合わせて並べた周りを、六人が椅子に座って顔を突き合わせていた。それぞれの手には手札とおぼしきカードを持ち、机の上には同じカードが山札となって置かれ、その横には表になったカードが数枚出されている。
そんな中、自分前に緑色のカードが置かれている雪ノ下が八幡を凝視しつつ、手札の中から一枚のカードを場に出した。
「比企谷君、いい加減イカサマをしてもらえないかしら」
「雪ノ下、俺ばっかり警戒してないで他の奴も警戒しておけよ。今、大野が一枚捨てていたぞ」
「比企谷さん、そういう事は言わないで貰えますか」
八幡の正面に座っている大野と呼ばれた少女は、紅いフレームの眼鏡の奥で静かに盤上を見据える目を八幡に向け苦言を呈していた。大野が返答するその一瞬だけ、雪ノ下は視線を大野の方へ向けすぐに八幡の方に戻した。
「ん、ああ、悪いな」
八幡はすぐに自分の非を認め、手札を持っていない方の手を立てて謝罪の言葉を口にした。
「くっ……」
「え、いつの間に!」
「ヒッキーどうやったの!」
「わ、すごい」
悔しそうな雪ノ下を筆頭に、高屋敷と由比ヶ浜が驚きの声を上げ、感心した表情をした武笠が心から尊敬するような声を出していた。
それもそのはずだ、八幡のアホ毛に手札にあったはずのカードが一枚刺さっていたのだから。
めったに依頼人のこない奉仕部の部室で、いつものように本を読んでいる八幡と雪ノ下の姿と、机に巨大と呼べるほどの質量を持った物体を押し付けて携帯をいじっている由比ヶ浜の姿があった。
部屋の中は無音と言うほどに無音と言う訳ではなく、一定間隔でページの捲られる音が聞こえてくる。
そんな部室にノック音が響き渡った。
「どうぞ」
そう口を開いた雪ノ下は、すぐに持っている本のページに栞を挟みページを閉じた。それにならってか、八幡も読んでいた本のページを閉じると鞄の中にしまった。
「失礼します」
「失礼しま~す!」
「えっと、失礼します」
ゆっくりと扉を開けて入ってきたのは、一年の女子三名だった。
紅いフレームの眼鏡をかけた委員長オーラを醸し出す少女を先頭に、元気が身体からあふれだしているおさげの少女。そんな二人の後から、少しおどおどしている少女最後に入ってきて扉を閉めた。
「ここが、奉仕部の部室で合っていますでしょうか」
「ええ、合っているわ。それで、あなたたちは?」
雪ノ下は先頭に立っている眼鏡の少女の質問に答え、質問を投げかけた。
後ろにいる二人は、それぞれの性格が手に取れるような行動を見せていた。元気な少女は部室内を楽しそうに見渡し、もう一人の少女は不安そうに八幡たちの顔を窺っていた。
「私は、一年の大野翠です。ここへは、平塚先生からの紹介でまいりました」
「同じく一年の高屋敷綾です☆」
「私……武笠美姫……です」
うやうやしく頭を下げ、手を上げて元気を振りまき、ぎこちなく頭を下げた。
「そう、私は雪ノ下雪乃。奉仕部の部長よ」
雪ノ下が自己紹介をすると、それにつられて二人も自己紹介を始めた。
「はいはい、あたし由比ヶ浜結衣! よろしくね!」
由比ヶ浜も三人に向かって手を振り、高屋敷が笑顔で手を振り返す。
「俺は――」
「彼は見た目通りひねくれているから、気をつけた方がいいわ」
「うるせぇよ、雪ノ下」
八幡は苦々しい表情を浮かべ身体を雪ノ下に向け、雪ノ下はそんな八幡に向かって笑顔を返した。その笑顔を見た八幡は、諦めたようにため息をつくのだった。
「あ~なんだ、比企谷八幡だ」
身体を元に戻し、頭を掻きながら自己紹介を終えると無言で雪ノ下に目を向けた。
「それで、用件は何かしら」
「それは……」
「ボードゲームの人数がたりないから、一緒に遊んでもらいたいんです!」
大野の前に躍り出た高屋敷が元気よく片手を上げ、期待を湛えた目で雪ノ下たちを見渡した。純粋なその瞳に、八幡と雪ノ下は少しひるんだ。
「え、おもしろそう! ねぇねぇゆきのん、おもしろそうだよ!」
