fate/faker oratorio   作:時藤 葉

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悪戯好きの神

 

「出身は聞いたことのない国、神々は架空の存在だと思っていた、オラリオという都市はもちろんダンジョンの存在も知らなかった、か」

 

 『九魔姫(ナイン・ヘル)』リヴェリア・リヨス・アールヴはそう呟くと、ため息をついた。

 

 

 目覚めた後、眼前の美女はリヴェリア・リヨス・アールヴと名乗った。

 そして同時に自らをエルフである、とも。

 

 その後、何らかの単語を挙げてこの言葉を知っているかなどの質問をしてきた。

 その結果が先ほどの呟きとため息、というわけだ。

 

 そして彼女は体の調子を確認すると、こう切り出した。

 

「さて、君は血まみれで倒れてたところを我らが主神(ロキ)が拾ってきたわけだが、何故血まみれで倒れていたのか説明してもらえるか?」

 

「何故、ですか……」

 

 昨夜の記憶がよみがえる。

 

 刹那の間の出来事だった。

 

 目にも留まらぬ速さで突き出された槍に胸を一突き。

 逃げ惑おうとした時には、既に槍が心臓を貫いた後。

 血と死の気配が全身を冷たく覆っていくあの感覚はきっと忘れられないに違いない。

 

「……襲われたんです、常識はずれの槍使いに。覚えてるのは逃げようとした瞬間に、槍で胸を貫かれたことだけ」

 

「ふむ、なるほど。確かにそれなら君が血まみれで倒れていた理由にはなる」

 

 リヴェリアはそういった後、だが、と言葉を続けた。

 

「――主神は君を見つけた時、血まみれだったと言っていた。しかし同時に、出血の原因となりそうな傷は既に無かった(・・・・)とも言っていたんだ。当然胸を槍で貫かれた痕は無く、私達が君にしたのは治療ではなく体を清潔な布で拭いたことくらいのものだよ」

 

 それは一体、どういうことなのだろう。

 

 確かにあれは致命傷だった、今生きているのが信じられないくらいに。

 だから、治療を諦めてしまいそうな程の傷を負っていたというのならわかる。

 

 しかし血まみれであったという点を除けば五体満足だったというのは、到底理解の及ぶ範疇ではない。

 

 リヴェリアに対して、と言うよりかは思考を整理するために頭を振る。

 

「……少なくとも、俺にその理由はわかりません。覚えているのはさっき言ったところまでです。それ以上は俺の知らない外部からの何か、としか答えようがありません」

 

「確かに知らぬうちに胸の傷がふさがっていた以上、外部からの干渉以外にはありえないか。では次だ、君はオラリオという都市を知らないと言った。しかし君が倒れていたのはオラリオの道端、君は一体どこで襲われた?」

 

「俺が襲われたのは俺が通う学校の校舎です。道端で襲われたわけじゃないし、ましてやオラリオなんて都市の中じゃありません」

 

「『ガッコウ』、か……。それは――」

 

 

「――――お~すっリヴェリア、さっき拾ってきた男の様子はどうや!」

 

 リヴェリアの言葉を遮るようにけたたましい音を響かせながら扉を開けたのは、赤髪で糸目の女性だった。

 

「……毎度のことながら、もう少し静かに入ってくることはできないのか?」

 

「別にえーやんかー、そんぐらいでお小言言われたくないわ~。それより、どうだったんや?」

 

「……まぁ、概ね言う通りだったな。信じがたくはあるが、話を聞いてみた限りでは同意見だ」

 

「せやろ~せやろ~! やっぱりウチの直感は間違ってへんやったろ!」

 

 突然現れては、エセ関西弁で嵐のようにまくし立てる見知らぬ女性。

 鬱陶しそうにしてはいるが邪険にしないあたり、リヴェリアと気心の知れた仲なのだろう。

 

「――そんで自分、名前は何ていうん?」

 