「由比ヶ浜さん、少し落ち着いてもらえるかしら」
満面の笑みを浮かべた由比ヶ浜は、横にいる雪ノ下に向かって犬が尻尾を振るようにテンション高めに声をかけた。声をかけられた雪ノ下の方はと言えば、迷惑そうにでも嬉しそうで複雑な表情を浮かべていた。
「まったく、私が説明するって言っていたでしょ、アヤ」
抱えるように片手を頭に添えて首を横に振り、大野はため息をついた。
「え~でも、ストレートに言った方が分かりやすいでしょ?」
「それは、そうかもしれないけれど……」
高屋敷は屈託のない笑顔で大野に言うと、言われた大野はなにか引っかかっているような表情を浮かべてはいるが高屋敷の言い分も分かるのか特に反論が出てこないようだった。
「いいかしら」
「あ、はい。大丈夫です」
そんな友人二人のやり取りはいつものことなのだろう、少し微笑んで二人を見ていた武笠が反射的に返事を返して二人の肩を叩いた。肩を叩かれた二人は、今自分たちがどこにいるのかを思い出し、少々バツの悪そうな苦笑を浮かべていた。
「つまり、ボードゲームをする人数が足りないから、私たちに混ざってほしい。そういう事なのかしら」
「はい。いつもでしたら三人で足りるのですが、これからしようと思っているゲームは人数が多い方が楽しいものですから。
つい先ほど、教室でルール説明をしていた際に平塚先生からこちらに来るように言われたので」
それを聞いた雪ノ下は少し考えるような素振りを見せ、そんな雪ノ下の素振りを大野たちは静かに見守っていた。
「雪ノ下、別にいいんじゃねぇか。依頼じゃなくて、お願って感じでな。つか、由比ヶ浜がかなりやりたそうにしてんだから」
「うん! あたしボードゲームやってみたい!」
「はぁ、そうね、いいわ」
雪ノ下のその言葉に大野たちの表情は明るくなり、高屋敷が武笠の手を取って飛び跳ねていた。
「それで、どんなボードゲームをするのかしら?」
「そうですね、こちらです」
大野は鞄の中から、正方形の形をした文庫本より少し小さな箱を取り出し、タイトルを雪ノ下たちに見せた。
「えっと、これは、いかさまモスでいいのかしら?」
「そうなんですが、日本ではいかさまゴキブリと呼ばれています」
「え、ゴキブリ!」
その言葉に嫌そうな表情を瞬間的に浮かべ、注意深く大野の手に持っている箱を凝視していた。
「大丈夫です、中身はカードですから」
箱の蓋を開けると、ルールブックとカードの束が入っていた。
やっはろ~、小町のルール講座だよ~。
今回は『いかさまゴキブリ』ってボードゲームのルールを説明していっちゃうよ!
まず、初期手札は一人八枚。
ゲームの終了条件は一番早く手札を失くした人が出た時点でそのラウンドは終了して、手札の種類で減点になっちゃいます。ラウンドは人数の数だけ行って、一番減点の少ないプレイヤーの勝利だよ!
カードに書かれた数字は1から5まであって、場に出ているカードの上下の数字を出す事ができます。そして、1と5はつながっていて、一が出ていれば2と5がだせれて、5が出ているならば4と1が出せる事になるからね。
そしてカードの種類は『ゴキブリ』『蟻』『蜘蛛』『蚊』『蛾』と『電灯に群がる虫(蝿)』の6種類があるんだよ、お兄ちゃん。
じゃあ、次はカードの効果だよ!
オレンジ色の『ゴキブリ』のカードは出したプレイヤー以外がゴキブリカードに書かれた数字と同じ数字のカードを出す事ができるんだけど、一番最初に出されたカードしか出せないから気をつけてね。そして、その時に効果カードを出しても、その効果は起こらないからね。
青色の『蟻』のカードは、出したプレイヤー以外がカードを一枚引かなきゃいけないよ。
黄色の『蜘蛛』のカードは、出したプレイヤーの手札の中から一枚を他のプレイヤーに押しつけることができるから、手札が無くなりそうな人に押し付けちゃえ!
赤色の『蚊』のカードは、出したプレイヤー以外が場に出した蚊のカードを素早く叩いて、一番遅かったプレイヤーに手札から一枚カードを押し付けることができるんだよ。
この灰色の『電灯に群がる虫(蝿)』カードは、特に何の効果もない普通のカード。
そして重要になってくるのは、この紫色の『蛾』のカード!
このカードは場に出す事ができず、他のカード(蜘蛛・蚊・ゴキブリ)の効果で押し付ける事も場に出すこともできないカードなんだよ。つまり、このカードが一枚でも手札にあれば絶対にあがることはできないことになっちゃうね、お兄ちゃん。
そこで、このゲームのタイトルになっているいかさまの出番なんだよ!!
このゲームは自分の手札のカードをどこかに捨てて、手札を減らす事がルールで認められている、珍しいゲームなんだって。だから、蛾のカードはいかさまをして捨てるしかないらしいんだよ。
でも間違ってはいけないのが、蛾のカード以外もいかさまで捨てることができて、いかさまの方法について明確なルールは無いからいろんな方法で捨てられるんだって!
だからって、カードを食べちゃうとかはダメだよ。
ただこのいかさまにも捨てる際のルールがあって、捨てるのは1回に付き一枚まで。手札はテーブルの上に出して常に見えるようにすること。最後の一枚は必ず場に出してあがること。捨てる方法にはルールが無いんだけど、カードの捨て方にはルールがあるってことだよ。
でも、このルールだと全員いかさまし放題になっちゃうよね。だからそうならないために、『警備カメムシ』と言うカードの登場だよ!
この緑色の『警備カメムシ』は手札に入るカードじゃなくて、プレイヤーの前に置いておくカード。
名前で分かると思うけど、このカードを持っているプレイヤーはいかさまができない代わりに他人のいかさまを見張って指摘することができて、指摘する場合はそのプレイヤーに指を向けて『チェック』と宣言すること。ただし、指摘できるのはいかさまの『現行犯』で見つけた場合だからね。
もし、いかさまを見つけることができた場合、いかさまをしたプレイヤーは捨てたカードを手札に戻し、警備カメムシと見つけたプレイヤーの手札にあるカードを押し付けられるんだよ。あ、蛾のカードは押し付けれないからね。
この時、いかさまをしていたプレイヤーは正直に言わなければならないからね。このゲームはいかさまを認めているのであって、嘘を認めているわけじゃないから素直に言うこと。
でも、その指摘が間違っていた場合や現行犯ではなかった場合、指摘したプレイヤーは山札から一枚引かなきゃいけないよ。それに、いかさまの確認中はいかさまをする事はできないからちゃんとルールは守ってほしいな。
これだけ聞くとカメムシのプレイヤーは不利だと思うかもしれないけど、この警備カメムシには特権があって、それは所有しているプレイヤーは蛾のカードを場に出す事ができるんだよ。
つまり、カメムシを持っていれば、蛾のカードを普通に場に出せる。でも、いかさまでカードを捨てる方が早いから普通は警備カメムシになりたがらないんだよね。
それで1ラウンドが終了するごとに、この警備カメムシはに左隣のプレイヤーに移って、手番は警備カメムシを持っているプレイヤーから始めるよ。
最後にカードの種類ごとの減点だけど、なにも効果のない灰色の電灯に虫が群がっているカードは1枚マイナス1点。
効果の付いた虫のカードは1枚マイナス5点。そして、蛾のカードは1枚マイナス10点って計算するから、蛾のカードが一番捨てなきゃいけないカードなんだよ。
じゃあ、小町のルール講座はこれで終了だよ、お兄ちゃん!