 などと考えていたら、彼女の矛先は急に自分の方に向けられた。

 言われて気づいたが、リヴェリアにも名を名乗っていなかった。

 名乗られてすぐに名乗り返すべきだったと、少し申し訳なくなりながら名を名乗る。

 

「衛宮士郎といいます、助けてもらって……」

 

「あーそういうのはええから、そんでエミヤ、一つ確認や」

 

 こちらの言葉を遮り、ビシッと指を刺され――

 

 

「――――お前、異世界人やろ!」

 

 そう、断言された。

 

「…………はぁ」

 

 異世界人かどうか、などといきなり聞かれたところで答えられるはずもない。

 否定するには今の状況は不可解な点が多く、肯定するには決定的なものが何もない。

 

 しかし、やはりここは異世界なのだろう、と漠然と感じていた。

 強いて根拠を挙げるとすれば、とても日本語が話せるとは思えない眼前の女性二人と円滑に会話を交わせていることに対する違和感だ。

 あまり意識はしていなかったが、唇の動きはおおよそ日本語とは思えないものだった。

 それでいて会話ができているのだから、自分の知らない何かが介在しているのはほぼ間違いない。

 

 少なくとも、ここが自分の常識が通用するような場所ではないのだろう。

 ならばここは異世界、仮に異世界でなくとも異世界並に自分の知らない世界ということになる。

 

 だがしかし、どう返したものだろうか。

 片や興味深そうに、片や呆れるように、こちらを見つめているが、両者とも冗談を言っている雰囲気ではなかった。

 

 助けてもらった恩もあるのだ、正直に話してしまうのが誠意というものだろう。

 そう結論づけ、考えをまとめるようにゆっくりと口を開く。

 

「そう、ですね。話を聞いた限りでは、この世界は自分の知るものとかけ離れています。信じ難くはありますが、確かにここは異世界でしょう」

 

「……嘘はついてへんみたいやなー」

 

 糸目の女性は、安堵するようにそう言った。

 なぜ嘘ではないと断言できたのだろうか、そもそも自分にも真実がわからない以上嘘のつきようもないのだが。

 

「さっきの質問から察するに、確かにこの世界は君にとって異世界だろう。少なくとも異世界と言って差し支えないほど、君の常識はここでは通用しないはずだ」

 

 その思考を遮るようにリヴェリアがそう告げた。

 自分の考えていたこととほとんど同じだったこともあり、同意の頷きを返す。

 

 それにしても、奇妙なことは続けて起こるものだ。

 死んだかと思えば、次は異世界。

 地獄はともかく天国は信じていない身だが、ここは天国だと言われたら信じてしまいそうだ。

 

 数瞬の沈黙の後、糸目の女性がちょっとええか、と話を切り出した。

 

「話がまとまったことやし提案があるんやけど、その前に確認や。ここはエミヤの知る世界やない、しかも常識まで違う。ということはこれから先生活していく方法は現状無いってことやろ?」

 

「……その通りです」

 

「そこで提案や。エミヤ、ロキ・ファミリアに」

 

「待て待て、勧誘したいのはわかったが説明不足すぎる。とりあえず自己紹介をして、詳しく説明をしてから勧誘するのが筋だろう」

 

「あー、確かにリヴェリアの言う通りや、自己紹介もせずにする話や無かったな。ウチの名前は――」

 

 眼前の女性は困ったような表情を浮かべながら頭をガシガシと掻き、名を告げる。

 

 その名は、

 

「――ロキ(・・)や。さっき言ったロキ・ファミリアの主神もしとる。よろしゅうなー」

 

「…………え?」

 

 

 告げられたその名は、悪戯好きとして名高い、『神』の名だった。

 

 

リメイクについて

  • (ソードオラトリアを読んでから)書け
  • (オリ設定のゴリ押しで)書け
  • (いっそ全く関係ない新作を)書け
  • 書かなくていい

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