「ハッ! 今、小町の気配が……」
「比企谷君、まったくなにを言っているのかしら」
明後日の方向へ顔を向ける八幡を見ながら、雪ノ下はあきれた様子で空いている方の手を頭に添えていた。
ルール説明が終わり長机では少々具合が悪いと言う事で長机を片付けると、八幡は部室の後ろに積んである学校机を二台取り出し突き合わせて並べて置き、その机の周りに六人分の椅子を並べ、それぞれその席に座っている。
廊下側に八幡と窓際に大野が学校机に座るよう並べた机の端に座り、その横にいつも通りの並び方で雪ノ下・由比ヶ浜の二人と、黒板側に武笠・高屋敷の二人が順に座っていた。
机の上にはカードの山が置かれ、山札の一番上から一枚カードを表にして場に出された。すでに八枚手札が配られ、カメムシのカードは大野の目の前に置かれており、どうやら大野からゲームが始まるようだ。
「じゃあ、始めてもいい?」
大野が不敵に笑い全員を見渡すと、全員が首を縦に振った。
場に出されていたカードは『蟻』の5。その上に、『蝿』の1を出してゲームは始まった。
【追記ルールとして、一番初めに出された効果カードの効果も無効とし、この場合カードを引かなくても大丈夫である】
それから時計回りに手番が移り、『蝿』の5が出され『蝿』の4で八幡の番に回ってくると、
「あれ、ヒッキーの手札少なくない?」
由比ヶ浜が首を傾げて八幡の手札の枚数を数えはじめた。初期手札が八枚配られ、まだ手番が来ていない八幡の手札は普通であれば八枚なければならないのだが、
「そうか?」
「いえ、かなり減っているわ」
八幡の手札はすでに半分以下の、三枚となっていた。それに気がついた大野は見るからに驚いた表情を浮かべ、八幡へ目を向けていた。
それはそのはずである。
いかさまが許されているルールとはいえ、始めてプレイする場合は普段やり慣れていないであろういかさまをやること自体に抵抗がおきてしまう。故に、このゲームの初見は数ゲーム、数ラウンド経たなければ素直にいかさまをすることができない場合が多いと言える。
大野の思惑として最初はエキスビジョンとして想定していたのだろうが、ここで予期していない場合が起きた。
「あ~そろそろ出していいか? 俺の手番だろ」
八幡は手札から『蜘蛛』のカードを場に出すと、手札から一枚を取り出すと大野の前に押し付けた。その際、八幡は大野に向かって少しだけ見透かしたような表情を浮かべると、残り一枚になっている手札をもてあそび始めた。
「え、ヒッキーもう一枚なの!」
「ほんとだ! いつ捨てたのか全然わからなかった!」
由比ヶ浜と高屋敷は素直に驚いた声を出し、横に座っている武笠も声に出さないが驚いた表情を浮かべていた。由比ヶ浜は八幡の膝の辺りを覗くと、そこには捨てられたカードが数枚膝に乗っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください。二枚同時に捨てていないですよね!?」
「いや、ちゃんと一枚ずつ出してるぞ。流石に俺でも、ルールは守るんだが」
「じゃあ、以前このゲームをやったことは?」
「いや、初めてだ」
「……分かりました、信じましょう」
納得のいかない表情をしている大野だが、証拠もない上にこう言われてはこれ以上何も言えない。
実際、八幡は言っていたようにルールを順守していたし、このボードゲームをプレイするのは今回が初めてである。であるならば、いつ、どうやってカードを捨てたのかと言えば、別に難しい事をしたわけではない。
簡単で、簡単だ。八幡にとっては赤子の手をひねるよりも簡単な事だ。(しかし、赤子の手をひねる方がどんな事柄よりも難しいと思うのだが)
八幡は人の視線に敏感である。そんな八幡独自の特性は、かなりこのゲームで有利に働いてくる。
ゲーム中では、いかにカードを捨てることができるのかで勝敗が変わってくる。そのためにはカメムシの視線が重要になり、いかにカメムシの意思気がそれた際に捨てることができるのかと言う話だ。
さて、ここで八幡の動きを解説しよう。
最初、大野がカードを出した瞬間に手札のカードを一枚膝の上に投げ捨てた。この時、カメムシである大野は目線を手札と場のカードに意識を集中し周りに意識が向いていなかった。それは、一種の油断も入っていたのだろう。ここで、八幡の手札は七枚になり、一拍置いて手番を教えるために隣の高屋敷に意識を向けた所でもう一枚手札の中から膝の上に捨てていた。
それから高屋敷が場に出すタイミングで一枚、武笠が場に出すタイミングでもう一枚膝の上に投げ捨てた。どちらも場に出すカードに意識が集中しているタイミングでだ。
そして、八幡の手番になり本来四枚残っているはずの手札なのだが、なぜ三枚に見えたのか。簡単な話で、カードを二枚重ねで持っておりはたから見れば三枚しか持っていないように見えたからだ。
手番で二枚重ねの『蜘蛛』のカードを場に出し『蜘蛛』の効果で一枚押し付けることで手札の残りが一枚になったと言う訳である。
「んで、由比ヶ浜の手番だぞ」
「え、そうか。あたしの番だね!」
そう、由比ヶ浜は我に返ると手札の中からよりにもよって『蚊』のカードを出してしまった。待っていたのか、それとも予期していたのか、八幡は誰よりも素早くカードを叩き、それから他の手が順々に八幡の手の上に乗っていった。
最後に手を乗せたのは武笠であり、武笠はペナルティにより由比ヶ浜以外から一枚カードを受け取ることになったことで、八幡の手札が無くなり1ラウンド目が終了した。
「く、比企谷君のくせに生意気だわ」
「うるせぇよ、いかさまに気がつかない雪ノ下が悪いんだろ」
最終ラウンド、何枚もアホ毛にカードが刺さっている八幡は、これまでのラウンドの全てでいち早くカードを捨て一度も負けず0点のまま最終ラウンドを迎えていた。最終ラウンドのカメムシは雪ノ下になり、八幡のいかさまを見逃すまいと凝視していたものの八幡はいつの間にか手札を明確に減らして、残りの手札は二枚になっていた。
2ラウンド目、ここでも八幡はカードを膝の上に落として徐々にカードを減らしていった。しかし、ここで大野も本領と言うのか持ち主の意地と言えばいいのか、手札を捨て始めたがそれでもカメムシの隣とあってか、どうも捨てにくそうにしていた。
そこに、雪ノ下もぎこちないながらも参戦してきた。さすが、負けず嫌いの雪ノ下雪乃である。1ラウンド目でゲームにからめなかったのを少々根に持っているようだ。
だが、二人は八幡のスピードには追いつけず、2ラウンド目も同じように3ラウンド目も八幡が一番にあがった。
さて、八幡がカメムシになる4ラウンド目、ここでどうにか持ちなおそうとしていた大野だったが、人間観察に長けた八幡の目から逃れられず、
「チェック」
八幡は真っ正面の大野に向かって指をさした。
「くぅ……」
捨てたカードを手札に戻し、カメムシと八幡の手札からカードを一枚受け取った。そこから巻き返そうと、高屋敷のいかさまを見破りカメムシを押し付けることができたが時すでに遅し、八幡の手札が一番最初に無くなった。
この調子が続き5ラウンド目、由比ヶ浜にカメムシが回ってくると八幡はわざと由比ヶ浜の前に置かれたカメムシのカードを落とし、拾う振りをしてカメムシの下にカードを一枚隠していた。そのことにちょっと怒った由比ヶ浜の目を逃れこのラウンドも八幡の勝利で終わると、最終ラウンドの雪ノ下にカメムシが回り、このラウンドでゲームが終了となった。
「んじゃ、これでゲームは終わりか」
そう言うと、八幡は1ラウンド目と同じように蜘蛛のカードを出すと、雪ノ下に最後の一枚を押し付け、八幡の完全勝利で幕を下ろした。
「「「ありがとうございました」」」
机などの片付け終わると、大野たち三人は雪ノ下たちに向かって頭を下げた。
「いえ、私たちの方こそ楽しかったわ。ただ、そこの男がごめんなさいね」
雪ノ下と由比ヶ浜は憮然とした表情をむけ、八幡は居心地が悪そうに二人から顔を逸らした。
「ううん、見ててすっごく面白かったです! そうだよね、ミドリちゃん、ミキちゃん」
「うん、感心してもうたよ」
「そうね、リベンジが楽しみだわ」
そんな楽しそうな三人の様子に、雪ノ下はホッとしていた。
「あ、そうだ。ボードゲームってこれ以外にもあるんでしょ! またあたしたちを誘ってくれるかな」
由比ヶ浜が三人に笑顔で訊ねると、三人は顔を見合わせて笑顔を浮かべ、
「「「ぜひ!」」」
そう、嬉しそうに声をそろえた。
「でしたら、どんなボードゲームがあるか紹介しましょうか?」
「え、いいの! うん、お願い!」
三人は椅子に座り、大野はスマホを取り出すと三人に写真を見せて紹介を始めた。
「では、手始めに有名な『カタン』と言うボードゲームから説明いたしましょうか」